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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 2巻 (研究者の町 ロンドン)
42/339

11 (望まれない子供達)〇

 アトランティス村 広場…教習所?

「それじゃあ…広場を周って見て…。」

「はい」

 ナオ(ナオ)が従業員達に言い、クラウド商会の荷物をリアカーで運んでいた従業員達が アクセルを吹かしてバギーを押して乗り、リアカーを取り付けたバギーが、広場を周って行く。

 バギーの簡易教習所…と言うより運転講習レベルだ。

 ただでさえ 初めて乗る乗り物で(あつか)(づら)い車両だ、最低限の訓練をしていないと絶対に事故る。

 今走っているバギーは6台…これは クラウド商会に売ったものだ。

 そして それを扱うドライバーを丸一日掛けて丁寧(ていねい)に指導し、先読みが必要な アクセルやブレーキも感覚で使いこなして来ている。

 その中にはバギーを楽しんでいるクラウドもいて、スピードを上げて来ている。

「それじゃあ…私がやるか…。」

 オレの隣にいる クオリアが言う。

「気を付けてな…どっち共」

「ああ…。」


「ちょっ!!」

 クオリアが走行中のバギーの前に 教習所のシュミレーターの(ごと)く わざと飛び出し、クラウドが ブレーキを掛けるが間に合わず、80㎏のクオリアを宙に吹っ飛ばし、ようやくバギーが止まる。

 クオリアは 土の地面を転がって衝撃を逃がして着地した。

「はっはっはっ…大丈夫か?」

 クラウドがバギーを止めて息を荒くし、クオリアに駆け寄って言う。

「問題無い…これで分かったか?」

 クオリアは何事も無かったように立ち上がる。

「ああ…間に合わなかった。」

「速度を出し過ぎると止まるまでの距離が長くなる…このバギーは特にな」

 クオリアが調子に乗ってスピードを上げていたウラウドが言う。

「さ~て…皆見たか?

 当たったのが クオリアだったから良かったが、コイツに当たるとガチで死ぬぞ。

 動いている車両がいた場合、絶対に前に飛び出さない事…いいな。」

 オレは興味本位でバギーを見に来ている住民に大声で言う。

 人は事故が起きないと楽観的に考える傾向がある為、1回 皆の前で事故を起こしてみる必要がある。

 オレはクオリアが ぶつかったバギーを見る…ついでの強度実験だ。

 装甲は無事で、へこみも無く 傷も付いていない…問題ない見たいだ。

 ただ それは ぶつかった人に衝撃が集中する事になり、大変 危険ではある。

 後でクオリアに飛ばされた感想を聞いてみるか…。

 その後、クオリアは 定期的に飛び出しをしつつ ドライバーを警戒させ、オレは住民達に交通安全の指導を行う。

 トニー王国の道路は 歩行者優先では無く、車両が最優先で 止まって欲しい場合は 手を上げて回す様に振る事でドライバーに合図をする。

 この合図はクラウドが提案した物で、馬を止める時に使われている合図らしい。


 翌日…。

 バラしたコンテナハウスを乗せたリアカーを バギーで引き、竹の森の拠点に向かう。

 これで これまで 1週間に1度 2日掛けて往復していた 輸送部隊が、毎日 2時間で往復できるようになった。

 輸送隊の中には バギーの魅力(みりょく)にハマったのか経営者であるクラウドも走っていて、朝から晩まで往復し続けている。

 そして これにより大量の物資のやり取りが出来るようになり、物流が飛躍的に安定する。

 昼になるとハルミがリュックを持ってバギーの荷台に乗ってやって来た。

 バギーのリアカーに乗って言るのは、風呂セットや薬品の瓶などの医療セット…多分 保育院に設置する為の物だろう。

 別のリアカーには、ロウが乗っていて大量の竹のコットンが乗せられている。

 家畜の飼料とベットのクッションに使われる物だ。

 竹の森の拠点で ウサギ小屋の管理、食肉加工を任されているロウは、改良した2号店を出すとの事で、こっちに来たのだろう。

「よっ久しぶり…」

 ナオ(オレ)がハルミに言う。

 ハルミとはバギーの試験走行以来だったから 1週間ぶり位か…。

「お疲れ…乗り心地は如何(どう)だった?」

「椅子が無いからな~。

 人が座ったら振動で尻が痛くなるんじゃないか?」

 う~ん座席付きのリアカーを作れば良いのか?

「それで、ハルミが来たのは保育院か?」

「ああ…。」

 アトランティス村の一番奥にある竹編みのドームには保育院がある。

 この村では 子供は 両親が育てるのではなく、誰の子でも村の女性達が一括管理(いっかつかんり)で育てる効率的な仕組みになっている。

 この為、この村の成人女性の半分は 子供を育てる保育士だ。

 (さら)に 子供を一括(いっかつ)で育てる仕組みの為、結婚と言う概念(がいねん)が薄く、誰もが複数の相手と関係を持っている状態になっているので、正確な親が誰だか分からない。

 さて『子供と母親は 村の宝』と言わんばかりの非常に手の込んだ竹の建物だったのだが、ちょっとした環境の変化でも死ぬ 子供を あのドーム内に入れておくのは非常にリスクが高いとの事で、ハルミの要請により 先日、取り壊して2階建てのコンテナハウスに切り替えた。

