14 (大規模救難活動)〇1985_9_1
1985年9月1日
ボーイング747、大韓航空 007便 コックピット深夜。
「ふぁああ…」
副操縦士が欠伸をする。
チェン・ベイン機長達は アンカレッジ国際空港を経由してソウルに向かっている。
13時間前にニューヨークから始まったマラソンフライトも後 少しで終わりだ。
コックピットは暗く 4発のターボファンエンジンの音だけが響いている。
「流石に眠いな…ふぁあ」
私が言う。
北大西洋6100kmを横断するフライト…当然交代要員もいるが流石にキツイ。
何より この機体には自動操縦機能があるので、離陸と着陸以外は計器の確認位でやる事が無い。
『コリアエアー007…調子は如何だ?』
「天候、機体、共に問題無し…快適な物です。
ただ退屈ですね…ふあぁあ…」
後方15分で同じルートを進んでいるコリアエアーの会社の便に話しかけられ、副操縦士が話している。
長距離便では良くある おしゃべりによる暇つぶしだ。
ソ連、カムチャッカ半島。
『アメリカ偵察機が国境に接近中!!
繰り返す 国境に接近中、スクランブル!スクランブル!』
Su-15が滑走を始め、暗闇の空を勢い良く飛び立つ。
スホーイ15 コックピット。
「目視とレーダーで確認した。
アメリカの偵察機は高速で国境を越えようとしている。
このままだと樺太に接近される。」
『警告射撃』
「了解」
バババババッ…。
通常 警告射撃には曳光弾を使うが、この機体には積んでいない…。
基地には 半年近く真面な補給を受けていないからだ。
敵機の斜め下の位置に付き、ライトで警告…反応なし…。
「コックピットから見えているはずだ。
こちらの応答に答えない…このままでは国境を通過される!!」
大韓航空 007便 コックピット
「ふぁああ…」
『コリアエアー007…少し風が出て来た。
こちらは燃料節約の為、高度を上げる。』
「え?風?こちらは 問題無いぞ…局所的な風か?
分かった こちらも高度を上げる。」
「東京コントロール、こちら コリアエアー007…高度310(3万1000フィート)へ高度の変更を希望」
『こちら東京コントロール………コリアエアー007…高度変更を許可、高度310まで上がれ』
「コリアエアー007…ありがとう…よし、高度を上げるぞ」
操縦桿を引いて ジャンボジェットの機首を上げ高度を上げて行く…。
スホーイ15 コックピット。
「!?ッ…敵偵察機がコブラ(機動)を取った こちらの後ろを取る気だ。
緊急回避!!」
偵察機が機首を上げて高度を上げ、速度を落とす。
こちらは 偵察機の下に滑り込み、減速して 偵察機の後ろに付く。
「回避成功…後ろに付いた。
撃墜の許可を…時間が無い…このままでは 逃げられる。」
『撃墜を許可…いや 待て…後方より機影…速い!おそらく戦闘機…回避だ!!
敵対行動と判断、撃墜を許可…。』
「了解!!」
大韓航空 007便 コックピット。
『そこのジャンボジェット聞こえるか?
こちらトニー王国軍、貴機はソ連領土、樺太に接近中。
貴機の後ろにソ連 戦闘機が付いて撃墜許可を待っている。
10時の方角に緊急退避しろ!』
私は謎の声に驚いて咄嗟に オートパイロットのダイヤルを見る。
「なっINSじゃない…磁気コンパスに接続されている!!」
私は即座に謎の声が嘘を付いていない事が分かる。
『よし、良い子だ。
前方に誘導灯を光らせた戦闘機が見えるはずだ。
その後を追え!安全圏までエスコートする。』
「コリアエアー007…了解。」
「ミサイル発射!!」
Su-15から放たれた1発のミサイルは偵察機を目掛けて飛んで行き、発射を確認した所で緊急回避する…他の所属不明機からの攻撃を避ける為だ。
大韓航空 007便 コックピット。
『クッソ奴ら撃ちやがった。
進路そのまま…エンジン出力最大!!
