13 (最初の敵は自然災害)
空挺館地下、シューティングレンジ。
パパパッパパパッ…。
「ふう…全弾命中…良い感じ…」
俺は撃ち尽くされた改造されたウージのマガジンを外し、コッキングレバーを引き薬室内に銃弾が入っていないかを確認する。
ここで使われているウージーはオープンボルトからクローズボルトへの改造を受け、更に銃弾の尻を叩くL字型ボルトを通常より重くしている…これで弾を撃ちだすまでのラグが減り、発射レートも抑えられる。
今の時代の最新サブマシンガン…MP5には及ばないが、それなりに使える銃に仕上がっている。
レンジャ―の訓練を終え、特戦に採用された狙撃手の赤木…。
彼のM16は、M16の特徴である持ち手の様なアイアンサイトを取り払って上部を平らにするフラットトップ型にし、倍率調整が可能なスコープをマウントレールに取り付けている…M16はアイアンサイトが高い位置にある為、距離が離れれば離れる程 銃口との誤差が大きくなる事を回避する目的のフラットトップだ。
「それにしても…なんでM16?
確かに傑作アサルトライフルだが…狙撃には心持たないぞ…」
「まぁそうなんだけど…でも私達は 少数精鋭で、狙撃から接近戦まで こなさないと行けないからな…そう考えると多少射程が落ちてもM16の方が良い。」
「良いたい事は分かるが…弾がな~入手が難しい5.56mmだし…」
M16が使っている弾は 5.56x45mm NATO弾…後の89式に採用される弾薬で、今は生産量が少ない事もあって弾の入手が難しいし、まだ品質も安定していない。
「今はな…でも いずれは5.56mmが主流になる。」
「確かに…扱いやすくは あるんだろうけど…。」
「あっ神崎…ここにいたか…熊の駆除の件…」
ミキタ一佐が俺を見つけて言う。
「やっぱ 大人しく熊に民間人を喰い殺された方が良かったですか?」
「こっちに犠牲者が出なければ、その方が問題が無くて良かった だろうが…。
あの後、警察と猟友会と相談して、人喰い熊に対して警察や猟友会は対処出来なく、自衛隊に駆除の要請をしたと言う事になった…今、日付を過去にさかのぼって緊急の為、遅れたと言う事になっている書類を提出して貰っている。」
「でも、俺達は狩猟免許を持ってませんよね…」
「ああ…だが、猟友会が対処不能だと判断すれば警察を通して自衛隊への要請が出来る。
実際、1960年代にトドが大量発生した時に機関銃で掃討したと言う実績もある…まぁそう言う形式で押し通した。
とにかく、多少型破りだったとはいえ、仲間が喰い殺された時の現場判断としては あれが的確だったと 上は思っている。」
「上が納得しているなら構いません…昇進に響きますから…」
「ナオって本当に昇進に熱心だよな~」
「出来る事が増えるからな…」
赤木の言葉に俺が答える。
「さぁて…銃を置いて今日は突入訓練だ。」
ミキタ 一佐が俺達に言う。
「そうですね…ガスガンも届いた事だし、それじゃあ 行こう…」
「ああ…」
そう言うと俺と赤木は色付きのベニヤ板で出来た建物の中に入るのだった。
パパパ…パパパ…。
俺達6人が2階の窓から突入し、現れた人質を盾にしているベニヤ板の敵を次々とガスガンで射殺して行く。
それぞれが味方の思考をトレースし、言葉を交わさず戦闘動作を使った言語で死角を埋めるやり方は非常に洗練されている…これもレンジャー訓練での成果だ。
「クリア…人質無事…確保!!」
敵を皆殺しにし、人質は確保…成功だ。
これが機動隊なら犯人を逮捕するのが普通だが、こっちは自衛隊…犯人は射殺が基本だ。
「よし、後30秒は縮められる…30秒もあれば人質を巻き込んで自爆する何て 普通に出来るぞ!!」
「レンジャアー!!で良いのか?ここは?」
俺が赤木に聞く。
「良いんじゃないか?さっもう一回…」
俺達はひたすら訓練を行い、有事に向けて備えるのだった。
そして、そんな訓練をしつつ季節は夏になった。
ガタガタガタ…。
「おっ凄い揺れ…」
深度6はあるか?
窓ガラスがガタガタと音を鳴らし、机に置いてある書類の山が倒壊し、床にブチ撒かれる。
地震なんて日常茶飯事の日本でも深度6は流石に怖い。
しばらくするとミキタ一佐が駆け込んでくる。
「おっここにいたか…緊急招集だ!!」
「えっ…やっぱり、さっきの地震ですか?」
「そうだ…和歌山市が津波により被害が出た。
これだ…」
一佐は航空写真の束を渡してくる。
「おお仕事が早いですね…」
「トニー王国のラジコン戦闘機が撮った物だ。
沿岸部は壊滅…津波による住宅地の損害と浸水…逃げ遅れた大量の住民達が救助を待っている。」
「それにしても…トニー王国の戦闘機か…たまたま近くにいたんですかね?」
「和歌山湾付近で入港を待っている最中だった。
潜水艦の艦の名前は『東アフリカ 青年海外協力隊号』ケニアの途上国支援から帰って来た船らしい。」
確かクオリアが海外出張に使っている潜水艦だったよな…。
「なるほど…偵察機はここから出たのか…それで この潜水艦…今の状況は?」
「強い波で浅瀬に流されて一時的な座礁…。
だが 満潮になれば十分に脱出 出来るそうだ。
今、潜水艦に乗っていたクルーは 現場の判断で救援活動を開始…。
付近のトニー王国、米軍は協力体制を整えて待機…日本政府からGOサインが出るのを待っている。」
「自衛隊は?」
「第一空挺師団の普通科が担当だ。
手が空いている優秀な自衛官100名の少数精鋭で現地に行く。
救助方法は ヘリコプターによる救助者の回収だな…作戦期間は3日…。
その頃までに政府が段取りを付けて本格的な救助部隊が来るらしい…私達は それまでの繋ぎだ。」
今は まだ携帯電話が手さげ かばん程度の大きさで、非番で外に出ている自衛官との連絡手段がない。
とは言え、救助に大部隊は必要ない…少数精鋭で十分だ。
「了解…それにしても特戦の最初の任務が救助活動とは…」
「だが、意思決定が かなり早くなった。
即応部隊としての価値は 十分にある…それじゃあ、外に集まれ!!」
そうして、俺達は 最初の敵である自然災害を倒すために現地に向かうのだった。




