22 (予算制約の無い最強国家)〇
更に数日後…。
「そろそろ良いかな…」
冒険者ギルドで経済の書類を見ながら、ナオはクラウドに言う。
彼は、オレとは別の物流の書類を見ている。
「ん?次は何をやるんだ?」
最近は 開発がメインで 経済については、市場に任せていた。
インフレ率は相変わらず高いが、初収獲を終えた事だし そろそろ次の段階に言っても良いのかもしれない。
「徴税…税金だな。」
「今更だな…と言うか必要なのか?
こっちで 好きに金を発行できるせいで、完璧に無税で国が運営されているんだが…。」
そう…この国は労働の対価にトニーで支払いをして労働力を確保しているが、そのトニーは何の担保もない ただの紙切れだ。
そのトニー紙幣があれば、政府銀行が所有している希少鉱物と交換 出来る訳でもない。
ただ、オレが商人に実質無価値な紙っ切れを価値があると思い込ませる 詐欺を働いているから、市場で通貨が流通していて、物の売り買いが行われる事で 結果的に通貨の信用が確保出来ている…これが商品貨幣論だ。
発行の手続き的には 21世紀の銀行システムの信用創造を簡略化した物で合法だが、歴史上 これをやった数々の組織は、詐欺とされ死刑になった。
とは言え オレは火炙りでも死なない身体を持っているので まず関係無いのだが…。
「まぁそうなんだけど…徴税ないってもの問題でね。
今まで 教育が不十分な住民が理解しやすい様に 商品貨幣論でやっていたが、これからは 租税貨幣論の考え方をしないと国の予算に大きな制約が生まれる。
う~ん如何やってクラウドに説明するかな…。
そうだな~今、トニーが通貨として使われているのは如何してだ?
アレは ただの紙っ切れだよな…」
オレはクラウドに考えさせるように言う。
「う~ん…一応、政府銀行が金を発行していて、それなりの信用があるから、取引に使われているんだろう?」
「なら、この国で それなりに信用があるクラウドが 別の通貨『ウド』を発行したとする。
これで 2つの通貨がこの国に出来たな…。
で、クラウド商会の取引きに このウドを使う。
そうすると 商人の間でウドが流通し、主流の通貨がトニーからウドに変わる。
そうなったら トニー通貨の価値が低下し、ウドの普及と共にトニーが消えて行く。」
「自国の市場を他国が発行している通貨に乗っ取られた場合、それは戦争で負けたのと同じだ。
発行している他国の通貨の供給量によって市場をコントロール出来るからな…」
「そ、今まで別の通貨が無かったと言うだけで、対抗通貨が現れた場合、トニーが使われなくなる可能性も十分にある。
トニーは希少鉱物を担保に発行している訳じゃないからな…」
「つまり、別の通貨を使わせず、強制的にトニーで取引をさせるんだな…。」
「そう言う事。
で、その強制が徴税…。
政府銀行は、徴税の通貨としてトニー以外の通貨での支払いを認めないとする。」
「ふむ…税金を払う為には、働いてトニーを稼ぐしか方法が無い。
ナオが言うウドでは税金の支払いに使えないから、トニーが使用されなくなる事は無い。」
「そ、これで最低限の信用を確保出来る。
だけど、これにも欠点がある。
税金ってのは、結局の所 金を稼ぐ事への罰金な訳だから、納税者の財布の紐がキツくなる。
なんで 物の売り買いが 減る事になって経済が衰退する。」
「税金で国を運用すると起きるジレンマだな。
私達は それを通貨発行権を使って回避している訳だが…。
それで、何の税金を取る?」
「消費税と法人税、それに関税の3つで良い。
税金の項目が多くなればなるほど、脱税対策に手間が掛かるからな…。」
日本のように120種類以上の税の種類を設けても、徴収する国が莫大な予算を積み込んで、納税者が脱税していないかを調べつつ 徴収しないと行けない為、実質少額の脱税は取り締まる余裕が無く、見逃されている。
なので、税は 出来るだけ数を少なくした方が管理し易く利益率も高くなる訳だ。
「それで、詳しい文言は?」
…………。
……。
…。
「相変わらず凄いな…ナオは。
これじゃ、罰金にならない。」
「それじゃあ、夜 皆が集まった所で告知する。」
陽が沈んだら、皆は夕食を食べに ここに集まる…その時に告知しよう。
夜…。
アトランティス村の住人や、竹の森の拠点からこっちに来たトニー王国 国民が 冒険者ギルドの前に集まって来る。
冒険者ギルド内の灯りを全部消し、ナオは 冒険者ギルドの2階の部屋に入る為の外通路にライムライトの照明を設置して、真っ暗な暗闇の中で、ただ1つの舞台照明を灯す。
皆の視線が こちらに集まり、オレの舞台が完成する。
「皆、集まってくれて感謝する…。
今回集まって貰ったのは、税金の告知をする為だ。」
ガヤガヤガヤ…。
アトランティス村の住人は、税金と言う概念が存在しない為、頭の上に?マークを浮かべ、外から来た元奴隷の住民達は 嫌な顔をする。
