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17 (亡命作戦)〇

 脱衣場では 感染症の防止の為、パイロットスーツにヘルメットを被ったトニー王国軍人が、野郎達の服を脱がし、大浴場の湯船に ぶち込んで行く。

 で、温まったソ連 軍人達は 上がらせ、バスチェアに乗せて 丁寧に身体を洗って行く。

 潜水艦は密室の為、疫病が広まり易いからだ。

 中には ウチの女性兵士に身体を洗われ、おっ勃ってるヤツもいるが、彼女は そんな事は気にせずに洗う。

 殆ど確実に死ぬ 極限の環境に閉じ込められた男が 子孫を残そうと性欲が高まるのは ある意味では当然の事だ。

「で、アンタがトップか?お名前は?」

 俺がしゃがみ 湯船に入っている中年の男に話しかける。

「ヴィーレン・ヴラドリェーン中佐だ。」

「ヴァラ…あ~発音し辛いな…ヴィーレン中佐で良いか?」

「ああ…構わない…」

「でっ、とっと この海域から逃げたいんだが、事情を説明して貰えるか?

 アンタの本国は 非常に怒っていて、ヘタをすると このまま核戦争に なりかねない。」

「私達は政府の要人を潜水艦で国外逃亡させた。

 逃亡させたのはこの人物だ…ユーリ・アンドロポフ…。

 彼は ポロニウム210銃弾を腹部に受けて 内部被ばく、放射線症候群で体調を崩している。

 医者の話では 致命傷では無かったとの事だが…それも何処まで信じられるか…」

 隣で湯船に浸かっている裸の男を見て言う。

 男は 右腹部を(かす)る撃たれており、傷は塞がっているが 縫合した糸がまだ付いており、抜糸していない事が分かる…傷を塞いでから5日から15日と言った所か…。

 ポロニウム弾を真面に食らえば、3日以内に動けなくなり、1ヵ月以内に死ぬ。

 だが、今の所 自分の足で歩けているし、その兆候はない…内部被ばくは したのだろうが、被ばく量が想定より かなり少なかったんだろうな…。

「アレ…そう言えば その名前って…確か大統領の名前じゃなかったか?」

「そう…国家元首だ…元だがな…」

「政権交代したと言う話は聞いていないぞ」

「ソ連の法律では 国家元首が体調不良を起こした場合、国家元首の仕事を代行出来るようになる。

 それで今の代行者は、コンスタンティン・チェルネンコだ。

 私は 公式に死んだと言う事になっている だろうから、時を置かずに彼が国家元首の地位に付くはずだ。」

 ユーリ大統領が言う。

「なるほど…いわゆるクーデターなのか…。

 となると…安全海域まで逃げたら 浮上して エアトラに乗せて、アメリカの病院に直行かな…。」

「私も それが良いと思う。

 彼の傷は塞いであるが、詳しい検査は していないからな…」

 ヴィーレン中佐が言う。

「いや…ダメだ、チェルネンコは 資本主義の政策を進めようとしている。」

「別にアメリカと同じ様になるだけだろ…」

 俺がユーリ大統領に言う。

「違う…チェルネンコは 資本主義を知らない労働者達を安価に働かせ、自分達は資本主義の理屈で合法的に資産を溜め込む気だ。

 国民は労働は出来ても 金を稼ぐ術を知らないからな…」

「それが資本主義では?と言う事は アンタは チェルネンコを潰したいのか?」

「ああ…私が立て直さないと ソ連が崩壊する…資本主義陣営に飲み込まれるのだけは回避したい。」

「と言う事は 正当性を主張しての奪還作戦か?

 戦力は積んであるが…これは相談して見ないとだな…取りあえず状況は理解した。

 この潜水艦は一旦、この海域から離れる…ソ連の潜水艦から追撃が怖いからな。

 で、海域を出た後で食堂で会議かな…それじゃあ ごゆっくり…」

 俺は2人に そう言うと、この話を伝える為に発令所まで戻って行った。


 発令所。

「と言う訳だんだが…グラス少佐…こうなる事を知ってたな…。

 だから特殊部隊を積み込んだ…本来、事故調査だけなら歩兵は いらないからな。」

「はぁ…巻き込んで済まない…。

 ナオ中尉の言う通り、私達の目的は 彼の亡命のアシストだ。

 我が国で亡命政府を作り、正規の手続きを踏んで政府を取り戻すのが目的だ。」

「それで アメリカの潜水艦を使わなかったのは?」

「使ったさ…だが圧壊して沈んだ…。

 我が国の潜水艦が ソ連の潜水艦に撃墜されたと知られれば、政治家や国民を刺激し、全面戦争に発展する可能性も ある…。

 しかも、共産主義陣営のトップを助ける任務だ…我が国の政府は絶対に認められないし、発覚すれば スパイ容疑を掛けられて殺される。

 だから、軍部が把握しているアメリカの潜水艦は使えず、潜水艦の性能も考えると トニー王国の潜水艦しかなかったんだ。」

「なるほど…まぁ俺達が指揮する時点で真面な任務じゃないって事は想定はしてたけど…。

 ウチの上の連中も えげつない事するな~で、行き先は?」

「ポリャールヌイ軍事基地…現在、チェルネンコは そこで指揮を取っている。」

「つまり、身元を特定出来る物を身に付けず、私服のテロリストが 要人の暗殺をすると…完璧に便衣兵だな…ハーグ陸戦条約に違反する。」

「国に迷惑を掛ける訳にも いかないからな…。

 それに身元が分からないテロリストなら国際法は適応されない。」

「それは捕虜になれないから、その場で殺されても文句は言えないって事なんだけど…。

 まぁ死刑になる事を覚悟してしまえば、あらゆる法律は無視出来るか…」

「そうなるな…」

「とは言っても…敵が民間人に偽装していると相手に思われると、本物の民間人が疑われて殺されるぞ…。

 実際、ベトナムでは疑心暗鬼の結果、1歳の赤ん坊が便衣兵って事にされて現場で射殺されたからな…」

「っ…だが勝つ為には仕方がない…」

「戦争にスポーツマンシップを期待出来ないのは分かるけど、そうやってルールを 破るから 戦争が広がって行くんだよ。

 まったく…ん?なぁクラウド…トニー王国の方針は西と東のパワーバランスを維持する事だよな。」

「ああ…国家の運営には 資本主義も 社会主義も 共産主義も必要。

 最適な社会形態は それらのミックスで、それはトニー王国が既にやって上手く行っている。

 だから、どの陣営も滅ぼされず、100年でも1000年でも 今の勢力図を維持する為に動いている。」

「だよな…てことは、トニー王国軍が正式にユーリ大統領に協力しても問題無いよな…このまま核戦争になって共倒れをするのはトニー王国としても望まないはずだ…。」

「確かに…ただ いくら潜水艦は 臨機応変が命だとは言え、これは私らの範囲を超えている。

 こちらが やった責任を負うのは 外交島の連中だからな…」

「そう…と言う事で、安全圏まで離れたら 浮上して通信…確認と許可を取る。

 多分通ると思うけど…」

「それじゃあ、食堂で会議か…。

 そろそろ全員が風呂から上がる頃だろうしな…」

「私は攻撃が心配だから残るよ…」

「ああ頼む…艦長をナオからクラウドに引き継ぐ。」

「引継ぎ 了解…」

 そう言うとクラウドは艦長席に座る。

「そんじゃあ よろしく…」

 俺はクラウドにそう言うと食堂まで進むのだった。

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