14 (冷凍庫)〇
初夏、冒険者ギルド。
「多少暑くなって来たかな」
現在 気温が25℃…時期的にも夏に入って来た所だろう。
冒険者ギルドのテーブル席で 充電とARの食事をしながらナオが言う。
テーブル席には クオリア、クラウドがいて最近は一緒に座る事が多い。
「ここの気温は 非常に短期間だが 気温が30℃位に上がる事もあるらしい。
耐えれないレベルでは無いが、多少不快ではあるな…。」
クオリアが言う。
人の適温が20℃なのに対してクオリアが住む 南極のエクスマキナ都市の気温は5℃だ。
肉体的には問題が無くてもクオリア達にとっては それなりにキツくなるだろう。
「日本なら35~40℃位になるんだけどな…今だと10℃位は下がっているのか…。」
「うわっ未来はそんなに気温が上がるのか…。」
クラウドが驚く。
「まだ 地球自体の温暖化が始まった ばかりだからな…。」
一般的に地球の平均気温の上昇は、人類が化石燃料を燃やした時に発生している二酸化炭素が原因と言う事にされている。
が、毎年の気温上昇が比例状態で 産業革命前から現在まで続いている。
人類の石油消費量が年々上がって二酸化炭素の排出量も上がっている訳だからグラフは右上がりの反比例にならないと不自然しいと言うのに、比例していると言う事は 地球自体が温暖化と言う大きな流れの中にあり、人類の二酸化炭素排出量は地球視点から見るなら地球への影響は誤差の範囲と言う事だ。
つまり 人類が脱二酸化炭素をした所で、大した効果は期待できず、環境保護ビジネスが儲かるだけになる。
まぁ それでも新技術の為の開発投資と考えれば 理解は出来るが、環境ビジネスの為に消費者の負担を増やして、人の生活を困窮させるのを見ると『人類の人口を減らして 脱二酸化炭素をする』のが本来の目的なのではないかと疑ってしまう。
「今後の事も考えるとコールド ドリンクは欲しいかな…それと氷も…。」
「となるとスターリング冷凍庫か?」
クオリアがオレに聞く。
「そっ…瓶詰めの肉と果物は大量にあるが、新鮮な肉や魚も食べたいだろうからな…。
今人材を募集中だ。」
オレが掲示板に張られている求人用の張り紙に指を差す。
竹の森の拠点の周囲は 良質な竹が大量に有り、恐ろしい事にウサギ達は 太い竹をかじり倒し、それを食料としている。
その為、向こうは ウサギが多く、ウサギ小屋もあるので 肉には困らない状況だ。
今は 竹の森の拠点から こちらに肉を輸送している訳だが、常温で2時間以内に解体、輸送、調理を行うのは不可能なので、今は 向こうで焼いて、水分が抜いた干し肉状態にして 瓶に詰めて輸送されている。
現状だと 新鮮な肉が食べたい場合は ウサギごと 輸送してこっちで絞めるしかない状態だ。
これが 運んだ分の 殆どの部分が食べられ、骨も色々と利用出来る無駄がないウサギだから良いが、これが牛だった場合、牛の6割の重量が食べられず無駄になり、その重量は輸送コストにも響いてくる。
こんな理由があり、生肉を安定保存 供給が出来るウサギ小屋を作って自給出来るようにした訳なんだが、冷凍保存が出来るなら果物など運べる食料のバリエーションの数も大幅に増やす事が出来る。
「となると冷凍庫はギルドの近くに立てるか…。」
「え?ギルド内じゃなくて?」
クオリアの言葉にオレが返す。
「いや…面積が大きければ大きい程 冷凍庫は 冷却効率が良くなるからな。
そこで、コンテナ1個を使って冷凍庫を作る。」
「デカッ…とは言え、皆の食料分を入れておくと その位は必要か…。
この設計図を元に大型冷凍庫を造れるか?」
オレがクオリアに設計図を渡す。
それは 今までのスターリングエンジンの構造を利用した物で、回転運動では無く、空気密度を低下させた時に温度が下がる断熱圧縮 現象を利用したエアコンだ。
「ふむ…寸法を変えるだけで出来そうだ。
こちらは私が担当しよう…。
それに、今ハルミとジガが 減圧室を造っているからな…。
組み合わせれば フリーズドライ食品が作れる。」
「そこまで行けば 食料問題は解決かな…。」
「おっ今度は何をやるんだ?」
別のテーブル席では 張り紙を見て 話題となっている。
「部屋を真冬にするって書いてあるわね」
文字が読めるウェイトレスが こっちに仕事をする為にやって来た 黒人の男に食事を運びながら答える。
「おっオマエ読めるのか?」
「ええ…なんとか…。」
「真冬?寒くするって事か?
となると…氷…氷室か?」
「氷って何?」
ウェイトレスが男に聞いてくる。
「冬になって周りが寒くなると水が固く固まるんだ。」
「あ~雪の事ね…。」
「そう 大きい雪だと思っていれば大丈夫。」
「雪が作れるなら中に入れておけば 食材が腐らなくなるわね…。」
「多分、それが狙いなんだろうな…。」
「それで…受けるの?」
「ああ…丁度 仕事が無くなって こっちに来た所だったからな…。
俺に出来る仕事があれば大歓迎だ。」
「人員は大丈夫そうだな…。」
話を盗み聞きしているクオリアが別のテーブルで言う。
「まぁな…で、一番厄介なのはバネだ。
鉄とは違って 炭素繊維強化プラスチックのスプリングだから、反発も違って来るだろうしな…。」
スプリング自体の反発力の計算は この時代の科学者のロバート・フックの『フックの法則』で計算出来るが、使っている素材も品質も違う為、材質の計測が必要になる。
「そこは実際に動かしてみての調整だな…それが一番早い。
素材には 炭素繊維強化プラスチックを使用する。
ただ、これさえ出来れば…。」
「銃が作れるな。
ただ 弾を作るのが、一番メンドイんだがな…。」
銃は意外と簡単に作れる。
元々 銃は 生産性や整備性、信頼性を上げる為に部品点数が極端に少なく合理的に作られているからだ。
なので、その作り方さえ覚えてしまえば プレス機と旋盤がある工場なら それなりの性能な物が作れる。
オレの一代目のウージーマシンピストルも、マシニングセンタで、炭素繊維板やガラス繊維を プラモデルのキットのよう加工して部品を組み立てた物だ。
まぁ銃の精度が決まる バレルだけは フィリピンの職人に作らせていた訳だが、弾となると話が別だ。
火薬の調合から弾の寸法まで しっかりと規格通りに精度を合わせないと設計通りに飛んで行かないし、作動不良の原因にもなる。
な訳で、銃を作っているテロリストでも 弾だけは 自作せずに買って来る事が多い。
「ナオは 銃弾を作った事はあるか?」
「いや…爆薬は造った事はあるんだが、銃弾は 規格は知っているが作った事は無い。」
そもそも オレが使う9パラは、敵を殺せば ほぼ確実にドロップするから自作する必要も無かったし、正規、違法、含めて 弾が不足した事は無い。
「銃か…」
クラウドが少し不安そうに言いながら ゆっくりと食事を再開した。




