04 (人種差別)〇
翌日…朝、海岸。
「さて、まずは『衣食住』の『衣』からだな…」
エクスマキナの神4人と獣人のロウが集まり、リーダーのナオが言う。
つまり、着る物、食べる物、住むところの三要素が重要になって来る。
ちなみに現代では、これに『通信』の『通』と『宗教』の『霊』が組み合わせて『衣食住通霊』となる。
が、宗教はともかく通信は現状では ほぼ不可能だ。
周りを見ると日の出になった事で、死人のように寝ていた奴隷達が起き始めている。
「今は春…防寒着が必要になるには 後 半年の猶予はあるだろう。
服の製作時間を含めても3ヶ月後までは 大丈夫な はずだ。」
オレの隣のクオリアが言う。
確かに着替えをしないと言うのは 衛生上問題だが、命に関わる事でも無いか…。
じゃあ…優先順位は落として良いだろう。
「じゃあ次、食」
「ウチらの電気はファントムから供給できるから問題無いな。
問題なのは生身の奴隷達だな…ハルミの意見は?」
ジガがハルミに聞く。
「当分の間は ファントムの物質生成機能を使ってミートキューブを生成する。
昨日 奴隷達を診察したが、労働に耐えられるのは10人程度…。
後は負傷や栄養失調なんかで働けない…無理に働かせた場合 潰れる。
医師としてドクターストップを掛けさせて貰うぞ。」
ハルミが言う。
「分かった…全治 何週間?」
自動化の始まりである産業革命まで持って行くまでには 相当なマンパワーがいる…働ける人数次第では 出来る事が制限されてくるだろう。
「1週間から2週間…栄養失調さえ治れば 半数は働ける。
100人動けるようになるには 1ヵ月程度は見ておいた方が良いだろうな…。」
「OK…とは言っても ずっとファントムが食料を生成する訳にも行かないだろう…。
森に入って食料を採取しないと…。」
「それはロウがやる」
獣人の少女ロウが手を上げて言う。
「じゃあ…狩りはロウに任せる。
オスとメスのウサギが大量に必要かな…」
「分かた」
「ただ、ロウが採取するにも限界がある…農耕は必須だな」
自然の恵みは、何もしなくても食料が取れるが自然故に限りがある…。
これから人口がどんどん増えて行くだろうし、効率良く 食料生産が出来る農耕は必須だ。
「あ~それで何だが、ジガにはソイフードに必要な素材を世界中から集めて欲しい。」
ハルミがジガに言う。
「構わないが…具体的には何が必要なんだ?」
「大豆、ニンニク、ジャガイモ、小麦、 テンサイ、それに海藻のテングサ…。」
「何処で手に入るんだ?
おおよそで良いから場所は分かるか?」
「一応、日本で全部揃うはず…。
ただ、テングサは静岡や伊豆諸島の海の中…。
ビートは現地では『サトウダイコン』と呼ばれていて北海道…。
後、ニンニクは まだ漢方扱いされているかも知れない。
そうなった場合は 中国まで行かないといけないな…。」
「日本か…それだけ分かれば十分だ。
構造データだけ 採取出来れば良いんだろ?
日本にヤスケって言う黒人領主が5万石の領地があったのか実際に確かめたいし、ぶらぶらして1週間位で戻る。」
「ヤスケか…分かった…。」
ジガがそう言い、ハルミが答える。
「あれ?ヤスケ?アイツ 下級武士じゃなかったか?」
オレが思わず言う…ヤスケは資料が少なかった事から 出世はして無かったはず…何かしら新しい文章が未来で見つかったのか?
