13 (道路開拓)〇
朝…。
リアカーを取り付けた バギー6台が クラウドを先頭にアトランティス村を出発する。
彼らは クラウド商会に所属している木こりで、新しい道を作る為の道路工事士だ。
走行中…左右には果物の木の実が落ちている。
昔この島に いたとされる 創始者レナが、移動中の食料問題を解決する為に果物の木で道を造っていたらしく、今は大半の果物が採取されて瓶に詰められ、保存食にされている。
ハルミが言うには 来年の実りの時期まで十分に持つらしい。
備蓄食料も どんどんと増えて行くので、質は ともかく食べ物に困る事は無いだろう。
最近は暑くなってき始めていて、収穫時にまだ小さかった果物が大きくなって落ち、動物の食料になっている…動物に食べられている跡も見つけた。
目指す場所は アトランティス村と竹の森の拠点の丁度 真ん中あたりの森で、進行方向右側に果物のなる木が無く、右側に果物の木が続いて行る道だ。
「見つけた…。」
アトランティス村と竹の森の拠点を 何度か行き来していたから比較的楽に見つけられた。
私達は ゆっくりとバギーを止めて、近くまで手で押して行く。
「これが道ですかい?」
黒人奴隷…いや、黒人の従業員が私に聞く。
「ああ…ここだ。」
道は長い間に木が生えて塞がっているので 道には見えないが 左右にある果物の木が進行方向を示している。
「それじゃあ…行きますよ…。」
従業員が2人1組となり、1人が バギーのガスボンベを止めて背中に背負い、ガスが出るチューブを回転する斧…。
チェーンソーと言うらしい…に接続し 構える。
そして 後ろにいる もう一人が背中のボンベを締めてビー玉を押し込み、ガスがチューブ内に通し、チェーンソーのトリガーを引くと 止めていたガスが解放されて 回転部分に入り、チェーンが高速回転を始める。
私も作業員の後ろに周り、ガスのボンベを締めてビー玉を押し込んだ。
「おっおっ」
私のペアの従業員が想定外の振動に慌てて両手で振動を押さえ付ける。
「それじゃあ…切って行こうか。
絶対にチェーンの先端で切るなよ」
「はい」
そう言って従業員達は木を切り始める。
一人は切る係で、もう一人が 周りに人がいないかを確認しつつ安全を確認する係だ。
これをナオ達から買った時にクオリアが わざとチェーンソーの先端で木を切り、回転力とチェーンソーの反動で クオリアの頭を切り裂く位置まで浮き上がった…。
幸い クオリアは額を削られる程近くチェーンソーの刃が近づいた所で緑色の粒がチェーンソーの刃を受け止め、額を切り裂く事は無かったが、これが私達だった場合、確実に頭が削られていた。
対策として、歯が浮き上がって来るコースに頭を置かない事。
しっかり持って キックバックを軽減する事。
そして、キックバックが発生したら トリガーを離してガスを遮断する事。
この3つがちゃんと出来ていれば 殆どの事故を防げるとの事…。
元木こりの従業員達は 次々と木を切り倒して行くが…。
「これ…如何するか…。」
驚くほど簡単に木が切れるので、皆で30本程切り倒した後で私が言う。
木を輪切りにして リアカーに乗せるが、1本あたり 2台が必要になり、私達のバギー全体では 3本しか乗せられない。
こうなると一日あたり20本から24本が限界になる。
しかも、持って行っても 今はガスボンベを燃料を中心に使っているので 燃料としての木材は必要ない。
「クラウド様…如何します?」
「いったん戻る。
チェーンソーが使える事は ちゃんと分かったからな。」
冒険者ギルド。
「あ~そこまで考えて無かった…木材の使い道か…。」
テーブル席で道路工事の計画を雑草紙に書いていたナオは クラウドの言葉にそう返す。
オレが考えていたのは 効率良く邪魔になっている木を伐採する事で、副産物で出る木の使い道を決めていなかった。
「確か、プラスチックや炭素繊維に木を使ったよな…。」
クラウドが言う。
「ああ…木酢液と木タールだな。」
「そう、結局 必要なのはその2つだけ で良いんだよな」
クラウドがオレに確認を取る。
「いや…後、燃えた後の灰も必要…あ~そう言う事か…。」
「そう、向こうに工場を立てて 切り倒した木を燃やして 木酢液と木タールを作って それを容器に入れて こっちに運ぶ。」
「つまり、一次加工を現地でやるのか…。」
「そうだ。」
「となると もっと大規模で、人員も必要になって来るな…。
ただ これで 失業者も減らせるかな…。」
「それは 労働者の募集の張り紙か?」
クラウドがオレが書いている張り紙を見て言う。
「ああ…冷凍庫を作ろうと思ってな?」
「れいとうこ?今度は何の道具だ?」
「クーラーボックス…いやフリーザー?
