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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 2巻 (研究者の町 ロンドン)
58/339

27 (模造品の美しさ)〇

 ジガ(ウチ)は空飛ぶ幌馬車(ほろばしゃ)を時速200km程度で走らせる。

 前方に突風を無効化するバリアを幌馬車(ほろばしゃ)を展開しているので、この速度でも快適だ。

 地図上での直線距離は 約1000kmなので、5時間掛かると考えると午前1時程度になるか…。

 ファントムなら時速1000kmは出せるので、1時間程度で到着出来るんだが、流石(さすが)にファントムの腕に これだけの荷物を持って音速なんか出したら簡単に幌馬車(ほろばしゃ)が吹き飛んでしまう。

 進路は イギリス(イングランド王国)のブライトンを目指す。

 ここは ロンドンから南に50km程の位置にある港で、ここに着陸して100km程 北に行けば ケンブリッジ大学があるケンブリッジに着く。

 ウチは クラウドに聞き取りをして作った おおまかな現地名称が書かれている地図を見る。

 この時代の道路は、雑草を取り除いて土を固めた程度の道路で、後ろのリアカーの重量も考えると そこまで速く走れないだろう…時速にして30~40km程度だろうか?

 まぁそれでも、時速15km程度の早馬の倍は 速んだが…。

 現地の人に道を聞きつつ、生活習慣や風習を学習しながら 持って来た方位磁針を頼りに向かう事になるだろう。


 翌日深夜2時…ブライトン港に到着…。

 人が寝静まっている事を確認して ゆっくりと高度を落とし、北に続く大道路に着地。

 そのすぐ隣にあるキャンプ用の草原にエンジンを掛けて幌馬車(ほろばしゃ)を移動させる。

「うっせーな」

 木の側でテントも無く寝ていた筋肉質の屈強(くっきょう)な男が目を(こす)りながら言う。

「あ~失礼…今この町に着いた者でして」

「こんな真夜中まで走って、しかも女が1人か…。

 しかも なんだよその馬…」

「錬金術の馬です」

「錬金術…あれか?

 床に模様(もよう)を描いて 人を生贄に捧げたりして、天候を操作したり、未来を予知したりする。」

「それは魔術ですね…。

 錬金術は物質を熱したり混ぜたりする事で、状態を変化させる物。

 そこの焚火(たきび)も、アナタの持っているナイフも錬金術の一部ですよ」

「なんか鍛冶屋見たいだな…。」

「それに近いですね。

 それを突き詰めた感じでしょうか…。

 私はジガ・エクスマキナ…アナタは?」

「ライル」

「ではライル…。

 ここに幌馬車(ほろばしゃ)を止めたいのですが、よろしいですか?」

「ああ構わないよ…。」

 そう言うと、彼はナイフを自分の横に置いて また眠りに付き、私も幌馬車(ほろばしゃ)の中で朝が来るのを待った。


 翌日…日の出。

 ライルが起きて しばらく経った所でジガ(ウチ)も起き、外に出る。

「おはようございます…よく眠れましたか?ライル…。」

「ああ…いつも通りな…。

 それで、北で何か あったのか?

