06 (耐久実験)〇
工場。
「それじゃあ…家を造りますか」
「ああ…」
ナオとクオリアが作業を始める。
まずは、炭素繊維を凸凹状に曲げてガラスを塗る。
ただ、炭素繊維を編む為の編み機の規格が横1mの為、凸凹を1セットにして左右の炭素繊維の一部を重ねてガラスコーティングで接着させる。
クオリアは1枚で製造したかったらしいのだが、炉のサイズからして現実的では無い事が判明し、こちらの方法に切り替えた。
そして出来た2.5m×奥行6mの炭素繊維の壁は100㎏になり、4人の手を使ってアトランティス湖のすぐ そばに持って行く。
凸凹がある側面の壁が2枚…。
凸凹の壁を入れる溝を入れた 天井と床が2枚…。
そして、出入口の扉が2枚…。
これを組み立てて ボルトとナットで固定すれば、高さ2.5m横幅2.5m奥行き6mの試験用のコンテナの完成だ。
まずは、クオリアが気にしていた蓄電装甲だ。
結果は上々、家電を全て賄える程では無い物の、ある程度の蓄電能力はあり、今後の開発次第では 蓄電量も上がって来るだろう。
と言うか これは DLやオレ達に使われているバッテリー装甲だ。
オレ達のバッテリーの耐用年数は 後20年程らしいので、それまでに人サイズになるまで密度を上げて小型化をしなくてはならない。
そうしなければ 大幅な電力制約を受けるか、創始者レナの様に機能を停止してしまう。
「さて、ここからはファントムが必要かな…。」
オレはそう言うとファントムを出して乗り込み、コンテナを思いっきり上下、左右へと揺らす…耐震テストだ。
『OK…問題無しだな…。
中の家具は悲惨な事になるだろうが、コンテナは震度6.5を普通に耐えている。』
クオリアが雑草紙に記入しながら言う。
「とは言え、この下は ユーラシアプレートで 他のプレートと接してないから地震なんて警戒しなくても良いと思うんだが…。」
『確かに他のプレートとは接して無いが、この島は火山島だ。
噴火時には深度6を越える事もある…。
もしもに備えて警戒するに越した事は無い。』
「なるほどね。」
続いて耐水テスト…。
川に沈めると気密性があまいのか、水が入って来ている…。
場所はボルトとナットで固定した接続部分だな…だが。
「おいおい浮かんだよ…。」
比重が軽い炭素繊維で出来ているからだろう…そもそも水の上に浮いてしまう。
まぁ鋼製の20ftコンテナが2.5tで こちらは炭素繊維なので6分の1の416㎏…。
まぁガラスも含まれているから多少重量が上がっても450㎏程度…。
この重量で あのコンテナの面積なら浮いても不自然しくない数値だ。
『これで増水時でも家具を捨てれば、ボートとして使えるな…。』
クオリアが言う。
「ただ、浮かぶって事は 流されやすいって事だぞ…。」
『固定して留まるか…自然のまま流されるか…難しい所だな。』
「増水は一瞬で起こる訳じゃないんだから、いざと言う時にボルトを外せば良いんじゃないか?」
今のボルトは手で回せる蝶ネジ型のボルトだ…思いっきりネジを回せば外れるだろう。
『確かに…それが良いか…。』
続いて耐熱試験…バーナーによる火炎放射器でコンテナを炙る。
これは簡単にクリア…。
そもそも、火事の温度が1000℃程度…炭素繊維は3000℃まで耐えられる。
まぁ流石に表面のガラスコーティングは融解するが…難燃性で燃え広がらないし、家として十分に使えるだろう。
ちなみに 原爆の爆発温度が3000℃~4000℃なので、直撃で無ければ熱には耐えられる可能性がある…。
ただし、衝撃波などで中の人が如何なるかは分からないが…。
さて、最後の試験…耐弾性能…。
これは敵からの攻撃に対して建造物の盾として使えるかのテストだ。
これが密度が高く、分厚いコンクリートなら機関銃の弾でも軽く耐えられるだろうが、炭素繊維は強度は高くても薄い素材だ。
オレらは 装甲材として使える事は知っているが、これは低品質の炭素繊維だ。
何処まで持つか試してみる必要がある
オレは コンテナと距離を取り ウージーマシンピストルのスライドを引いて初弾を装填…。
距離は50m…目標、コンテナの壁…。
クオリアがコンテナから離れて、周囲を確認する。
「安全確認OK…テスト開始!!」
「了解」
オレは セレクターをセーフティからセミオートに押して切り替えて構え、コンテナから50m地点で 9パラを3発撃ち込み、すぐに セレクターを親指で引き戻して セーフティに入れ、走る!!
