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15 (罰金より人命)

 災害発生から6時間…。

 現場に送られたチヌークは全部で6機…。

 チヌークの側面からハーネスを赤木、蒼井(あおい)の2人の自衛官に繋いで降ろし、救助者にベスト型の装備を付け、カラビナをハーネスに取り付けて、手を大きく回すとハーネスが巻き取られ引き上げられる。

 軽トラの荷台程しかないスペースに自衛官をピンポイントで降ろし、救助者を回収する作業だ。

「オートホバリング機能が無いってのに…マニュアル操作で良くやるよ」

 位置と高度を保つホバリングは非常に難しい…どうしても人である以上 誤差が出てしまい、前後左右に多少揺れるのが一般的だ。

 なのにも関わらず菊池(機長)の操縦が上手いのか 救助者の重量で左右の重量バランスが偏っているにも関わらず 上空にピタっと静止し、広い沿岸部から救命ボートにし がみ付いている住民達を回収して行く…。

 一応、無免で良いなら俺もチヌークを動かせるんだが、自衛隊では実務経験が必要なので、衛生兵と一緒で専門の隊に入って無いと資格を取れないんだよな…。

「はい、頑張ったね…詰めて詰めて…」

 俺がそう言い、回収した救助者達を貨物室に詰めて行く。

 チヌークの貨物室には通常32人が乗れる…だが、今は快適な空の旅をする訳じゃない…限界まで積み込む満員電車状態にすれば、最大で147名までが積み込める。

 とは言え、これをやったのはベトナム戦争時に安全基準をガン無視した記録で当然ながら過積載…。

 このチヌークの積載重量から考えるに安全限界は120名かな…まぁパイロットの腕にも影響するんだが…。

 刻々と変わって来る機体重量やバランスを上手く制御し、ホバリング状態を維持し続ける…。

 ただ60人程入れた所で別の問題が発生した…そう、燃料切れだ。

 ここから沖縄空港までの距離を考えると、そろそろ ここを飛び立たないと海上でガス欠で墜落する事になる。

「機長…燃料の事を考えると そろそろ限界です。

 回収を中止し、沖縄空港に向かい燃料補給を受けます。」

 副操縦士の桃山が言う。

「了解…積み込む前に重さで時間が来たか…神崎三等陸尉…良いですね…」

「専門家の判断を信じるよ…次の回収で一時撤退する…」

「助かります。」

 下には まだ救助を待っている住民達がいる…俺がチヌークから命令を送ると見捨てられると判断されたのか、住民達の抵抗に会い2人を困らせる…この無駄な時間が燃料の消費を上げ、墜落する可能性を上げている事なんて住民は気にしておらず、揉めている。

 そして 妥協案なのか、2人は ハーネスの接続なしで子供を両腕でしっかりと抱え、一人は背中にしがみ付かせ、自衛官2人と子供6人同時に引き上げる…結構無茶な やり方だ。

 そして自衛官2人と子供達がチヌークに乗り込んで来る。

「無茶をしたな…でも良く頑張った…ゆっくり降ろせ、はいお嬢ちゃん もう大丈夫だよ…」

 俺は女の子の頭を()でると貨物室の床に座らせる。

 貨物室の左右には救助者達が床に座り、可能な限り重量バランスが崩れない様に配慮している。

「機長、お客さん 積み込み完了…」

「はい、行きますよ…」

 機長がそう言うとチヌークは高度を上げ、沖縄空港へと向かうのだった。


 回収した住民達を大阪空港で降ろし、給油を受けてまた飛び立ち、住民を回収して また戻る…その繰り返しだ。

 大阪空港は民間機の離着陸を禁止し、近隣の他の空港に迂回させる…米軍と自衛隊機の空の渋滞を回避するのと大阪空港に備蓄されている航空機燃料の枯渇を防ぐ目的もある。

 そして、救助に参加してくれている もう1国のトニー王国のエアトラ。

 エアトラは 大阪空港では推進剤の補給が出来ない為、潜水艦の上に着艦し、住民達を格納庫に避難させている…下手をすると これは拉致(らち)とか呼ばれそうだが、緊急事態なので仕方ない。

 トニー王国のエアトラは 後部ハッチを開けて、ウィンチで4本のワイヤーを降ろし、救命ボートの取っ手にワイヤーを取り付ける事でボート事、引き揚げて回収する方法を使い、こちらより効率が良い方法だ。

 ただこれは 完全AI制御だから出来る芸当で、マニュアルだと難易度が高い。

『問題が発生した…人命救助に大型犬は含まれるか?

