19 (ここは俺達の領土なんだが…)
上空3000m チヌーク機内。
『こちら、竹島ヘリポート…接近中の航空機、所属をどうぞ…』
機械音声…竹島ヘリポートの自動管制局だな。
「こんにちは竹島ヘリポート…私達は自衛隊 習志野 駐屯地 所属のチヌーク、菊池機です。
DL受領の目的の為、着陸の許可を求めます。」
機長の菊池が言う。
『こちら竹島ヘリポート、菊池機を歓迎します…ヘリパッド番号1番に着陸を許可…駐機後はエンジンを止め、入国審査を受けて下さい。』
「こちら 菊池機、了解しました…ありがとう」
「機械の管制官と聞いて 不安だったのですが、問題無さそうですね…」
副操縦席に座る桃山が言う。
「まぁ あの管制官 2人の交代で、24時間365日 管制を担当しているらしいからな…人間なら とっくに過労死している状況だ。
確か最大で24機同時に面倒を見れるとか…優秀な管制官には及ばないけど、大多数の管制官の能力よりは上かな…。」
「本当にトニー王国って面倒くさがりなんですね…何でも自動化してしまうなんて…」
「どの分野も本当に優秀な人間には敵わない らしいんだけど、向こうは データを共有して それなりに優秀なドラムを大量生産が出来るからな。
よし、着陸に入るぞ…下の監視よろしく」
「了解しました…」
そう言うと桃山が席から乗り出して、着陸ポイントのヘリポートを探し始める。
天候は快晴…すぐにヘリポートが目視で見つかり着陸態勢に入る。
桃山の仕事は着陸ポイントを確認して 修正を掛ける事だ。
竹島は岩の島で、ヘリポートが2ヵ所…竹島の山頂と海上のメガフロートだ。
海上のメガフロートには ショッピングモールなどが あり、その端のヘリポートには①~⑫までの数字が等間隔で描かれたヘリパッドがあって山頂には⑬番がある。
今回は1番なので着陸が簡単なメガフロート側だ。
「速度落として~乗りました…あ~バッグ…そう…捕捉…そのまま ゆっくり降ろして下さい…」
ヘリパッドは現在13番と12番がエアトラの駐機に使われており、こちらは離れている事もあり ぶつかる心配は まずない。
潜水艦用の港には6機の潜水艦が固定され、トニー王国の軍人であろう兵士達は近くの大型ショッピングモールに向かっている…補給と休暇だろうか?
①のヘリパッドか近づいて来る…。
「着地ぃ~今!!」
ドスン…チヌークは ヘリパッドに着地し、一瞬ヘリパッドが海面に沈みこむ感覚がし、すぐに元の位置に戻る…浮袋の上に地面を乗せているメガフロートだから起きる現象だ。
「エンジンカット…内部電源に切り替え…側面ハッチから出て…」
キクさんがそう言うとプロペラの回転が止まり、特戦のメンバーがチヌークから降りて来る。
「ようこそ…トニー王国へ…まずは入国審査です こちらへどうぞ」
パイロットスーツを着たトニー王国の軍人が手を胸に当てて頭を下げる。
ナオ達は彼の後に付いて行く…。
「ここは日本領土なんだけどな…」
俺の後ろんの赤木がぼやく…。
その後は いつもの問診と血液検査…。
俺がいない間に装置が発展したのか、採取する血の量も少なく済んでいる…まぁ俺は油圧血液なので採血出来ないんだけど…そして入国…。
「お待ちしておりました…竹島メガフロートの整備責任者、マイクです。」
胸に手を当てて頭を下げるトニー王国の敬礼をし、カタコトの日本語で迎えてくれる。
「自衛隊 習志野駐屯の次世代 装備 試験小隊の神崎直樹3等陸尉です。
本日はどうも…それで機材は?」
特戦の名前は出せない為、俺は公式の俺達の部隊の名前を使って言う。
「今朝、潜水艦で届いて、今、中身を確認して、再梱包、最中…写真も撮ってあります…搬入まで、1時間でしょうか…」
マイクは俺にアルバムを渡す。
そのには、ギッチリと正確に梱包されたDLが炭素繊維のパレットに乗せられている。
「これがDLか…何か写真で見た時より小さいな…」
赤木が後ろからアルバムを覗いて言う。
「そりゃあ、ギッチギッチに詰め込んでいるから…」
原形が保たれているのは コックピットブロック位で、四肢、頭は切り離され、手足の人工筋肉も抜かれて別で まとめて梱包されている。
「なんか…ランナーから外したプラモデル見たいだな…」
