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01 (正しい裏金の使い方)

 戦後日本は目まぐるしい活躍をし、みるみる経済復興をして 高度経済成長期に入った。

 だが、戦後の復興に情熱を持っていた日本政府は、次の世代に変った事で組織の腐敗が始まる。

 政府は組織の維持の為に多くのリソースを割き、その既得権益を維持しようとする…歴史上、何度も繰り返してきた事だ。

 選挙で民意を示せ?冗談…そんな事で民意を通せるか!!

 1960年代の日米安保条約に反対する為に起きた安保闘争(アンポとうそう)

 戦争が大好きなアメリカが自国の利益を得る為に 弱い者いじめに行き、それを阻止する為の ベトナム戦争反対運動…俺達の意見は ことごとく握り潰されてきた。

 そして今、大学の学園紛争。

 元々は東京大学から始まった学生運動で、これが当時大学の制度に不満を感じていた学生に一気に広がり、日本中の大学に広がった。

 そして、国は警察を使い武力で解決を図ろうとした…。

 交渉の場は いくつも設けている…だが、相手は話し合う気も無く、武力も持って解決しようとする。

 暴力は法律違反?その暴力を振りかざしている警察は問題無いのにか?

 ならこちらも暴力を振るって意志を示すしかないじゃないか…。


 大学、放送室。

 ドォンドォン…横倒しの棚で押さえ付けられているドアが警察隊により思いっきり叩かれる。

「もっと押さえろ!!」

 友人が全体放送で、校内や校内周辺にミキタ()達の演説を届ける。

 俺達は この問題を皆に伝えたいだけだ。

 だけど警察がその発言その物を武力で押さえようとしている。

「破られるぞ!!」

「もう そろそろ放送は終わる…それまで何としても持たせるんだ!!」

 バアン…。

 ドアが破られ、突入してきた警官に取り押さえる。

「確保!!」

「だが、伝えるべきことは伝え終えた…クソっ…放せ!!」

「良いたい事は良く分かる…私も安保闘争(アンポとうそう)に参加していたからな。

 だが、暴力では解決しない…」

「その暴力で言論弾圧をしているヤツがよく言う。」

「暴力では国を変えられない…更なる暴力を生むだけだ…だから私は警察になった…」

「世の中に不満があるなら まずは自分を変えろ!!

 偉くなれ…組織の上に行くんだ…オマエ達はそれが出来る学生なんだから…。」

「………。」

 こうして、とある大学での放送室占拠事件は幕を閉じ、俺は大学を退学になり、あの警官の言う通りに組織を変える為に防衛大に入ったのだった。


 日本、千葉県、エクスマキナ教会。

 ここ数年で信者数が1億を越えて来た…仏教徒が5億人と考えると かなり凄い数字だろう。

 エクスマキナは 機械と道具の神で、今は世界中のあらゆる技術を収集して技術の保存、次世代の技術者への継承を主な活動としている。

 これが資本主義と非常に相性が良く、技術者達が エクスマキナ教の信者となって新しい技術を学びに来て、その技術で製品を作って儲ける。

 そして、金を稼げるから それを目当てに信者が どんとんと増えて行く…この好循環で エクスマキナ教系列の企業も 世界中で結構な数が増えており、今では 世界で一番栄えている グローバル企業でもある。

 今の世の中は 金を持つ者が世界を(せい)している状況だが、それは大きな間違いだ。

 本当に重要な事は 技術者と技術をどれだけ確保出来るかにある。

 金持ちが投資なので 口座残高を いくら増やした所で、技術者と技術が無ければ物を購入出来ないし、儲けている投資家も買う事は 出来ても 物を生み出す力は無い。

 クオリア()達 神の総資産額は 今の時点で1兆円を軽く超えている訳だが、何をやるにしても技術者が必要で、その為のエクスマキナ教会だ。


 エクスマキナ教 投資資金調達課。(通称、エクスマキナ銀行)

