16 (戦闘も出来る土木重機)
DLの背中のコックピットブロックがスライドして ナオが乗り込み、コックピットブロックがスライドして、ハッチを閉鎖…そしてDLを起動…。
「うん、スペックは大分 上がって来ているが、基本動作なら問題無いな。
動かすよ~」
機種は黒い装甲にゴツイ体型の標準型DLのベック…機体のバッテリーから電気が人工筋肉に伝わり、反応を見ながらゆっくりと起き上がらせる。
『おおっ動いた…』
下でこちらを見ている黒田が言う。
「さぁ乗ってくれ」
俺がそう言うとDLの両腕と背中に乗り、辺りは瓦礫だらけで車両が通るのが難しい中、動きを見ながらゆっくりと走り出す…二足歩行の利点だ。
「おっと…うん、良い感じ…」
パイロットスーツを着ていないので戦闘機動は難しいが 土木作業なら十分出来るだろう。
俺は仲間が振り落とされない様に気を使いながら 現場へと向かうのだった。
現場に到着すると 上下2車線の道路は 完全に土砂に飲み込まれていた。
土砂崩れの反対側では自衛官がエンピを使い、大量の土砂を どかしている最中だが、焼け石に水だ…通常ならショベルカーでも持って来る所だろうが、使っている気配はない。
ただ人なら土砂の山を乗り越えて反対側に行く事も可能か…。
こちらのDLが近づくと自衛官達は 64式をこちらに向けて構え、いつでも発砲出来る体制を取る。
通常、自衛隊は 災害派遣では非武装が基本だが、災害を利用したトニー王国の侵略の疑いが掛けられていた事もあり、彼らは64式で武装している。
見た所、対戦車兵器は持って来てないので、ガチで俺が敵だったら簡単に皆殺しに出来そうだ。
「私達は味方だ…このDLも非武装で、土木装備だ。」
腕に乗っている赤木が飛び降りて大声で自衛官に言う。
両腕、背中に乗っていた仲間が降り、俺は足を抱える駐機姿勢になってコックピットブロックをスライドさせて 立ち上がる。
「驚かせて済まない、第一空挺師団、普通科の神崎直樹三等陸尉だ。
主力部隊が来るまで現場を任せて貰っている…これはトニー王国からの借りものだ。」
「トニー王国が海岸から侵攻していると聞いているが?」
ここの指揮官ぽい二等陸尉の階級を持った男が言う。
「それは誤報です。彼らはエアトラやらDLなんかで救助活動をしてます。
それが侵略行為ぽく写ったのでしょう…さて、土砂をどかします。
車が通れる様になったら自分の目で確認して下さい。」
俺はそう言うと再びDLに乗り込み、DLサイズのシャベルで土砂の撤去作業を始めた。
「おおっ…早いな…」
今まで人がエンピを持って作業を行っていたが、明らかに土砂の減りが早くなった。
そもそも DLの元は スペースコロニーを整備する為の大型宇宙服であり、それが太陽系から100年単位で何もない平和な状態になり、宇宙人と遭遇した場合、自衛が出来なくなる危険性があった為、兵器転用が可能な様に設計された訳だ。
俺が作業を開始してから12分程度…。
苦も無く車が1台通れる位のスペースが出来、5tの巨体で思いっきり足踏みする事で地面をしっかりと固める。
「まぁ即席ですが これ位で良いでしょ…後は施設科に お任せます。」
ゆっくりとトラックを通し、路面を確認しながら俺が言う…うん、問題無さそうだ。
「DLか…施設科にも1台欲しいな…」
二等陸尉の男が乗るDLを見上げながら言う。
「まとめて運用しないと逆に高く付きますよ。
それにトニー王国のシステムは独特でクセがありますし…。」
俺はそう言うと、上空からチヌークのプロペラ音がする。
「来たみたいだな…国際緊急援助隊…戻るぞ」
俺は また仲間を乗せて、走ってDLの駐機場に戻るのだった。
「ワンワン!!」
匂いを嗅ぎつけた救助犬が吠え、JDR隊員を呼ぶ。
「こっちだ…マイクロファイバースコープを寄こせ!!」
