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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 2巻 (研究者の町 ロンドン)
50/339

19 (冷蔵箱)〇

 ナオ(オレ)が冷凍倉庫前に来ると、倉庫の裏でクオリアが作業をしている。

 まだ カバーが されていない剥き出しの機材に接続されていて、そこから繋がるダクトホースは、穴が空けられた倉庫の壁に繋がっている。

「おっ来たな…」

「結果は如何(どう)だ?」

「今からだ。」

 クオリアがワニクリップを持ち、冷凍機のモーターに接続。

 川にあるマイクロ水力発電機からの電力が 銅の電線を伝い、モーターに電気が流れて 回転をし始め、2つのピストンシリンダーが連動して動き出す。

 1つ目がピストンで空気を押しつぶして圧縮し、断熱圧縮の効果で熱を発生させる部分。

 2つ目は 逆に引っ張られて気圧が下がり、冷却される部分だ。

 そして、この冷却部分の冷気をダクトを通ってコンテナの中に送り続け、加熱部分の熱気は廃熱(はいねつ)される。

 基本構造は、スターリングエンジンと同じだ。

 ちなみに モーターを逆回転させれば、今度は熱気をコンテナに送る事が出来る 暖房となりエアコンが出来る。

 とは言え、現状では 永遠に冷却を繰り返してしまい、理論的には-270℃の絶対零度まで行ってしまうので、電力調整による調節機構が必要になる。


 1時間程()って、興味を持っていたクラウドと一緒にコンテナを開ける。

「うわ…さぶっ…。」

「本当に真冬なんだな…」

 極寒の冷気がオレ達の顔に吹き付ける。

「温度は-10℃と言った所だろうか?」

 クオリアが室内に取り付けられている 水銀 温度計を見て言う。

 流石(さすが)に電力とモーターの回転力が足りないのか絶対零度になる様子は無い。

「まぁ氷を凍らせられれば、十分だ。」

 オレは中に入り、設置した棚にあるガラス製の大量の箱を見る。

 中には水が入っていたのだが、水は見事に氷に変わっており、実験は成功だ。

「本当に氷が出来ちまった。

 これだけでも一財産は稼げるぞ」

「そんなにか?」

「一度、貴族のパーティの料理の為に氷を運んだ事があるが、氷を作るのは結構面倒なんだ。

 冬に凍った氷を大量に氷室に入れて、断熱用の(わら)を大量に()き詰める。

 それでも夏になると結構、氷が融けているんだが、それを涼しくなる夜の間に強行軍で一気に運ぶんだ。」

「へぇどんな料理?」

「ヤギの乳をかき混ぜながら凍らせた料理だ。」

「あ~アイスクリームね…。

 ここってヤギとか牛がいないから乳製品は作れないんだよな。」

 乳製品ならヒツジが良い、こちらの素性がバレない様にして買うとなると遊牧民から仕入れるか?

 とは言え、またジカに行って(もら)うにしても来年の春までは無理だな…。

「それじゃあ、生肉を持って来よう。

 それと冷蔵庫も作らないとな…。」

 皆が出た後にコンテナのドアを閉じてオレが言う。

「冷蔵庫…クーラーボックスか…。」

「そっ」

「とは言っても、アレを入れるには 大きすぎるだろう。」

 スターリング冷凍機は、かなりのスペースを取られる。

 今後出来る量産型は かなり小型になる予定だが、それでも大きい。

「まぁな…でも、冷やすだけなら、もっと簡単に小型化出来る。」


 翌日の夜…冒険者ギルド。

 夕食を食べに来た作業員は、いつも食べている干し肉やスープでは無く、新鮮な肉料理や果物の果汁を使ったコールドドリンクなどの有料メニューが追加され、食のバリエーションが増えた。