「注文通りに造っておいたが…細かい所は頼むよ。」

「分かっている。」

 そう言うと、オレが案内する形で ハルミとアトランティス村の中にある保育院に向けて足を進めた。


 保育院。

「おお良い感じ…。」

 保育院は冒険者ギルドと同じく、コンテナハウスを組み合わせた2階建て構造になっている。

 現在 使っているのは1階だけで、2階は 新生児用に徹底的に衛生管理をした場所にするらしく、未熟児用の保育器も 2階に置くらしい。

 オレとハルミは1階の出入り口から建物の中に入り、靴を脱ぐ。

 アトランティス村の住人は基本的に土足文化だが、ここだけは靴を脱ぐ事になっている。

 ライムライトで照らされている部屋の中には、40人程の子供達と女性の保育士達がいて、30歳位の中年女性保育士が 若い保育士を教育して行くシステムになっている。

「おっと失礼」

 オレが軽く謝る…授乳中だ。

 だが、母親は『何で謝るの?』と言った顔をしている。

 周りが女性と乳幼児だけなので少し気まずい。

「皆調子は良いようだな。

 ただ…冬に2人出産だな。

 体温調整が出来ない赤ん坊が寒い冬を生き残れるか…。」

 ハルミが妊婦の腹に手を当てながら言う。

「て事は次は保育器を作るのか?

 あっ…。」

 オレは 一人の妊婦にオレが目が止まる。

 ここを占領した時のレイプ騒動の被害者だ。

 まだ腹のふくらみが小さいが、オレが率いていた部隊の中の誰かの子供だろう。

 周りを見渡して被害者の腹を確認してみるが、あの騒動でヒットしたのは1人だけのようだ。

「新しい命が生まれる事を喜ぶべきか…困る所でもあるんだけど…。

 こう言うグループで子供の面倒を見るって文化があるから母親は安心して子供を産めるんだよな…。」

 オレの考えを読み取ったハルミが、まだ産まれていない 小さい命に手を当てて優しく()でながら言う。

「なぁハルミ…腹の中の子供は、産まれたいと思ってるのかな?」

 オレは…あの親から産まれたいと思っただろうか?

 多分、答えはNOだ。

 毒親や自分の障害に散々悩まされて、人から孤立する事を腹の中で知っていたら オレは産まれてこない事を選んだだろう。

 なら将来 オレがナオキになった時に結婚した勝子を流産させてオレを自身を殺すべきか?

 いや…そもそも、あの勝子はオレを流産した所で また別のオレを作るだろう。

 なら勝子自身を殺してしまうのが、親心なのだろうか?

「………少なくとも この時点では『死にたくない』『生きたい』と思ってる。」

根拠(こんきょ)はあるのか?」

 普通の人なら 今の言葉で納得するのだろうが、オレは理詰めじゃないと納得出来ない。

「………私は衛生兵だったから 手遅れで人を切り捨てる事はあっても、最大多数の人を救う為に努力していたし、実際 救っていた。

 だから 銃で人を殺す機会もまず無いから、500年も生きているってのに キル数自体も少ない。

 だけど定義上、まだ人じゃない胎児(たいじ)を散々殺して来ている。」

「中絶か…。」

「そう…大戦終結後の地球は、8割方の地域は エレクトロンが統治していて(おおむ)ね平和状態だったんだが、小規模な紛争は あちこちで 起きていた。

 で、そんな場所だと 当然 望まない妊娠をする人が出てくる。

 自分の身体を売ったり、レイプされたりしてな…。

 あの時は 妊婦の15%位だったかな…あの時は ジガとも対立した。」

「誰かに任せられ無かったのか?」

 大戦時は医療の(ほとん)どを機械に頼り切っていた はずだ。

 わざわざ、ハルミがやる必要は無い。

「当時のエレクトロンの大半が ヒューマノイドで、胎児(たいじ)の殺傷はロボット三原則に違反するんだ。

 だから人出身で医師の私が選ばれたんだ。

 で、逃げるんだよ…細いピンセットで頭を潰すだけだってのに…最後の最後まで必死で逃げる。

 『死にたくない』『まだ生きたい』って必死で私に訴えてくる。

 本来なら親の都合は胎児(たいじ)には関係無いんだけど…金が無きゃ子供が育てられないんじゃ…殺すしかない。

 私が殺した胎児(たいじ)の映像データは全部、ホープ号にアーカイブされてる。

 父親も母親も すぐに私に殺させた命の事を忘れちまうからな…見るか?」

 ハルミが振り向き、オレの目をシッカリと見て言う。

「アドレスを教えてくれ。

 流石(さすが)に この場じゃ見にくいが、客観性を持った重要な資料だ 後でちゃんと見ておく…。

 まぁ数が数だけに全部は見れないだろうが…。」

「分かった…送った。」

 指定されたアドレスにアクセスし、年月事に仕分けされ、その中に大量のファイルを確認する…。

 身勝手な母親は こんなにいるのか…いや父親もか…。

 患者のファイルを開くと 手術の動画データの以外に患者の資料も一緒に入っている。

 資料を開いても医者でない オレには詳しい事はサッパリ分からないのだが、胎児(たいじ)に固有の名前が無い事が非常に多く、その場合は 父親と母親の名前の後に『の間に生まれた胎児(たいじ)』と書かれ、父親が不明と書かれている事も多い。

 この動画データが非常に胸糞悪い言う事は一発で検討が付くが、不愉快だからと言って情報から目を(そら)らすのも またダメだ。

 情報を見て 自分の中で解釈(かいしゃく)し、自分の情報として今後に生かす。

 それが身勝手な理由で殺された彼ら彼女ら達に出来る唯一の供養(くよう)だからだ。

「それじゃあ…オレは行くよ…。

 あっ保育器は?」

「こっちで作る…足りない物があれば言うよ」

「分かった。」

 オレはそう言うと、今後に起きる事を考えて憂鬱(ゆううつ)になりながら、保育院を後にした。

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