 こちらは積載量に余裕が無い…大型犬の重量で子供2人は救える』

 無線から別のヘリコプターに乗る自衛官の声が聞こえて来る。

「法律上ではペットは物扱いだ…優先順位は人の方が高い…例え、そのペットが家族でもだ。

 子供2人を乗せて沖縄空港に戻れ、これは三等陸尉による命令だ」

『……了解』

「ただ、こちらの貨物室は空だ…次の便で家族ごと乗せて行く…それまで待たせろ」

『助かります』

「進路変更ですか?」

「ああ…規則に違反はするが、見殺しにするのも後々問題になるからな~」

『その家族、私達が回収します…私達の方が近くですし、規則を破らず合法です』

 ドラムの声…今、海上に浮かんでいるトニー王国の潜水艦からか?

「チヌーク了解、頼んだ…機長、進路そのまま、担当地域の被災者を回収するぞ」

「了解」

 菊池がそう言うと、進路を変えずに担当地域に向かうのだった。


 災害発生から12時間後…。

 完全に日が沈み、ライトを照らして捜索をするが 完全に見えなくなり、この日の捜索は撃ち切り…。

 移動するだけなら ともかく、全神経を集中させていないと行けない ホバリングは、暗闇の中では難しく、方向や角度を誤って建物に激突する可能性もあるし、何より6時間も酷使し続けて来たパイロットの精神的な損耗もある…。

 沖縄空港に止めたチヌーク内で夜明けまでしっかりと睡眠を取り、翌日の捜索に繋げた方が良い。

 ちなみにトニー王国のエアトラは、明るい内に観測していた地形データの情報と赤外線カメラが標準で搭載されているので、昼間と同じ感覚で飛べる。

 のだが、あらかた探し終えた後なので、空からの捜索では効果は薄く、暗視機能があるドラム達が救命ボートに乗り、生存者を捜索し続けている。

「三尉、国際緊急援助隊(JDR)の先発隊12名が、夜明けと共にチヌークに乗ってやって来るそうです。」

 桃山副操縦士が言う。

「JDR?…彼らの任務地は海外だろう?」

 国際緊急援助隊(JDR)は、海外で発生した自然災害や建築物の倒壊などの人的災害に対して救助活動を行う日本の団体だ。

「ええ、ただ今は海外で災害が無く 暇だった事もあり、実地訓練も兼ねて救助に来てくれる事になりました。」

 JDRは 先発隊と本隊に分かれていて、先発隊は 本隊が到着するまでの時間を持たせる為に最低限の装備だけを持って現地で救助活動する即応部隊だ。

 そして、瓦礫の中に埋まっている救助者を助ける 都市型検索救助の能力に秀でている。

「瓦礫救助の専門家か…分かった…JDRに協力させる様に指示を出しておく。」

「頼みます。」

 今は政治が動く前なので 現場の裁量権は多い…。

 後2日もあれば 本格的な装備を持った救助部隊や復興の為の支援も届くだろう…それまでは現場を持たせる。


 災害発生から20時間…朝日と共に救助活動が再開されるが、既に津波は引いており、惨たらしい残骸だけが残されている。

「空からの救助は終わりだな…次は瓦礫(がれき)に埋まった人の救助だ。」

 ただ、比較的 簡単な場所にいる救助者は救えるが、危うい状態の瓦礫の隙間で生きている救助者は こちらが瓦礫(がれき)をどかした事による重量バランスの変化で建物が崩れ、潰されてしまう事もある。

 専門のレスキュー部隊の力が必要だ。

「なっ…」

 現地に付くと その光景に菊池と桃山が驚かされる…。

 名草山の上部の木が切り落とされ平らにされた所にアスファルト舗装がされ、物資を積んだエアトラが次々と着陸しては物資を降ろして行き、ドラムが土嚢で作った即席道路を使ってリアカーで物資を山から落ろして行く。

 ふもとには複数のコンテナハウスを積んでいて、足場を取り付けた だけの簡易拠点も 既に出来て降り、パイロットスーツを着たトニー王国人が出入りしている。

 そして 被災者達が住む簡易テントが大量に置かれ、大鍋を使った炊き出しも 行われている。

 これらの作業を俺達が寝ている6時程度で やりがった。

「いくら何でも速すぎだろう…」

 俺達が創った国ではあるが、度々俺の予想を飛び越える…本当に良く育ってくれた。

「よし、俺達は降りてトニー王国と協力をする…アイツら、自分達のルールしか守らないからな…こちらが手綱を握らないと好き勝手される…2人は大阪空港に戻って待機しててくれ…」

