表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
331/339

22 (軍人は緩急が重要)

 チヌーク機内。

 ナオ()達は自衛隊の服装では無く、ネクタイ無しのビジネススーツを着る…ネクタイ無しなのは気分の他に、体術時に相手に掴まれると厄介だからだ。

 余程緊急性が高かったのだろう…通常だと電車を使う所、駐屯地のチヌークの貸し出しも普通に通り、羽田まで向かうのだった。

「今回の俺達の立場は要人の護衛だ…目立たず行くぞ」

「了解」


 着陸したチヌークから俺達は降りて迎えの車に乗り、空港の建物へと向かう。

 空港前の道路には黒塗りの政府車両と その後ろにバス型の護送車がおり、付近にはマスコミが群がっている。

「まずはルートの確保だな…はい、どいて下さい~要人達が下りられないよ~」

 俺はそう言いながら マスコミ達の手に刃物を持っていない事を確認しつつ長い穴を作り、移動ルートを確保する。

 俺達が移動ルートを確保すると、政府車両のドアが空き、中から大きなアタッシュケースを持った要人が出て来る。

 そして護送車のドアが開き、手錠を掛けられた囚人9人達がロープで繋がれ、警官に引っ張らて出て来る…あれは服装的に刑務官だろうか?

「超法規的処置を使い、身代金と受刑者を運ぶとの事ですが、それはテロリストの要求に屈すると言う事でしょうか?」

 マスコミ達は、センセーショナルは言葉を引き出そうと、色々と質問を要人達に一方的にぶつけて来る。

 うん、いつものマスゴミだな…ただ、マスゴミが肉の盾になってくれている為、狙撃し易い高いポジションを警戒していれば良い。

「こちらは海外での武力行使が出来ないのです。

 致し方ありますまい…。」

 要人の1人がそう言い、マスゴミからのフラッシュの雨を食らう。

「とは言っても、この要求を()んだら世界中からテロに屈した国家って事になって批難(ひなん)は避けられないな…」

「それに前例が出来た事で、また日本政府に向けたテロが始まるしな…」

 あちこち見回して警戒しながら言う俺に赤木が答える…。

 そして、金属探知機がある入場ゲートに向かった。


 入場ゲートでは金属を探知するゲートと手荷物の検査とX線検査がある。

 これで不審物の持ち込みを防ぐ訳だ。

「話は通っているって事だが…さて如何(どう)なる事やら…」

 ピーピーピーピーピー…。

「何か金属を含んだ物をお持ちでないでしょうか?指輪やライターなど…あっ」

 女性の空港保安検査員がナオ()に言う。

「すみません…俺 全身義体な物で、大半は炭素繊維 何ですが、モーターを使っている所が純鉄なので…」

 そう言い俺はジャケットをめくる…ジャケットの裏にはウージーとリボルバーがホルスターに入れられて隠されている。

 ゴクリ、女性の空港保安検査員が苦笑いを浮かべる…そして、荷物を通したX線の検査員も平静を保っているが同様だ。

 荷物にはサブマシンガンやアサルトライフルなどの銃火器、そして弾薬と金属探知機に引っ掛かりそうな物が山ほどある。

 そして 空港保安検査員達は、これから日本赤軍に対して身代金と囚人を届けるのではなく、皆殺しにするのだと理解する。

「確認が終わりました…どーぞ」

「ありがとう…」

 そして囚人達は手錠が引っ掛かるが無事に通過…。

 これで、記録に残り 裏向きには空港に潜んでいる国内スパイに俺達が銃の輸送した事が分かる…戦えない自衛隊が裏では戦える事の証明だ。

 そして、搭乗ゲートに接続されているタラップ車から階段を使ってアスファルト舗装された地面に降り、すぐそばで後部ハッチが開いているエアトラジェットに乗る。