統計上、歩兵用銃の発砲距離は50m以内が全体の90%…。
この50mは 敵の位置を知らない状態の目視で気付く事が出来る最大距離。
この距離を突破するには 事前に敵の位置を絞り込めていて そこをスコープなどで 重点的に見た場合だ。
なので、シューティングレンジで 200mの的に当てられても、現場だと敵が背景に溶け込んでしまって50m付近まで気付かない事も多い。
ちなみに、それ以上の距離で当てるのが いわゆるスナイパーになるが それでも300m…。
と言うのも、1km先の歩兵の頭を撃ち抜けるスナイパーはいるが、わざわざ難易度が高い長距離狙撃をする必要は無く、敵に人質された人に当てず、敵の手だけを撃ち抜くなどの精密狙撃が出来る距離の300m以下まで近づく事が大半だ。
コンテナから25m地点で オレは足を止め、セレクターを親指で押してセミオートに切り替え、コンテナの別の位置に3発撃ち込み…セレクターを戻して また走る。
この距離までが 良く狙って撃つ位の余裕がある距離…時間が許すなら セミオートでしっかりと狙うのが良いだろう。
人間は動く物に対して注視するように目が出来ているので、この距離付近んで気付く事が多い。
が、逆に迷彩服を着て止まっていれば、まだ気づかれない…匍匐前進の類も まだ有効だ。
次、10mで止まり、セレクターを押し込んでフルオートに切り替え、3発 発砲…セーフティに戻して走る。
この距離で 敵が現れるとビクリとしてしまう距離。
この距離では 主にフルオートで対応し、狙うよりか 弾をばら撒く形になる…。
民間人や味方に誤射してしまうのは この距離以下が多い。
これは『敵っぽいヤツがいたらトリガーを引いて撃ち殺す』と言う指示が、脳から先行入力として身体に伝わって事前に予備動作を取るからだ。
一応、時間的な余裕があれば 脳からキャンセル命令を出して 止める事は出来るらしいが、その時は 身体への命令の衝突してしまい、身体のバランス制御が崩れたり、それを無理やり 押さえ付けようとすると身体が止まってしまう…。
赤信号を無視して突っ込んでくるトラックを避けようとしているのに身体が動かない現象がこれだ。
まぁ実際の所…目で民間人だと認識したとしても、キャンセル命令を身体に出す前に 指が勝手にトリガーを引いてしまっている事が多い。
特にオレは 銃をホルスターから 抜いてセーフティを外して、相手に狙いを付けて撃つまでの時間が極端に短い『速射型』なので、相手がこちらに反応してトリガーを引く前に殺してしまう都合上、オレ自身の被弾率は非常に低いが、民間人が出てくると必ず頭に銃弾を撃ち込んでしまい犠牲になる。
それは ターゲットシューティングや模擬戦で散々経験していて、オレの場合 考える時間が2秒以下の場合、皆殺しを決定してしまう らしい。
対策として 大きく分けて『事前に人質の位置を知っておく』か人質の救出は 少数の専門部隊に任せて『殺しても問題無い 敵の陽動や、人質救出部隊が対応出来ない 数の多い敵の対応をする事』の2種類に分けられ、前者は確実性に欠けるので、オレは 後者にまわる事が多かった…。
まぁ『者は使い様』ってヤツだ。
さて、5mで フルオートに切り替えながら 腰付近で銃を構えて、コンテナの別の位置に3発撃ち込み…セレクターを戻して 走る。