そりゃ自分の稼いだ金を国に取られるのは嫌だろう。
「導入される税金は、3つ…消費税、法人税、関税の3つだ。」
オレは はっきりとした声で、演劇の様に派手な身振り手振りで観客の注目を集めつつ言う。
「まず、1番目、消費税…。
これは 物を買う時に発生する時に支払う税金だ。
この税金は 売った企業側が払い、消費者側は 税金が含まれた値段の商品を買う事により、間接的に税金を納める。
さて、その消費税の税率だが、今は0%だ。
だが、今後の経済状態によって上下させる。」
消費税は 消費を減少させる為の『消費の罰金』だ。
これにより、インフレが抑制されるので、これを調整する事で 適正なインフレ率を維持出来る。
ちなみに消費税を上げ過ぎるとデフレ状態となり、経済衰退の一番の要因になるので、デフレ状態で消費税を上げるイカれた行動は絶対に取ってはいけない。
インフレ率が高い時に1%の消費税を追加して、インフレを抑制し、デフレ状態なら消費税を減税する。
ちなみに消費税-1%など マイナスの消費税も これに想定されている。
「次に法人税…。
これは、会社の最終利益に掛かる税金だ。
トニー王国の企業は毎年 最終利益の50%…つまり半分を政府銀行に収める事になる。」
ガヤガヤガヤ…。
『つまり、会社の利益の半分も持って行かれるって事か…』『とは言え私達が支払う人頭税が無い訳だから…いくらかマシ…なのか?』などと住民から聞こえる。
「ナオ質問だ。」
クラウドが手を上げ大声で言い、今度はクラウドに注目が集まる。
「何だ?」
「ナオはさっき、最終利益の半分と言った。
つまり、税金が掛かる期日前に 会社の為に金を全額 使ってしまえば、実質 税金は0トニーとなる…そう言う事で良いのか?」
クラウドが皆の前で はっきりと言う。
「ああ…それでも構わない。
次の仕事の為に必要な道具の購入、労働者への報酬の増額などに使って最終利益を減らしても良い。」
オレはクラウドを使って意図的に 節税対策の情報をリークする。
つまり『利益の50%を取られる位なら、人材や新しい機械の導入に金を出して最終利益を少なくして節税しよう』と企業側に思わせる事が目的だ。
これで、最新の機材の導入が行われれば 生産性が上がり、労働者にボーナスが入れば、財布の紐が緩んだ良質な消費者が生まれる…良い事 尽くめだ。
「そして、関税…。
現在、他国から物を輸入していないので0%だが、この関税を増やす事により、他国の物より 自国の物の価格の方が安くなるので、国内の企業を守る事が出来る。」
関税は 国内企業の保護の為の税金で、他国からの輸入に頼らず 自国内で すべての生産が出来れば、他国から金融制裁、経済制裁などの札束攻撃に対しても、十分に耐えられる…。
世界中にケンカを売る この国には 必須の税金だ。
「最後に政府銀行は トニー王国通貨を経済状況に合わせて、無制限に発行する事が出来る。」
これは、3つの税金を実行する為の前提条件だ。
そして、ここで国民に向けて『金を無制限に発行出来る』と宣言する事が 何より重要で、これで この国は 財政難とは無縁になり、国がデフレ期に緊縮財政や増税をする国家ぐるみの財政破綻論を事前に防げる…予算は政府銀行が無制限に作れるからだ。
「以上 トニー王国 政府銀行は、この3つ以外の税金を永遠に 徴収しない事を絶対の法律として エクスマキナの神の名の元に 誓う」
オレは胸に手を当てて上を向いて、はっきりと宣言をする。
これで オレの後任になるであろう奴が、変な税金を導入して国を壊滅させる事もなくなる。
国の運営の大半は金の話ばかりだから、最初に 徴税の仕組みさえ きっちりと してやれば、国は ちゃんと機能する。
住民の中で理解している人が4分の1と言った所で、学校に通っている生徒が多い。
もっと簡単に話すか…とは言え、こ難しい言葉を使わないと神としての威厳に関わる…そこは、クラウドの担当で良いか?
税金の告知の後、皆は食事の為に冒険者ギルドの中に入り、ライムライトを消したナオは入り口から住民の反応を見る。
中では 不理解だった住民にクラウドが今回の税金に付いて教えている。
簡単に言うなら住民は 消費税以外の税金は取らないし、それも今は0%なので 今までの生活と変わらない。
企業側が最終利益の50%を取られ、その代わりに 政府銀行は、金を無制限に発行出来る…それだけだ。
実にシンプルで無駄の無い 合理的な税制になる。
クラウドの説明が良いのか、住民達は、安心した様に ホッと一息付き、税に苦しめられていた元奴隷の住民は、税の話をした後だと言うのに 陽気に有料メニューをバンバン頼んで食事をしている。
「よし、問題無いみたいだな…。」
オレは住民を見てそう言い、細かな政府銀行の運用の為の法律を考えながら自分の部屋に戻って行った。
この日 この国から予算問題は消失し、金を無尽蔵に持つ 最強国家が生まれたのだった。




