21 (日本赤軍)
DL格納庫。
「神崎直樹二等陸尉…いるか?神崎直樹二等陸尉!!」
ハシモト一佐が怒鳴る様に言いながら格納庫に入って来る…彼は第一空挺師団の指揮官で、一応俺達の表向き所属している部隊のトップだ。
「はいはい、神崎は俺ですが?」
「事件だ…テレビを見ていないのか?」
「えっ…DLの訓練や整備が忙しくて…何があったんです?」
「テロだ…」
「今時テロリストなんて珍しくないでしょ…。
どっかの学生運動の生き残りが学校に爆弾でも仕掛けましたか?」
学校の学費の問題を発端とした交渉は 武力交渉になで発展し、警察と衝突する事も最近は比較的落ち着いてきたが珍しくもない。
「いや、そんな生易しいものじゃない…場所はバングラデシュ…ダッカのジア国際空港…彼らは日本赤軍を名乗っている。」
「って…マジモンのテロリストじゃないですか…」
「そうだ…とにかくテレビ」
「ああ…」
俺はDLのステータスを表示しているブラウン管テレビのチャンネルを切り替え地上波に設定する。
『こちらはジア国際空港です。
日本航空472便のハイジャック事件から現在、3時間が経過しました。
彼らの目的は身代金600万ドル…約16億円の支払いと、日本で服役および勾留中の9名の釈放が要求です。
これを受け入れない場合、人質を順次殺害すると警告するとの事です。
犯行グループからは『アメリカ人の人質から順に殺害して行く』という声明が出され、現場では緊迫した空気が漂っています。』
たまたま旅行に来ていたのだろう…私服姿の女性アナウンサーが、荒い画質の映像でリポートをする…多分、これは録画だろうな…。
「うん、上手いな…ちゃんとしてる」
俺はテレビを見ながら感心して頷く。
「如何言う事だ?ヤツらの目的は身代金と囚人の釈放だけじゃないのか?」
「ええ…彼らの目的は自衛隊の海外派遣でしょうね…。
例えば 自衛隊が日本赤軍をテロリストとして排除した場合…」
「自衛隊は航空機内の自国民を守ると言う名目で、海外で武力行使をしたと言う実績が生まれる。」
「そう、ただ9条では 武力による威嚇又は 武力の行使は、外国に対しては出来ないとしている。」
「だが、場所が外国なだけで対象は日本人だ。
そもそも自衛隊は民間の武装警備員と言う事になっている…完璧に合法だ。」
「そうです…ですが、政府は それを国民の前で堂々と言える勇気を持っているのか…。
それに作戦を決行した時季も非常に良い…今は選挙前です…憲法9条を信じる有権者は 自衛隊の武力行使を違憲だとし批難するでしょう…確実に投票にも影響が出ます。
なので 通常の政府なら 超法規的措置を使い、身代金と受刑者の釈放に応じる…ですが…」
「テロリストの要求を呑む事は国際的に認められていない…海外から…特にアメリカからの批難が来る。」
「ええ…散々戦えない国にして来たアメリカが、今度は戦わない事を批難する…しかも 日本赤軍は『アメリカ人の人質から順に殺害して行く』と言っているので、これはアメリカ政府も巻き込んでいます。
アメリカは自国民の犠牲が出る事は何としても阻止するでしょうね…」
第二次世界大戦、ベトナム戦争…今までは、何万人の死者が出たとしても目的さえ達成すれば…つまり勝てば犠牲は国民に受け入れられた。
だが、アメリカ軍の戦死者の数が年々減っているにも関わらず、今では 少数の戦死者でも国民は受け入れず政権交代になって しまっている。
その為、もうアメリカは 戦死者を気軽に出す事は出来ず、その縛りの中で自分達が巻き散らした火種と戦わないといけない…つまり同盟国に戦死者を負担させる必要が出て来る。
「もし そうなった場合、アメリカの特殊部隊が日本赤軍を殺しに来るな…」
「ええ…そしてアメリカは世界中にケンカを売りまくっているので、敵が多い…今はまだ対処出来ていますが、今後 日本の協力も必要になって来るでしょう…つまり、アメリカは日本を海外で戦闘させて実績にしたい」
「見事に思惑が絡み合っているな…」
「そして日本赤軍の目的は アメリカによる資本主義からの脱却し、共産主義革命を起こして日本をアメリカから独立させる事。
つまり…」
「自衛隊を海外に派遣させて自分達が殺される事を望んでいると言うのか…」
「そうなりますね…アメリカからの外圧も掛かってるでしょうし、海外での武力行使は憲法9条の実質的な破棄に繋がります。つまり軍拡が期待出来る。」
「良くこれだけ少ない情報で当てられる…しかも日本赤軍の真の思惑までは考えが及んでいなかった。」
「それで、自衛隊の方針は?」
まぁ想像は付くが…。
「正義感を拗らせた自衛官が政府の指示を無視し、独断で現地に潜入、対象の日本赤軍を排除したと言う事にしたいらしい。
こうすれば、その自衛官を罰せれば政権に影響が出ない。」
「やっぱり…公式に自衛隊を傭兵として現地に派遣する事は出来ないと」
「そうだ…誰かが犠牲になる必要が出て来る。」
「なら、バングラデシュの軍に俺達を雇って貰って、表向きはバングラデシュ軍が対処する。
ただし、その中には公表されないが自衛官の俺達もいて、裏向きの対面を保てる…俺達も6人の少数精鋭なら十分に行ける…」
「やるつもりか?」
「特戦にやらせる為に ここに来たんでしょ…」
「そうだが…よし、装備を整えて羽田まで飛んでくれ…。
今、民間のエアトラジェットに 身代金と要人を積み込んでいる最中だ。」
「最近民間に導入されたばっかりのエアトラジェットですか…。
確かに あれなら積め込める人数は少ないですが速い…。」
確かトニー王国系列の航空会社が 羽田や竹島を拠点としてチャーター便を運用している所だったか…。
流石に あのジェットエンジンでは宇宙に行く為の速度は出せないが、巡航速度は時速1000kmと通常型の2倍の速さを持つ。
その為、積める人数は30人と少ないが、高速便としては非常に有効だ。
「いつアメリカ人に犠牲が出るか分からないからな…」
「はぁいつもの事ですが日本人の犠牲は全然 気にしないんですね。
了解…政治では任せますよ…それで乗客の名簿と犯人は?」
「これだ…」
「なっ…」
名簿の中には、中学から高校まで一緒だったアキトとメグミの名前がある…しかも、日本赤軍と言う事になっている。
「アキトとメグミが?
確かにアイツらは 大学で学生運動に参加していたらしいが…まさかガチのテロリスト?あり得ない…」
俺は名簿を見て、思わず そう言うのだった。