この距離は 50m内の発砲件数の90%の約半数…全体の45%が この距離以下で撃たれる。
おおよそ 一部屋以下の距離になり、建物への突入作戦では この距離で戦う事になる。
まぁ発砲事件になる理由の大半が 何かしらの動作や会話をしている訳だから、5m以内での発砲件数が多くなるのは当然だ。
ここまでの距離になると構えて狙わないでも普通に当たる為、腰で構えて相手より0.1秒でも早くトリガーを引いて フルオートで弾をばら撒くのが基本だ。
よく言われている『人質救出作戦で人質の1割は許容される』のは これが原因で、撃つ事に迷えば 次の瞬間には自分が撃たれる状況なので 多少怪しい行動をしていただけでも 即座に撃ってしまう。
『脚や手を狙って無力化しろ』なんて銃を撃った事が無い『自称知識人』は言うが、実際、この距離で銃で人を撃っている身としては そんな余裕がある距離はとっくに過ぎているし、民間人を撃っても『運が悪かったね』としか言いようが無い。
止まる時は 足を大きく力を入れて ダッシュ時のジャンプの滞空時間を上げながら歩数を調整してコンテナに ぶつからないように止まる…そしてコンテナの壁にタッチ。
この交戦距離での対応を経験と感覚で瞬時に出来るのが、戦場で一番生き残り易い 優秀な兵と呼ばれている。
「さて結果は…と」
「全弾 9mmを受けきっているな…。」
オレの後にクオリアがやって来て2人で弾痕を見ながら言う。
炭素繊維は弾の回転に巻き込まれる形で繊維が螺旋状になる形で受け止めている。
侵入されたのは炭素繊維が3層…4層目のガラス層が受け止めた熱で溶け、5層目で止めた。
5mから撃たれた銃弾は 一番最後の7層目で止めていて、例え壁を貫通して人に当たったとしても、運動エネルギーの大半が熱変換されているので、痣程度で済むだろう。
「レベル2の防弾性能だな…。
この分じゃ7.62 mmは耐えられ無いだろうな…。」
オレがクオリアに言う。
「単純に装甲を厚くすれば耐えられるように なるだろうが それでは効率が悪い。」
「まぁな…ただ 室内戦で9mmをぶっ放しても 跳弾しない素材は 出来たんじゃないか?」
室内戦では敵を外した弾が壁に当たって跳弾する事で味方が負傷する事が地味に多い。
とは言ってもボディアーマーを着ていれば 治る怪我が大半なので許容されているのだが、跳弾しない家は突入側、守る側 双方に有利に働く。
「今は良いが、その内 編み方の研究も必要だな…。
流石に これを前線基地に置くのは 少し心持たない。
最低でもレベル3…出来ればレベル4が欲しい所…主力で使われている スプリングフィールド弾は 徹甲弾だからな…。」
第二次世界大戦で使われている弾は 現代使われているアサルトライフルの弾より遥かに強力になっている。
これは1km先の目標にアイアンサイトで狙って当てると言う、シモヘイヘさん並みの あり得ない 能力を前提にして設計されている為だ。
その為、オレらのパイロットスーツでも1発目を止められたとしても2発目を受け止められるか怪しい。
「まっそこは おいおいな…。
それじゃあ…皆に作り方を押しえて量産を始めるか…。
あ~その前にトミーだな」
「そうだな…」
クオリアがそう言い、オレ達は 利便性や安全性をプレゼンする為に村長のトニーの所へ向かったのだった。