「それじゃあ…ジガは ハルミのお使いに行くって事で…これで後は住だな…。
これはオレがやろう…。
森に大量の竹が有ったからな。
とりあえず雨風防げる仮説住居を造ろう。」
万能素材の竹が見つかって良かった。
これで100人の奴隷を雨風から守れる。
「残るは私か…ナオ…私は何をやれば良い?」
クオリアがオレに聞いてくる。
「この島の正確な地形と、鉱物や素材、食料なんかの場所を乗せた マップデータが欲しい。
オレはラベルの付いた状態の鉱石しか見た事が無いからな…」
オレは 科学の専門家である忍者の家系で育てられた事もあり、科学知識は豊富で、肥料から爆発物を作る事も出来る…。
だが、基本的に不純物を取り除いて粉状に精製された鉱物しか見ていなく、ラベルが無いと見分けが付かない…これはクオリアが適任だ。
「了解した。」
「それじゃあ…連絡はこまめに取ろう…今日も頑張ろう。」
「ああ」「おう」「分かた」「了解した」
オレの言葉に皆がそれぞれ答え、それぞれの作業に向かって行った。
ファントムに乗った ジガは日本に…。
クオリアは探索の為にそれぞれが 別方向に飛んで行き、ハルミは ファントムをキューブ状態に戻して 物質生成機能を使い、ソイフードを出して行く…。
物質生成機能は、空間内の量子情報を書き換える事によって物質の最小単位である元素を作り、それを組み合わせる事により、物質の構成データとして記録されている物を現実世界で実体化させる事が出来る。
ただ、こんな便利機能にも欠点があり、鉄より比重が重い物質は生成が出来ないし、生成速度も遅い…。
100人全員の腹を満たすには時間が掛かり過ぎるし、飲料水も生成も出来るが到底間に合わない。
餓死者が出る前に自力で飲料水と食料を確保する必要がある。
さて、家づくりだ。
竹の森まで ここから5km…徒歩1時間程度の距離になる。
物質の宝庫である海からも近く、燃料や森の恵みを得る為の森が近いので仮拠点としては ここが一番良いだろう。
オレは働ける10人からハルミに肉体労働に最適な5人を選んで貰って ファントムの肩、腕に奴隷に乗って貰い、ナオ機が目的地まで歩いて輸送する。
「馬より早いな…この巨人は」
ナオ機が5人を乗せて歩いていると昨日話した白人の男が言う。
時速は20km…正直もっと速度は出せるが、転落死されても困るので今は ゆっくり歩いている。
「そう言えば…オマエ、名前は?」
「クラウドだ。」
「クラウドか…良い名前じゃないか…。」
インターネットを通じてコンピューターの処理を肩代わりしたり、アプリ自体を一括管理をしたりするシステムの総称だ。
「そうか?…あ~自称神様」
「自称ね…自分の神を裏切れないか…。
ナオで良い…それと変に敬わなくても良い…。
昨日は威厳を示さなければ行けなかったが、常にやるのは流石に疲れるしな。」
オレはクラウドの前で気楽に言う。
「そうか…分かったそれじゃあナオ。
キミは何故、コイツらを助ける?」
「コイツら?奴隷の事か?
別に同じヒトなんだから助けても良いだろ。」
「いや…コイツらは家畜だ…直情的で知性の低い動物だ。」
彼以外の黒人奴隷は クラウドを見ると僅かに震えている。
恐らく、白人達にヒドイ扱いをされて来た のだろう。
「確かに この時代の価値観としては そうなんだろうな…。
でも、それは 彼らが教育を受けていないからだ。
しっかりとした教育を受ければ、性能では 白人と大差ない。
オレのいた時代では、黒人の知識人も普通にいるしな…。」
黒人が暴力的なのは確か…。
それは黒人の犯罪率と言う客観的な数字で既に証明されている…。
ただ これは 黒人の社会的地位が低く、低所得者の数が多い為、犯罪者の数が目立っているだけだ。
ちゃんと教育として仕事に就けるようにし、生活を安定させて 長期的な視点で物事を見れるようになれば、長期的なリスクを警戒して短絡的な犯罪行動は取らなくなる。
「ただ、個人的には オレは黒人と女が嫌いだ。
だが、国の長としては 平等でありたいと思っている…。」
「そうか…。」
「さぁ…オレは人種で仕事を分ける気は無い、ちゃんと働けよ…。
まぁ当分は給料が出ないブラック労働になるけどな…。」
竹の森に入ったナオ機を操るオレはクラウドに向かって そう言った。
【解説メモ】
ナオが黒人、女が嫌いな理由。
(『黒人差別だ』や『女性差別だ』と主張してくる奴が嫌いだから。
ナオの価値観では『私の黒い肌は アナタの白い肌に劣っています…なので平等にして下さい』と聞こえ、自分の肌色を愛していないと思っている…女性も同じ。
なので、整形と遺伝子操作が当たり前になった2600年では、黒人は白人化してしまい、自分の肌色を愛している少数が生き残っていると言う設定になっている。
本作では、黒人側が『黒人差別だ!』では無く、『オレは親から貰った この黒色の肌を気にいっている』と白人に言い返す事で、劣等感を抱いていなく、自立している表現にしている。)
人種差別
(2600年の価値観では、生身の人より身体を機械化したヒトの方が圧倒的に優秀な為、一部機械化した人類、トランスヒューマン、脳まで機械化したポストヒューマンは、生身の人を見下している。
ナオ、クオリアは『人種関係無く、人は機械以下の性能しか出せない』と人間を見下している。
機械化を積極的に推進するのは、人の労働力なんて たかが知れていると理解しているから)
ヤスケ
(未来ではヤスケは信長が買った奴隷で、奴隷身分から成り上がり、最強の侍になり、領主になったと伝えられている。後世の創作作品が史実に基づいた歴史書として扱われている
実際は、資料が少ない事から重要な役職には付いていないとされており、確認出来る限りでは信長の荷物持ち。)