 戦争とか物の暴落とか…」

「いえ?でも何故(なぜ)?」

「普通、夜間は馬車を走らせない…夜道は危険だからだ。

 それでも馬車を走らせるのは、リスクを取ってでも早く着きたいからだ。」

「なるほど…そういう意味では 私は馬鹿です。

 昨日の夜、目立たない様に 船でこの港に乗り付けて、この幌馬車(ほろばしゃ)を組み立てて最初に出会ったのがライルです。」

「外国人か…綺麗なアクセントだから気づかなかった。」

 英語の発音の仕方には2種類あり、ブリテン英語と呼ばれる上流階級向けの英語と、アメリカ英語と呼ばれる(なま)りがある 庶民用の英語の2種類に分かれる。

 で、ウチが普段 使っているのは 多少の(なま)りがあるアメリカ英語で、これは、ウチを創った製作者(オーサー)がアメリカ英語だったからだ。

「私は この国との外交で来ているので、失礼の無いように振る舞う必要がありましたから…」

 この時代だとブリテンアクセントを使っていれば、上級階級だと判断される…一種のステータスとなっている…まぁ面倒ではあるんだが…。

「外交官か…商売のタネに使えるか?」

「ライル…アナタは 見た所 行商人だと思われますが、何を売っているのですか?」

 ライルの屈強な背中に背負うであろう 50㎏位乗せれそうな 大きなリュック(キャリアー)を見る。

 馬車もリアカーも使わずに徒歩で荷物を運んでいる辺り、まだ設備投資が出来ない駆け出しの行商人だと言う事が分かる。

「よっと…今、背負っているのは小麦だ。

 ここは 海が近いから 小麦が育たない。

 海産物がメインの生活だ。

 そんな地域では 小麦が高く売れる。」

「なるほど」

 塩害で小麦を作れない地域に小麦を売るのか…。

 どうやら 肥料なんかの土壌回復技術は まだ持っていない見たいだ。

「それで 小麦を売ったら、今度は塩を積む。

 塩は食べ物を腐らせない効果を持つから 保存食には必須だ。

 だが、塩が取れるのは海に限定されて、内陸に行けば 行くほど塩の値段が高くなる。

 行き先は 大都市のロンドンだな…。」

「ロンドンですか…。

 私の目的地は (さら)に北にある学問の町 ケンブリッジになります。

 出来ればロンドンまで 同行をお願いしたいのですが…。」

 ウチは ライルに頼む。

「構わないが…。

 いや…その馬車を使わせて貰うと言う条件で受けよう。」

 ライルが少し考えて答える。

「荷台の限界まで塩を()せてロンドンで売る気ですか?」

 こちらが 土地勘が無いと見て、吹っ掛けて来ている。

 人では背負えない量の塩を荷台に乗せられれば かなりの利益になるしな。

「なら、私の代わりに これを売って(もら)えますか?」

 ウチは 荷台からダイヤモンド風にカットされてクリスタルガラスの宝石をライルに見せる。

「ダイヤモンド…。

 いや、それの模造品(もぞうひん)クリスタルガラスか…。」

「ええ…これをガラスの宝石として売って下さい。

 それも出来るだけ高く…その対価として荷台を貸しましょう。」

「良いだろう

 アンタは良い商人になるだろうな」

「私が男だったら…ですが…。」

 ライルが契約の握手を求める。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そう言ってウチは ライルの手を握り、契約の握手をした。


 ライルを幌馬車(ほろばしゃ)に乗せて馬車として不自然では無い速度で、ブライトン(この町)の商会に入る。

 ライルが選んだ商会は この町で4社ある商会の中で2番目の規模になる。

 この商会は 他の町との繋がりが強く、海の向こうの異教徒とも正当な対価さえ支払えば、取引をしてくれている。

 キリスト教(教会)の権力が強い地で、異教徒と取引をしていて潰れない程の権力を持っている商会…ライルの見立ては正しい。

 やっぱり宝石の仲介(ちゅうかい)を頼んでよかった。

 ライルの道案内で『ブライトン商会』の門の前に辿(たど)り着く。

「おやおや…ライルさん…。

 商売に成功した見たいですね…今年も小麦ですかい?」

 門の商人がウチの幌馬車(ほろばしゃ)を見て言う。

 如何(どう)やら何度も取引をしている常連のようだ。

「ああ…いつも通りだ。」

「ライルさんには いつもお世話になっております。

 見慣れない馬ですが…コレは錬金術ですか?

