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05 (食べ方の違い)〇

 ナオ(オレ)達は 竹の森に入り、そこで皆を降ろす。

 ファントムの右手が量子光で光って ファントムサイズのシャベルが現れ、竹の根本を残して竹を切って行く。

「凄いな…」

 奴隷の一人が言う。

「だろ…そこら辺に平な石は無いか?

 石を棒に(くく)りつけて、石を鋭く()いで行けば、磨製石器(ませいせっき)の斧が出来る。」

 ファントムの腕に抱えられる程の竹を切り、竹の森を出て 仮設住宅の建設予定地に資材を置いて行く…。

「石斧、ある、作った」

 別の奴隷がタカコトの英語でそう言い、作業に入る。

 手頃な平な石を見つけ、石同士で先を削り合って行き、両先が鋭くなった所で竹の棒に打ち込んで固定する。

 動きが洗練されていて普段からこう言った物を使っている事が分かる。

 完成した斧は 素材の竹の直径が10cm程なので木の棒に比べてて持ち手が太くなっているが、この辺は竹だらけで木が(ほとん)ど無いので仕方ない。

「原始的だな…。」

 クラウドが石器を作る奴隷を見て言う。

「クラウドが普段使っているナイフや斧は鉄製か?」

 ファントムを駐機姿勢にしてコックピットブロックをスライドさせて開けて、ファントムから降りたオレがクラウドに聞く。

「そうだな…固い鉄を使っている。」

「でも、クラウドは製鉄をやった事は無いだろうし、この場で鉄を打つ事も出来無いだろう…。

 こう言った鍛冶屋 何かの専門職がいない場所では こう言った原始的な方法の方が一番必要なんだ。

 と言うより、今の時点だと この奴隷達は クラウドより優秀だな。」

 オレは皮肉を込めて言いクラウドが ムスっと不機嫌な顔をした。

 本人が優秀か如何(どう)か?なんて その土地の環境によって変わる…オレ達も勘違いしがちだが、オレ達が優秀に見えるのは専門家の人達が道具を製造してくれて オレらが その道具を使っているからで、オレ達が特別に優秀な訳ではない。

