04 (黒鉛繊維)〇
翌日…。
「さて、最強の素材、炭素繊維を作るぞ…。」
役所の隣の炉にナオ達エレクトロン組とクラウドが集まり、作業を開始する。
弟子のセルバは今、トニー王国の文字…ひらがな と カタカナの勉強をしている。
「作り方はガラス繊維と ほぼ同じだ。
まずは、木炭を作る時に発生したガスを回収した木酢液を蒸留して出来た黒い油…木タール。
これを ガラスのビーカーに入れて 炉で熱する…。
ただ、軟化の温度が70℃~190℃までなので、バーナーだとすぐだ。
なんで、正確な温度が分からないんで、隣に水の入ったビーカーを置いて、鉄の床を熱する。」
そして、水が沸騰を始めた所(100℃)で隣の木タールを取り出す。
「よし、木タールの軟化は始まっているな…。」
オレは 木タールを綿あめ機に投入…。
遠心力で木タールを外側に飛ばして、中にある 小さな穴から極細の糸が出てくる。
粘性が高い為、より高い 遠心力が必要になって来るが、モーターが出来て自動化された事により、手回しでは難しい位の高速で回って遠心力を発生させ、極細の糸が出来上がる。
「これで、炭素の綿の完成だ。
それじゃあ…編んでくぞ」
出来た綿を紡績機で糸にして、それを編み機で編み込んでいく…。
紡績機も編み機もモーターを搭載して自動化されているので非常に速い。
そして編み機で編まれた ピッチ繊維の布が出来てくる。
「さて、ここまでの工程はガラス繊維と同じだが、ここから不活性ガスで満たされた炉で200~300℃の温度で30分~1時間熱する。
ただ、現状では不活性ガスの窒素は確保出来ないから、炉の中の空気を燃やして酸素を二酸化炭素に変えて密封するだけだ。
空気中の窒素の割合は78%なので、炭素繊維の質は悪くなるだろうが、如何にか なるだろう。」
オレは4段ある炉の3段目の木炭を作る不活性部屋にピッチ繊維の布を入れる。
窒素の回収方法は、空気をタンクに詰めて そのタンクを-183℃に冷却して液体酸素を回収…。
その後、-196℃にする事で 液体窒素が取れる。
が、現状、冷凍庫すらない状態なので当然ながら不可能だ。
そして…1時間後…。
これで このピッチ繊維は火が付かない耐炎繊維になる。
最後に この耐炎繊維を1000℃~1500℃の温度で10分程、熱を加え続ければ、炭素繊維の完成だ。
ただ 最強の炭素繊維である黒鉛繊維にする為には更に2000~3000℃での加熱をしなくてはならず、現状の炉では耐えられ無いので、この炭素繊維を使って新しく耐熱用の炉を作り、黒鉛繊維を作る。
元々は1500℃の熱処理の時点で炭素繊維なのだが、企業が品質向上の為に3000℃で熱する黒鉛化作業を普通にやり出して一般化してしまったので、黒鉛化作業も含めて炭素繊維と言われる事になって 炭素繊維の定義が変わり、黒鉛繊維とは呼ばれなくなった。
ちなみに、オレらの身体の装甲や筋肉に使われているのも厳密には黒鉛繊維なんだが、もう炭素繊維で良いだろう。
数日後…。
さて、炭素繊維が高額素材になっている原因は、耐炎繊維にする工程で1時間も時間を喰われるからで、これが原因で生産効率が極端に悪くなってい訳なんだが…。
「だったら、炉を12基にすれば、生産効率は12倍になるよな…。」
と、量産体制に入って 生産効率が良かったガラス繊維の炉を12基と労働者をぶんどり、ピッチ繊維をひたすら耐炎処理をして貰っている。
こんな事をすれば、人件費と設備維持費が高騰して炭素繊維の値段が高くなり 採算が合わなくなる訳だが、炉自体を素材から自分の会社で作っているなら話は別だ。
これなら作業員の人件費しか掛からない…。
しかも、クラウドが自動化による失業者を見つけ出して、酸水素ガスボンベの会社を立ち上げ、ボンベの製造、ガスの充填業務をやって貰っている。
これにより木炭を入れる必要が無くなり、バーナーの出力さえ正確に設定すれば 後は 放置出来るので、1人辺り炉を2基ずつ担当して貰い 5人で管理出来るようになった。
無駄を省いた事で 仕事を無くした残りの5人には、1500℃での高温熱処理を担当して貰っているが、2人入れば十分な状況で、残りの3人はオレとクオリアと一緒に炭素繊維の炉の組み立てを手伝って貰っている。
全員が日雇い労働者とは言え、総勢20人の工場が出来た。
まぁ工場と入っても建物は無く、吹きさらし状態なのだが…。
さて、オレ達は炉の組み立て作業中だ。