「この金をエクスマキナ教会に寄付したい」

 スーツ姿の小太りの背広男が、アタッシュケースを開いて言う。

 そこには 大量の日本円の札束が びっしりと入っている。

「結構な大金ですね…数えますね…はい、丁度1億ですね。

 ここにお名前と出資金を書いて下さい…後 カードも…」

 受付の女性が背広男から、カードを受け取り機械でスキャンすると 彼は大物の政治家だと言う事が分かる…出資金額の合計は 現在 20億程だ。

「ご出資ありがとうございました~」

 受付は笑顔で頭を下げて、政治家を見送る。


「エクスマキナ系列の ある企業に出資したい。」

 今度は 大手家電企業の重役だ。

「では、カードとこちらに出資先の企業と金額を…はい、確認取れました…この企業に出資を行います…明細書を発行します…どーぞ…またのお越しをお待ちしております。」

 裏でコンピューターのキーボードを叩き、デスクワークをしながらクオリア()が受付の男性を見る。

 日本の最大の問題、裏金だ。

 民主主義は 皆で意見を言い合って物事を解決するシステムなのだが、実際に口頭で議論して結論を出すのは不可能…。

 そこで 相手に何かしらの見返り…賄賂を出して貰う事で、対抗組織の意見を変えて貰い、結果 多数決で勝つようになる…そうでもしないと話が進まないからだ。

 だが、日本では 賄賂は表向きには禁止されており、政治家や献金企業達は、賄賂にならない様に名目を変える必要が出て来る…そこで便利な名目が技術投資だ。

 政治家達は 引き落し用のエクスマキナ教系列の口座企業を持ち、そこにエクスマキナ教が技術投資と言う形で金を引き落とせる様にする。

 それで その金は どこから来ているかと言うと、自分に都合の良い法律を作って欲しい企業からの献金だ。

 これにより、政治家達は洗浄された綺麗な金を受け取れる資金洗浄(マネーロンダリング)が出来る。

 で、口座に眠っている使われていない口座残高を本当に研究開発している企業の技術投資に私達が回す事で、エクスマキナ教も多大な利益を得られる。

 これを宗教の自由が認められている各国で行い、裏金の情報をコントロールする事で民主主義を無視した政治的な力も手に入れ、世界を裏からコントロールする事も容易になる。

 今では 政治献金だけでは無く マフィアやヤクザの資金洗浄にも使われており、エクスマキナ教は 善悪問わない技術と開発が出来て急成長している。

 ナオは ナチスを勝たせる事で世界征服をしようとして破れたが、この方法の方が明らかに世界征服に向いている。


 夜…閉店業務中。

「ホント政治献金が多いな…ここまでとは…。」

 クオリア()が今月の帳簿のデータを見ながら言う。

 献金の量が桁外れだ…これでは大手企業の意見ばかりが通り、国民の意見なんて通らないだろう…。

「私としては 技術投資に回されるから良いのですが…あっパーキンソン病の治療に使われる脳内チップの投資しときますね…」

 パーキンソン病は 主にドーパミンの量が不足する事で脳の誤動作が起き、自分の意志とは反して身体が勝手に動いてしまう病気だ。

 この問題に対して、脳のドーパミンを出す部分に電流を流し、誤動作を軽減させる為に今は脳内チップの開発をしている。

「あそこは 今の所、一番金が必要だからな…。

 それに あの技術は 今後のブレインマシンインターフェイスに転用 出来る…派生の用途は非常に多い」

「完全没入型のVRゲームでしたっけ?仮想世界に行く…トロンの様な?」

「イメージとしては そんな感じだ。

 全身義体の私は 脳に電気信号のデータを送って、現実世界の情報を受け取っている。」

「一応、実用化はしているんですよね…トニー王国内では…」

「そう、だが、今は 膨大なリハビリで脳を機械に合わせている状態だ。

 実際、適合不良で身体を一切動かせず死ぬ人も多い。

 こんな博打要素が高い製品を買うのは、命が惜しくない死にかけの老人位だろう…」

「でも、年齢が上がれば上がる程、成功率が下がるんですよね…実用性を考えると頭が柔らかい10代位が限界ですかね…」

 受付がデータを見ながら言う。

「後は、アメリカが採算の問題で打ち切った 熱核ロケットエンジンの技術者達が、一斉にトニー王国に亡命…今は トニー王国で核エンジンを開発中。

 アメリカ政府は 彼らの技術が他国へ流出する事を防ぐ為に 返還を求めて来ている。」

「自分で予算を打ち切って潰したクセに、他国で開発を続ければ文句を言いますか…ホント技術者の事を考えて無いんだから…」

 受付が私にグチる…。

「まぁそっちは、政府の交渉 次第かな…多分、問題無いんだろうけど…それと来年からITER(イーター)が、中立のトニー王国の離れ島に拠点を造るらしい…名前はイーター島だ。」

「イーター…確か核融合の研究をしているチームですね…」

「そう、トニー王国の本島には 宇宙人が残してくれた核融合炉の設計図があるのだけど、彼らの知恵だけじゃ もう手に負えない…人類全体の頭が必要なんだ。」

「あ~賢者の法則ですか…。

 核融合だと炉の素材から開発しないと行けませんからね…一体 何年掛かる事やら…」

 そういう話をしていると6時になり、チャイムがなる。

「さて、今日の仕事は終わりだ…私は帰るよ…」

「お疲れ様…あっそうだ…土曜日の夜、見に行きますから…」

「そうか、分った…では明日の夜に…」

 私はそう言うと、タイムカードを押し、外の駐車場に駐車されている 酸水素を燃料に使っているトニー王国製の軽トラに乗って行って、銀行を出るのだった。

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