02 (銀色妖精)
翌日…夜。
やかましいエンジン音を鳴らしながら高級車らが峠を上がって行く…彼らの目的は山頂の休憩所だ。
クオリアも酸水素を使った軽トラで後を追う。
休憩所。
休憩所の駐車場には昼間では あり得ない程の大量の車がおり、その車を見に来た人達も来ている。
走り屋は エンジンを切って外に出る。
「おっ…銀色妖精?」
「えっ…あのトニー王国製の軽トラ使い?」
「そうだ…あの子は、各地の公道レースで活躍している期待の新人だ。
レース用に調整された高級車も次々と破れている」
「まさか…軽トラで?いや燃料が酸水素だからか?」
「それも如何だろう…ガソリンは1㎏辺り40MJ。
酸水素は120 MJ…重量当たりのエネルギー量は3倍も高いが、酸水素は 気体だから燃料タンクに入れられる量にも限りがある。
峠を上がって来た時のエンジン音を聞く限り、他よりエンジンの回転数が圧倒的に少ない感じがした。
酸水素エンジンは1回のサイクルでガソリンの3倍のエネルギーを作れるから、燃費を考えて回転数を落としている…と言った所だろうか?」
「レシプロとロータリーの違いもあると思いますがね…。
それにしても酸水素エンジンなんて…造っているのはトニー王国位ですよね…。」
「ああ確実にな…それに日本では普及していないエンジンだ。
ガソリンと違って 酸水素スタンドはないし、水道水と家庭用電源で時間を掛けて燃料を作る事になるからな…」
「今日はよろしく頼む」
銀色妖精がヘルメットを脱ぎ、銀髪の長い髪を なびかせながら言う。
彼女の服はトニー王国製のパイロットスーツを着ていて、走り屋と言うよりレーサーだ。
「こちらこそ…銀色妖精に会えて嬉しいよ…。
それにしても、何で軽トラ?エンジンもトニー王国製なんだろ」
休憩場の駐車場にある車は どれもが カッコイイ スポーツカー…軽トラを動かしている走り屋なんていない。
「そうだ…確かにボディーの関係上、風をモロに受けるから最高速度では不利になる…たが峠なら最高速度は関係ない。
むしろコイツはブレーキが掛けやすくてラクだ…それに…」
「それに?」
「私が開発しているのは スポーツカーじゃなくて一般車だ。
この公道レースに参加するのも そのテストの為にやっている。」
「なるほど…」
メーカー側の人間か…これは手ごわそうだ。
「では良い勝負を…」
「ああ…」
今回のレースは峠の頂上から一気に ふもとまで降りるダウンヒル…カーブでのドリフトがポイントだ。
相手は赤のRX-7…モロにスポーツカーだ。
「5、4、3、2、1、GO!!」
手を振り下ろされたのと同時にクオリアは アクセルを踏み、軽トラを加速させる。
ふむ加速では不利…すぐに相手のRX-7に抜かれ、こちらが後ろに付く。
「う~ん…燃費優先にしている所が裏目に出ているな…」
酸水素はガソリンの3倍もエネルギー量が高い為、本来ならガソリン車よりパワーを出せる。
ただ、この機体は わざと回転数を落として酸水素車の弱点…燃料積載量をカバーしている…その為、スポーツカーに比べればパワーが出ない。
RX-7がコーナーをガードレールギリギリで曲がり続け、私の軽トラも後ろから追いかける。
「うん、優秀…ただ機体の性能に甘えているな」
ギアを落とし、右足を横向きにしてブレーキをアクセルをテンポ良く踏み、インコースをせめてドリフトをして行く。
そして RX-7がアウトコースからインコースに入り、カーブを抜けた後で再加速…これは こちらの方が早い。
これは 重量の差だ…炭素繊維装甲の軽量素材を使った軽トラは 見た目より軽く、ハンドリングの応答も早く、慣性力も少ないのでインコースに周り易い。
なのだが、前にはRX-7がおり 頭を抑えられてドリフト後の加速が生かせない。
そして、直線道路では高出力のエンジンを搭載しているRX-7に分が高く、距離がどんどんと引き離される。
RX-7は またアウトコースを取り、カーブをガードレールギリギリで曲がりながらインコース側に抜ける軌道を取る。
重い事による安定性と地面に押し付けられたタイヤのグリップ力を使った綺麗な曲がり方だ。
そして次のカーブ…こちらは少しインを攻めてみる。
こちらの機体は重量が軽い分 ドリフトがし易く、コントロールもし易い。
キキキィィィ
「何だあの軽トラ…RX-7の後ろに付いてやがる…」
「あのドリフトテク…如何なってるんだ?」
「これが酸水素エンジンの力なのか!?」
軽トラが後ろに付くっついて来る…嘘だろ…引き離せない。
「スリップストリームを使っているのか?」
直線で引き離したとしても、次のカーブで軽トラがドリフトをして差を縮めて来る。
「とは言っても、ゴール前は長い直線…この分なら十分に引き離せる。」
最後のカーブを抜けた…ここからは加速勝負。
「さて、リミッター切るか…」
私は 本来燃費の為に落としている回転数を引き上げる。
当然ながら酸水素エンジンは 廃熱限界を超えて加熱し始めるので、リミッターを外した状態では短時間しか走れない…長時間 走ろうとすれば、確実にオーバーヒートを起こしてエンジンが壊れる。
私は リミッターを解除して 排ガス規制を完全無視した状態で、高速回転をし始めたエンジンで急加速をし、一気にRX-7を抜く。
隣にいたRX-7のパイロットは、あり得ないと言った顔をしている。
「良し…勝ったな」
車1台分早くゴールした私は、曲がって 山のふもとの駐車場に軽トラを止める。
そして後ろからRX-7が隣に止まり、ドライバーが降りて来た。
「凄いな 評判以上だ…出来れば、こちらのチームに入って欲しいのだが…」
「すまないな…仕事があるから頻繁に走れる訳じゃないし、私は時間を拘束される事を望まない…気が向いた時に車を走らせる…それが私のやり方だ。」
「なるほど…分かった…またキミとバトル出来る事を期待しているよ」
彼はそう言うと車に乗って峠を また上がり始めるのだった。




