18 (各国のDL開発)
指揮権を返したナオは、現場から少し離れた自衛隊の駐屯地で 搬入物資の管理を担当する事になった。
土砂で埋まった道路を通れる様にしたが、まだまだ物流が回復した訳じゃ無く、現地に なんの物資を流すかが非常に重要になって来る。
これをサボっていると不要な救援物資を積んだトラックで現場が大渋滞を起し、肝心な物が現地に届きにくくなったり、ただでさえ 少ない現地の倉庫を圧迫してしまう事になる。
「うわっ…今日も大量に来たな…。」
運ばれた来たのは、国民から被災者への物資…と言う名のゴミだ。
古着や、バナナなどの生鮮食品、賞味期限切れの食品、カードの枚数が合わないトランプ、コマの足りないリバーシーと、ありと あらゆる いらない物が送られて来る。
「まったく、バザーじゃないんだぞ!!」
そして その中で一番迷惑なのは、10t規模である折り紙の千羽鶴である。
これは地味に重く、折鶴を四角くプレス加工した状態でパレットの上に乗せ、フォークリフトで運ばれている。
俺達は 国民達の善意で押し付けられた廃品を仕分けし、不要な物は チヌークに乗せられ、少し離れた まだ余裕のある焼却所に送られて処分される。
現地は生活インフラに大きなダメージを受けているので、被災地周辺の市に多くの負担が掛かっており、特に ゴミの処理などは 今の時代、各家庭で国民達が低温の焼却炉で物を燃やして灰にするのが 一般なので、大量に焼却施設にゴミを送りつけるとキャパオーバーになる事も普通にある…これは その負担を軽減する為の処置だ。
「何というか…善意で 被災地の復興を遅らせているのが 分からないのかな~分からないんだろうな~」
俺はそんな事を言いながら作業を続けて行く。
「おっこれは良いな…」
俺が見つけたのは封筒に入れられた札束だ…帯1本なので100万だな。
これは 非常に有難く 現地の市役所に送り、復興予算の足しに出来る…ただ問題なのは、これが中抜き無しに現地に届くかだ。
後で役所の口座番号を聞いて、俺が直接入金するのが確実だろう…。
そんなこんなで、復興支援と言う最精鋭部隊の俺達の初戦が終わり、季節は秋になり、冬が来ようとしていた。
シューティングレンジ。
パンパンパン…。
俺達は シューティングレンジで、89式小銃(仮)で人型の的を次々と撃って行く。
「うん、良い感じ…如何にか納期に終わらせる事が出来たな」
「来年の4月から配備ですね…あなた方にブラッシュアップして貰った事で、随分と完成度が高くなりました。」
89式小銃(仮)の製造会社になる豊和工業から来ている技術者が言う。
俺らが指示したのは、拡張性の強化だ。
64式でもそうだが、この国は最初から銃に完璧を求めて後の拡張の事を考えてない…完璧の銃に改善点は無いからだ。
で、まぁパーツ数の多さにパーツが脱落すると言う欠陥を抱えていた64式もビニールテープを銃にグルグル巻きにする事で、脱落を防止すると言うゴリ押しをし、根本的な改善をしなかった。
その為、89式は大幅なパーツ数の削減と アイアンサイトを折り畳みが出来る様にし、更にマウントレールが標準装備が付けられ スコープなどを取り付けられる様に設計されている…これで ある程度の拡張性が確保されるはずだ。
「とは言っても、これは俺達の基準だからな…現場で使って見て細かな改修をする必要がある。」
「ですが、実質 撃てない銃に改良が必要なんですか?」
「いざ撃つ時になって、役に立たなかったら問題だろ…一見無駄に見えるけど もしもに備えて準備する…考え方は保険と同じだね。
まぁ上は その保険料を渋っている訳だけど…」
俺は笑いながら89式を片付ける。
「神崎…89じゃないが もしもの保険の強化だ…竹島にDLを受け取りに行く事が決まった。」
「竹島?トニー王国が不当占拠している所じゃないか…領土問題にもなっている…」
ミキタ 一佐の言葉に対して射撃訓練をしていた赤木がイヤーマフを外して言う。
「とは言え、中国と韓国からの領土問題でトニー王国を盾に出来るのは良い…あの国は こっちと違って船を沈める事も出来るからな…例え 試験導入だとしても この国でDLが使えるのは有難い…」
俺が赤木の方向を向いて言う。
「ソ連は既にDLを自国で生産している…名前はコロスだな。」
「殺す?また物騒な名前だな…。」
「向こうの言葉で巨像って意味…広報用に取られた写真はこれ…」
「あ~あのガンタンクね…」
大きなタイヤを持つ4本脚に2本の太い腕、コクピットは キャノピーで、ガトリングガンを装備しているDLだ。
「それで、次はアメリカ軍…こっちは まだ実験段階…仮の名称はメカコング。
ゴリラの様な見た目をしているからだ」
メカコングは 2本の太い脚と腕を持っており、コックピットが丸く、厚い装甲に防弾ガラスになっているDLで、トニー王国のDLより小さく4m位の大きさだ。
「やっぱり頭は無いんだな…」
どっちとも胴体に透明な素材を使う事で直接視認する方式だ。
カメラを使った間接視認の方が コックピットブロックの装甲を厚く出来るので、パイロットの安全性を考えるなら間接視認にした方が良いのだが…。
「直接視認の方がコストが安くなるし、防弾性の高いキャノピーで十分と言う判断だろうな…何より堅実で実用的だ…どうも私はトニー王国のDLは合理性よりデザイン性を優先している様な気がする…」
「一佐はメカコングの方が好みなんですか…。
まぁいずれオリジナルのDLも作れる様になるでしょう…さて、竹島にはチヌークで?向こうには ヘリポートはあっても空港は無いですよね。」
「そうなるかな…受け取るのはDL2機と技術スタッフが1名…チヌークの積載能力 ギリギリで移動する事になる。」
この場合のギリギリは、余裕を持って設定されているカタログでの積載量では無く、飛べるギリギリと言う事だろう。
「まぁ菊池と桃山の2人でなら大丈夫だろう。」
災害現場での難しいホバリングを安定して出来る能力があれば十分に可能な範囲だ…最悪、チヌークで無理なら竹島のエアトラを使えば良いし…。
「それじゃあ、飛行計画を立てたら行きましょうか」
俺はそう言い、メンバーを集めるのだった。




