07 (文明の光)〇
数日後…。
ナオ達が 手伝った事もあって、次々と炭素繊維のコンテナハウスが出来ており、アパートも次々と出来ている。
オレ達も予想外だったのは、アパートの場所だ。
アトランティス村では 居住区画がしっかりと決まっていたのだが、オレ達は 頑丈な家をアピールする為に、住民の前で 試作のコンテナハウスをバーナーで炙ったり、思いっきり槍で突かせたりと色々な耐久実験を行ったので、トミーの発案で アトランティス村を囲うようにコンテナハウスで城壁を造る事になった。
最初にアパートを設置したアトランティス村の入り口には6部屋×3階の18部屋のアパートが出来ていて、屋上に上れば弓による狙撃が出来るようになっている。
まぁ熊などの大型動物の攻撃も防げるかは 微妙な所だが、装甲板としては非常に優秀だろう。
さて、便宜上 役所と言っていた竹の家の倉庫だが、とうとうオレ達用の建物が出来、1階は横6×奥2の壁を外して 補強用の柱を取り付けたコンテナハウスを連結させ、2階はオレ達の個室が12部屋…。
部屋には まだ空きがあるので、仕事の関係者を住み込み させる事も出来る。
入り口の上には剣と盾のマークの間に『ぼうけんしゃ ギルド アトランティスむら てん』と書かれた看板が取り付けられている。
夕日が沈み始めると 今日の仕事を終えた労働者達が、食事を取る為に まだ新しく出来たばかりの冒険者ギルドの中に入って行く。
「そう言えば 何で冒険者?
普通に公共の家で良くないか?」
隣の組み立て中のクラウド商会から、食事を取る為にやって来たクラウドがオレに言う。
パブリックハウスとは、この時代の酒場を主体とした複合施設で、酒場、宿、食堂、集会場、倉庫、仕事の斡旋、銀行、雑貨屋、イベント会場、果ては裁判も 酔っぱらいながら ここで やっていたらしい。
そして それをゲーム設定の為に簡略化して行った物が、冒険者ギルドになる。
「まぁ これから どんどん この島を開拓して行くからな…。」
「なるほど…開拓者って訳か…。」
「まっそんな所…。」
オレはクラウドに適当に返事をしつつ、冒険者ギルドの隣にある螺旋水車の電気を使ってメチルアルコールランプを発火させて、クラウドと一緒に建物の中に入る。
中は日が沈み始めているので薄暗く、左側には 長いカウンターデーブルが、右には 大量の椅子とテーブルが並んでおり、仕事を終えて食事を取りに来ている住民達に 奥の料理場からエプロンを着けた若い少女2人が、次々と食事を運んでいる。
アトランティス村の料理を担当していた おばちゃんを正式に冒険者ギルドのコックとして雇入れ、ウェイトレス希望の2人を雇った。
長いカウンターテーブの後ろの棚には 酒の入った瓶では無く、書類が整理されて置かれており、ウサギの脂肪の樹脂で作ったロウソクの灯りを使い、トミーは ロウソクが入ったランタンの灯りを頼りにトニー王国語で書類作業をしている。
彼は 会社側と労働者を仲介する日雇い人材派遣業を行っていて、細かい人員の調整や交渉を彼が担当している。
オレは入り口を入って すぐ横にある酸水素ガスのボンベを少しひねり、ボンベ内のガスを開放…。
接続されているガラス繊維のホースを通して部屋中に伝って行き、部屋の各場所に設置されている ロウソク台の下からガスが吹きだす。
その上には 棒状に固めた生石灰のロウソクが立てられており、オレは メチルアルコールランプの火で次々とガスに火を付けて行く。
噴射された酸水素炎ガスが燃えて熱を出し、生石灰のロウソクを過熱する事で ロウソクが白く光り出す。
19世紀中ごろに発明され、白熱電球が普及するまで使われていた ライムライトだ。
「おお…」
客たちが一気に部屋が明るくなった事で歓声を上げている。
通常なら各テーブルにロウソク数本程度の灯りしか無く、とても部屋中を照らす光は生み出せないのだが、ライムライトにより、室内は昼間以上に明るくなっている。
ちなみに酸水素炎には 炭素が含まれていないので 燃えると水(水蒸気)が発生するだけで 二酸化炭素、一酸化炭素が発生せず、密室内でも使用出来る環境にも優しい仕様だ。
オレは 使い終わったメチルアルコールランプにガラスの蓋をして窒息消火し、ボンベの火を調節して 蛍光灯の光 位まで出力を下げて抑える。
いちいち水を電気分解しないと行けない手間があるが、電気の出力調整用のコンデンサは まだ作って無いし、炉の出力を支える為にガスボンベ組が頑張って 大量生産してくれるので、当分 このままでも良いだろう。
