03 (火炎放射器)〇
寝むれない一夜が過ぎ、翌日。
「それで、火災の原因は?」
アトランティス村の村長、トミーが役所の椅子に座り、ナオ達に言う。
オレは徹夜で書き上げた 事故の書類をまとめて トミーの正面の椅子に座り、書類をテーブルに置く。
とは言え、アトランティス村の住民も含めて 文字の読み書きが出来る人が殆どいなく、読み書きが出来るのは、オレ達とトミー、クラウドだけだ。
クラウドは 銀行関連の書類は英語で書いていているが、彼が書く書類は 解読不能なレベルの筆記体で書かれており、クオリア達は 最初、業務の秘匿性を守る為に暗号化しているのかと思った位だ。
クオリア達も含めて 手書きで文字を書く事が無い文化のオレ達は 筆記体を扱う文化が消滅しており、全部ブロック体のアルファベットを使っている。
その為 筆記体は解読が出来ず、クラウドは 公式書類はブロック体で、個人的な秘匿書類は筆記体で書き、暗号化している。
「それで 原因は、ガスボンベの爆発だ。
あ~よく燃える空気を限界まで押し込んだ箱だな…。
で、その限界を超えて詰め込み過ぎたんで、逆流防止の栓の為に入れていたビー玉が壊れて、飛んで行ったと…。
飛んだ理由は鋼の比重 7.85に比べて、ガラス繊維の比重が2.5と軽かったからだ。
鋼のボンベが空の状態で60㎏…。
今回のボンベは 装甲を厚くして フェノール樹脂で塗ったから15㎏。
これだけ軽くて鋼のボンベの2倍の気圧にしたのだから、まあ飛ぶ。」
オレがそう言い、クオリアが回収したボンベを倉庫から持ってくる。
ガラス繊維強化プラスチックで作ったボンベは あの爆発でも生き残り、外装は焦げているが殆ど無傷で、唯一ダメージを受けた所は中からの空気を外に出ないように止めていたビー玉だけだ。
多分、クオリアが言っていた通り、容器自体は500気圧近くまでは耐えられたのだろう。
トミーがオレの説明を聞き、クオリアの持って来たボンベを見て言う。
「正直、君らの言っている事が さっぱり分からん。
多分、私に知識が無いからなのだろうが…1つだけ教えてくれ、それは…大人4人と将来のある子供が1人…それと、多くの家を犠牲にしても必要な事なのか?」
トミーがオレの目をしっかりと見て言う。
それは オレがここを占領した時に見た 村を統治する長の目だ。
「ああ…必要だ。
オレ達の使う科学は 火を使う以上、使い方を間違えれば簡単に人が死ぬ。
でも、それを怖がっていたら いつまでも村は発展しない。
だから、オレ達は この技術を安全に使えるようにするんだ。
トミー達が 火事が起きるからと言って、火を手放せないようにな…。」
「………。
分かった…ただな…。」
「なっ!?」
トミーがいきなり懐から鋭い鉄のナイフを取り出し、オレの首元に突き付ける…問題無い…ナイフは 止まる。
オレは 一瞬驚く物の そう分析してトミーの目をじっと見る…予想通り、ナイフは首元で止まった。
「くっっ…私の最愛の妻と娘を犠牲にしてまで、得たその成果…必ず、村を豊かにして貰うぞ!!」
彼の顔は感情的になっていて、オレに対しての殺意が感じられる所を必死に理性で抑えているようだ。
手に握られている鉄のナイフは本来、ここの技術では作りえなかった物…そして、このナイフは あの時 製鉄小屋で ボンベが落ちて来て 爆死した住民が作っていた物だ。
「最愛の妻と娘…か…オレもそんな親と巡り合えれば良かったんだがな…。
ああ…絶対に豊かにして見せる…。
オレが この約束を破ったら オマエが このナイフでオレの首をはねろ!」
「分かった。」
トミーは そう言うと、首元からナイフを離して懐に仕舞い、役所を去って行った。
「なんで、止めなかった…。」
トミーが帰った後でナオがクオリアに言う。
「止めなくても対処出来ただろう。」
「まぁ…そうだが…。」
「それに責任の所在を分散して隠す民主主義とは違って、独裁者は常に民衆に殺されるリスクがある。
そして、そのリスクが ナオが暴走しない為の抑止力となる。」
「確かに…オレは皆を出し抜いて1人勝ちするより、皆と八百長して オレが1位になって、報酬を皆に分配するやり方の方が好きだ。」
1人勝ちなら確かにその時点での儲けは1番良くなる。
ただ、負けた側から恨みを買い、長期的な視点で考えると必ず赤字になる。
だから皆で報酬を分配した方が結果的に1番報酬が良くなる。
「それじゃあ…安全対策をしつつ…ボンベを完成させよう。」
「そうだな…ナオが殺される前に完成させないと…。」
クオリアが そう言うと、オレ達は今回の事故の問題を踏まえた 新な機械の設計に入った。
事故から数日後…。
前回実験していた地点より、もう120m程 下流の川の近くで再度実験を開始する。
用意している空のボンベの数は6本で水を電気分解するタンクは前と同じ物だ。
「よし…始めるぞ…。」
オレが言う。
今日のメンバーは オレとクオリアの他に、クラウドにセルバ…それに村長のトミーも来ている…見届ける つもりだろうか?
