17 (久しぶりの同窓会)
夕方…。
DLで掘った大きな穴に今回の被災者約1000名が綺麗に整列して入れられている。
穴のフチには生き残った遺族が並んでおり、中には泣いている人も見かける。
大量の死者が出た為、火葬場が確実にパンクする事は誰もが予想出来る。
これに対して、市の案では一度土葬して、状況が安定したら掘り起こし葬式を開こうと言う話だったが、死体を長時間 放置してしまっては感染症の拡大が始まるかも知れない。
そこで穴を掘って集団で火葬する事になった訳だ。
結局、感染症の危険の前では 遺族の気持ち うんぬんは考慮されない。
穴に大量の灯油が撒かれ、トニー王国製のガスバーナーで着火し、瞬く間に炎が広がり暗闇の中、死体が燃え始める…非常に不謹慎なキャンプファイヤーだ。
「三尉…本隊が到着しました。
明日から本格的な復興が始まります。」
「分かった…とっとと指揮権を返さないとだな…ナオ達は?」
「引継ぎも含めて、後1週間ほど追加で…」
「了解…それで、自衛隊の炊き出しは?」
「あ~それが、問題が発生しまして…至急、三尉の判断を伺いたく…」
「分かった行く。」
そう言うと俺は自衛官に連れられ、配給所の炊き出しに行くのだった。
「おまえ達、こっちには 大量の死者が出ているんだぞ…今日はお祝いの日なのか?ああ!?」
「いあ…あの…」
中年男性の怒鳴り声に若い自衛官は委縮してしまっている。
あ~こりゃダメだな…。
「何揉めているんです?」
「アンタは?」
「神崎直樹、三等陸尉…本隊が到着する今日までは ここの責任者です。
明日からは、別の方が責任者になるのですが…それで、何を揉めているんです?」
「これだ…」
中年男性は支給されたであろう開けられた缶詰をこちらに見せる。
「ただの赤飯の缶詰ですよね?異物でも混入していましたか?」
「いや…あんたら自衛隊は、俺達に赤飯を食べさせようとしている事自体が問題なんだ。」
「あ~お祝い事って そういう意味…。
確かに大戦時には、赤飯は正月や誕生日などの祝い事に配られる食べ物でしたが、今の自衛隊では お祝い事 関係無く、缶詰の通常メニューとしてあるんです。
腹持ちが良い もち米と栄養価が高い小豆は、重労働である自衛隊を支えてくれる重要な食べ物なんです。
おそらく、ロクに食事を取れていない被災者の方々に少しでも栄養価のある食事をして頂きたいと言う、上層部の考えかと…」
俺は知識を元にその場で上層部の考えを でっち上げる。
「ふん…」
中年男性は不満そうな顔をしながらも、赤飯の缶詰を返さず持って行った。
「ありがとうございます。」
「いや…まぁまだ ここの指揮官だし…。
とは言っても、赤飯に文句を付けるか…上にも報告をして置かないとな…。
飢えを気にしないで良い時代になったからか、緊急時だってのに 食う食べ物に あれこれ文句を付ける…」
「まぁ今はバブル景気で国民も潤ってますからね…。
私も今年、妻と新しい家を建てまして…」
「あらあらあら…それは お幸せに…ただ住むならともかく、不動産の投資は止めといた方が良いよ…特に借金をしてまで買うのは…」
「ですが、銀行も積極的に勧めている事もありますし、不動産投資は儲かりますよ…」
「今はな…その内、不動産価格の下落が始まると、一気に大損をする事になる…それが この好景気の終わりかな…」
「……そうですか…ありがとうございます…では」
自衛官は頭を下げるとまた配給所の炊き出し場へと向かった。
「おっ来たな…皆集まっている」
キャンプ用のテーブル席に座っているクオリアが言う。
テーブル席にはジガ、ハルミ、クラウドが座っており、首にはマグネットの電源ケーブルのコネクタがくっ付いている…食事中見たいだ。
「リアルで会うのは本当に久しぶりだな。
皆、仕事をしているから身動きが取れなくなってるし…。
比較的 自由に動けるのは、クオリアとクラウドか?」
「まぁ私が過度に介入すると、信者の発想と発展を妨げるからな…。
大まかに管理しつつも、基本自由にさせた方が成果が良い。」
クオリアが言う。
「まぁ途上国支援での知識が ここで役に建つとは思わなかったんだけどな」
クオリアの隣に座るクラウドが破壊された周りの町を見ながら言う。
「それで、ジガは今はアニメーターだっけ?」
「そう…今は 愛おぼ を作ってる…ロストテクノロジーになった技術だから、歴史的価値は 非常に高いんだ。」
「ジガのアニメ供給にはトニー王国助かっている。
