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11 (レンジャー訓練)

 習志野駐屯地。

「訓練教官のガリー 一尉である。

 話し掛けられた時以外 口を開くな!すべて『レンジャー』と答えろ。

 良いか ウジ虫ども!!」

「レンジャー!!」

「それじゃあ、まずは20kmからだ…これからどんどん距離を伸ばして行くぞ良いかウジ虫ども!!」

「レンジャー!!」

 ナオ()達は教官の罵倒での中、精神と体力を消耗させつつ、ひたすら走らされる…。

「お前の動きは遅いだ!まるで老いぼれた亀みたいだな!もっとペースを上げろ」

「ええ~」

 訓練生の1人が言う…これでも普通の駐屯地で走る分には速いはずだ。

「異論は認めない、貴様が発言して良いのは『レンジャー』の言葉だけだ!!

 良いかウジ虫!!」

「レンジャー!!」

 走り終わったら間もなくエンドレス腕立て伏せ…150回を越えた辺りから音を上げ始める。

「赤木…今何時だ?」

「はっ11時15分です。」

 訓練生の赤木が両手腕立て伏せの状態から片手で身体を支え 腕時計を見ながら答える。

「そうか…16、17…」

「時そば!?」

 教官が時そばジョークを飛ばし、150から16まで回数を戻した。

「おいおい、たかが30回で音を上げるのか?新人の自衛官でももっと やれるぞ!!」

「レンジャー!!」

「これが限界か?もっとやれるんじゃないのか、このウジ虫が!」

「レンジャー~」


「はぁはぁはぁ」

「良くやり遂げた…さあ昼食だ。」

「やっとかーレンジャー」

 赤木がそう言い、俺達は昼食をとる…が…。

「少なくない?」

 明らかに食事が貧相になっている…いつもの半分位だ。

 おおよそ600キロカロリー…って所か…見た目では家庭に出される普通の食事だ。

 ただ 自衛官は過酷な訓練をする為、1食あたりのカロリー摂取量は1200キロカロリー…1日で3600キロカロリーを消費する。

 通常の成人男性が2000キロカロリー程度だと考えると、恐ろしい程 食べる。

「兵糧攻めか…はい、どーぞ」

 俺は皆に俺の食事を分けて充電を開始する。

「良いのか?」

「ああ…電気は制限無しに食べられるからな…」

 そして、午後も訳の分からない理由で徹底的にしごかれ やっと宿舎に戻った。


 夜 宿舎。

「あ~腹減った…あれだけじゃあ、全然足りねーよ」

 同室の訓練生の蒼井がベッドの上で寝転がって言う。

「夕食も貧相だったしな…とは言え、ナオキから分けて貰っているから、ウチの小隊の食糧事情は いくらか マシのはず…」

「本当に…食べなくて大丈夫なのか?」

「ああ…電気さえ あれば、取りあえず大丈夫…。

 まぁこれから どんどん食糧が減らされて行くだろうからな…。」

「それにしても初日からハードだな…全身義体のナオキが羨ましいよ…全然平気な顔しているし…。」

「まぁ腕立て伏せや腹筋なんて 何回やっても筋肉量が増える なんて事も無いんだけどね…」

 俺は苦笑いしながら言う。


 そして、食事の量はどんどんと減らされて行き、訓練生達の口数も それに比例してどんどんと減って行く。

「なぁ赤木…銀行口座のパスワードを教えてくれ」

 俺は走りながら唐突に赤木に聞く。

「あ?2684だが?あっ…俺は何を」

「あ~着実に思考が鈍っているな…」

 俺は苦笑いしながら言う。

 頭に栄養が回らなくなった事で、身体が省燃費用のLOW(ロー)回路に切り替わり、自分で考える力を失い始める…拷問や洗脳なので良く使われる方法だ。

 この状態で、教官がレンジャー特融の価値観を吹き込みLOW(ロー)回路に組み込む事で、HIGH(ハイ)回路に切り替わった後でも、この価値観を無意識化で維持し続ける…仕組み自体は催眠術と同じ原理だ。


