24 (木材の拠点 奪還作戦)〇
1月終わり…。
今年2人目の命が生まれ、体重が3㎏の男の子が生まれた。
ただ、新生児の身体が大きかった事で 母親の腹から中々出て来れず、もう少しで帝王切開になる所だった。
帝王切開の場合、まだまだ性能が低いので少量の細菌がいる滅菌室で、しかも今は最低限の手術道具しか無く、心電図や電メスの類はまだない。
輸血用の血液も、血液検査のついでに集めたのである程度の在庫を冷凍保存しているが、それでも心持たなく、可能なら外科手術はやりたくないのが正直な所だ。
なので、今後の為に 国民に金を払って 血液を売って貰う売血が必要になって来るかも知れない。
ただ、日本が戦後に貧困者が金を得る為に過度に血を売っていた為、赤血球の減少から血が黄色になったり、更に当時は覚醒剤が合法の疲労回復薬的な役割で蔓延していた事で、血液の品質は劣悪で 注射器の使いまわしからの肝炎ウイルスをばら撒いた事もあったみたいだ。
ハルミの報告では、痩せていた元奴隷達も標準体重まで戻って、更に酒も たばこも 当然 覚醒剤も この島には無いので、献血の環境としては比較的良いらしい。
とは言え、今は冬なので血を増やす食べ物の果物と牡蠣が取れないので、本格的な献血は、春以降になるだろうな…。
さて、この国初めての徴税が始まる。
現在、企業と呼べる会社は5社。
物流全般を担当している『クラウド商会』。
国の服や工業製品の製造している国営企業の『工場』。
鉱物資源の採取をメインにやっている国営企業の『採掘』。
農業や家畜 狩猟などを行う国営企業の『食料生産』。
プロに石鹸で洗って貰え、身体の清潔を維持出来るジガが経営している通称『風呂屋』。
後は、ハルミが経営している『診療所』に オレとクオリアが担当している『開発』…後、保育院や学校もか…。
ただ 保育院と学校は 一応企業の区分だが、銀行側から大量に金を投入している大赤字状態で税金を取れる状況では無い…と言うか ここは ずっと赤字だろう。
「予想通りとは言え、すっくないな…。」
冒険者ギルドの中の椅子に座り、徴収した税金の書類を確認しつつ ナオが言う。
クラウド商会は、バギーのスターリンエンジンを酸水素エンジンに変更して 変速ギアと動力に繋ぐ炭素繊維のベルトに速度メーターを乗せた、新型バギーに改修した。
後は ガスタンクへの燃料供給の為に必要な マイクロ水力発電機と充填用の設備を購入。
残った金は 従業員にボーナスを出して 残りは風呂屋でサービスを受けた。
なので、利益の大半が今後の仕事の為の備品に費やされ、最終利益は殆ど無し…。
「支払った金額だと工場が1位か…」
工場は すべての企業の機械を造っているので、圧倒的に利益が高く、その利益の半分が 精度が一段階 高い新しい機材の導入に使われ、高温 環境で働く従業員の為に エアコンが導入された。
まぁここは、設備投資に必要な機械を自前で作ってしまう為、結果 一番最終利益が高く、払う税金も多い…。
続いて採掘…ここはファントムを使った掘削がメインで、採掘効率が高すぎる為、工場側から頼まれない限り、仕事が無く 当然、利益もあまりない。
出来るだけチートを使わずに現地の住民の力で国を回しているが、まだ油圧駆動の重機が無いので、仕方なくファントムを使っている。
次、食料生産の部門は、新しいアタッチメントを購入して、春の収穫に備え、食堂は キッチンの機材の購入で若干赤字気味…。
「春には 結構稼げるんじゃないかな…。」
オレはそう評価して、最後の風呂屋…。
冒険者ギルドの屋上に浄水所と風呂屋が建設された2号店が誕生して、念願のシャワーを実装。
安全な蒸留水が アトランティス村で確保出来るようになり、食事の後に風呂に入る労働者の需要を作り、衛生環境が向上している。
で、ここも赤字と…今回の投資を元に次の利益に期待だな…。
その他、細かい所で色々とやっているが、全部赤字…。
通常 こんだけ赤字を垂れ流していたら、国が機能不全になるレベルなのだが、自前で金を発行出来る為、問題にならない。
さて、雪が融け、冬休みも終わり始めた 2月。
アップデートされたバギーが、竹の森の拠点、木材の拠点への物流を再開する。
