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08 (途上国スターターキット)

 餌付け…と言う言い方には 少し問題があるが、大量の水を運んで水汲みをしなくて良くなったからだろう。

 住民達の好感度は高く、こう言った支援に良くある現地民による余所者の排除は無く、私の声に ちゃんと耳を傾けてくれる。

「それじゃあ、道路を作ろうか?」

「モリシタ…アスファルトは余っているのか?昨日で全部使い果たしたんじゃ…」

 長老がモリシタ()に言う。

「あ~今回はアスファルトを使わない道路作りです。

 さぁて頑張って見ましょう~」


「まずは土嚢(どのう)を作ります。

 はい、袋を配りますね…」

 私が土嚢(どのう)袋を住民に渡し、シャベルを使って土を入れて行く。

「はい、一袋出来ましたね…これを ひたすら繰り返して下さい。」

「意外とキツイな…なぁこんなので本当に道が造れるのか?」

「作れますよ~それも頑丈なのが…それじゃあ お願いしますね」


 道路建設地

「さて、まずは地面を耕して草を取り除きます…これは 農作業と同じですね…それと可能な限り地面を平らにして下さい。

 それで 作って貰った 土嚢(どのう)を地面に叩きつけて 土を押し潰し ま~す。」

 住人達は普段から土を耕しているので、妙に手慣れている。

 こりゃあ 知識がメインの私より優秀だ。

「モリシタ~次はぁ?」

「えっと、固めた上から土嚢(どのう)を乗せて また平らになる様に潰します。

 それで、その上から土を被せたら また平らにします、それで終わりです。」

「えっ簡単じゃん」

「そうです…簡単ですよ…でもこれを繰り返すのはキツイです。」

「モリシタ~地面より道路の方が高いんだけど」

 手伝ってくれている子供が言う。

「それで良いのです…ここの土は粘土質、今は乾季なので大丈夫ですが、雨季になると溜まった水で地面が泥になるはず。

 でも、こうやって段差を付ければ、雨が左右に行くわけですね。」

「おおっ…頭良い…日本もこんな風に道路を作るの?」

「まぁ物資の無い戦後は そうだった見たいですが…。

 とは言え アスファルト舗装でも基本は変わりませんよ…さぁ頑張って」

 今はやっと1列…50cm程しか舗装されていない…でも、ここの住民の力で作り上げた道だ。

 翌日からは 水汲みをしていた女子供が中心に集まり、土嚢(どのう)道路の建設を本格的に開始。

 道路付近の村の住人も集まり、人手が集まった事により土嚢(どのう)道路の工事が軌道に乗って来た。

 そして、多少だが給料も出る…。

「はい、お疲れ~」

 私は給水タンクから1リットルのペットボトルに水を入れて、袋詰めされたクッキーを24個と一緒に渡す。

 このクッキーには 日本企業のユーグレナ社が生産しているミドリムシが練り込まれていて、エクスマキナ教会経由で現地人に送られている物だ。

 ソイフードが主流のトニー王国とは違い、日本では ミドリムシで人工食料のソイフードを作る事はなかったけど、安価で栄養が豊富のミドリムシは、戦後の栄養不足時代を助け、今では様々な加工食品の栄養 添加物として使われている。

 これで栄養環境も良くなると良いんだけど…。

 私は 応急処置 程度なら出来るけど、患者が多くなればなる程、医薬品が足りなくなって対応が出来なくなる。

 なら、栄養の面から治療して 病人の数 そのものを減らしてしまう方が良い。

 その内、こっちでもミドリムシを製造して見たいと思うんだけど、衛生環境から何もかもが足りない…これではミドリムシの種を与えても 生物界 最弱のミドリムシは すぐに全滅してしまうだろう。


