07 (魚を与えるより釣り方を教えよ)
ケニア、モンバサ付近の海上。
モンバサの港には 次々と貿易船が出入りを繰り返している中、邪魔にならない少し離れた所に 側面の装甲に『東アフリカ 青年海外協力隊』と英語で描かれ、その横には トニー王国と日本の国旗も描かれているトニー王国の潜水艦が海に浮かんでいる。
この潜水艦は 日本の青年海外協力隊とトニー王国軍…と言うより、エクスマキナ教会の協力で、主に東アフリカの技術支援の為に活動している移動拠点だ。
日本が現地入りして まず困ったのは輸送手段。
技術が遅れているだけな地域なら ある程度は車で輸送出来るので簡単だが、クオリア達が救うべき相手は 道と言えるか怪しい道路の奥におり、当然 そこには ガソリンスタンドも無い。
車の荷台にガソリンの入ったポリタンクを積む事も出来るが、持ち込んでも長期間の滞在が難しい…この為、支援の規模に対して移動コストが非常に高くなる。
ただ、それは ガソリンで車を走らせているからで トニー王国の車は酸水素車…水とある程度の水流があれば、現地で燃料を調達出来る。
その為、両国の友好関係の一環もあり、二国の共同で技術支援を行う事になった訳だ。
潜水艦内 食堂。
食堂には各支援地域に対してのメンバーがおり、現在は4ヵ所同時に進めている所だ。
「難しいな…一応 現地にヘリポートだけは 作って来たが…」
クオリアが書類を見て言う。
「問題は 金だな…ブルンジ共和国の経済規模から考えて、日本側が立派な道を作っても 宝の持ち腐れになるだろうし…。」
私の隣に座るクラウドが言う。
現地を見た所 車は まだ普及していないし、軽車両程度ならアスファルト舗装された道路など不要だ。
「なっ、金は円借款を使います。
まともな道さえ出来てしまえば、こちらで如何にか なります。」
ブランジのインフラ事業部の役人が言う。
「円借款って言っても借金だよ。
金利が年0.1%とは言え 返済には苦労するし、それにブランジ全体に道路を整備するには予算が掛かり過ぎる…モリシタ…何か解決策はあるか?」
クラウドがモリシタに聞く。
モリシタは 現地人との交流が担当で、現地人との信頼を獲得して こちらの支援を受けさせ やすい環境を造るのが目的だ。
「そうですね…正直に言いますと アスファルト舗装の道路は まだブランジには 早いと感じます。」
「先ほどから我々をバカにして…」
「バカにしている訳では ありません、現にブランジの殆どの物は輸入に頼り切りで、自国での生産能力は貧弱です。
まずは簡単な物から作って行って、少額のお金を稼ぎます。
それを少し高度な事への技術投資に使い、国のレベルが少し上がります。
次に その上がった物で、お金を稼ぎます。
こう言うのは 一足飛びで 他国の力を借りて 立派な物を建てても、現場の技術で補修 維持が 出来無ければ 意味がありません。」
「となると、安心と実績のスターターキットか…」
私がモリシタに言う。
「ええ…あれなら、期待出来ます…何より安い。」
「えっと それは?」
「土嚢です。英語だとサンドバッグ」
「はっ?何故 そこでサンドバッグが出て来る?サンドバッグで道が作れるのか?」
役人は少し怒って私達に言う…バカにされていると思っているのだろうか?
「土嚢は結構 凄い万能アイテムなんです。
道の他に家、水路に小型のダムに、設計次第では橋も作れます。
これらは 今、あなた方が望んでいる物です。」
「確かにそうだが…」
「この利点は、安い、早い、簡単…まずは数人の技術者達に私達が道路の作り方を教えます。
1週間後、その技術者達が先生になって、また別の技術者に教えます。
これを国全体で繰り返して行くと、一気に道路のインフラが発展して行きます…その発展 速度はアスファルト舗装では到底かなわない速度です。」
「しかも、土嚢の道路づくりに現地住民を使う事で、コストを抑えられるし、特殊技能も必要ない。
雇った現地住民が金を使えば、経済の活性化にも繋がる。
更に 土嚢はアスファルトに比べて耐久性が低いが、壊れやすいから補修メンテナンスを学べる。
その後の高度技術には安全管理が必須でな…今の内に少ない事故を起こして安全管理の重要性を学べば、後々の重大事故の数を減らせる。」
クラウドが言う。
「更に 土嚢の中身の土を変えて見たり、土嚢の外側からモルタルでコーティングしたり、派生技術も かなりある。
そうやって少しずつ技術を蓄積して行って、土嚢袋も自国内で大量生産 出来る様にする…当分は これが課題だな」
私が役人に向かって言う。
土嚢に使われている紐を編む技術は 布の製造に繋がり、服の産業にも繋がる。
「良く考えられている…良いでしょう…と言う事は、大量にサンドバッグの袋を輸入しないと いけないな…」
「そこで、日本の土嚢袋を大量に買ってみませんか?