「感覚的には、それに近い、です。
日本のプラモデル技術は、DLの生産時間や、輸送の圧縮技術に、大きな活躍を、してくれました。
組み立ては、現地でお願いします。」
「了解…まぁ組み立てて バラせれば ある程度 構造も把握 出来るだろうし…。
DLのシミュレーターは?」
「コックピット一体型です。
振動とか、加速Gとか、再現出来ない、ですが…」
「戦闘する訳じゃないし、それで十分…さて、せっかく血抜かれたんだし、時間までゆっくりしてよう」
俺はそう言うと勤務時間だと言うのに仕事を ほっぽってショッピングモールへ行くのだった。
1時間後…入国時に借りていたモバイルエレクトニックコンピューター…略してメックがなって 呼び出され、俺達が見守る中 チヌークへの搬入作業が始まる。
「本当にピッタリだな…」
取り出せる様にする為の隙間も考えて計算されているのだろう…固定作業も非常にラクそうだ。
最後に降ろす時用のハンドリフターをパレットに差し込み、搬入作業は終了だ。
「技術者は?」
「あ~私です。」
ドラム缶の様な身体に タイヤが付いた蜘蛛の様な足が4本…排気ダクトを思わせるギザギザの腕が付いており、上部には 顔文字が表示されている液晶ディスプレイが付いている。
「ニックです…DLの整備責任者をやっています。
よろしくお願いします」
「まさか…整備もロボットに任せているのか?」
赤木が驚きながらニックを見て言う。
「ええ…人は怠けて手順を短縮してしまいますから…私達ドラムがチェックした方が確実性が高く事故率も低いです。」
「それはそうだが…」
「うわあ…結構重そうだな…重量バランスから考えて荷物の前に乗ってくれ」
そんな話をしていると、準備が出来たのかチヌークに乗っている菊池が大声で俺達を呼ぶ。
「了解~」
俺達は側面のハッチから乗り込み、後部ハッチを閉鎖…。
エンジン出力を上げて飛びたとうとする…。
「やっぱり重いな…」
「離陸不可か?ムリなら2回に分ける事も出来るが…」
「いや…機動性能は落ちるだろうけど、まだ許容範囲以内…。
ただモモ…慎重に行こう」
「了解キクさん」
チヌークは高度をゆっくりと上げて行き、安全高度になった所で機体を傾け、習志野に向かって飛びだった。
「あれ…赤木…メックを返していなかったのか…」
「まぁな…こっちだとカバン位のサイズがあるってのに、この携帯電話…凄い性能だからな…。」
「だからってパクって来たのか…」
「返却を催促されなかったし…さてと…あれ?使えない」
赤木が電源ボタンを長押し、メックを立ち上げるが 通信アプリが開いた辺りから動かなくなる。
「あのな…メックは無線で入力と出力が出来る最低限のスペックしかないんだよ。
メックのスペックは 今の日本のデスクトップパソコンと良い勝負だ。」
「?如何いう事だ?」
「ようは 何のキーを押したかの情報を竹島の役所にあるサーバーに送って、サーバーで計算して、結果の映像だけをメックに送ってもらっている訳…これエッジコンピューティングって言う技術なんだけど 大半の処理能力は役所のサーバーにあるから、通信圏内から離れると全く役に立たなくなる訳…。」
「それはセキュリティの為か?」
「どっちかって言うとバッテリーの問題かな。
見て分かる通り、メックの半分は バッテリーになってるだろ…メック側の処理能力を上げちまうと 重くなるし、バッテリーの消耗が速くなって すぐに電池切れになっちまうんだよ。」
「なるほど…これは どれ位 持つんだ?」
「常時つけっぱ じゃないから 使用頻度にも よるんだけど、1週間位は充電なしで大丈夫…。
まぁコンピューターを小型化出来なかった時の弊害が 利点になっちまって 今も それを引きずっているって訳…。
実際、各メックで分散処理を出来なかったせいで、役所のサーバーが大型化してスペースを圧迫しているって聞くし…。」
「トニー王国はトニー王国で問題があるのか…」
「そう で、後でトニー王国に郵送するか?」
「いや…記念に貰っておこう…また使う機会も あるかも知れないしな…。」
そうこう言いながら俺達は重い荷物を乗せながら習志野駐屯地に ゆっくりと戻るのだった。