 となると、その女は錬金術師…。

 なるほど…確かに教会は 持ち込めない訳だ。

 こちらに どーぞ」

「ありがとう…出してくれ」

 ライルの指示で ウチはアクセルをゆっくりと回して幌馬車(ほろばしゃ)を走らせる。

 彼の言う教会とは、この町で1番目に大きいキリスト教(教会)への意向が強い商会で、ヘタをすると異教徒であるウチは殺されかねない。

 と言うかライルは ウチの幌馬車(ほろばしゃ)を利用して自分の価値を高めている。

 1台とは言え、幌馬車(ほろばしゃ)を所持していて、錬金術師の運転手を雇っている時点で、それなりの成功を収めたと相手に思わせられるだろう。

 かなりの やり手だ。

「ようこそブライトン商会へ」

 商会側の上流階級と一発で見て分かる服をキッチリと着こなした値段交渉人が大袈裟(おおげさ)な身振りで出迎(でむ)かえる。

「初めて見る相手だな。

 私は 行商人のライルだ。

 毎年 ここに小麦を(おろ)しているのだが…」

 なるほど…幌馬車(ほろばしゃ)で商会側が 待遇(たいぐう)を一段上げたのか…。

「ええ…こちらにも記録されております。

 今年も小麦の取引ですか?」

「ああ…それもだが、今日は コレも買って(もら)いたい」

 ウチとライルは、幌馬車(ほろばしゃ)を降りてウチが渡した宝石を見せる。

「宝石ですか…確かに美しい。

 ただ コレはダイヤモンドでは ありませんね。

 ガラスで出来た模造品(もぞうひん)だ。」

 値段交渉人が鋭い目で言う。

 この時代、ダイヤモンドをガラスで偽装して売る詐欺があったとされる。

 この値段交渉人も その偽装(ぎそう)を見破れる人なのだろう。

「ええ…ただ、私はこれをダイヤモンドとして売る気はない…。

 宝石をよく見て欲しい…。

 混ざりものが一切無い透き通った色に、職人の技術で研磨(けんま)されて作られた この光沢…。

 確かにダイヤモンドは非常に希少で、ガラスは 比較的 手に入り易い…。

 が、これを鉱物の希少性では無く、芸術作品として見て欲しい。

 希少だが光沢が少ないダイヤモンドと、手に入り(やす)いガラスだが職人レベルの加工で、綺麗な光沢を放つ宝石…。

 貴族が買うのは どちらだ?」

 下級貴族の場合、見栄えを気にして安くて綺麗なガラスの宝石を選ぶだろう…。

 ガラス細工として見た場合、この宝石は非常に価値が高いからだ。

 逆に上級貴族は『どれだけ金を掛けたか』『どれだけ希少な物か』を重視するので 本物のダイヤモンドを選ぶ…。

 まぁ…ダイヤモンドと(いつ)った模造品(もぞうひん)は、一般のダイヤモンドより見た目が良い為、本物として 良質なダイヤモンドと同じ位の値段で 上級貴族に売ってしまえるのだが…。

 この値段 交渉人も 良質なガラス細工として買い取り、良質なダイヤモンドとして売って 利益を出そうと考えているのだろう。

「良いでしょう…。

 値段は…この位で如何(どう)でしょう?」

 ウチは値段交渉人が使う この時代の そろばんを見る…。

 う~ん多少 少ない気もするが、ぼったくりと言う程 少ない訳でもない。

 初見で まだ信頼を構築 出来ていない相手なら、この位が妥当(だとう)か?

「ふむ…ご存じの通り、彼女は錬金術師だ。

 今は旅の一時的な協力者と言う関係だが、この関係が終わっても人脈は残る。

 今後も彼女が この宝石を作った場合、良質な仲介(ちゅうかい)交渉が出来る私の所に持って来るだろう。

 これは 私を仲介(ちゅうかい)してのブライトン商会との人脈を構築する機会にもなる。」

「ふむ…確かにおっしゃる通りで…当商会としましても 優秀な錬金術師との繋がりは、失いたくない。

 今後の信頼関係の構築もかねて、この金額で如何(どう)でしょう。」

「ジガ…?」

「ええ…十分です。

 これで頼みます」

 値段は 中流階層の半年分の生活費位だ。

 この値段からすると 今回売らない分の宝石だけで、後2年は生活に困らない位の量になる…来年もライルと共に売りに来よう。

「それでは、これで…」

 ライルは契約の握手を値段交渉人に求めて彼は握り返す。

 続いて、小麦の取引…。

 こちらは 宝石での手腕が評価されて、適正価格より多めに値段が付けられたようだ。

「支払いは如何(どう)しますか?

