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09 (この技術が広まる事を信じて)

 最初の混乱期を過ぎ、今は週に1回の水とクッキーの補給物資が届き、モリシタ()達が それらを消費する生活に落ち付いて来た。

 大きく変わったのは ミドリムシ クッキーが通貨になった事。

 乾季は水が無く作物を育てられない状況なので、食料不足になっている彼らからすれば、紙幣では無く、食べられる通貨は 非常に魅力的に写るらしい。

 ちなみに1日の労働が24クッキー、水1リットルが6クッキーで取引されている。

 これは流石のトニー王国も予想外だった様で、並行して支援している途上国の村にもクッキー通貨の実験を始めた。

 そして、井戸の掘削は遅いが 確実に成果を出しており、今は大人達が道を作り、子供達は家を造っている。

 まずは半径3mの紐を地面に固定し、地面に円を描いて行く。

 そこに土嚢(どのう)を丸く積み上げ1段目が完了…そして2段目も3mの紐を使って場所を決めて行く。

 地面から離れた事で紐が斜めになり、2段目は1段目より少し手前に土嚢(どのう)が置かれる。

 そして窓や出入口に考慮しつつ、3段目、4段目と紐で位置を決めながら土嚢(どのう)を積み上げて行くと3mのドーム型の空間が出来る。

 土嚢(サンドバッグ)建築…2度の大戦で各国で大量に建築されたドーム型のトーチカだ。

 この建物は空爆や ライフル弾、手榴弾などから住人達を守ってくれる簡単に作れる割りに非常に頑丈な家となる。


 子供達は私達を興味津々で手伝ってくれている。

 彼女らは 小さな手で土嚢(どのう)を運んできては 積み上げ、彼女らの無邪気な笑顔を見る。

「良い感じに出来てるね」

 モリシタ()は出来上がりつつあるドーム型の土嚢(どのう)ハウスを見ながら言う。

 しばらくして 3mのドーム型の空間が完成した。

 日の出辺りから建築を始めて、ゆっくり やっても 夕方位には もう完成している…建築速度も非常に速い。

 中に入ってみると ドーム型の為か圧迫感が無く、個室としては 少し広過ぎる位のスペースが出来た。


「みんな、お疲れ様!これで少しは安心 出来るかな?」私は周りを見渡しながら、皆に日当である水とクッキーを配って行く。

 住民達は 疲れ切った表情で(うなず)く…しかし、その表情には 希望が宿っているように見えた。


 土嚢(どのう)の家の中にレンガのブロックで暖炉を作り、天井にはレンガの煙突を通す。

 レンガは四角く固められた土器であり、作り方は大して変わらない。

 燃えている暖炉には 土器が置かれており、焼かれている最中だ。

 もう土器の入れ物の自給自足が始まって来ていて、窓から外を見ると土嚢(どのう)の道が見え、今では工事現場に行くのに 少し遠出する位の距離まで出来上がっている。

 土嚢(どのう)で囲まれた畑には 土嚢(どのう)で壁を作った用水路(塹壕)が建築されていて、井戸が出来上がれば ここから水を畑に通す計画だ。

 更に土嚢(どのう)で厳重に囲った深さ50cmのプールを作り、その中に砂や砂利を入れてプールに埋めていく。

 これで雨季に雨が降ると、砂利を通って不純物が取り除かれ、下に取り付けた蛇口から 砂や砂利でろ過された水が出て来る。

 しかも 上から砂利や砂を被せている為、土の中の水が蒸発しずらく、乾季になっても水場が干上がらず水場を確保出来る即席の砂ダムだ。


 そしてポツポツを雨が降る時期に入り、住民達は 乾季に耕していた畑に作物を植えて行く…雨季に入ると農作業が多くなり、道路や家の建設もストップ…。

 ただ井戸掘りだけは、オオノさんを中心に休みが無く続いている…後20m程で目標の深度に到達する。


 後もう少しと言う所で厚い岩盤に入り、大幅に作業が遅れる…今だと1日に10cm位だ。

 乾季に入る位には 終わるだろうか?


