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26 (最善手は嘘の罪を認める事)

 習志野駐屯、 空挺館(くうていかん)…。

『バングラデシュの空港で起きた 日本赤軍のハイジャック テロから今日で1週間が経ちました…。

 現地の被害者の取材により、スーツを着た日本人兵士が テロリストと戦ったとの事でしたが、今回バングラデシュ政府から正式に 発表がありました。

 事件に当たったのは バングラデシュ軍所属の特殊部隊であり、この作戦に日本人は 参加しておりません。

 軍の機密の為 私達に プロフィールの公開は されませんでしたが、広報は おそらく、メンバーの中にいる日本語が話せる 元中国人男性を日本人と見間違えたのだろうとの事です。』

 ナオ()はテレビを見ながら書類を片付けて行く。

 公式には俺達は現場におらず、バングラデシュ軍の特殊部隊が日本赤軍と囚人を皆殺しにした事になっている。

 これに対して実質の射殺の許可を出した日本政府を様々な番組により非難されている。

 と言っても政府が憲法9条を守るのなら外国で起きた日本人テロに対しても武力行使が出来ない…空港で武力を行使すれば それはバングラデシュへの侵略行為だと国民が判断するからだ。

 普段は自衛隊の活動を制限する為に憲法9条を使うが、今回はアメリカが絡んでいる為、武装警備員であり憲法9条に抵触しない自衛隊が何故テロリストを排除しなかったと言う責任問題に発展している。

 日本のマスゴミは政府や海外を優先してコロコロ主張を変え、日本国民が不利益になる様な事を積極的に報道するからな…。

 で、そんな こんなで裏で動いた俺達の非公開の作戦報告書を書いている訳だ。

「全く作文(国語)は苦手なんだけどね…」

『なお、日本赤軍のメンバーの生き残りだと思われているアキト、メグミの2名の容疑者は、警察の取り調べにより罪を認め、近日中に検察が起訴する予定でしたが、アキト容疑者が拘留(こうりゅう)期間中に自殺をしました。

 警察はアキト容疑者の死因を、彼が隠し持っていた毒物による服毒自殺と見て警察は捜査を進めています。』

「なっ…アキトとメグミがテロリスト?しかもアキトが自殺?

 絶対にあり得ねぇだろ」

 テレビの音をBGMに作業していた俺は突然の報道にテレビの画面を見る。

「アキトとメグミ…確か、テロリストの名簿に載っていた 学生運動をしていたナオの同級生だったか?」

 ダッカで使ったM16の分解メンテナンスをしている赤木が言う。

「ああ…俺は 完全に巻き込まれた だけだと念入りに言ったんだがな…」

「だがテロリストの疑いがある人物だからな…拷問で殺されたか?」

「かもな…あ~ミスった…日本に返さず、しばらく国外に退去させておけば 良かった。」

 全身義体の俺は 大抵の問題を自力で解決出来るから、生身の人に気を利かせられ なくなるんだよな…。

「私達には未来が見えないからな…仕方ない…それで、もう一人のテロリスト…メグミは如何(どう)する?」

如何(どう)するって…俺の伝手で優秀な弁護士を付けるしかないさ…結局、情状酌量は金で買えるからな…ちょっとメグミと会って来るか…」

 この国では、刑事裁判の為に犯罪者を起訴する確率が おおよそ50%程…。

 そして、起訴された容疑者の99.97%は有罪となる。

 これは有罪に出来る証拠を揃えてから起訴するから起こるのだが、検察のメンツの問題で起訴すれば、何としても有罪にしなければ ならないので、様々な不正が生まれる…実際 この時代に死刑判決になり後で無罪になった事件も それなりに多い。

 今回の場合、警察がテロリストだと思い込んでいる容疑者を釈放してしまったら またテロを起こして 被害を増してしまう為、裁判で無罪にならない様に何としても有罪を勝ち取って刑務所にぶち込みたい はずだ。