 1週間後。

「おっ…道が出来て来たな…。」

 クオリアがエアトラから降りて来て言う。

 クラウド達は 補給物資をテントに持って行っている所だ。

 そして、更にエアトラからは 人が入れる程の大きさの回し車が出て来る。

「これは?」

「お待ちかねの井戸掘りの機械だ。

 色々業者に掛け合ってみたんだが、やっぱり道路整備が出来るまで搬入が出来ないと言われた…場所によっては 機材を失う可能性もあるからな…。

 そこでだ…代替案として これだ上総掘(かずさぼ)り。

 これなら現地の住人との協力があれば井戸を掘れる。」

 クオリアが身体より大きい機材を運びながら言う。

上総掘(かずさぼ)りですか…そんな方法 聞いた事も無いです。」

「まぁ動力式の掘削が一般になった事で失伝寸前になった技術だからな。

 実際 後継者がいず、エクスマキナ教会に技術の保存を頼んでいた所だった。

 で、タイミング良く 私の所に情報が入って来た訳だ。」

 クオリアが言う、そんな話をしてると掘削の技術者と思われる男が回し車を担いで こちらにやって来る。

「こんにちは 僕は オオノです。

 こちらで上総掘(かずさぼ)りの技術指導をする事になりました。

 これで、僕の技術を受け継いでくれる技術者が生まれれば良いのですが…」

 オオノが やる気を満ちた声で言う。

「よろしく、モリシタです…通訳は任せて下さい。」

「助かります…僕、英語が苦手で…。」

「それで如何(どう)すれば良いですか?」

「あっそうです…事前の地質調査から ここら一帯に水脈がある事は確実です。

 ただ、60m以上 掘り進める事になるのですが…3ヵ月から半年位の長期戦になりますかね…場所は…そう、テントの後ろにしましょう。」

「人員はどの位、必要ですか?」

「最低で3人…欲を言うなら6~9人は欲しいですね~。

 交代要員も必要になって来るでしょうし、何より僕は弟子を育てたいです…日本では活躍の機会が無くて…」

「分かりました…長老と交渉して来ます。

 こちらは 道路作りと家づくりをしてますね…これで この村が発展出来る。」

 私はそう言い、今日の作業を続けるのだった。


「よっと…はい」

 オオノ()達は上総掘(かずさぼ)りの掘削機の組み立てをしている。

 普通、上総掘(かずさぼ)りには、木材と竹が使われる…ただ今回の掘削機は、トニー王国のアレンジ品で 炭素繊維の軽量、丈夫な構造になっている。

 これによって、エアトラでも積める重さになった訳だ。

 この上総掘(かずさぼ)りの特徴は 木材と鉄があれば、多少難しいが現地でも製造が出来る事。

 これで、僕達がいなくなったとしても、僕達の弟子が井戸掘りを続けてくれる様になる…それが僕の望みだ。

 シャベルで軽く穴を掘って、そこから紐が付いた掘削用の鉄パイプを降ろして行く。

 それを回し車と上に付いた竹の弓の張力で、堀り進めていく仕組みだ。

「おっ今日も来たね…。」

 今は道路工事に建物の建設もしているので、毎回 別々の子供達がやって来る。

 まぁ弟子が増えるのは良い事かな…。

 更に別の所では クオリアが炉を作り、土器の作り方を教えている。

 これは 今後、ガラスや鉄を融かして物を作る為に必要な技術だ。

「さて、今日も頑張りましょう。」

 子供に回し車に乗って貰い、動かしながら掘削機のパイプを地面に突き刺し、パイプの中に土が入り、引き抜いて土を排出…その繰り返しで 少しずつ穴を掘って行く。

 1日頑張って1~2m…硬い岩盤などに 当たってしまえば、1日に10cm進むかと言う所だ…それでも0じゃない…時間が掛かるが地道に掘削を進めていく。

 扱う 住民達が完全に素人の為、作業はあまり進んでいないく、このペースだと60m掘るのに 3ヵ月は掛かるかな。

 僕はそう思いながら作業をして行くのだった。

 

 クオリア()は住民達に土器の作り方を教えている。

 住民達は何故か ステンレス製の桶やポリタンクを持っていて、服も身に付けている。

 それらは この村では製造が出来なく、多分どっから か拾って来たのだろう。

「なぁクオリア…日本の戻らなくて良いのか?教会の運営は?」

 クラウドが住民達と一緒に土器を作ってる私に聞いて来る。

「本当の緊急時には連絡が来るはずだし、私がいなくても十分に機能する様に創ってる…それに これは海外出張だからな…」

 今回は エクスマキナ教会からの海外出張で、現地民に技術を与える事を目的に活動している。

 そして、ここでの支援のやり方は記録に残されて、効率化と最適化を繰り返し、今後 多くの途上国がこのデータを元に救われる事になる。

 私の場所と連絡先は教えてあるし、連絡が来ないなら問題 無いのだろう。

「さて、出来た…これで後は炉で焼くだけだ。」

「結構 簡単なんだな…」

 粘土で器を作っている子供が言う。

「そう、これは1万6000年も前からある技術だからな…人類最初の人工物だって言われている。

 土器の製造は結構 画期的な発明だったんだ。」

「これが?簡単に壊れそうだが…」

「土器の利点は 水や食料を中に入れて持ち運べる事。

 つまり、物を移動させて備蓄させる概念を覚える切っ掛けになったんだ。

 キミ達は普段 ステンレスの缶や桶を使っているが、これは キミ達には製造が出来ないだろう。」

「確かに…それじゃあ 土器で技術を積めば いずれ ステンレスの容器も作れる様になるのか?」

「キミが それを望めば…ね…。

 陶磁器(とうじき)も、鉄も、ガラスも、もっと炉の温度が高いから…。

 だから、一足飛びにしないで まずは土器から…。

 それから 少しずつ扱える温度を上げて行けば、いずれは 炭素繊維を製造出来る様にする…まぁそれは何年も先の話だろうが…。」

 それから私達は道路工事を妨げない範囲で土器や炉の作り方を教えるのだった。

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