「やっと それっぽくなって来たな…。」
オレはクラウドとテーブル席に付く。
「もういい加減、驚か無くなって来たけど…何でもありだな。」
クラウドが言う。
「これで転ばなくて良くなりましたよぉ」
ウェイトレスが、水の入った ガラスのピッチャーをテーブルに…料理はクラウドの席に置く。
オレが神 故に食事が出来ない事は、もう周知の事実だ。
今日のメニューは、ウサギの肉のスープとウサギの腸を使ったウィンナーだ。
現状では おばちゃん達が その日 入った食材の都合で一括で料理を作っているので、まだ料理を選択出来るレベルでは無い。
オレはファントムのキューブにケーブルを挿し、もう片方を首に接続…クラウドと共に充電を開始する。
「それで、ここでの生活に何か不満はあるか?」
オレは クラウドに聞く。
「いや…町には及ばないが開拓村と考えれば、十分過ぎるレベルだ。
道具も他の村で買わずに自分の村で作って自給自足しているからな…。」
「町への昇格条件は?」
「労働力は如何しようもないが…そうだな…農耕だな。
肥よくな土地を確保して、小麦を育てる。
小麦が作れれば パンが出来るからな…。
旅をしていた都合上、私は 粗食に慣れているが、やっぱりパンが欲しい。」
ここの食事は 細かな違いはあるが、大きく分けると肉料理と魚料理の2種類で、それを焼いたり煮たりする事が多い。
米は食えないにしても、大豆、ジャガイモ、小麦などの主食が無いのは問題だ。
大豆とジャガイモは 今年の秋に収穫…小麦は秋に植えて来年の春だ。
これさえ あれば パンや麺類、フライドポテトなど 色々と作れる。
「食事のバリエーションを増やすか…。」
「やっぱり、ここにいたか…」
オレがそう言った所で、冒険者ギルドの中に入ったクオリアが こちらを見て言う。
「何か問題か?」
緊急の用事の場合 量子通信で直接オレに通信が来るので、急ぎの問題では無いのだろうが…。
「急ぎでは無いが 今後の問題だ。
これは クラウドも絡むな…。」
「私も?」
「ああ…」
クオリアは椅子と持って来てオレの隣に座る。
「竹の森の拠点から、コンテナハウスを買いたいと言って来ている。
そこで、ジガがクラウド商会を仲介して物を仕入れようとしたんだが…。」
「積載重量か…。」
クラウドがウィンナーを食べながら答える。
「そう…リアカーの積載量は200㎏…コンテナハウスの重量は450㎏だ。」
「つまり リアカーが3台あれば輸送出来るが、その分 他の物資が積めなくる…。
普通なら人員を増やして運ぶが、今だと その人員も限られている。
となると次は馬車隊か?
馬に荷馬車を引かせて大量輸送に耐えられるようにすると…。」
クラウドが少し考えて言う。
「そう、だが馬は人の10倍の食事をするくせに、時速40km程度しか出ないから燃費が非常に悪い。
それに これから人口が増えて行けば 人の分の食料を圧迫して食料問題にも発展する事もある。
何より、この島にはリアカーを引ける動物がいない…。
と言う訳で、錬金術師で馬を造って その馬に大型化したリアカーを引かせる。」
「トラックと言う奴か…。
私達が1日掛かる距離を12分の1日で行ける馬だな」
「ああ…それで、そのトラックの設計なのだが、ナオは スターリングエンジンを使うのだったな」
「そう、個人的には 全部を試してみたいんだが…一番簡単に出来るのは スターリングエンジンを使った車…。
その次が 酸水素 自動車…それで最後が電気自動車かな。」
スターリングエンジンは熱さえあれば簡単に動く…ガスバーナー位の出力があれば十分 動かせるだろう。
だが、スターリングエンジンが 大きな力を得る為には エンジン自体が大型化する事になり、トラックサイズに収まるかが、鍵となって来る。
とは言っても 完成しなかったとしても、このエンジンは また別の用途に使えるので リスクも含めて効率が非常に良い。
「酸水素 自動車か…良い考えだ」
クオリアはオレに言う。
「それはトラックの品種なのか?」
食べ終わったクラウドが聞いてくる。
「品種かぁ…まぁ動くって言う目的は一緒なんだが、食べるエサの違いかな…。」
「分からないな…教えて貰えるか?」
「ああ…勿論、メンテナンスは クラウド商会でやる訳だからな…。」
オレはそう言いつつ紙を取り出すと絵で説明をし、クオリアと混ざって夜遅くまで、話合った。
翌日…ライムライトの明るい部屋で 夜遅くまで 冒険者ギルドにいた住民の大半は、感覚が乱され、日が上っても起きず 寝坊するのであった。