何としても生き残れ!貴機が撃墜されれば 核戦争に発展する。』
その声を聞いて私は エンジンの出力レバーを最大にする。
今までエスコートをしてくれたトニー王国の戦闘機は急ブレーキで頭上を通り抜け、ジャンボジェットの後ろに付く。
スホーイ15 コックピット。
パパパパッ…。
所属不明の戦闘機が偵察機の後ろに付き、フレア弾をまき散らして こちらのミサイルを回避しようとする。
だが遅い…が、所属不明機が盾となり偵察機を庇う。
「クッ…所属不明機を1機 撃墜…。
偵察機に向けて もう一発を撃つ」
だがフレアの効果でミサイルが別の方向に誘導され、最大射程を超えた事で安全の為に自爆される。
「くっそ…偵察機の撃墜ならず、ミサイルが尽きた帰還する。」
「こちらコリアエアー007…メーデーメーデーメーデー。
油圧、燃料が漏れている…撃たれたのか?」
『いや…すまん、こちらの無人戦闘機を盾にしてミサイルを防いだのだが、無人戦闘機の残骸が機体に当たった様だ。』
「空中分解しなかっただけ まだマシ…近くの空港は?」
天井にある油圧、燃料バルブを操作して無事な油圧、燃料を隔離。
損傷している燃料タンク内の燃料は抜けるが、繋がっている他の燃料タンクとの供給を断って被害を最小限にする。
『残念ながら ない…海上着水だ。
ただ近くにトニー王国の潜水艦が見張っている…私達の船だ。
そこまで辿り着ければ 乗員の半数は助かる。
潜水艦からガイドビーコンを出している。
ILSに切り変え、計器着陸進入だ。』
「了解…済まない…」
『いや…核戦争を防げると思えば安いさ。
それじゃあ、キミ達の生還をエクスマキナに祈りつつ救助の準備を進める。
こちらの管制官に変わる 指示に従ってくれ あなたが信じる神のご加護を…』
「幸運を…」
私はそう言い、ガイドビーコンに従い降下する…。
着水する角度は3°…それ以上だと機体が ひっくり返る。
しかも夜間の為、目視が非常に難しい中での計器着陸だ。
コントロールはギリギリ受け付けるが…燃料が心配だ。
「燃料は?」
「今計算中、よし 十分 持ちます…。
ただ墜落時の爆発を防ぐ為、燃料の投棄が必要です。」
「了解…キミは乗員への連絡を頼む。」
「了解…「ご搭乗の皆様……」
副操縦士がアナウンスをしている間も高度が落ちており、機体の揚力を上手く使い 飛行距離を伸ばして行く。
「皆さん落ち着いて…救命胴衣を着て下さい!」
乗客達がパニック状態で黄色い救命胴衣を身に着け、1人の乗客が両端の紐を引いて救命胴衣を膨らませた事で、周りも真似をして 次々と救命胴衣を膨らませて行く。
「頭は抱えて保護して下さい!」
『こちら、トニー王国軍 潜水艦 管制…順調に進んでいる。
………………問題無し………問題無し………問題無し………。』
管制は 一定事に『問題無し』とコールする。
外は暗闇で目視は不可能…その状態での『問題無し』は 私の不安を 払拭してくれる。
『現在 降下角度が5°機首ちょい上げ…出来るか?』
「何とか…」
『上空を旋回、燃料を投棄…右旋回で突入…。
右の翼から海面に入って減速しろ!」
「翼を犠牲にする訳か…了解…。」
最低限の燃料だけを残して機外に投棄…。
エンジンを停止…グライダー状態で 降下角度を3°に保ち、右翼から海面に滑り込む様に侵入…。
「うっ…右翼から入った!減速!…翼が吹っ飛んだ!!」
私は可能な限り、言葉に出して実況放送する。
機内には フライトレコーダー、コックピットボイスレコーダーの2種類のブラックボックスがあり、墜落後の事故捜査で役に立つ…例え私達が死んだとしても この情報だけは未来に残す。
機体が浮き上がり、尾翼を損傷…機体が分解したのか、横ロールが始まり、海面に叩きつけられ バウンドする。
「よし胴体は生き残った…。
後の救助は任せる!!」
私はそう言い残し、コックピットから海面に突入して 衝撃で意識を失った。
「おみごと…。」
ジェット機は 暗闇の空から ほぼ最適解の状態で海面に突っ込み、両翼を吹き飛ばして胴体着陸する。
付近にはトニー王国の潜水艦が6隻が騒音を まき散らしながら全速で集まって来ており、水中装備のDLと大量のドラムを出して救助活動を始めている。
