01 (労働災害)〇
熱い…。
日が沈んだ夜の中…役所がある広場からアトランティス村を見るナオの視界は 一面真っ赤に燃えており、大量の黒い煙が発生している。
アトランティス村の人達が建てた 竹の家は 次々と この強風で燃え広がり、全焼して行く…。
オレ達が 避難誘導した事もあり、次々と住民が逃げて来て、広場の人の密度が高くなっている。
「私の家が ああああ」
広場で作業中だった アトランティス村の女性達が、燃えて行く家を消火をしようと バケツを持って濃い煙を放つ火事の家に向かって行く…多分、皆でバケツ リレーをするのだろう。
「止めろ…ここまで広がったら もう消化は出来ない。
自然鎮火するのを待つしかない。」
先ほど男達が燃え広がる可能性がある近くの家の破壊して、他の家に燃え広がらなくする破壊消火の作業をしていたが、強風で燃え広がる速度が速い為、諦めて 広場に退避して来ている。
この状態で水での消火作業をするなんて自殺行為だ。
「でもでもでも」
「デモも機動隊も無い…煙で呼吸が出来なくなって死ぬぞ。
『押さない』『駆けない』『喋らない』『戻らない』お・か・し・も・だ。
皆の顔を確認しろ…誰かいない奴はいるか?」
オレが女性達を強引に止めて広場に逃げて来た大量の人の前で言う。
空ではクオリアが上空から火事の現場を確認している…。
『クオリア…生存者は まだいるか?』
量子通信でオレは クオリアに話しかける。
『いや…現在、ボンベが直撃した炉で製鉄をしていた大人1名が酸水素の引火により爆死、破壊消火を行っていて逃げ遅れた 大人3名…。
その近くにいた子供1人が焼死…生存者は見当たらない。
ナオ…本当に消火 しなくて良いのか?』
『ああ…オレ達がチートを使わない限り、消火は不可能だ。
この後、これを教訓に家の耐火性を上げて、消火訓練や避難訓練をする。
改善する機会を奪わないでくれ…。』
『人は死人が出ないと学ばないと言うからな…。
分かった…ただ、私達がやってしまった手前、偶然 雨が降る位は良いだろう。』
『偶然ね…。』
クオリアがどんどんと高度を上げて行き、火災で発生した空気が上空に上がり煤を含んだ黒い雲になっている。
クオリアはその雲まで行き、魔法で周囲の空気を冷却し、意図的に雨を降らせる。
小雨の雨が、火事が起来ている家に降り注ぎ、炎の勢いは 中々止まらないが、湿った竹の家の燃え広がりが遅くなっており、確実に自然消火に近づいている。
そして その雲から地面に落ちてくる雨は黒っぽかった。
「黒い雨ね…。」
『その雨は 放射性物質を含んでいない、危険性の低い雨だ。』
『分かっているよ…。』
一般的に黒い雨とは、核分裂による莫大な熱量で一気に気化した放射線物質を含んだ水蒸気が、上空で冷却される事で雲になり、更に雲の中の水分が飽和状態になると黒い雨となって地上に降り注ぐ物だ。
ただ、空爆や山火事の後にも煤や工業物質を含んだ黒い雨が降ったと言う。
今回は、燃えた殆どが木や竹なので、健康被害は起きないだろう。
『それで、危険性が低いって言ったとしても このままじゃ問題だろう。』
『燃えたのは 全体の家の3分の1程度だ。
火事が消火されれば、家に戻れる。
仮説住居として考えるなら十分だろう。』
『まぁそうなんだが…。』
クオリアから被害状況のデータが送られてくる。
現在、燃えている区画は居住区画で、乳児、幼児がいる重要拠点である竹で出来たドーム型の保育所と その周辺に住む 親がいる居住区画にまでは火の手が及んでおらず、完璧に残っていて、アトランティス村の3分の2の建物が全焼し、3分の1の建物が生き残った。
「竹の家の中で かまどを造るから こうなるんだよ…。
火を使う場所は石造りにするか、レンガで造るのが基本だ。」
クラウドが やって来てオレに言う。
「オレも火災には 気を付けていたけど…。
ボヤと強い風だけで ここまで燃えるんだからな…。」
今回の火災がここまで広がった原因は、外に出していた炉が雨の日の度に濡れて水分が完全に飛ぶまで非常に燃焼効率が悪くなるとの事で、改善策として アトランティス村の側の炉を竹の部屋の中に移動させて室内に設置した事だ。
ただ 設置の際は炉の小屋が全焼しても良いように、住民達が住んでいる居住区画から10m程 距離を空けて立て、すぐに初期消火が出来るように川の水を入れてあるバケツが常備されてたはずだが、製鉄の作業中でバンバン木炭を燃やしている中、タイミング良くオレ達が造ったガラス繊維のボンベが上空から小屋に突っ込み、炉の火とボンベ内に残っていた酸水素により爆発…職人は爆発に巻き込まれ即死。
当然ながら バケツの水による消火も 出来ず、更に不運な事に夏が近い為か 小屋の外は 強風が吹いており、火の燃焼速度を飛躍的に加速して、住宅地に火が移り 火災が広がって行った。
住民の安全や教育を軽視して、バンバン文明を進めて来た事へのツケを今になって支払わされていると言う事だろうか…完璧に労働災害だ。
「それで如何するんだ自称神様?」
クラウドがオレに聞く。
「スピード重視の竹の家から 今度は難燃性の まともな建物に切り替える…。
いよいよクラウド商会の建物が出来るぞ。」
「さて、今度はどんな物を見せてくれるんだ?」
オレとクラウドは 黒い雨で火災が消火を待って、爆発現場に向かって行った。