こっちには ビーム兵器なんて言う発想は無かったしな。
だが、そろそろ海賊版じゃなくて、正規で購入したいんだが…」
「う~ん 最近、セントラル・パーク・メディアって言うアメリカ企業のオドネルってマニアが日本のアニメをアメリカで売り始めたんだけど…。
海外では まだアニメ文化は開拓中だし、ごく少数のマニアが この会社からビデオを購入している状態だからな。
しかも、日本からの輸送にはコストがかかるから、ビデオは現地でダビングしている状態だし…商業的に成功するには、まだまだ時間が掛かるよ」
ジガが少し考えながらクラウドに言う。
「こっちも、輸入会社が欲しいな…海外の映画もアニメも集めているけど、金払ってないし…クオリア…作れるか?」
「エクスマキナ教会には、アニメを取り扱う会社もある…まぁこっちはCGアニメがメインで、セルアニメは やっていないんだが…もしかしたら興味を持ってくれる かもしれない…交渉はして見よう」
「助かる…やっぱり、トニー王国だけじゃあ発想が足りないからな…。
こう言うのは SF作品から引っこ抜くのが一番良い。」
「で、ハルミは医大だったか?」
俺がハルミに聞く。
「そう…トニー王国の留学生って立場でね…。
今はパンクしている病院のヘルプに来ている。
トニー王国と日本の間では 医療免許の互換制度がないから、日本で診療所を開くなら、医大に進むしかない。
ただ…外科医で女は私しか いないんだよな…逆に看護師は 全員女なんだが…。」
「あ~性別の問題で、動きにくいのか…」
「そう…男の業界に女が入って来るのが気に喰わないらしくてね。
しかも私の腕が良いから余計に…」
「トニー王国と日本間で、医療免許の互換は作れるか?」
「無理だろうね…トニー王国は機械に頼り切りの治療法だし、両国で質の悪い医者が増えても困る…良い所、期間の短縮って所だろうな…はぁ」
「キツイのか?」
「ああ…こっちを退学させようと罵詈雑言は当たり前だし、ヒドイと上が圧力をかけて間違った治療方法を生徒に強要して、医療ミスを起させる事もある。」
「そこは軍と同じか…。
そいつらは本当に人を救いたいのか?」
「いや、彼らは医者と言う地位と金が欲しいだけだ…人を救うのは あくまで副産物…。
仕事をすればするほど、この医療業界の闇ってヤツが見えて来るよ…」
ハルミが ため息を付きながら言う。
「それで、何でわざわざ日本で診療所を造りたいんだ?」
「日本では国民健康保険に入っていれば、誰でも治療が受けられる…それが例え反社でもな…。
だけど、銃で撃たれて摘出手術をすれば 入院中に警察がやって来るし、摘出された銃弾は物的証拠にもなる…だから病院に行かない…なんて事も普通にある。
それに私は日本で武装警備会社を設立するから 自前で治療が出来る診療所を造った方が面倒がないと思ってな…」
「武装警備会社?名前は?」
「私のこっちでの名前、蒔苗美春から取ってミハル警備…。
ミハルと警備の見張るを掛けている良い名前だろう?」
ハルミが笑みを浮かべながら言う。
「なるほど…そう言う事か…。」
「そう言う事?」
「いや、いずれ オレがミハル警備に世話になると思ってな…」
「自衛隊を止めてフリーになりたいなら いつでも歓迎するよ…即戦力になるし…。」
「まぁその時は頼むよ…あっそうだ…クラウド…DLを何機か購入出来無いか?
今回の救助活動で 上がDLの価値に気付いてね…何機かテスト用に試験導入したいと言って来ている。」
「別に納入先の記録を付けていれば良いと思うが、トニー王国製は 他と違ってクセが強いからな…。
技術者を専門に教育する必要も出て来るし トータルだと高く付くぞ」
「とは言っても戦車を買うよりは安いだろ…上は重機としてDLをトニー王国から購入して、自衛隊側の戦力増強を謀りたいのさ…」
「確かに反戦派の国民も重機としての購入なら、大きな文句は言わないだろうが…」
今の自衛隊は民間の武装警備会社であり、憲法9条に抵触しない…ただ国民の感情が収まる訳じゃない…。
実際、投資や仕事の依頼は日本国政府であり、大口の顧客を無視する事は出来ない状態だ。
その為、反戦派の国民達は 実質の憲法9条違反だとし、自衛隊の解体によって日本の防衛能力を削ぎ取り、無抵抗主義による日本の滅亡を望んでいる状態だ。
なので、自衛隊でのDLの導入は かなり重要になって来る。
「さぁ明日も早いぞ…部下を適度に眠らせないと…」
そんな事を言いながら、俺はクオリア達と同窓会を楽しむのだった。




