12 (本物のクマは可愛くない)
山の中…別動隊 発砲地点。
警戒しつつ熊鈴を鳴らしながらナオ達は別動隊の場所にたどり着く…そこには悲惨な状況が広がっていた。
「コイツはヒドイ…」
赤木が死体からドックタグを外しながら言う。
「あ~熊を舐めているから こんな事になる…。
えっと…マガジンの確認と…熊に対してライフル弾を10発 発砲…。
6人中 2人は逃げ出し、背後から追撃された…と。」
向こうの教官と思われる死体は 熊のパンチを喰らったのか 頭がごっそりと無くなっている。
更に他の4人の死体は熊に食べられたのか食い散らかされている。
「頭を吹っ飛ばせる事を考えると体重が200kg以上、身長2.5m以上の大型のヒグマかな~」
「そんなに 大きいのか…」
教官が死体を調べている俺に言う。
「取り合えずドッグタグを回収して熊の追撃をするのが得策かと…」
「何故だ?」
「熊の好物は人なんですよ…。
人の味を覚えた熊は人を優先的に襲う様になります。
それに演習地なら発砲は出来ますが、人里に降りたら殺す事も難しい…誤魔化しが 効くこの山で射殺するのが得策かと…」
そもそも狩猟免許を持っていない俺達は本来なら狩猟が出来ないし、本来なら自衛隊の所有物である64式は 訓練や人を殺す用途以外の使用は出来ない…その為 正攻法では確実に詰んでいる状態だ。
「分かった…どっちみち、この分なら合流も難しい…。
神崎…キミが指揮をしてくれ…。」
「了解しました。
それじゃあ、追い込み猟 方式で行きますか…。」
「追い込み猟?」
「ええ…熊が いそうな区域を包囲して、鈴や大声を出して熊を逃げさせ、キルゾーンへ向かわせる猟ですね。
これは無線による連係が必須です。」
「分かった…おい地図…よし、熊がいる範囲が ここら辺だから…味方の部隊をこっちに配置して…キルゾーンは?」
「ここで…味方の死臭に紛れます。」
「分かった…」
教官が無線で味方の部隊と連絡を取る。
「よし…良い感じ…」
俺は味方の死体の近くを陣取って熊を待つ、俺が熊を足止めしている最中に赤木達が少し離れた所から熊を狙撃する作戦だ。
うぉおおおおお!!
森の奥では 先ほどから叫び声や発砲音が聞こえ、熊の退路を塞ぎ、道を戻らせる。
熊は頭が良い…こちらは人を喰い殺した実績のある道だ。
鼻の効く動物なら自分と同じ動物の死臭がする場所には近寄らない…そこは危険だと遺伝子レベルで理解しているからだ。
なので一度 自分が喰い殺した場所は とりあえずは安全な場所になる。
ただ、今回はその習性を逆手に取る作戦だ。
来た…4足の足でドスンと地面を鳴らして、こちらに向かって来る。
ヒグマの時速は時速50km程度…未舗装の荒地を時速50kmで踏破出来るのは4本の足があるお陰だ。
「来た来た…」
当然ながら人の足では逃げられない…ヒグマがこちらに向かって来た時点で撤退は不可能…見えたヒグマの身体には何発か撃たれた痕があるが、バイタルゾーンの被弾は防いでいる。
ヒグマは俺が64式を持っていない事を確認すると突進攻撃をして来る。
64式が危険だと言う事は既にヒグマは学習済みだ…なので、64式を使えば即座に逃げられる…味方に狙撃して貰う為にも足止めが必要だ。
俺はヒグマの突進攻撃をひらりと回避す…追尾してこない直線運動なら容易に回避が可能だ。
そして、熊が立ち上がった…2.5mの巨体が血がべったりの前足によるパンチを繰り出し、俺は身をひねって回避をする。
おっと…やはり速い…鍛え抜かれた太い筋肉から放たれるパンチは頭を一発で吹き飛ばす勢いはある。