「了解…気を付けて…」

 キャンプ地の高度30m上空でチヌークがホバリング状態で静止し、ハーネスを降ろして それを伝って俺達4人が落下速度を殺しながら降下する…ラペリング降下だ。

「よし、着地と…ハーネスを上げろ」

 俺は頭上のチヌークに対して合図を送り、チヌークはハーネスを回収して大阪空港の方向に飛んで行った。

「さてと…習志野駐屯の第一空挺師団の普通科所属、神崎直樹三等陸尉だ。

 こちらの指揮官と話しがしたい。」

 俺はパイロットスーツ来たトニー王国人に言う。

「う~ん、指揮官ですか…私達は軍として こちらに来ている訳ではないので…でも、責任者でしたら…あちらに…クオリアとクラウドがいます。」

「あの2人か…」

「ご存じなので?」

「ああ…昔 俺がトニー王国にいた時の全身義体 仲間だ。」

 俺はトニー王国人が指した方向に向かう…コンテナハウスの方角だ。

 コンテナハウスの近くではDL2機がおり、板状に折り畳まれたコンテナを組み立てて1分程度で家を作って行く…人型のDLだから出来る芸当だ。

 で、発電機から電線をコンテナに接続し、電力の供給を始める。

 発電機は音が静かで ガソリンなんかを燃やしている発電機では無い…これは月や宇宙ステーション世界樹なんかで使われている小型核分裂炉だな。

「時代が時代なら反原発派の奴らが発狂しそうではあるが…」

 とは言っても、今はまだ 原発は二酸化炭素を出さないクリーンエネルギーなので、反原発派の人間はいなく、まだアトムやらドラえもん などの動力として使われる程の夢のエネルギーだ。

 そして、コンテナハウスの上には 大型のパラボラアンテナがあり、キリバスの上空の静止軌道にある世界樹に向けられている…。

 おそらく、世界樹を中継してトニー王国と衛星通信をしているんだな。

「良く来た…ナオ…」

 銀色の髪を持つ子供の様な機械人の少女、クオリアが言う。

 その後ろには クラウドもいて、あちこちに指示を出している。

「久しぶり クオリア…まずは支援に感謝する…が、これは少しやり過ぎだ。

 許可無く山にヘリポートを作り、近くの湖から水を盗んで 飲料水を生成、その他にも色々と…」

「だが、結果として住民達は救われている…。

 罰金程度で住民が救えれば問題ない。」

「それは 日本の価値観とは大きく違うんだよな~。

 上はトニー王国が ここら辺を占領して実行支配を企んでいると疑っている。」

「確かに私達が実行支配した方が ここの復旧が早いが、それは ここの住民達が決める事だ。

 私達は現地民の意志を無視してまで統治しようとは思わない。」

「そう…それで、残りの被災者は?

 まだ瓦礫(がれき)に埋まっている人も多いんだろ…」

「ああ、表面に埋まっている人は回収出来た。

 だが、こちらがDLで瓦礫(がれき)をどけようとした所、建物が崩れて1人潰されてしまった…人が埋まっていない地域では、瓦礫(がれき)の撤去は進んでいるのだが…。

 瓦礫(がれき)救助の専門家が必要だ…いつ来る?」

「なるほど…暇をしていたJDRが来てくれる事になっている。

 出発時刻から考えて、そろそろ着くはずだ DL部隊は彼らのアシストをしてくれ」

「了解した…ん?ナオ、トラブルだ…上空監視をしているドローンが土砂崩れで、道路が塞がれている場所を見つけた。

 自衛隊のトラックが道を通れず 地上支援が出来ないと連絡が来ている…。」

「あ~予想より救助部隊の到着が早いな…それじゃあDLを1機回して貰って…」

「今、DLは1機空いているが、パイロットはコンテナハウスのベットで6時間の睡眠中だ…ナオが乗るなら動かせるが…」

「俺は今は他国の兵士だぞ」

「だが、あれは重機だ…重機なら他国の人間が乗っても問題無いだろう。」

「まぁね…それじゃあ使わせて貰うよ…落ち着いたら話が出来ると良いな。」

 俺は連れて来た赤木、蒼井、黒田の3人の元に戻る。

「お待たせ、話は付けて来た…俺達は土砂崩れで塞がれた道を復旧させて自衛隊車両を通すのが任務だ。」

「だが、数が圧倒的に少ない 少数精鋭の俺達には 不向きだ。」

 黒田が言う。

「まぁそうなんだが、トニー王国がDLを1機貸してくれる事になった。

 自衛官でDLの操縦資格を持っているのは俺だけだな…」

「えっ…ナオキ、DLの操縦資格を持っていたのか…」

「中学校時代にね…とは言え、ずっと更新して無かったから期限切れで、実質無免なんだけど…と言う訳で、俺は駐機場に行くから…」

 俺は仲間にそう言うとDLが足を抱えて止まっている駐機場に向かって走り出した。

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