部屋の中を真冬のように寒くする道具だ。
クラウドは雪の降る地域に行った事はないか?」
「ある…物を寒くすると肉が腐らなくなるんだよな。」
「そう…それを再現する機械の人材集め…。
で、張り紙は書いたけど 文字が読めるヤツが少ないんだよな」
現状 読み書き出来る人間は、オレ達の他に クラウドとセルバ…トミーの3人だ。
勉強中なのは 保育院の保育士達…。
彼女達は 今後 子供達の先生になるので、一番最初に教えている。
竹の森の拠点の方では ユフィ達、性奴隷組達がジガが 指導の元 早速 学んでいる。
ただ労働者である大人の男で この文字を読める人は ほぼいない状態だ。
「なら、絵を描けば良いだろう…貸してみろ」
クラウドは労働者と炉の絵を綺麗に書いて行く。
「おいおい、冷凍庫の絵じゃないのか…。」
「私は クーラーボックス が如何いう物か 分からないからな…。
人と火が入っている炉を書いておけば 仕事の依頼だって分かるだろう。
そうすればトミーに仕事の内容を聞く。」
「まぁそうだが…。」
「こう言うのは正確性よりイメージが重要なんだ。
特に意思疎通の難しい相手にはな…。
よし…これで出来た…如何だ?」
「確かに分かりやすく出来ているな…。
ありがとう。」
クラウドから張り紙を受け取り、壁の強度が高すぎて 画びょうの類が使えないので わざわざ作っていた 木製の掲示板に 張り紙を固定しながら オレが言う。
「そうか…。
それで、一次加工に必要なのは この前作っていた黒鉛炉だ。」
「黒鉛炉か…。
輸出用に保管している炉を1つと…倉庫と寝泊り用のコンテナがいるよな?」
「住み込みで働かせるのか?」
「そう…出来れば あそこに村を造りたい。
中継地点に物資を集められれば 作業がスムーズに作業が進むし、道が出来た後も そのまま使える だろう。」
「確かに…あそこは近くに川が流れていたからな。
電気と水が確保出来るなら ガスボンベの補給も出来る。
ただ 実際の所は 2つの拠点を行き来しながらに なるんだろうけど…。」
クラウドが答える。
「まぁ あそこは完璧に森の中だからな…。
コンテナの中にでも逃げれば 熊でも そうそう破壊出来ないと思うんだが…。」
「だけど、熊や狼は殺すのは正規兵でも難しい。
マスケットでも あれば良いんだが…。」
「マスケット銃か…。
いや…黒色火薬が作れれば 銃弾も作れるよな…。
となるとシンプルブローバック銃を作っちまった方が確実か…。」
オレはふとクラウドに言う。
「シンプルブローバック?」
「あ?この銃だ。
構造は凄く簡単だからな。
冷凍庫を造ったら その技術を使って銃を作る。
そうすれば 熊でも狼でも如何にかなる。」
「分かった…それじゃあ 始めに12のコンテナを買おう。」
「いや…家代は国から出すから無料で良いよ…。
12か…確か在庫は まだ あったよな…。」
オレは棚から生産数の書類を出して確認する。
アトランティス村の家が出来た後も 竹の森の拠点に家を送る為の作業は続けられており、組み立てをしていない板状態で倉庫に保管されている。
今週分のコンテナは もう確保出来ているから、明日送るとして…来週の生産量を増やせば間に合うだろう。
「生産量的に今出せるのは6…来週に また6と言った所だろうな。
黒鉛炉は ストックしてあったから すぐ出せる。」
「契約書は?」
「明日の納品には書いておく。」
「分かった…それで、その人材集めは この後になるのか…。」
「そうなるね…。」
オレがクラウドにそう言い外を見ると空が赤くなっており、今日の業務は終了…。
労働者達が 食事の為に ぞろぞろとやって来て、オレ達はクオリアと合流して食事を取り始めた。