 そして、最終訓練…ハイキングだ。

 前後にプロペラがあるヘリコプターのチヌークに乗り、山の奥深くまで行く。

 上空でチヌークがホバリングしている中 ロープを降ろし、それを伝って地面に素早く降りる。

 ホバリング状態のヘリコプターは、非常に無防備な状態となる為、30秒以内に降りる必要が出て来る。

「よっと…」

「コケコ…」

 最後に俺が間抜け(ターキー)1と呼ばれる鶏を抱えて降下する。

 荷物は通常の2倍の50kg…孤立無援、敵に気付かれれば すぐに包囲される状況で、敵を回避(かわ)しながら 現地で食糧を調達し、20km先の拠点まで行くのが今回の任務だ。

 レンジャーでは何故(なぜ)か包囲されている山の中で野生の鶏がハント出来ると言う想定になっている。

 6人の小隊ごとに分かれて 散らばり、別々のルートを使って拠点を目指す。

「よっと…ヘビゲット…」

 赤木がヘビの首をナイフで切断しながら言う。

 俺達はガイドブックを見て、食べられるヘビだと確認し、火が見つからない様に地面に穴を掘って小枝を置き、火を点けてヘビを良く焼いて食べる。

 味は鶏肉に近い…と言うか、筋肉は 大体が鶏肉の味だ。

「教官…ガイドブックに載っていないんですが…。」

「何を食べるつもりだ…。」

「敵兵です…栄養が豊富な飼料を大量に食べ、管理され よく鍛えられた筋肉…。

 しかも、本番では肉から寄って来る状況です…これを食べない手はない。

 ヘビやウサギを探すよりか、敵兵をハントした方が早いでしょう。」

「キサマ…人の肉が食べたいのか?」

「いいえ…でも ここまで 道徳も倫理観も ふっ飛ばして置いて、食人だけを禁止するのも如何(どう)なんです?

 山の中で戦闘すれば大量の肉が手に入りますよ…にも関わらず、食べもしないで その場に放置…。

 ハンターをしている家系にいた俺からすると、山で殺した動物を食べないと言う方が死者への冒涜なのです…食べる食べないは、現場の人間に任せるとして安全な調理方法位書いて置いて欲しいですね。」

「それにしても……人は食べられるのか?」

「消化器官や臓器は感染症の問題から危なそうですね。

 ですが、腕と足の筋肉は 普通に行けるかと…。

 実際、第二次世界大戦の末期、フィリピンに米兵を喰って戦っていた日本兵の部隊…グール隊も ありますし、前例がない訳でも無いです」

「はぁ…合理的ではあるな…検討はしよう…さぁ食事が済んだら行軍再開だ。」

 教官の指示で俺達は立ち上がり、再び警戒しながら行軍を開始するのだった。

 リンリン…コケ…リンリン…コケ…。

 山道を歩く度に俺が背負っているリュックにぶら下げている熊鈴がなり、それに合わせてターキー1が鳴く。

「神崎!鈴を止めろ、敵に気付かれる…」

「いや…今 重要なのは熊との遭遇を回避する事です。

 熊は9パラや45ACP(45)が効かないんすよ…脅威度から考えれば人間より遥かに危険です。」

 そもそもターキー1が定期的にコケと鳴いているので大して変わらない。


 パパパパパッ…。

 森の中で銃声が響き渡り、周辺の鳥が一定に空に舞い上がる。

「こちらガリー…何故発砲した?状況を伝えよ」

『熊が…熊がぁああ…来るな、来るなぁあああ…』

 ドーン…と言う音がして、無線機からの通信が途絶えた。

「あっちゃあ…殺されたかな…」

 俺が言う。

「まさか…たかが熊に鍛え上げられた自衛官が殺される?」

「鍛え上げているとは言え、所詮は人ですから…どんなに身体を鍛えた所で種族差には敵いません。」

「とにかく行ってみよう…警戒を密に…どこから熊が来るか分からないぞ」

「教官…俺が先頭を歩きます…こう言うのには慣れてますから…」

 俺は熊鈴を鳴らしつつ、別部隊がいるであろう方向に向けて歩き出したのだった。

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