「よっよっよっ」
ただ、ヒグマのパンチをする際に腕の外側から内側に掛けて手で力を与えてやると、パンチの速度をかなり減速させられる…運動エネルギーの操作だ。
確かに人なら難しいだろうが、俺の頭はパンチの速度、向きを正確に捉えている。
「はい、そこ!!」
俺は熊の前足を掴んで思いっきり引っ張り、200㎏の重量が乗っている足を引っかけて地面に転がす…相手の人外の力を利用した投げ方だ…。
ヒグマは投げられた事に驚き、地面にドスン!と顔面から叩きつけられる。
俺がヒグマから離れると即座に味方からの銃弾の雨が飛んで来て、ヒグマに次々と弾が命中する…ワンマガジン撃ち切る気だな…。
ただ、ヒグマも耐えている…が、弾幕の中から赤木がヒグマの頭を1発で撃ち抜き、ヒグマは大量の血を流して死んだ。
「ふう…お疲れ…良い狙撃」
俺の元に戻って来た赤木に言う。
「それにしても よく止められたな…合気道か?自衛隊の格闘術とも微妙に違うが…」
「まぁそんな所かな…我流だから習って無いんだけど…さて、早く血抜きして解体しよう…手伝ってくれ」
「おい、この熊、さっきまで訓練生を喰っていたんだよな…それを食べるのか?」
「内臓を食べなきゃ問題無いでしょ…狩猟したら ちゃんと食べないと…」
そう言いながら俺は熊を慣れた手付きでさばいて行く…バカスカ撃たれまくったせいで銃弾の摘出が面倒だな…。
赤木は嫌そうな顔をしつつ、シャベルで穴を掘って食い残しの訓練生の死体を遺棄する…これは死体遺棄になるのだろうか?
残酷差では大して変わらないと思うんだが…。
「分かった…ああ、すまない…それじゃあ待ってる。
おい神崎…散らばっていた小隊達が集まる事になった…場所は ここだ。」
教官が無線機で別の小隊と連絡を取りながら言う。
「そうですか…丁度良い…今日の夕食は熊肉のステーキにしましょう。
久しぶりにお腹いっぱい沢山食べられますよ~」
「はぁ…なんでオマエはそこまで暢気何だか…」
「こんなクソ見たいな状況なんですから、何事にも楽しまないと…。
メンタルが負けると すぐに落ちますよ…」
しばらくして 続々と大量の訓練生達が集まってき、嫌な顔をしながらも 久しぶりの制限がない食事に食が進み、残った肉は炙って保存食にする。
翌日は栄養補給が出来た事で周辺を警戒しつつ順調に足を進めつつ またヒグマに遭遇する事もなく 合流ポイントまで辿り付いた。
「は~やっと到着だ…」
教官たちも含めて、俺以外は みんなヘトヘトだ。
顔を上げて空を見ると縦に並んだ2つのプロペラを持つチヌークがこちらに来ており、着陸態勢に入っている。
森の中の鳥がプロペラ音に驚いて飛んで逃げ始め、森の木の葉を揺らしつつ降下する。
俺達は着陸ポイントを守る為に円状に配置し、チヌークが撃墜されない様に見張る。
ただ、チヌーク側からすると俺達を巻き込まない様に円の中心にピンポイントに止めなくてはならず、逆に手間だ。
皆が過剰に離れ、誰もいない所に着地するのが一番 精神的なストレスがないのだが…。
チヌークは少しでも横に傾けば プロペラが木に接触して吹っ飛びかねない状況の中、副操縦士に下を見張らせながら慎重に着陸する…あの2人のパイロット…かなり腕が良い様だ。
「さぁ乗り込め、帰るぞ」
「おおっ」
周りを監視しながら次々とチヌークの後部ハッチから後ろ向きに乗って行き、教官が生き残りが全員が乗った事を確認するとチヌークはゆっくりと飛び上がり、駐屯地に向けて進むのだった。