熱伝導率が高く3000℃の温度に耐えられる炭素繊維 6枚重ねてカプセル型の炉の装甲にする事で、下からのバーナーで熱せられると 装甲自体に熱が伝わり、炉全体が温まる仕組みになっている。
これは炭素繊維を 不活性ガス状態で加熱しない行けない都合上、直接バーナーで熱する事が出来ないからだ。
ただ、炭素繊維は布状の為、曲がり易く固めて炉の形にしないと炉として使えない。
「フェノール樹脂は使わないのか?」
クオリアが炉で融かしているのはガラス…フェノール樹脂では無い。
この場合、フェノール樹脂で固めて炭素繊維強化プラスチックにするのが普通だ。
「炭素繊維強化プラスチックだと 中のプラスチック樹脂が3000℃の熱に耐えられ無い。
なので、外側の表面だけをガラスで薄くコーティングして固める。」
クオリアが 融かしたガラスを鉄のヘラを使って薄く素早く炭素繊維の布にコーティングする
「こうする事で炉を支える強度を確保しつつ、炉の外に熱を逃がさないように出来る。」
「接着剤の代わりか…。」
「そう…それに繊維強化プラスチックのフェノール樹脂は、高温での焼却処分しか無く、リサイクルが出来ない欠点がある。
だが、ガラスなら1300℃で融解するから炭素繊維からの分離も容易だし、高純度のガラスペレットが手に入る…。
それに この装甲材には 他にも色々な使い方が出来るからな。」
クオリアが ガラスを均一に出来なかった場所に、バーナーで熱して再度ガラスを融かして、ヘラで調節しながら言う。
そして完成…。
オレは身長より60㎝も高い炉を見上げる。
構造は 初期のモルタルの炉と同じ4段構造になっていて直径は1.5m… 高さは2mの炉のサイズになっている。
1段目には ガスコンロの ようになっており、下からガラス繊維で出来たホースが 炉の外にある ガスボンベ2本と繋がっている。
これにより、木炭燃料は廃止…今後は 本格的にガスボンベの熱を使って作業をする事になる。
2段目は 空気中で物を加熱をする為の炉…。
ここでは 今までの各種鉱物の他にガスボンベの出力を調整をすれば 鍋の過熱や、肉を焼く事も出来るようになっており、調理場にも使える。
3段目は 空気を抜いて過熱する為の炉で、竹炭と木炭の他に炭素繊維の加熱処理が出来る。
4段目が、3段目の竹炭と木炭の生成時に出る水蒸気を冷却して回収する蒸留器。
窒素が回収出来るようになった場合、ここから窒素を流す事になる。
そして天井…この部分は 炉が 耐熱限界を越えないように あえてガラスコーティングはされていない状態にしている炭素繊維で、廃熱の役割を持つ。
そして、この天井に水槽を乗っけて水を過熱すれば、水蒸気が生まれ、その上にプロペラ発電機を取り付ければ、川から電気を引けない場所でも電気を作る事が出来る。
「本当にクオリアの初期設計は優秀だな…。」
最初から これを造るつもりで、モルタルの炉を造り 色々なデータを集めていたと言う訳か…。
しかも量産する時には モルタルの炉を造った時の人材を再利用 出来る訳だからな…本当によく考えられている。
組み立てとテストと使いやすさなどの 細かい調整に丸一日掛かり、その次の日、遂に黒鉛化作業を開始…。
テスト通り、下からバーナーの出力を限界まで上げて、3000℃をキープする。
これを10分維持すると…不純物が無く、殆どが炭素で出来た黒鉛繊維が出来上がる。
「よし…これで黒鉛繊維の炉が出来た。
後は この炉を量産するだけだ。」
オレは 出来た黒鉛繊維の布を見て言う。
炭素繊維の炉は、炭素繊維の黒鉛化処理が終わった時点で、炉自体も黒鉛化処理がされていて、黒鉛炉にアップグレードされた。
そして更に数日後…。
製造された炭素繊維は すべて黒鉛炉の素材にまわされて、その黒鉛炉で黒鉛繊維を作る。
黒鉛炉の数は日に日に増えて行き、黒鉛炉が15基になる。
もうその時には 炉ごと黒鉛化するのでは無く、普通に黒鉛化作業をするようになり、炭素繊維として一般化し始めている。
そして、竹の森の拠点のハルミとジガに 調理用と風呂用で2基注文が入っていたので、引き取り交換込みで2基、売り…。
アトランティス村の村長に成果の報告と防火性の石造りで出来ている共同調理場。
まぁ実質 料理好きのおばちゃんと 女性数人が、皆の食事を一括で作っている無料の食堂と言った感じだ。
そこに1基 宣伝も込みで1基を無料で送り、おばちゃんに感謝された。
そして、残り12基がガラス系と炭素系の製作工場の炉だ。
「これで 快適な家が作れるな…。」
「ああ…」
工場を見るオレの横で、クオリアがそう答えるのだった。




