24 (自作自演)
滑走路付近…。
俺達は車に階段を背負わせたタラップ車で現場まで向かい その後ろには囚人達が乗った車がゆっくりと追って来ている。
俺達の武器は背広の内側で表面上は武装していない様に見え、俺はガラス越しからテロリストに見える様にアタッシュケースを見せる。
タラップ車は飛行機の後ろ側のハッチに到着し、限界まで近づいた所で停止する。
『タラップ車、着きました…今連絡しています…』
「了解…さて、皆 降りてくれ…それと車から囚人を出して」
俺がそう言うと、テロリストに伝わったのは ハッチが開き出した。
出て来たのはスチュワーデスの女性だ。
「お金と仲間をこちらに との事です。」
あ~やっぱり、テロリストが出て来る事はないか…。
ただ、ボディチェックをテロリストがしなかったのは向こうの失敗か…。
「はい、どーぞ…600万ドルです。それと囚人も」
俺は囚人達が乗る車に向けて手をクイクイとさせると、看守が手錠を外して、蒼井と黒田の護衛の元、囚人達が中に入る。
こりゃあ人質を先に出した方が良いかな…。
俺は蒼井と黒田にアイコンタクトを取る…うん、伝わった様だ。
俺はスチュワーデスにアタッシュケースを渡し、囚人達の後ろから機内に入る。
客席内の客は一斉に後ろの俺達を見て注目が集まる中、囚人達が前に向かって通路を歩き出す…周りを見て見るが おおよそ席の場所は変わってない。
ターゲットは1、2、3人か…後3人はファーストクラスか?
「さあ、こちらは要求を呑んだ人質を解放してくれ…。」
「良いだろう…行け!!」
テロリストのその言葉に人質である大量の乗客は我先にと通路だけでなく、椅子すらも乗り越えてドアに向かい、タラップで下りて来る。
命の危険性があったからか、入り口は乗客で埋まっており、外から蒼井達が必死に引っぱっている。
その光景にテロリストの1人がニヤっと不気味な笑みを浮かべ、手に持っているMAC10…それを俺に向ける。
「ちょっ…」
俺は咄嗟に射線から回避して、退避が済んでいる客席の中にダイブし、テロリストの注意を引く。
「くっ…」
ダダダ…。
放たれた45ACP弾が座席に当たるが大した防御力は無い…俺はすぐに起き上がり、人質とは反対方向に向かう。
彼らは射線に人質がいる状況を作り出し、こちらが回避出来ない様にした。
「てかMAC10じゃん…誰だよグロックとか言ったヤツ…これだから…」
後部ハッチは塞がれてるので逃げ道は無く、援護も見込めない…しかも相手はバカスカ撃っているので跳弾が人質に当たる可能性もある。
俺は背広の内側からウージーを取り出し、コッキングレバーを引いて初弾を装填…相手の右手首辺りを狙って撃つ…。
「あがっ…」
ここを撃たれると物を握れなくなり、持っている銃を手放す事になる…銃を撃ち抜くより安全性が幾分か高い。
俺は客席を上から飛び出し、手から落ちた銃が地面に転がった頃には至近で相手の鼻を撃ち抜いて即死を取っている。
「ワンダウン…」
俺はすぐに死体を客席に放り、銃をその辺の席からパクったリュックの中身を出し、銃をリュックに入れ、素早く客席の中に隠れる。
「さぁて次…」
「おい何があった!!」
銃声を聞きつけた男が駆けつけるが、横からコメカミ 少し下を撃ち貫き倒れる。
「これは囚人も殺した方が良いかな…はぁ」
正直 面倒だ…はい、もう一発…走って来たテロリストの足を撃ち抜いて転倒させ、地面に転がった所でジャンプしてテロリストの後ろ首に一気に体重を掛けて首の骨を折る。
「あっナオ…」
俺が振り向くと そこには、アキトとメグミの姿がある…銃の類も敵意も無し…やっぱり問題無さそうだ。
それにしてもメグミ…少し太ったか?
「おひさし…アンタらテロの容疑者になってたぞ」
「は?何で?オレ達は旅行から帰って来ただけだぜ…」
「そう思っていないヤツもいるって事さ…さっ後は任せて降りるんだ。
俺の仲間が誘導してくれている」
「ああ…ナオ…助かった。」
「まぁそれがお仕事だからね…」
アキトの少し横にウージーを向けてテロリストの鼻を撃ち抜いて射殺…アキトは こっちがいきなり銃を向けて来たので相当にビビっている。
これがテロリスト?なんの冗談?