 いつものように、塩で支払いますか?」

「ああ…後、ロンドン支店の貸しにしていた金があるはずだ。

 為替(かわせ)取引だ…帳簿を調べてくれ ここで全額使う。」

 ライルが取引きが書かれ、判子(はんこ)が押された羊皮紙を渡す…多分、ロンドン支店の物だろう。

 為替(かわせ)取引とは A支店とB支店が同じ系列の店舗だった場合、貨幣(かへい)を使わず 帳簿(ちょうぼ)上の数字のやり取りだけで決済を済ませるやり方だ。

 この場合、ライルはロンドン支店の取引で 自分が背負える 小麦50㎏分以外は、帳簿(ちょうぼ)上の貸しとして記録され、同じ支店のブライトン商会に紙に書かれた数字の形で 早馬を使って送られる。

 で、小麦の売り上げと その帳簿(ちょうぼ)上の貸しを使ってブライトン支店で 軽い塩を50㎏背負って ロンドンに戻って売る。

 こうする事で、支店同士での貨幣の(かた)りが無くなるので、重い貨幣(かへい)を いちいち輸送する手間が少なくなり、行商人側も 山賊などに襲われて一気に財産が吹っ飛ぶ可能性を防げるメリットがある。

 まぁ物凄く簡単に説明するなら、ロンドン支店のATMでライルの口座に入金して、ブライトン支店のATMで出金するだけだ。

「分かりました…では次に塩の交渉を…」

 こちらも交渉は順調に進む。

 天秤(てんびん)の片方に塩を置き、もう片方に分銅を乗せてキッチリと釣り合った時点の価格を決めて後は、ひらすら計測して袋に詰めて行く。

 私の宝石を売った分の塩も別に袋に詰められ、ウチの幌馬車(ほろばしゃ)の荷台に積まれる。

 全部で おおよそ、150㎏と言った所か…。

 最後に積み込んだ内容が書かれた 羊皮紙の書類を(もら)って取引きは問題無く終了し、ウチがバギーを加速させて商会から出る。

 ちなみに ロンドン支店では書類に書いてある塩の重さを見せれば、すぐに取引き に入れるので、今度はもう少し早く終わるだろう。


 昼…。

「ははは…ジガのお(かげ)で儲かった。」

「こちらとしても、良い仲介人(ちゅうかいにん)に 会えて良かったです…。」 

 ウチは大通りを馬車と同じ速度で走りながら言う。

 ここでは 女性の商人は存在しなく、信用も無い…。

 なので、ぼったくられない様にするには 信用のある商人の男に仲介させる必要がある。

「さて、ジガ…この馬、もっと速度が出せるんだろう。」

「…まぁそうなのですが…」

「だったら、ロンドンの塩が不足している今の内に ロンドンに行って、早く売ろう…。

 オレと同じ事を考えて 各港に小麦を運んで、塩を持って帰って来る奴が多い。

 オレの見た所だと後2、3日で塩の供給過多で暴落が始まるだろう…それまでに売りたい。」

「そこまで 考えていたのですか…。

 あっ、だから 私が夜中の強行軍をしてまで、小麦を売りに来た商人だと思っていたと言う事ですね」

「そうだ。

 荷物を背負ったオレの足だとロンドンまで1.5日は掛かる。

 そうなると付いた時には夜だから、2日目の朝に大量の競争者と一緒に売りに行く事になる…。

 商会が閉まる前までに取引きが出来るかは、賭けの要素が大きい。

 だったら早馬を出せば良いが、これは 積める量が少ない。

 オレは てっきり、どっかの商人が このジレンマを解決する為に錬金術の馬なんて言う 見た事も無い荒業(あらわざ)を使ったのだと思ったから、荷台のスペースを金で買う気でいた。」

「それで 私の案に乗った訳ですか…確かに好条件ですね…。

 さて、近くに馬車はいませんね…行きますよ」

 そう言うとウチはアクセルを ゆっくりと回して加速させ、時速30kmをキープする。

「おっと この重量なのに 早馬より速いな…。」

「これが錬金術の力です。」

 ウチはそう言うと、別の馬車が見えない区間だけをスピードを上げて進んで行き、2時間程度でロンドンの支店に辿(たど)り着いた。

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