 ここに来てから1年が経ち再び乾季に入った。

 乾季に入るの同時に作物を収穫し、砂のダムに溜めていた水を使って 次の雨季までの長い戦いが始まる。

「水が出たぞぉぉぉ!!」

 井戸を掘っていた子供達が井戸掘りの仕事をほっぽり出して、村中に伝えに行く。

「ちょっと待って…仕事は?」

 オオノ()はあきれた様子で子供達を見る。

 厚い岩盤を抜いて 出て来たのは まだ泥を含んだ水…これから井戸から泥を抜いて綺麗な水にしないといけない…もう少しだ。

「いやっ待って泥水を飲むなよ…いくら腹が丈夫でも持たないぞ…ほら手伝って…井戸から泥を抜くよ」

 今まで水が出るか 半信半疑だった大人達も、打って変わった様に手伝い出し、そして遂に綺麗な水が出て来た…。

「本当に綺麗な水が出て来た…ありがとうオオノ…」

「いや、井戸を掘ったのは僕じゃない、この村の人達だよ…実際、僕らは殆ど指示するだけだったし…。

 それにしても、任期の1年で如何(どう)にか なったな…」

 僕達の派遣期間は おおよそ1年…これは先進国出身の僕達のメンタルが持たなくなる事を考慮して設定された時間だ。

「ええ…帰っちゃうの…もっと いてよ…。」

「毎回、ここの水や食事を受け付けない僕用に追加補給を受けていたからね。

 もう少し ここに いたい気持ちもあるけど、補給物資を断たれたら僕は ここで自給自足する事は 出来ない。

 モリシタなら 綺麗な水も確保出来たし、現地の食糧だけでも やって行けるとは思うけど…。」

「私は別の地域に行かないと行けませんからね…」

 モリシタが出て来た泥水を見ながら言う。

「えっ…帰国せずに?」

「ええ…土嚢(どのう)を使ったインフラを広めないと…」

「それじゃあ、撤退の準備が必要ですね…次の補給日…明日に ここを発ちましょう。」

「そうですね…」

 その夜、周辺の村を巻き込んだ祭りが開催され、僕達は 土器のコップに入った綺麗な水で乾杯し、近隣住民と一緒に 今までの事に付いて語り明かした。


 そして、翌日。

 大型テントに設置された太陽光パネルや、ミドリムシを入れた水槽をそのまま置いて行く。

 まだ数が少ないが、井戸の綺麗な水を使い、この村でミドリムシを作れれば 生活も いくらか豊かになるはずだ…と言うか、ここの通貨である ミドリムシ クッキーを このテントで製造出来る様になっているので、実質の造幣局だ。

「それじゃあ、行くよ」

「本当に行っちゃうの?僕達にはオオノとモリシタが必要」

 子供が言う。

「大丈夫…キミ達は僕の弟子なんだから、この1年僕達が教えて来た事を思い出して…もうキミ達の力で出来るよ。

 次はキミ達が先生になって井戸掘りの技術を教えるんだ。

 そうすれば、この村はずっと良くなる」

「ありがとう…本当にありがとう…この技術を他の村にも伝えるよ」

 僕達はエアトラに乗り込み、垂直離陸をして安全高度に上がった所で翼を前に向け、速度を上げて村から去って行った。

「なぁ あの村、発展すると思うか?」

 僕は機長席に座るクオリアに聞く。

「彼らの頑張り次第だと思うが…ただ設計図の本を1冊置いて来た。

 ガラスや炭素繊維に、酸水素の作り方、エンジンを開発してバギー、農作業用の機械一式、初期のエアトラの作り方など…1ページごとに丁寧に作って行けば、辿り着ける様になっている。」

「昔、トニー王国が やった手順だな…それにしても 良く出来ている。」

 副操縦席のクラウドが、辞典サイズの設計図の本のページを めくりながら言う。

「うわっ…最後、原子力発電まで描かれている…あの村に核燃料あるのか?」

「いや…これは、ある程度 他国との交流が始まった後の技術だ。

 流石に単独で ここまで造れると想定していない。」

「そっか…」

 そんな話をしつつ、僕達はトニー王国の潜水艦に着陸し、今回の海外派遣は()()の終わりになるのだった。

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