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22 (神の手を持つ者)〇

 ナオのDLを先頭にグラス少佐()達が車で後を追う。

 やはり DLには 装甲車程度じゃ敵わず、機関銃の弾も盾で防がれて効果は低く、次々と破壊されて行く。

 逆に言うならDL無しだと守りが堅過ぎで私達だけでは突破は無理だ。

『ここだ…見送りはここまで…ここから先は頼むよ』

「ああ…エスコートに感謝する。」

 ナオが地下室への隔壁を破壊し、私達はDLでは通れない地下へ突入をする。

「次のミサイルを決して撃たせるな!」

 地下に入った私達は 次々とソ連 軍人達を射殺して行く…。

 次は撃たれれば アメリカの軍施設が吹き飛ぶかも…もしかしたら市街地かもしれない。

 核戦争を望んでいる連中だ…民間人がいる首都への攻撃も躊躇(ためら)わないだろう。

「ここです…」

 兵士がドアの前で言う。

 この先はミサイルの管理室だ…ここを抑えればミサイルは飛ばせない。

 ドアノブを回すと無数の銃弾が放たれ、壁に次々と穴が開いて行く。

「フラッシュバン行くぞ」

 敵が弾を打ち切るのと同時にフラッシュバンを投げ込んで目を閉じる…強烈な爆音と閃光が放たれ、瞬時に突入…。

 フラッシュバンで相手を混乱させられるのは、意外と短い…。

 だが、それでも貴重な数秒は 確保出来る。

 突入と同時に銃を持っている兵士を見つけて速やかに排除して行く。

 こちらは耳を傷めない方にする為、防音のヘルメットを かぶっているので、そこまで影響がない。

「はぁよし、今度こそ確保…だ」

 仲間達が徹底的に武器の所持を確認して速やかに拘束して行く。

 ヤバイな…細かい手榴弾の破片を受けた傷は 血液硬化ジェルで止血されているので死ぬ事はないが、それでも痛みがヒドイ…これは後に響くな…。

「一体何をした?

 確かに世界中で1万発の核ミサイルが放たれたと言うのに、すべてが迎撃された。」

 2人の兵士に拘束されているチェルネンコが言う。

「……さぁな…人類も そこまでバカじゃなかったって事さ…」

 まぁこんな芸当が出来るのは トニー王国位だろう…おそらく、無人戦闘機の大量運用でミサイルを片っ端から迎撃してしまったのだろうが…これで少なくともトニー王国が両陣営の消滅を回避しようとしている事が証明された…これは我が国にとって重要な成果だ。

「全員…この施設から退去しろ…この場で殺されたいか?ああ!!」

『施設退去、この基地は放棄する、職員は速やかに退去せよ…これは命令である…繰り返す、この基地は放棄された、職員は速やかに この施設から退去せよ…これは正式な命令である。』

 通信の担当のソ連兵が全体放送で言う。

「よし、取りあえずは終わったかな…」

 そう言い、2人の兵士に拘束された チェルネンコの顔面に思いっきり一発殴って、外に出た。


 外に出ると戦闘機2機が夜明けの空を一直線に飛び、基地から急速に離れて行く。

『あ~グラス少佐…核ミサイルの方は クラウドが対処した。

 俺は両陣営が勝手に滅びてくれる分には良かったんだが…トニー王国が優秀過ぎてな…』

 外を警備していたDLの中にいるナオがスピーカーで言う。

「アンタに決定権が無くて良かったよ…迎えは?」

『潜水艦は既に海岸に付いている…だが、もう少し待ってくれ…ほら来た』

 空を見ると先ほどの戦闘機2機に護衛される形でやって来る2機の輸送機?

 1機はエアトラ…もう一機は見た事が無い機体だが、エアトラとは違い翼では無く、エンジン自体の角度を変えて飛ぶ機体だ。

 エアトラが最初に雪の地面に垂直に着地し、後部ハッチを開いてソ連兵が下りて来る。

 もう1機は 空中でおっかな びっくりと ゆっくり降下して行き、(しび)れを切らした兵士達がロープを降ろして下りて来る…こっちはアメリカ兵?