「ほう、だいぶ進化したんだな…」

 俺はパイロットスーツとヘルメットをしている機長と副操縦士が席に座って準備をしている中、間から顔を覗かせる。

 電子機器の信頼性が認められた事で、スペースを取るアナログ機器は すべて廃止…。

 今は右席に2台、真ん中の上下に2台、左席に2台の合計6台のタッチ式の画面があり、右と左の席の上には ヘッドアップがあるだけの非常にシンプルなレイアウトになった。

「お客さん、エアトラを運転した事があるんですかい?」

 機長席に座る初老の男が俺に言う。

「ああ、一応 操縦資格も持っているよ、ただ期限切れになってるから更新しないと行けないんだけど…」

 タッチパネルで画面を切り替えると、赤外線カメラや、エアトラ内部の地形データから類推して前方の状態を簡易表示してくれる機能もあり、前方を目視出来ない状態でも この画面を見れば、自機の姿勢と下の地形が分かる。

 更に地味に 有難いのは、前のランディングギアに ライトとカメラが付けられ、副操縦士が身を乗り出して 着陸地点を確認する手間が無くなったし、ヘリポートマークを搭載AIのコパイが認識して自動で降ろしてくれる機能もある。

 そして、アメリカに撃墜され 一部技術をパクられた意趣返しなのか、オスプレイを真似た翼を横状態から前後に回転させて収納する機能もあり、横幅が最小限に出来る様になった。


 宇宙進出した事で客席もアップグレードし、シリコン製で映画館の様なドリンクホルダーがある折り畳みの椅子に変っており、座ると身体を包み込むような感じがし、急加速時に背中の圧力を分散させてくれる様に設計されている。

 エアトラのレイアウトは もう、2600年時のエアトラと変わらなく、後足りないのはマイクロマシンによるAR機能位だ。

 全員が席に付いた所で後部ハッチが上がり、副操縦士が客席のシートベルトの確認。

 安全確認が取れた事で動き出す…のだが、垂直離陸機だと言うのに混んでいる飛行機の中を滑走路まで自走させられる。

「はぁやっとか…もう少し待たされていたらメーデーを使う所だったぞ」

 機長は管制官への嫌がらせか、離陸許可と同時に 滑走距離0mの状態で垂直離陸し、安全高度まで上がると滑走路の上空を飛んで行った。

 そして ゆっくりと加速をしながら上昇をし、高度1万mの高度、時速1000kmになり、巡航飛行に移行する。

 バングラデシュまでは片道4時間…向こうの日本赤軍にも既に この情報が現地のネゴシエーターから伝わっているので、到着までは 乗客を殺さず 待ってくれるだろう。

 赤木は エアトラが巡航飛行に入った所で、ガンケースから分解されたM16を取り出し、丁寧に組み立てている。

 赤木の銃は俺がカスタム…と言うか動作機構は そのままに日本で調達のし易い7.62mm弾を使えるようにパーツから作ったM16だ。

 7.62mmは威力が高いが フルオート時の反動が大きい為、人が使うと命中率が下がる。

 ただそれはフルオート時の問題で、狙撃がメインの赤木は威力と射程、それに弾の入手のし易さを優先した銃になった。

「お客さん…組み立ては止めないけど、マガジンは着陸するまで入れないでくれ…暴発が怖い…」

「まぁ拳銃弾は防げてもライフル弾となると怪しいからな…」

 俺はウージーのセレクターを確認し、マガジンを抜いてコッキングレバーを引き、初弾を取り出して またマガジンに入れる。


 出発から3時間程…経った。

 最初の1時間は現場の状況を無線で聞いたり、銃の組み立てや作戦を検討していたが、2時間も経てば、危機的状況だと言うのに皆でトランプが始まり、要人や刑務官は緊張感が無いその様子に呆れている。