 その新鮮な肉は主に熊肉で、解体されて半分は干物(ひもの)に半分は生肉として流通し始めた。

 これは先日仕留めた熊の他に、今まで弓では自衛が限界で狩れなかった熊にガスガンで対抗(たいこう)出来るようになり、比較的 容易に狩れる様になった事だ。

 そして こちらの銃に向こうも警戒する事になり、抑止力(よくしりょく)が働き始めている。

 これは、ロウが こちらの縄張りだと森の動物に主張したと言う形になっていて、後 何度か戦えば 学習して近寄らなくなるとの事…。

 これで道路に熊が進入する事故も少なくなるだろう。

「うん…熊の肉なのに柔らかいな…。」

「これ、良い肉」

 クラウドとロウがテーブル席でステーキを食べながら言う。

 熊型ワームの時にロウと共闘したのが効いたのか、最近は、仕事が終わると一緒にいる事が多い。

 と言うか、ロウがクラウドを気に入っていて クラウドは子供の相手をしていると言った感じだ。

「だろ…念入りに肉を叩いているからな…」

 オレが椅子に座って言う。

「叩いている?」

「あ~知らないのか…。

 肉って叩くと柔らかくなるんだ。」

「そうなのか…。

 普段 私は料理なんてしないからな…。」

 この時代、こった調理は 定食屋などの料理人に金を払って作って(もら)う物で、一般人は本当に簡単な調理しか出来ない。

 これは、木造住宅だと火災の危険性があり、金の掛かる石組みの部屋を作らないと行けないので、調理する為のキッチンが確保出来ないからだ。

「それで、冷たい飲み物が出て来たって事は、冷蔵庫は出来たんだな。」

「ああ…食べ終わったらキッチンを見て来な。

 結構 進化したぞ。」


 冒険者ギルド内、キッチン。

「凄いな…貴族の屋敷の厨房(ちゅうぼう)か?」

 クラウドがキッチンを見て言う。

 キッチンは、客席が見える ダイニングキッチンになっており、コンロの数は6(くち)で、酸水素ガスタンクが キッチン下に入れられ、そこからホースでガスをコンロに流す。

 それぞれのダイヤルを回すとホースからガスが解放され、(さら)に回すと火打石を打ち付けて火花が発生し、ガスに引火する。

 火力は元がバーナーなので高く、高火力を要求される中華料理にも十分に使えて、ガスの出力調整も出来るので、ガスコンロの機能としては十分だ。

 実際、料理を担当している おばちゃんは、完璧に使いこなしている。

 包丁や鍋、まな板、肉を叩く為のミートハンマーなど、一通り(そろ)えた。

 ただ、客が食べ終わって 戻された食器は洗わずにそのまま 使いまわし されていて、皆は気にしていないが 衛生上の課題が見えている。

 後、設備の難点は現状では水道設備を用意出来なかった事だ。

 今は、タンクに蒸留(じょうりゅう)した水を入れて蛇口をひねって水を出す方式で対応している。

 竹の森の拠点では 衛生管理が広まって来ているらしいが、こっちには まだ広まっておらず、風呂屋も無い。

 浄水所と一緒に ここの屋上に風呂屋を作って蒸留水(じょうりゅうすい)を下の階に流すか?

 下水処理も出来るから合理的ではあるんだが…後で、ジガに相談して見るか…。

 さて、キッチンの後ろの部屋には両開きの大型の冷蔵庫がある。

 素材は炭素繊維に外側にガラスを塗った物で、熱伝導率の高い炭素繊維が冷気を冷蔵庫内に効率良く運び、熱伝導率が低いガラスを外側に塗る事で、冷気を外に逃がさず、外からの熱も遮断(しゃだん)出来る。

 オレがクラウドとロウの前で大きな冷蔵庫の扉を開ける。

 下4分の3には 棚と肉や野菜などが大量にあり、飲み物用のガラス瓶も置かれている。

 そして、上部には 大きな氷が入っており、その下に融けた水を受け止めておく受け皿がある。

 日本で1900年から1930年程まで普及していたとされる冷蔵箱(れいぞうばこ)だ。

「なるほど…氷で冷やすのか…。」

 クラウドがそう言い、扉を閉じる。

「そ、今は電気も普及していないし、これが一番」

「でも氷なら融けるんだろ…どの位持つんだ?」

「一応、1週間…7日持ったって言う記録はあるんだけど、気温で変わるし、素材も違うからな…。

 何度か試して見て実験かな…。」

 冷蔵庫は 大きければ大きい程、冷却する為のエネルギーも減る。

 これだけ大きければ、1日に何回も と言う事も無いだろう。

 オレはそう思い、2階の自室に戻って行った。

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