木材の拠点は、冬の間 閉鎖されて 人がこっちに来ていたので、人員の護衛や動物がいた場合の為の奪還の部隊にナオ達も参加している。
「随分と大人しくなったな…」
慣れないクラッチを握り、足のギアチェンジペダルを前に落とし、ギアを上げてバギーを加速させつつ、オレが言う。
アクセルの利きも良く、路面が雪で濡れているが 炭素繊維のタイヤのグリップ力は それなりの性能があり、変速ギアを搭載したバギーは 力強く走る。
力が必要な発進時には 1速で、2足は20~40kmの間、3速がMaxの60kmまでだ。
ただ、オレの乗っていた原付には 遠心クラッチが搭載されていたので、クラッチを握る必要が無く、これが 始めての手動クラッチになる。
エンジン音もガソリン車とは違い、回転数が高くなる音が聞き取りにくく、ギアチェンジのタイミングが掴めない…まぁこれは慣れだろうな。
隣を走るクラウドは 丸一日の練習で ギア操作をマスターして、もう使いこなしている。
やっぱり、事前知識が無く『そう言う物』だと受け入れてしまった方が、早く使いこなせるようだ。
「そろそろ到着するぞ」
クラウドの後ろのリアカーに乗っている熊の毛皮を被っているロウが、M3グリースのガスガンを構える。
あの毛皮は、こちらが熊を打ち取れる能力があると森の動物に示す為の物で、上手く行けば 逃げてくれるとの事…。
オレ達は120m程手前でバギーのエンジンを止めて、車から降りてガスガンを装備する。
ロウが先行してゆっくりと進む中、オレ達は 手元のM3グリースのマガジン部分にガスボンベに繋がっているホースを接続し、後ろにいる作業員が 背中に担いだボンベをひねって ガスを供給し、ロウの後をゆっくりと追う。
周囲の木は まだ雪が積もっていて、融けた雪の水分を吸った土が泥の状態になっているので足場が悪い。
にも関わらず、ロウは地形を物ともせず、素早く静かに目的に向けて進んで行く。
そのロウの姿は 特殊部隊の山岳行軍の様に見えた。
ロウが止まり、それに合わせてオレ達も足を止める。
ロウは 頭を左右に振り、頭の上の耳で 対象の位置を確認している。
あっロウからハンドサインで ストップが入った。
『私、行く、皆、ここで待機』
ロウがオレ達に向かって ハンドサインで言う。
ロウが偵察か…。
オレはOKのハンドサインをロウに返し、ロウは静かに進んで行く。
「何か掴んだ見たいだな…大丈夫かな…アイツ」
オレがボソリと言う。
「大丈夫だろうアイツは勘が鋭い。
それに深追いはしない…何かあれば戻って来るだろう」
クラウドが小声で答える。
「へぇよく知ってるんだな…。」
「まぁ…半年位、一緒に仕事しているからな。
輸送隊の護衛としては、非常に優秀な人材だよ…。
これも悪魔憑きの力なのかね…。」
「悪魔憑きね。
確かに種族の力が大きい気がするけど…。
おっ戻って来たな…『来い』か。
よし、ゆっくりと行こう。」
「熊がいる…でも冬眠中、今なら狩れる」
コンテナを指してロウが言う。
「またコンテナか…分かった。
オレとロウが行く、クラウド達は ここで待機…。
ヤバくなった こっちに向かって逃げるから、援護射撃を頼む」
「分かった…ロウ、頼むぞ」
「頼まれた」
ロウがそう言い、ロウを先頭にオレが少し距離を空けて左右を見渡しながらロウを援護する形で進んで行く。
そして、12m程の距離から コンテナハウスの中で寝ている熊の頭に狙いを付けて、ロウと一緒に発砲…。
対人用の銃弾の為、威力は心持たないが、頭を撃ち抜かれた熊は 暴れる事も無く永遠の眠りについた。
次2頭…ロウも2頭目…。
「残りは…いた…よし」
最後の1頭を殺し、現場の確認に行く…。
5頭の熊は冬眠から覚醒する前に頭を撃ち抜かれた為、一切動かずに死亡。
念の為、再度至近から熊の頭を撃ち、すべてのコンテナを開いて、生きている熊がいない事を確認する。
「よし、拠点を確保した。」
オレは、積まれたコンテナハウスの屋上に上って、味方に合図をし、倉庫にある ガスボンベの漏れが無い事を確認して、拠点の外にライムライトを持って来て火を灯す。
これで野生動物が近寄り難くなるだろう。
その日は 施設の点検と再稼働を行い、木材の拠点の作業員と警備役のロウと数人を残して、オレ達は熊をリアカーに積んで戻って行った。