「これは?」

「機体の事か?コイツはオスプレイ…我が国 初のティルトローター機だ。」

 降りて来たアメリカ兵の隊長が言う。

「いや…何故ソ連兵と一緒で?」

「それは私から、私達ソ連は米軍立ち合いの元、施設の調査をする事になった。

 それと裏切り者のチェルネンコには、我が国で裁く事になる…引き渡しに応じてくれるか?」

 ソ連兵達の隊長が言う。

「本国は何と?」

 私はアメリカ側を見る。

「引き渡しに応じて良い…今回の立役者はトニー王国だ。

 ただ公式の文章には 乗せられないだろうがね。」

 隊長が苦笑いしながら言う。

「公式には 今回の事は無く、アメリカ軍の核査察と言う事になるだろう…それが こちらと向こうとの落としどころだ。

 キミ達の任務はこれで終わりだ…お疲れ様…後は表の部隊に任せてくれ」

「そうですか…はぁ」

『では皆さん、乗って下さい…潜水艦まで送ります』

「コパイか?無事だったのか?」

『おそらく、あなたが言うコパイとは別かと、あなたが言うエアトラは 今は海の上で浮かんで回収を待っています。』

「そうか…無事だったら良い…よし、乗り込め、撤収だ!!」

「了解…」

 私がそう言うとナオのDLが乗り込み、続いて私達が入る。

 そして、港に上がって来た潜水艦のエレベーターの上に着陸し、DLと私達を降ろすと ソ連兵の為に またミサイル施設に向けて飛び出したのだった。


 潜水艦

 トニー王国に帰還するまで後3日。

 アメリカ軍の兵士は全員が帰還…ただ、パイロットスーツを着ていなかったら死んでいたヤツが8名おり、簡易手術が必要の状態だ。

 まずは 帰還した負傷者のレントゲンを撮って…傷を確認…。

「うわっ…そう来るか…」

 パイロットスーツは拳銃弾程度なら防いでくれるが、ライフル弾は そうもいかなく、装甲を貫いて身体に侵入…背中側から弾が抜けるはずが 内側からパイロットスーツを貫ける事が出来ず、威力が大幅に軽減されて跳ね返り、身体に戻って臓器を傷付ける二次災害を起している。

 この場合だと、外側からの攻撃に強く、内側からだと容易に貫通させられる仕組みが必要になる…これは 今後のパイロットスーツの課題だろう。

 俺は負傷者達に腕から点滴で栄養を直接入れ、絶食させて 胃や腸の中を空っぽにさせる。

 これは 胃や腸に穴が開いている所を血液硬化ジェルで塞いでいた場合、内容物で体内が汚染される事を防ぐ為だ。

「ナオは 手術も出来るのか?」

「一応、俺は衛生兵だから、止血の他に手術の経験もある。

 ただ、あくまで弾を引っこ抜いて 止血して、傷を塞ぐ程度かな…。

 よし、それじゃあ…シャワーを浴びて 汚れを落として来て…その後に俺が1人ずつ無菌室で手術をするから…。

 あっ…全員終わらせるのに半日は掛かるから、それまでは自由行動で…当然 食事はNGだが…。」

 俺が負傷兵達にそう言い、手術を始めるのだった。


 局所麻酔で負傷兵達が 破片を引っこ抜く手術を受け、6時間後…最後の一人になった。

「はい、最後は 一番面倒なグラス少佐ね…」

 パイロットスーツにヘルメットを付けたナオ()が言う。

 グラス少佐の背中の火傷はレベル1の軽微…これなら自然治癒で治せる。

 ただ、感染症が心配だ…なので 火傷止めを塗って、感染症を防ぐ…背中はこれで大丈夫…で、表だ。

 表には 手榴弾の破片が 腹部辺りを中心に入っていて、傷口が血液硬化ジェルで固まっている事で臓器への損傷を防げている…これは実験の結果通りだ。

「はぁ…破片の数が多いから全身麻酔(全麻)かな…」

 指にパルスオキシメーターをはめて、モニターに繋ぎ、バイタルを表示させる…今回は損傷個所の関係で心電図の電極を付けられない。

 まぁパルスオキシメーターがあれば十分と言えば十分なのだが…。

 栄養剤の点滴を輸血の点滴と麻酔の点滴に切り替え、薬剤の量を調整する。

 後はバイタルモニタを俺が顔を上げたら見える位置に置いて準備完了。

「私は どの位で目覚める?」

「いや、手術が終わってから 丸一日とか掛かるヤツもあるけど、これは そこまで眠らないよ…。

 えーと、手術が終わったら麻酔の点滴を止めて30分程度で起きるかな…はい、酸素マスク…付けて…ちゃんと息吸えている?」

「ああ…だが何だか眠く…」

「亜酸化窒素と酸素の混合気体だ…おやすみ」

「………。」

「さて落ちたか…さてと頑張りますか…」

 麻酔と輸血の点滴を調整して、手術を始める。

 グラス少佐の身体は手榴弾の金属片が多く、それを血液と反応してゴムの様なった血液硬化ジェルで塞がっている状態だ。

 それを 電気メス(電メス)を使い、メスの先端を高温にしてゴム部分を切除して ピンセットで金属片を取り出し、ゴムが無くなって血管から出血した場合は 電メスの熱で組織ごと焼いて止血する。