「じゃあ時間が合ったらまた会おう…あ~もう…」
パーン…また こっちに銃を向けて来たテロリストが鼻を撃ち抜かれて転がる…もう勘弁して欲しい物だ。
メグミは息をする様に人を撃ち殺す俺を見て歯がガタガタ震えている。
どうやらテロリストより 俺の方が怖いらしい…。
「ほら…早く行って」
「ええ…それじゃあ、また……ナオ ありがとう…助けてくれて」
メグミは搾り出す様にそう言い、アキトと一緒に乗客の山の中に消えて行った。
「さてと…おっ…エンジンが掛かった?おいおいおい」
機体が振動し、両翼のエンジンから回転音が聞こえ始める。
後ろを見る…乗客で詰まっていた出口は蒼井達のお陰もあり、スムーズに降り始める…これだと後30秒は必要か?
エンジン音が上がり最後のアキトとメグミが、ズレつつあるタラップ車に飛び降り、エンジン推力を上げた事で、タラップ車が突風で傾く。
パンパンパン…次々と飛行機の窓が銃弾を受けて割れて行く…これは赤木か?
撃った場所に敵はいないはずだ…如何言う意図だ?
「うわっ…マジで離陸するのか?」
エンジン音が更に上がり、急加速…推力最大か?俺は近くの席に しがみ付く…。
パン…下から破裂音…タイヤが破裂した?
離陸を阻止する為に誰かが撃ったのか?
にも拘らず、飛行機はガタガタと音を立てながらスピードを上げていく。
あ~離陸決心速度を越えちまったのか…。
V1を越えてしまうと ブレーキを掛けても滑走路が足りずに オーバーランしてしまうので、無理やりにでも飛ばないといけない。
「おっと…」
少し角度がキツめに上昇…如何にか離陸…バーストしたタイヤが仕舞われ ギア アップ…。
「来ると思っていたよ…だが、こんなに簡単に殺られるなんてな…流石 全身義体…。」
奥から1人の男がゆっくりと歩いて来る…。
「やっとボスの登場か…ミキタ一佐…これは自衛隊の上が絡んでいるのか?」
「いや、私の独断だ…」
彼は半年ほど前に退職したのだが、まさかテロリストになっているとは…。
「どうしてこんな事を…」
「キミ達と この場で戦う為さ…」
「アンタが この騒ぎを自衛隊を海外派遣の前例にしたいと言う事は分かっている…その上でどうしてこんな事を?理由が見えない。」
「神崎…キミは この歪さに気付いていない訳では無いのだろう?
今の日本は戦えず、ひたすらアメリカの命令に従うだけ…あれだけ血を流したと言うのに属国の状態は今も変わらない…。
だから少しずつ変えていかないといけない…ルール違反をせずにルールを変える事は出来ないのだから…国を変えるには 如何したって外圧が必要だ。」
「独立戦争でもする気か?」
「するのはキミ達の代だ…私は前に進む為のキッカケを作るだけ…」
「壮大な有難迷惑だな…」
「迷惑だと思うのは今だけだ…いずれ、有難くなる…」
ミキタ一佐がこちらを殴りに掛かる…自衛隊徒手格闘か…。
シュッ…シュ…次々と繰り出されるパンチや蹴りに俺は ひたすら対処して行く。
至近距離での格闘戦の為 銃を使う隙が確保出来ず、しかも上昇中の為 足場が不安定…当然だが ベルトサインも まだ消えていない。
それに徐々に寒くなって来ている…ミキタ一佐の息も白い…窓ガラスが割れているから空調と内圧を維持出来ない のだろう。
「なるほど…ヘリオス事故か…。
まだ起きていないってのに…良く思いつくな…赤木は…ハッ!!」
ミキタ一佐の攻撃を回避し、次の攻撃が来る少しの隙間に こちらの攻撃を ねじ込む…。
体感が良いのかマジで身体のバランスが崩れない…腕や足を掴ませず、足を引っかけたりと言った技は 全て対処される。
自衛隊格闘術の達人同士だと両者が技の すべて把握している為、対処を間違えた所で決着が付く…。
とは言え、まだ余裕はある…空間ハッキングも使ってないしな…ただ正攻法で行くには決め手が無い。
「全く…生身なのに良くやる!!」
実際、彼のパンチは かなり重い…にも関わらず速い…義体の性能が無ければ
ここまで受け止められないだろう。
俺は そう判断して 相手の手を軽く触れ、運動エネルギーの方向を外に操作する…だが これも決定打にはならない…合気道は自衛隊格闘術にも組み込まれているからな…。
そして次の瞬間、天井から大量の酸素ボトルが落ちて来る。
「なっ…うぐっ」