飛行機の胴体の左右に潜水艦が付き、ワイヤーが付いたドラムを機体の下から通し、潜水艦に接続して左右の潜水艦がワイヤーを引っ張る事で即席の網を作って胴体の水没を遅らせる。
その間に水中装備のDLが尾翼部分を破壊して瓦礫をどかし、侵入ルートを確保。
6機のドラムが次々と胴体に侵入して行き、泳いで機外から脱出した乗客を無視し、機内に進む。
「あっちゃあ…」
救命胴衣を膨らませた乗客は 海水が首の辺りまで入って来た船内で、浮かんでおり もがいている…浮き輪が邪魔で潜れないんだ。
ドラム達は乗客のシートベルトを外して救命胴衣に穴を開けて しぼませ、乗客が泳げる状態にして行く。
機内は基本的に無事…ただ コックピットからキャビンまでが完全に破壊されており、パイロット、客室乗務員は おそらく死亡。
瓦礫が邪魔で生死の確認が出来ない。
現時点で脱出は おおよそ200名…300人が乗って200人を助けられれば成果としては上々だ。
『こちらドラム、コックピットボイスレコーダー、フライトレコーダーを回収…海上に戻る。』
機体の外で作業をしていたドラムが言う。
「了解…エアトラに積んだら厳重に管理だ。
後でソ連、アメリカ、韓国、トニー王国で一緒にデータ解析をする。」
「了解しました。」
海上ではエアトラの後部ハッチから 萎んだ救命ボートが 散布され、次々と海面で膨らんで行く。
その後 潜水艦からやって来た水中用ドラムがボートに乗り、膨らんだ救命胴衣で浮かんでいる救助者の元へ行く。
乗客は 次々と救命ボートにしがみ付いて ボートに乗り、ある程度 人が溜まった所でエアトラが上空にやって来て、後部ハッチに取り付けられている巻き取り機からワイヤーを降ろし、ドラムが ボートの持ち手にワイヤーを接続して、手を上げて合図。
エアトラは ボートごと引き上げて 近くの潜水艦のエレベーター付近に降ろし、またボートの回収をして行く。
トニー王国初の大規模な海難救助だ。
通常 エアトラは32人乗りだし、垂直離陸で安全に墜落出来るので、海面に高スピードで激突する事も無いのだが、現場の兵達がアドリブで頑張ってくれているお陰で 如何にかなりそうだ。
「付近にソ連機…緊急発進だ!」
小型無人戦闘機であるソニックが エレベーターが上がり垂直離陸。
現場を旋回飛行させてソ連機が近寄らない様に警戒させる。
潜水艦内 格納庫。
エアトラやソニックが置かれている格納庫には大量の被害者達が寝かされ、衛生兵とドラムに治療を受けている。
主な症状は凍傷、骨折、打撲で、救助が早かったのか 手遅れの者はいない。
応急処置が終わった人から潜水艦の後ろにある風呂場に向かって貰う。
ここは小型原子炉の熱で 海水を沸騰させて 塩と真水を作る為にある蒸留施設で、湯の温度を調整すれば風呂場としても使える。
風呂場では 湯船がはられ、凍傷になっている人達が男女関係無く入浴をして身体を温めて行き、風呂場の隣の洗濯乾燥機では 大忙しで 海水まみれの衣服を乾燥させている。
元々が24人が快適に過ごせる潜水艦の為、被害者の収容は出来るが設備が圧倒的に足りない。
「ここに名前を書いて下さい」
風呂から上がって乾いた服を着た所でドラムが英語で言い、名簿に名前を書かせて行く。
現状でドラムが使える言語はトニー王国語、日本語、英語、エスペラント語で、乗客の中で比較的多い韓国人とは意思疎通が出来ない。
「英語で話せる韓国人はいますか?韓国語の通訳を頼みたい」
トニー王国の兵士が言う。
「はい、私が出来ます。」
ビジネス目的でアメリカから帰って来た韓国人女性が言う。
「助かります。」
生存者の救助が終わった事で 被害者を乗せた潜水艦は近くの千島列島に送られ、そこで細かい治療と今後の対応を待つ事になる。
他の潜水艦部隊は、海底に沈んだジャンボジェットの破片位置を記録し、回収して事故調査に役立てる。
海底に沈んでしまった4本のエンジンは、耐圧性が高い水中用ドラムでエンジンにワイヤーを取り付け、潜水艦に引き上げて貰う事で回収をしてる。
こうして夜明けが少し過ぎた辺りで作業が終了…。
潜水艦部隊は また海中に戻り、樺太の警戒任務に付くのだった。