20 (人類 農奴化計画)〇
秋、アトランティス村の湖の近くにある鉄条網に囲まれた大豆畑が茶色一色に染まる。
撒いた後1週間で生育が始まり、白色の花を咲かせ、緑色の枝豆になり、茶色になる。
ナオは それをバギーの前に コンバインアタッチメントを取り付けた簡易コンバインに乗り、ノロノロと回収していく。
コンバインは、櫛が円柱型に配置されていて、それが回転する事で大豆を縦に整列させて、下のチェーンソーに使った 丸のこが下部から切断し、切断された大豆は一ヵ所にまとめられ、炭素繊維のコンベアで席の左側を通って上がり、後ろのリアカーに積まれて行く…。
よく見ると雑草も含まれている…まぁ除草剤は使っていないからな…。
普通のコンバインなら、この時点で脱穀が出来てマメだけになってタンクに入れらるのだが、構造が複雑になる為、今回は実装を諦め、脱穀機を別に用意している。
農業初心者のオレは、枝豆 状態では無い大豆を見るは 初めてだったのだが、事前に現場の農奴と1ヵ月以上掛けて綿密な打ち合わせをしていたのと、ホープ号にある コンバインの構造データを元にアタッチメントを作ったので、何とかなっている。
来年の春の小麦の収穫では、脱穀機も一緒に搭載したいのだけど、現状ではバギーの馬力が足りないので、設計レベルでコンバインに最適化した、大型コンバインを造る必要がある。
が、農地面積が少ない 今の状態ならこれで十分…。
実際、アタッチメントを交換するだけで、土の耕しから回収まで出来るからだ。
一杯になったリアカーを外して新しいリアカーを接続し、また大豆の回収を再開する。
別の場所では、リアカーに乗せられた多量の大豆を 脱穀機に掛けられてマメにされ、次々と袋に詰められていく。
隣のジャガイモの農地では、いくつもの突起があるアタッチメントで、土の中のジャガイモをすくい上げ、オレと同じ様に炭素繊維コンベアで後ろのリアカーに積まれている。
操縦しているのはクオリアだ。
これも普通ならジャガイモだけを回収するのだが、土と根っこが そのまま付いて来ている。
まっそれでも、手作業で掘り起こすよりかは、数倍はラクだろう。
結局、土を耕して肥料を混ぜて植えての大量の人数を使って1ヵ月程度掛った作物を 機械を使う事で少人数で丸一日で回収する事が出来た。
多分、機械化した今の状態なら全部の作業を含めても2、3日 程度の時間で終わる作業だろう。
「機械ですか?コレって凄いですね…。
今まで苦労して、収獲して来たってのに、あっと言う間に終わっちまいますよ。」
夕方になり今日の作業が終わり、バギーを止めてた所で、元農奴のおっさんがオレに言う。
「こうでもして 畑面積をどんどんと増やして行かないと、人が増えた時に食料がまわらなくて、餓死者が出て来るからな。」
「今、備蓄食料も家畜も かなりの数ありますよね…。
それでも足りないんですか?」
「足りないな…。
えーと『マルサスの法則』ってのがあって、それによると、農業ってのは 毎年、収穫量が一定量 上がって行くんだが、人は違う…。
今は200人程度だけど、10年後には400人、次の10年で更に倍の800人と どんどんと指数関数的に増えて行く。
だから、いずれ食料が人口を支えられ無くなって来る。
で、食料が無くなれば、肥よくな土地を取り合う為の戦争が始まって、人口が減ると…。
人類の歴史は これをひたすら繰り返しているんだ。
な訳で、オレ達は 食料を必要としない 手作業の数十倍早く仕事が出来る機械を開発したって訳…。
数十人分の食料が浮いたと言い換える事も出来るな…」
コンバインを見ながらオレは言う。
オレらは このトニー王国 国民200人を20万人まで増やさないと行けない。
マルサスの法則を信じるなら 100年と少し あれば20万人に辿り着くが、それは食料が持った場合だ。
山岳地帯が多い、この島で それらを賄うなら、化学肥料に遺伝子組み換え作物に農薬が必須となる…本当に農作物は賢い。
人類から大量の栄養を貰って自分達を効率良く増やし、栄養を奪うライバルの雑草は農薬で枯れさせ、遺伝子操作により短時間で最適な環境に適応させて貰える…。
本当に人類を奴隷化して自分達を増やしていく優秀なシステムだ。
「オレ達はコイツらを増やす為の奴隷なのかね…。」
「まぁ私の人生の大半は、畑仕事でしたからね…。
そう考える時も確かにありました。
でも、農作物の思惑は如何あれ、私達が生きる為には コイツらが必要です。
村の皆が腹いっぱい食べれるなら、奴隷でも構いません。
それに 例え奴隷だとしても こんなに ラクして育てられる様になりましたし…」
「その考え方には共感出来ないな…。
アンタ、砂糖農園に送られる途中で餓死し掛けていたんだろ。
それでも良かったのか?」
「いいえ…。
その砂糖を作っているのが 私の村の会社なら、家族の為、村の為に犠牲になる事も考えますが、相手は顔も知らない貴族です。
彼らの為に自分を犠牲にしようとは考えません。」
「う~ん…。
守る価値のある組織の為なら 犠牲になれるが、価値の無い組織の為には働きたくないと…じゃあ、ウチの国は如何だ?」
「……死なないレベルでなら、協力しますよ…。
ただ、国の為に死ぬ気には慣れません。」
「そっか…それじゃあ そのままで良い。
人材の損失は国力の損失になるからな…。
アンタは 出来るだけ健康で長生きして、この国の食料を支えてくれ。
そんじゃあ…皆 引き上げるぞ…お疲れ~」
オレは、片付けを作業をしていた作業者に言うと、皆 夕食を食べに冒険者ギルドに向かって行った。
その作業者の表情には、生き生きとしていて、とても作物達の奴隷とは思えなかった。