1発…2発…一瞬 目が酸素ボトルを向いた瞬間に思いっきり腹部に2発のパンチを打ち込む…だが、腹筋に力を入れてダメージを軽減…硬いな…相当に鍛えている。
「厄介だな…タイムアップを狙うしかないか…」
「タイム…アップ?…はっまさか…あっ」
攻防が逆転した…長時間の格闘戦の応酬でミキタ一佐は息が上がり、更に身体に酸素を取り込むにも、高度が上がって来て酸素が薄く…しかも極寒で速度も出ている為、風も強い。
赤木は俺の義体の特性から低酸素状態にする為に窓ガラスを撃ち抜いたらしい…良い手だ。
ミキタ一佐はこの低酸素の状況下で思考が鈍る中、戦いを早く終わらせたいと思い、逆転の瞬間を待つ…そして俺はアゴをガラ空きにする。
「そこだ!!」
ミキタ一佐の強烈なアッパー…ここに大きな衝撃を受けると脳が揺らされ、立っていられなくなる…のだが、こっちは生体脳を持っていない。
ニヤッ…俺は笑みを浮かべる…わざわざ隙を作った甲斐が有った。
「はい…そこ!!」
俺の強い一撃が腹部に命中し、横隔膜が痙攣…更に空気を吸えなくなる…。
そして最後の回し蹴り…蹴りは頭の横に命中し、横の客席にダイブする。
ミキタ一佐は脳を揺らされ真面に動けない…。
「もうアンタの作戦は成功しているはずだ…その遺志、俺が受け継ごう…」
俺はウージーをミキタ一佐に向ける…。
「そうか…ありが
パ~ン…。
ミキタ一佐は鼻を撃たれ死亡…。
「さてと後は簡単だ…」
高度1万m…気温が-10℃…酸素は地上の25%…酸欠による意識消失まで30秒と言った所か…。
パンパンパン…次々と酸欠で気絶したテロリスト達を射殺して行く。
「さてとコックピットは…と…」
コックピットには機長と副操縦士が座っており、酸欠の為、意識消失…その近くに銃を持って倒れているテロリストもいる。
パーン…。
「はい、ミッションコンプリートと…はい副操縦士さん どいてね~」
俺はそう言い、後ろの助手席に副操縦士をベルトで固定する。
「さてと…おお なるほど…。」
与圧システムのスイッチが手動にされている…この2人意図的に機内を酸欠にする つもりだったのか?
機体は オートパイロットで高度1万mまで行く設定で、今は水平飛行に移っている。
「ダッカ管制、ダッカ管制…こちらナオ…テロリストを射殺、飛行機を取り返した、繰り返す、飛行機を取り返した…ただ、パイロットが意識消失…緊急の為、俺が操縦する。
後、身代金はどっかに飛んで行った…」
『こちら管制、了解…操縦方法は 分かるか?』
「ああ…エアトラの免許は持っている…期限切れだけど…マニュアルで降ろすから方向と降下角度を指示して欲しい。」
『方向と角度だな…了解した…方位は30、降下角度は 毎分1000ft…。』
「あっそっか…これメートルじゃないんだっけ…よし、これで合っているはずだ…そちらの観測情報と正しいか?
トランスポンダが信用出来ない…直接レーダーで当機を観測してくれ」
『こちら管制、観測情報が一致した…機器には異常 無い見たいだ。』
「良かった…銃で壊れている可能性があったからな…はい、滑走路を目視で確認、フルフラップ、ギアダウン…あっ許可を貰ってないや…」
『現在、空には貴機しかいない…任意で着陸を許可…。』
「了解…あっバースト位置は?前タイヤだと思うんだが…。」
『それで合っている…オーバーランの可能性があり、滑走距離を多く取れ』
「了解…今タッチダウン…逆推進…速度低下中…右に持っていかれている…何とか維持…さて、間に合うかな…速度0…エンジンアイドリング…エンジンの止め方が分からない…パイロットを呼んで来てくれ」
『了解…前タイヤから煙が噴いているが、燃料漏れは無し、火災の危険は無い…パイロットはそのまま待機…救助を待て…お疲れ様』
「お疲れ…交信終了…はぁ…」
数分してタラップ車が後ろのハッチに横付けされ、俺が内側からドアを開ける…。
前のハッチは エンジンより前の位置になる為、アイドリングと言っても吸い込まれる可能性が高くなる…その為、前と同じ後ろからのアプローチになった。
俺がドアを開けると入れ違いでパイロットが乗り込み、エンジンの停止手続きをして、急激にエンジンの回転数が下がる。
「お疲れ…」
「本当にお疲れ…俺はエアトラで休むよ…後よろしく…。」
俺はリュックを背負い、エアトラへと向かった。