 本当に優秀に なりたいなら、道具を1から作って行かないとだな…。


 まずは無骨な竹の斧が完成し、次に手頃な大きさに竹を斧で切断し、更に竹を縦から真二つに叩き割る。

 叩き割った竹を石で削って半径をどんどんと細くして行き、複数の竹の繊維をひも状にまとめた物でぐるぐるに持ち手を巻いて行く。

 これで持ち手が片手に収まる程のサイズになった。

「なるほど…そうやって工夫するのか」

 オレが考えていたのは 最初の無骨な斧で、持ち手の事は考えていなかった。

 石器を作っていた奴隷が完成した石器をオレに渡し、受け取る。

 持ち手はオレの小さい手に対応した大きさになっており、使いやすい。

 試しに近くの竹を切ってみる…。

 オレが 全力 フルスイングで竹を切断すると…奴隷の男は貸せと手を出し、斧を受け取ると片手でコンコンと竹を効率よく切って行く。

 オレは木を倒す要領で両手斧として使っていたが、奴隷のやり方は (ナタ)のような使い方だ。

 やっぱりウィキペディアを主体としたネット知識より、実際の生活で石器を使って相違工夫(そういくふう)をしているコイツらの方が この場に おいては優秀だ。

 その後は オレは奴隷に石器の作り方を教えてもらい、白人としてのプライドの高いクラウドも渋々(しぶしぶ)と石器を作って行く。


 さて、これで ようやく竹の家が造れる。

 家の寸法は、横2.5m、奥行き3m、高さ2.5m、冷蔵庫や台所、シャワールームを入れるなら奥行きが更にプラス2mして5m…。

 これがトニー王国の一般的なワンルームのサイズになる。

 オレはパイロットスーツの腰に付いているメジャーを取り出し、引っ張る。

 これは命綱(ハーネス)と呼ばれる頑丈なワイヤーが巻かれて入っている物で、これを引っ張り、宇宙船などに引っ掛ける事により、身体を固定して 安全を確保する物だ。

 側面には色が変えられるライトが取り付けられており、暗闇の宇宙での合図に用いられる。

 さて、ハーネスには細かい線が等間隔(とうかんかく)に塗装がされていて、メートル法の物差しになる。

 過去に戻った時に一番困るのは、単位が無い事だ。

 オレ達の文明機器の設計にはmやgが使われており、計測器が一切無い状態で物差しを造るのは かなり難しい。

 例えば、真空中で光が 1秒間で進む距離が30万kmで、その3億分の1が 1mだ。

 (さら)に1秒の定義は、真空中でセシウム133原子が 91億9263万1770回の放射する周期となる。

 なので、正しい物差しを造るなら、直進するレーザーの技術と真空状態にする技術、原子の放射周期を観測する機械と かなり面倒な事になる…正直今の文明では不可能だ。

 よし、準備は整った…後はひたすら造るだけだ。

 メジャーを使って 竹を各サイズに合わせ、竹を横向きにして紐で結すんで行き、竹の束が崩れないように 縦に2本の竹を取り付け、(さら)に斜めの向きに竹が1本…。

 作り方自体は いかだと同じだ。

 竹の内部は空洞なので軽く、一人でも数本は簡単に持てるので 建築素材としては非常に優秀だ。

 オレは建設予定地の地面にメジャーと棒で正確に線を引き、4ヵ所に地面に竹を刺して行く…これが この家の柱になる。

 そして6人で いかだの壁を貼り付けて 試行錯誤(しこうさくご)しつつも、1時間程度で窓無し玄関ドア無しの竹製の豆腐ハウスが完成した。


 朝から夕方まで のんびりと作業を行い、1日で6軒の豆腐ハウスが完成する。

 最終的には1人1部屋の100軒が目標になる為、16日かかる計算だが栄養失調組の回復次第で、(さら)に早くする事も出来るだろう。

 夕日が沈む辺りで ファントムに重傷者を乗せたハルミ達とハルミにドクターストップを掛けられた奴らが 5km先の海から こちらに集まって来た。

「こっちに来たのか」

「まぁ…ここが拠点になるなら移動して置いた方が良いと思ってな…。」

 こちらは竹がメインとは言え、森の為、動植物が多く 食料調達の面では こちらに拠点を移した方が有利だ。


 さて夕食だ。

 ハルミはファントムをキューブ状態に戻し、ドラム缶を生成し始める。

 ドラム缶は 炭素繊維の単一素材で出来ているのと 構造も簡単な為、生成も比較的早い。

 空間ハッキングで生成した物は、分子構造レベルで綺麗に整列してしまうので、人類からすれば 超高難易度級の神素材の『カーボンナノチューブ』がエレクトロンには 非常に簡単に作れてしまい、不純物(ふじゅんぶつ)が含まれている炭素繊維などの粗悪品(そあくひん)が一番生成しにくいと言う逆現象になってしまっている。

 このドラム缶も炭素含有量率100%の素材で、2020年現代の高純度半導体 生成技術を持っている日本企業ですら、9.99999999999%の11桁が限界の状態だ。

 そんな、数千万から億円の値段が付きそうな素材で作ったドラム缶に川の多少(にご)った水を入れて せっかくの純度を台無しにし、石で作った かまどの上にドラム缶を乗せて指をパチンとスナップさせ、魔法(空間ハッキング)で指の摩擦(まさつ)の温度を上げて行き、火を付ける。