実験は前回と同じで螺旋水車を川に取り付け、スクリューが 回転して、電気を生成…。
銅の電線を通ってタンク内の水を、水素2、酸素1の酸水素に変え、タンク内の圧力が上がり、ボンベのビー玉が気圧で押しあがり、供給を開始…。
今回は安全値の150気圧で止める。
タンク内の水の残量が6Lになった所で、電気分解を止め、下のガスを抜いて圧力を下げて ボンベを外し、バルブハンドルが付いたスクリューキャップを取り付ける。
スクリューキャップには、ガラス繊維のホースが接続されており、ここからガスが出る。
ただ、本家のガスボンベは バルブハンドルを緩めるとガスが出る仕組みだが、こっちはバルブハンドルを締める事で接続されている棒が、ビー玉を下に押され、ボンベ内からガスを出す仕組みになっているので構造が真逆だ。
そして、ホースの先には 銃のような器具を取り付け、バルブハンドルを締めてビー玉を押し、ガスを開放…。
だが、ガスはホースを通って銃の中で止まり、オレが誰もいない川に抜けてトリガーを引くと、ガスが解放され一気に銃口からガスが吹き出した。
ガスの出入りを銃のトリガーで制御するトーチガンだ。
「さて…これで完成だ。」
「それで、それが何の役に立つんだ?」
後ろで見ていたトミーが言う。
「そうだな…焚炎の威力を劇的に上げられるな…。」
オレは そう言うと、木の枝を数本 葉っぱを数枚持ち、螺旋水車の2本の銅線を葉っぱに挟み、電気を与えて火をつける…電気着火だ。
「擦らず、物を燃やせるのか…。」
トミーにとっては 摩擦では無く 簡単に火を起こす事が出来る事の方が重要らしい。
そして この火を使って数本の枝を燃やす。
「おいおい それじゃ焚火にもならないぞ…。」
今度はクラウドだ。
「それが なるんだな…と言うかそれ以上に…。
ヒャッハーぁ汚物は消毒だぁ!!」
こんな時でも無いと 絶対に言う機会が無かった名言を言いつつ、オレは焚火に銃口を向けてトリガーを引く…。
焚火の火に 酸水素ガスが勢いよく吹き付けられ、中の酸素により炎が大きくなり、その燃焼を助ける形で水素が更に炎の威力を上げて行く。
ボンベのバルブを締めて吹きだす量を増やして行けば より大きな炎になり、第二次世界大戦で 障害物 排除の名目で使われ、大量の人を焼いた非人道兵器、火炎放射器の出来上がりだ。
「うぉおっ」
「凄いな…あんな少しの枝でも こんなに燃えるんだな…。」
「そりゃ…燃えるガスを吹きかけているからな…」
「燃素か?」
クラウドが言う。
燃素…あ~フロギストン説か。
へぇ最新の錬金術の知識も持っているんだな…。
「まぁ酸素も水素も 燃素と言えば燃素だが…ただ、物の温度上昇は光の系統だな…。
その内 科学も やらないとだな…よっと。」
「それで…この大きな炎を起こせると何が出来るんだ?」
トミーが聞く。
「そうだな。
まずは、木を燃やさないでも 木より高い温度を出せる。
高熱で焼かないと行けない 炭素繊維には必須だな。
後はだな…燃やした熱を使う事で、地上でも水車のように物を動かせるようになる。
これで燃える力で動くリアカーを造れば輸送が楽になる。
これは 村同士の輸送を握っているクラウドには必要だろう。」
「錬金術の馬車か…。」
「そう…多分速度から言って、1日に2往復は出来るじゃないか?」
アトランティス村から竹の森の拠点までが35km…。
低出力の簡易エンジンでも最高時速は 時速30kmは出せるから片道、路面状況を考慮しても 2時間以内に到着出来る。
そうなれば単純に運搬量が4倍になるし、10tトラックは出来ないにしても、積載量を多く出来れば もっと取引を活発にする事が出来るし、輸送コストも下げられる…文明の発展には必須の技術だ。
「まっどんなに頑張っても 普及するのは 秋になっちまうだろうがね…。
これで材料が揃ったから 家を造れるぞ…。」
そう言うと、クオリアが2本目のボンベの充填を終え、オレ達はやり方を教えつつ、皆で6本のガスボンベを作って行った。