 常に緊張している状態だとパフォーマンスが出ない…サボれる時にはサボらないと この仕事は続かない。

 その点、緩急がしっかりと出来ている菊池()の部隊は優秀だ。

「それにしても 静かだな…自衛隊(ウチ)にも1機テスト機として欲しいな。」

 菊池がコックピットの2人を見ながら言う。

 チヌークは プロペラの回転音がうるさくイヤーマフや無線が無いと会話が難しい。

 だが、後ろでは 狙撃が任務の赤木が目薬を差して目を休ませる為に耳栓もせずに仮眠をしている。

「それは少し難しいですかね~特に軍やと…。

 すべてのエアトラは エアートラック社の監視下に ありますから、秘密で何かを やるには 向きませんし、運用データも送られますから…。」

「その分、事故った時の対応も改善も、後アップグレードが早いのも魅力ですね。

 まぁ搭載しているAIが頑固だってのが少し問題なんですが…」

 機長と副操縦士が言う。

「なるほど、末端の運用問題から事故が起きるのを回避しているのか…」

「そうなりますかいね…ボーイング出身の私からすると、パイロットの技量が関係無い この機体は少し不満なのですが、その点、人を信用せず、機械アシストが主流のエアバスのパイロットとは相性が良い見たいですね」

 機長が副操縦士を見る。

「まぁ電子制御マシマシのお陰で、1ヵ月程度で免許を取れましたからね…セスナで最短で3ヵ月だと考えると、これは失業したパイロットとしては有難いです」

何故(なぜ)失業を?」

「今 アメリカでは 空の自由化って言う規制解除で 大量の航空会社の乱立と価格競争で、どこもがコストダウンをする羽目になりまして…。

 で、機体の整備費を削る訳にも行かない物で、まずは従業員の給料を下げられました。

 それで 僕達は 買い叩かれる前に こちらに移籍させて貰いました。」

「ここも給料は他とさほど変わらないんすが、6時間勤務で操縦もラク…後はトニー王国は物価が安いし税金が掛からないので、トータルだと上と言った所でしょか…まぁ操縦は全然 楽しくは無いんですがね。

 今は 妻と娘を竹島の外国人学校に入れています。

 3年後に ここを卒業すれば、トニー王国 国民になれますから…。」

「ほう、となると生活保障金で生活は安泰ですか?」

「ええ…空は気まぐれで、人の力で制御出来る物じゃありません。

 思わぬ事故が原因で墜落する…なんて 今の時代でも珍しくない…もちろん最大限の注意はしているんですがね…。

 だからもし、私が死んでも 妻と娘には元気で生きていられる様に場所を造っておきたいのです。」

「なるほど…分かります。」

 菊池が言う。

「お取込み中 失礼…機長、そろそろ 空港の無線範囲に入ります。

 着陸まで30分です。」

「了解した…さて、離着陸のおしゃべりは厳禁です。

 あなた方も着陸に備えて下さい…」

「了解…良い暇つぶしになりました。」

 そう言うと菊池は席に戻って行った。


「了解、着陸態勢に入ります…現在、空はテロの為 別の空港にガラ空き、待ち時間なしで下りられる…珍しいな…」

 機長()が言う。

「ILSをキャッチ…計器着陸進入で行きます。

 着陸後、管制塔の下まで移動…そこでお客を降ろします。

 現場のネゴシエーターは、犯人を落ち着かせて下さい。」

 副操縦士が言う。

『犯人との関係は比較的 良好…あなた方の事は既に伝えています。』

「了解、ファイナルアプローチ、翼60…予定通り順調に減速中…」

 ガクッ…よし、上出来…。

「タッチダウン…減速…停止を確認、着陸完了…誘導を頼む」

 十分に減速していたからか、こちらには長過ぎる滑走路に入ってから100m程で着陸してしまう。

『了解…貴機から見て右方向に誘導灯を付けた黄色いスポーツカーが見えます。

 その車を追いかけて下さい』

「目視した…スポーツカーを追う、ありがとう…さて、準備は良いですかい?」

 私は後ろで武器を隠しているお客さんに言うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