これなら円借款をせずとも出来ますよね」
「ははは…良いでしょう…とは言っても…こんなに安く出来るとは…」
「まぁ各国がインフラを売って儲けたいって事もあるんですけど、どこの国も金を掛け過ぎなんですよ。
現場は そんな立派な性能は求めてないし、必要な物は 土嚢さえあれば 如何にかなります。」
「ですが、それなら日本の儲けには ならないのでは?」
「ええ…ですが、私達は釣り方を教えるのが目的ですから?」
モリシタがインフラ事業部の役人に言う。
「釣り方?」
「そうです…今、日本が大量の魚を支援したとしても あなた方が食べてしまったら そこで 終わりです。
でも、私達が魚の釣り方を教えれば、自分達で魚を獲れるようになりますよね…。」
「なるほど…確かに釣り方を教えて貰った方が長期的には利益が得られる。
良い考え方だ…これからもブルンジの良き先生となって頂きたい」
「ええ…よろこんで…」
2人は固く握手を交わすのだった。
ブランジ、とある村、長老の家。
長老は床で苦しそうに寝ている娘を見る。
娘は身体が弱い…泥水を飲むと いつも腹を痛め、寝込んでしまう。
それでも渇きで死なせない為には泥水を飲ませるしか無く、今は熱を出して寝込んでいる。
パタパタパタ…。
「なんだ?」
家の外に出て空を見ると、1羽の鳥がパタパタパタと聞きなれない鳴き声を発して、こちらに やって来る。
最初は小さかった その鳥は、近づいて来た事により みるみる大きくなり、やがて 人が乗せられるサイズになる…あれは伝説に存在するのドラゴン?始めて見た。
他の家の人達も次々と集まってくる中、鳥は翼を上に向けて、畑の周辺を周り、クオリアが作った砂利の道路に着地する。
そして、やかましいかった パタパタの鳴き声も収まる。
「戻ったぞ…支援物資だ。」
クオリアはドラゴンの尻からリアカーを引いて出て来る。
「速いな…まだ7日しか経ってないぞ」
どうやらこれはドラゴンでは無く、人が造った飛行機械の様だ。
「本格的な工事は まだまだ先、まずは渇きを解決するのが大事だと思ってな…皆に伝えてくれ、今日の水汲みは中止、綺麗な水を持って来たから集まってくれ」
クオリアがタンクを叩く。
「そんなに多くの水を?どこから?」
「ここから100kmほど行った所に ヴィクトリア湖って言う 大きな湖があるんだ…この水はそこの水だ」
「そんな遠くから…わざわざ」
「いや…この飛行機は 時速500km位 出せるから15分程度の距離だ。
空を飛んでしまえば 割と ご近所になる。
そして、紹介する この方はモリシタ…この村の担当になった人だ。
彼はここに住む事になるから、問題があれば彼に行ってくれ」
「モリシタですよろしく…」
「本当に助かる…こちらも よろしく頼む」
「早速ですが、腹を下している人はいますか?薬を持って来たのですが…。」
「!?…私の娘だ…それに高熱も出している。」
「う~ん 赤痢かな…見て見ます…クオリア達は住民に水を配って、後、エアトラから 荷物を降ろして置いて」
「了解した。」
長老の家
「ふう…薬を飲ませましたので 取りあえずは大丈夫です。
それにしても、ここの人達 胃が強いですね…皆 軽症の範囲で収まっている」
「胃が強い?娘は胃が弱いのではないのか?」
「モリシタ達から比べれば、相当に強いです…私なんて泥水を飲んだらお腹が大変な事になります。
やっぱり、普段から泥水を飲んでいると耐性が付くのでしょうか?」
とは言っても、人間がこの環境に適応するには限界がある…綺麗な水は必須だ。
「モリシタは医者なのか?」
「いいえ、私は医者ではありません。
私に出来るのは薬を使った簡単な治療だけです。
それも どこまで通じるか…」
私は ここに来る前に 薬の服用や診察、簡単な治療が出来る程度まで 講習を受けた。
私は 医療資格を持っていないし、付け焼刃だけど 自分の身を守るのには必須だし、ここでは私が実質の医者になる事もあるだろう。
家の外に出てエアトラのヘリポートの近くまで行くと、クオリアが住民達が渡す入れ物に綺麗な水を入れており、住民達が不純物が混ざっていない透明で綺麗な水に驚いている。
そしてヘリポートから少し離れた場所には 私の家になる大型の業務用テントが もう出来ていて、今は 私達が拠点にしている潜水艦と連絡を取る為のトニー王国製の衛星用 パラボラアンテナと、その電源になる太陽光パネルをテントの上に設置している所だ。
下ではDLに使われている大型のキャパシターがあり、太陽光パネルで得た電力は このキャパシターに蓄電され、無線などの電気に使われる。
特に幌馬車のバギーを走らせたり、コンロを使うには酸水素が必須だったりするので地味に重要だ。
中に入ると、マットレスを敷いた ふかふかのベットとベットに取り付けられているテーブルがあり、その隣には私の食糧に医療品やシャベルがあり、大量の日本製の白い土嚢袋が紐で結ばれて積まれている。
外を出るとエアトラが地上走行でゆっくりと移動し、作業員達が砂利の道をアスファルトで舗装し始めている。
人や車が走るなら土嚢の道路で十分だが、これから何度も垂直離発着する事を考えると、衝撃に強く耐熱性が高いヘリポートが必須だからだ。
その日は 私はテントの中のベットで眠り、クオリア達は 空っぽのエアトラの中で車中泊をするのだった。
翌日にはアスファルトも固まり、試運転で離発着を繰り返して 性能を試験する。
「よし、大丈夫そうだな…モリシタ…私達は撤退する…次のプレゼントは1週間後だ…水は大切に扱えよ」
「ありがとう…それまでに 住民達と土嚢で道路を作り始めて見ます。」
私がそう言うとクオリア達はエアトラに乗り込み、私が住民達に離れる様に言うと、エアトラが垂直離陸をして飛び立った。
「さて皆、節水しないとけないけど、水は届けて貰える様になりましたよ。
水汲みの時間を使って道路の建設をしましょうか?」
私は皆の前で笑顔で言うのだった。