「技術チートを使いすぎじゃないか?」

 ドラム缶に入った川の水を沸かしているハルミにナオ(オレ)が言う。

流石(さすが)にスタートダッシュで空間ハッキングを使わないのは無理。

 鍋を作るには 製鉄炉を作らないと行けないからな…。

 土器を作るにしても 時間が掛かるし、試行錯誤(しこうさくご)して作っている間にコイツらが死ぬ…。

 生活が安定するまでは バンバンと使わないとな…。」

「なら せめて神様の奇跡の力ぽく演出してくれないか?」

 神様の奇跡と思わせれれば奴隷達の信仰心(しんこうしん)を得られるだろう。

「いや…それはファントムだけで十分だろう。

 住民に土下座されて崇拝(すうはい)されても かなわないからな。

 さて、とりあえず水は沸騰(ふっとう)したな。

 本日の料理は 牡蠣(カキ)とミートキューブのスープ…。

 しばらくはコレ一択だ。

 栄養失調組はロクに消化出来無いだろうから、水気が多いものじゃないとダメだからな」

 人は食べ物を消化するにもエネルギーを使う…。

 ガリガリの奴隷達にミートキューブをそのまま渡しても、胃が受け付けず、嘔吐(おうと)し、その後は 消化不良による下痢(げり)が待っており、下痢(げり)で水分が体内から抜けてしまえば、次に脱水症状が待っている。

 普通なら点滴で血管から直接 体内に栄養を送り、胃の回復を待つのが良いのだが、ここでは それも出来ない。

 まずは、海から拾ってきたのだろう…大量の牡蠣(カキ)(カラ)ごと投入。

 その後、1本あたり1000キロカロリーもして、栄養バランスも完璧な完全栄養食ミートキューブを大量投入し、竹の先端を割っただけのデカい スプーン棒でかき混ぜる。

「カキって高級食材だよな…良く取れたな…。」

 オレが高級素材を躊躇(ちゅうちょ)なく ぶち込んでいるハルミに言う。

「それは日本の価値観、本来牡蠣(カキ)庶民(しょみん)の食べ物で 値段もかなり安い…日本円換算で30円以下も珍しくなかったと記録にもあるしな。

 栄養価も悪くない値を出しているし、ソイフードの素材にも使えるかもしれない…その内、養殖(ようしょく)もチャレンジして見るか…。」

 オレ達がそんな話をしながら 竹を輪切りにして 容器を作り、クラウドは 竹のスプーンを作っている…。

 とは言っても、竹のカーブを使った棒でアイスで使うスプーンに近い。

「さて、完成…と、さて20人位集まれ、容器は使いまわすからな…。」

 ハルミはそう言い、かき混ぜていた竹のスプーン棒で竹の容器にスープをよそい、奴隷達に渡して行く…が…

「オイ…何やっている!!」

 ハルミが奴隷に向かって言う。

 あろうことか、竹のスプーンを使わずに 奴隷達は沸騰(ふっとう)したスープに右手の親指、人差し指、中指の3本を突っ込み、熱がりだした。

 如何(どう)やら、中の牡蠣(カキ)を食べようとしたらしい。

「だから、野蛮人(やばんじん)なんだよ。

 何でもかんでも手づかみで食っちまうんだから…」

 クラウドが熱そうにしている奴隷を見て言う。

「……ああ!…手づかみ文化!」

 オレは思い付いて言う…。

 インド人がカレーを食器を使わずに手で食べたりするのは 有名な話だが、アフリカも そうだったのか…。

 と言うより、あつあつの汁物の具まで手づかみで食べようとするとは 流石(さすが)に予想外だ。

 奴隷達は 必死に竹の容器に息を吹きかけ、冷まそうとしている。

 ただロウは、容器に口を付けてズズズと飲み、クラウドは 一度に少量しか すくえない スープを丁寧(ていねい)に使って音を立てずに口に運び、何回も往復している。

 オレには クラウドの食べ方は不効率(ふこうりつ)に見える。

 なるほど…これがこっちの食べ方か…。

 ハルミも状況を理解したようで 砂をかまどに入れて火を止め、沸騰(ふっとう)しているスープを冷まして ぬるま湯状態にしている。

「そこら辺も ちゃんと教えないと行けないんだな…。」

 そうオレは言い、食事をしている奴隷の元に向かった。

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