バックから細いマイクロファイバースコープを通し、スコープを覗きながら鉄筋の中に挟まれた要救助者を素早く見つける。
「いた…発見…ただ この瓦礫の量…重機が必要だな…。」
「ドリルで穴を開けるには?」
「下手に衝撃を与えると崩れるかもしれない…厳しいな…」
私が隊員に言う。
『あ~そこか…それ助けられないで放置していた所だ。
専門家も来た事だし、そろそろ救助したい。』
私は上を見上げると 人型で巨人のロボットが言う…あれがトニー王国の人型兵器…DLか…。
『持ち上げる瓦礫を指定してくれ…瓦礫が崩れて被災者が潰されるのは避けたい。』
「分かった…え~と まずは、ここ…ゆっくりとだ。」
私が指示を出し、DLが大きな手で瓦礫を持ち上げ、横に どかして行く。
動作は人と完全に同じ…ただし、大きな手の為、器用さには難がある…そこはこちらでサポートすれば良いだろう。
「これは流石にDLでも大き過ぎる…切断しないと無理だな…DL、何かあるか?」
「斧とシャベル、後ビームサーベルかな…。」
「ビームサーベル?あのアニメに出て来る?」
『まぁ原理は違うけど…ただ、被災者を焼いちまう可能性もあるんだよな…』
「ふむ、行けそうだな…試しに ここを切って貰えるか?」
『ああ…下がってろ』
DLの中のパイロットはそう言うと、腰からDLの手で握るサイズの筒を取り出すと、背中の推進剤タンクから伸びるケーブルを取り付け、スイッチを入れる…。
小型なサイズの青色の刀身が現れ、私が指定した部分を正確に溶断して行く。
「青色の炎…3000℃は出ている…酸水素ガストーチか?」
『原理的には そう…本来は 戦車なんかの硬い装甲を貫く為に使われるヤツな。
まぁ日本のアニメに影響を受けてノリで造られたらしいんだが…』
DLのパイロットはそう陽気に言いながら 切断を終えた瓦礫を支えて持ち上げる。
「行けるな…こっちを頼む…ここを切断出来れば後はDLで持ち上げられるはずだ。」
『了解…』
パイロットがそう言うと、ビームサーベルで瓦礫をゆっくりと溶断して行く。
近くには要救助者がおり、少し間違えれば焼き殺してしまう可能性もある非常に慎重な作業だ。
『よし、切れた持ち上げるぞ…』
ビームサーベルを置いて、鉄骨を引き上げると僅かだが 人が通れる位の隙間が出来た。
私がライトを持って中に入る…中にはマイクロファイバースコープで確認した通り、幼い女の子を抱いた母親がいる。
母親は腹部を刺され失血死で既に腐敗した臭いがし、幼い女の子は衰弱しつつあり大変危険な状態だ。
「担架を持って来たぞ」
DLパイロットの仲間であろう2人の自衛官が、担架を抱えてやって来る…。
「よし、大丈夫…良く持った…」
私は母親ごと女の子を引き上げる。
「母親は…ダメか…」
自衛官が言う。
「ええ…抱きしめたまま 死後硬直しています。
無理やり振り払うのは気が進みませんが…」
「死体は腐って病原菌の温床になる…特に こんな災害の時には 集団感染が心配だ。」
「ええ…分かっています…この子は救護所へ…お母さんは遺体置き場に」
「了解…行くぞ」
母親が担架に乗せて運ばれ、無理やり引き剥がされた女の子は自衛官の背中におぶさり、運ばれて行く。
「さて、次だ…」
『ああ…それが、おおよそ の位置は既に割り出していて、救助出来そうな所は終わっている…残りは23ヶ所…トニー王国のドラム部隊が頑張ってくれた。』
「なんで分かるんだ?救助犬が他にいるのか?」
『いや…指向性マイクと赤外線センサー…人を殺すには人の音と人の熱量が分からないと殺せないだろう』
「なるほど…合理的だ…なら、その人殺しの為の装備…人命救助に存分に生かして貰う」
『了解…さぁとっとと回収しよう…』
DLのパイロットはそう言い、私達は残りの救助を行うのだった。