 切る事や止血する事が出来る電メスは 手術に非常に有効で、こっちの負担もだいぶ楽にしてくれる。

「いや~やっぱり手振れが無いってのは良いよね~」

 腫瘍(しゅよう)や弾丸の違いは あれど、手術は究極の所、皮膚を切って中の異物を摘出(てきしゅつ)するだけの仕事だ。

 ただ それをやるには1mm単位の精密作業を要求され、人である以上、如何(どう)しても 手振れで誤差が出てしまう為、正確性を求めるなら時間が掛かってしまう。

 ただ、俺みたいな全身義体は 手振れを一切発生させずmm単位で正確に手を動かせるので、手術の時間も大幅に短縮 出来る。

 手術業界では 手振れが極限まで無い手を『神の手』と言うらしいが、こっちは義体技術で それを手に入れたと言う訳だ。

「ふう…これで全部だな…中に取り忘れも無い…さてと、後は縫合(ほうごう)だ。」

 俺はスキンステープラー(ホッチキス)を出し、傷口を摘まんでホッチキスを挟み、縫合(ほうごう)ピンを皮膚に打ち込んで行く。

 これがハルミだったら傷口の内側から丁寧に糸で張り合わせて行くのだが、ホッチキスなら簡単で縫合(ほうごう)が終わる。

「はい、終了…お疲れ~」

 亜酸化窒素を止めて 酸素だけを流し、輸血と麻酔の点滴の供給を止め、栄養剤の点滴に切り替える…これで 30分程で目が覚める。


 隣の医務室。

「はい、どいたどいた~」

 無菌室の清掃と殺菌を終えた俺は、計測機器や酸素タンクを積んでストレッチャーごと、グラス少佐を医務室に運び、動かない様に床に固定する…これで緊急軌道を取っても大丈夫だ。

「ナオ…手術は?」

「あっ?普通に成功だよ…てか、手間ってだけで そこまで難しくないし…。」

「はぁ…良かった~」

「じゃあ、俺は寝るわ…誰かバイタルを見てて、モニタが警告を出して来たら俺を叩き起こして良いから…」

 俺は 欠伸をしつつ 皆に言うと ストレッチャーの上に横になって毛布を被って眠るのだった。


 皆の手術は 成功…まぁ縫合(ほうごう)ピンは帰国した後で 医者に抜いて貰う必要があるんだが…。


 ユーリ大統領 私室。

「さて、ユーリ大統領…本当の事を話して貰えますか?」

 俺はユーリ大統領に言う。

「本当の事?」

「あなた…チェルネンコと協力して核戦争を引き起こそうとしていましたね…」

「なっ…」

「やっぱり…あなたの傷…これは銃弾の傷じゃなくてアイスピックの様な細い針で刺された物だ…。」

 俺はユーリ大統領の服を めくりあげて言う。

 そもそもポロニウム弾を受けたのに、こんなに元気な人は いない。

「……そうです。」

「あなたは チェルネンコに責任を押し付ける事で核戦争をたくらんだ。

 亡命しようと潜水艦で逃げたのも、海の中なら核の被害を受けないから…。

 誤算は なんらかのトラブルで浸水した事…」

「ソ連の駆逐艦に追われた際に機雷に当たって…秘匿する都合上、海上を走る事も出来ず、浸水しながら アメリカの潜水艦と合流したのですが、その時には船体が耐えられないレベルになって沈みました。

 それでも すぐにアメリカから救助されると思っていたのですが…。」

「アメリカ側の潜水艦が 救助しようと潜った所で、耐圧不足で圧壊した…で、残された あなた方は海底に動けなくなったと…」

「ええ…助けて貰った事には感謝しますが…あなた方はこれから如何(どう)するつもりで?」

「国としては両陣営の間を取り持って大規模な殺し合いを回避する方針かな。

 俺は核戦争位起きても良いと思っているんだが…

 まぁ今回の件は チェルネンコに責任を全部被せて、核なんて どの国も撃っていないって事に するんだろうな…」

「……これで、ミハイル・ゴルバチョフが政治体制を変えて、資本主義、民主主義の政治体制に変ってしまいます…。

 現状、上から下までがすべて国営のソ連企業が資本主義なんかを やったら如何(どう)なります?

 今でも階級で貧富の格差で平等とは程遠いと言うのに、これでは 資産を持っている事を正当化させてしまう。

 富豪と農奴に分かれていた昔と変わらない…それを嫌ったから、我々は共産主義で平等にし、餓死者を無くそうとしたのに…」

「結局、富豪が法律を作っている訳だからな…富豪が望むような国にしかならない。

 この分だと金の稼ぎ方を知っている富豪と、金の稼ぎ方を知らない国民とで収入格差がどんどんと増えて行くだろうな…まぁそれが資本主義か…」

 俺は ため息を付きながら部屋を後にするのだった。

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