 この為、罪を認めて減刑を狙った方が まだ生き残り易い。

「だが、ナオ…私達は あの場に いなかった事になっている…証言は出来ないぞ」

「分かってるよ…」

 俺はそう言い、固定電話で弁護士や刑務所に面会の予約を取るのだった。


 留置所

「やあ…『時間が合ったら また会おう』って言ったけど、こんな再開に なるとはな…」

「こんにちはナオ…」

「前より少し太ったか?その割に(やつ)れているけど…」

 メグミの顔は少し沈んだ顔をしている…まぁアキトが自殺したからな…。

 そして、あの時は 多少太ったかと思っていた メグミの腹は 今では目立つように大きくなっている。

「3ヵ月らしいです…旅行中に発覚して戻って来たんですよ…それが こんな事に…」

「まぁアキトの子で良かった…」

 これが看守や取調官の子供だったら死んだアキトも報われないだろう。

「それでアキトは?テレビでは自殺したと」

「ああ…死体置き場(モルグ)に連絡して確認して見たんだが、もう火葬された後だった…友人、親にも告知なし…手際が良いな…。」

「本当にアキトは テロリストだったの?私との結婚も偽装だったの?」

「メグミは 如何(どう)思うんだ?アキトとの付き合いはメグミの方が長いだろ…」

「私もアキトがテロリストだったとは思えない…私の妊娠が分かったのは、本当に偶然…次の日の予定も普通に入れていたし…」

「それを取り調べで言ったのか?」

「ええ…でも、向こうは私もテロリストだと思っているみたいで…」

「その取り調べに問題は?相手が高圧的だったり、物理、性的暴行は?」

「いいえ…この子に守って貰ったのかしら…身体の検査はあったけど平穏だったわ…」

 メグミはそう言い、お腹をさする。

「そっか…それじゃあ 現実的な問題だ。

 現場でテロリストを蹴散らしたのは、バングラデシュ軍だ…俺じゃない。

 だから俺はメグミの目撃者になってやる事も出来ない…。」

「なるほど…そう言う事になっていたのね…」

 看守は留置所での情報を漏らさない規則があるが、俺は警戒して遠まわしな表現を使って言う。

「そして アキトの自殺に、友人、親に死体を見せずに火葬…で、彼がテロリストだと認める自白の調書は指紋の判付きで出ている…これでアキトが如何(どう)なったか検討が付くよな」

「ええ…」

 メグミは机の上の手を爪で傷つきそうな程に強く握る。

「そして、この国で起訴された場合、99.97%が有罪…起訴されちまった以上、検察側は何が何でも有罪にして来るだろう…。

 そして、勝ち目の戦いに 弁護士は消極的だ…国選弁護人制度で無料で弁護士を付けられるが、結果は見えている…多分、弁護士は メグミが罪を認めさせた上で情状酌量による減刑を基本の戦略にするんじゃないかな?

 メグミは女だし、腹の中に子供もいる…しかも テロリストだとしても爆破せずに殺人未遂だ…皆の同情をかって 執行猶予も十分に期待出来るだろう。」

「でも、私は やっていない…」

「それは俺も信じている…。

 でも罪を認めないと反省の色が無いと判断されて、確実に刑務所行き…しかも世間から注目を集めているって事もあるし、刑期は 長くなる だろうな。

 で、産まれた子供とは何年も離れ離れ…一応 俺の伝手で信頼の置ける養護施設(孤児院)に送る事は出来ると思うが…。」

「ただ…ただ 巻き込まれた だけで…ただ同じ飛行機に乗り合わせていただけで、何で自分の夫を殺されて 子供とも離れ離れに ならないと いけないのよ…」

 メグミが涙を浮かべながら言う。

「それが この国の法制度だ。

 それでだ…俺の伝手を使えば、もう死んじまったアキトは助けられないが、メグミなら母子共に確実に救える…今は任意の事情聴取か?」

「いいえ…逮捕状が もう来て、今は容疑者…アキトが自白した調書に、犯行の為に私と偽装結婚したと言う事になっているから…。」

「なるほど…よし、事情は分かった…それで、今回の作戦を確実に成功させるには メグミに直接 動いて貰う必要があるんだ」

「でも、私はここから出れない…」

「そう…でも そこは資本主義…300万程 保釈金を積めば一時的に外に出られる。」

「でも、そんな お金…私には…」

「俺の資産から 今回の事件に無関係な弁護士を経由して保釈金を払わせる。

 まぁ300万で時間が買えれば 安いものさ…」

「時間です…手短に」

「そっか…それじゃあ、次は保釈の許可が降りてからだな…」

 そう俺は言うと席を立ち、メグミとの面会を終えるのだった。

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