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30 (自己無撞着問題-セルフコンシステント-)〇

 臨時役所、室内。

 役所の前で ハルミが大量の住民を止め、ナオ(オレ)達が見守る中、ジガは 役所の中でガラスの棺桶(かんおけ)(ふた)を外して 創始者レナを取り出し、床に寝かせる。

 手に持っているガラス板を外して服を脱がせ、鉄のナイフで丁寧(きれい)に腹を()いて行き、炭素繊維で出来た胸部装甲を開けて中身を見る。

「人の腹を()くなんて なんと猟奇的(りょうきてき)な…。」

 弟子と一緒に創始者(そうししゃ)レナを見ているクラウドが言う。

 この時代の医術の価値観では 医学的根拠(こんきょ)(とぼ)しい水銀などの毒物を摂取(せっしゅ)する内服薬(ないふくやく)治療がメインで、外科治療は 麻酔も無菌室も存在しない為、患者は泣き叫んで苦しみ、高確率で敗血症で死ぬ一種の拷問と認識され、猟奇的(りょうきてき)で道徳に(おと)った最低の行為とされている。

「例え最低な行為でも それで助かる可能性が あるなら 良いじゃないか?」

 ジガはそう言うと今度は皮膚を全部剥がし、腕、脚を関節から外し、床に並べて行く…。

 確かに人の生皮を剥がし、身体をバラバラにしているジガは猟奇的(りょうきてき)に映るだろう。

 最後に頭蓋骨(ずがいこつ)のカバーを外して 焦げ付いた正立方体の人工脳『ブレイン キューブ』と取り出して終了だ。

「一応言っておくが、機材が無いから簡単な所見だけになるぞ」

「ああ…構わない。」

 オレが言うとジガは説明を始める。

「まずは…復旧が可能かだが…見て分かる通り無理…。

 ここを見てくれ…ブレインキューブが完全に焦げ付いているし、データも保持出来ずに散逸(さんいつ)している…中身のデータは 全部消えているな。」

「そうか…。」

 確かに素人目でも あちこちヤバイ状態になっていると言う事は分かる。

「次、死因は過電流による回路のショートだ。

 コイツは 周波数が安定していない電気を食べ続けていた見たいだ。

 義体の周波数を安定させるパーツ、電力を一定に保つコンデンサが ボロボロになっている…。

 義体の電力調整機能を頼り過ぎて 数十年間メンテナンス無しで 酷使(こくし)したからだろうな…。

 (さら)に関節の摩耗(まもう)に衝撃吸収用の軟骨(なんこつ)が すり減り、人工筋肉もボロボロ…。

 しかも コイツは ボロボロの人工筋肉と油圧血液を使わない単純油圧ポンプを使ったハイブリットで動いている…。

 どれも これも場当たり的な応急処置で、スペックを犠牲にしてまで メンテナンスがし易い 単純構造に改造している。

 良くもまぁ ここまでボロボロになるまで綺麗に使い潰したものだ。

 パーツ取りに使おうにも 真面な パーツが一切無い。」

 ジガが言う。

 エレクトロンの価値観では、死んだ仲間のパーツを自分に取り込んで再稼働させる事で、死者の意思を受け継ぐと言う習慣がある。

 オレも死んではいないが、クオリアと恋人として付き合い始めた時に頭のネジを交換した事があり、パーツ共有による絆を築いている。

「レアメタルも それなりにあるし、融かせば素材にはなるが…。

 住民から神聖視(しんせいし)されている創始者様(そうししゃさま)だしな…精神的支柱として出来るだけ残して置きたい。」

 オレが外の野次馬(やじうま)を見ながら言う。

「うむ…見た所 構造は2600年()のヒューマノイドと酷似(こくじ)しているな…となると純鉄磁石があるはずだ。」

 クオリアが創始者レナの内部を見ながら言う。

「あっそっか…それは使えるか…。」

 ジガが腹部の装甲を開き、大量に巻かれたコイルの中から磁石を取り出す…計4個だ。

「大戦前後は もっと強力なネオジム磁石を使っていたのだが、私達に搭載されている物はレアメタルを使わない純鉄磁石。

 だが、ずっと探していた最重要鉱物だ。 

 彼女からは これを使わせて(もら)おう。」

 クオリアは「使わせて頂きます」と言い、純鉄磁石をガラス瓶に入れ、右手を胸に当て、左手を背中の後ろにまわし、軽く握り、頭を深く下げる最上級敬礼をし、それに合わせて、ジガ、ハルミ、オレと後に続く。

 クオリアとジガは エクスマキナ都市方式、ハルミはキリスト文化圏出身の為、キリスト教式、オレは手を合わせる多分 仏教式で祈る。


「後は このガラス板だな…ガラスのレコードぽいんだが…。

 クオリア…分かるか?」

 それぞれの祈りが終わった後にオレは、創始者(そうししゃ)レナの義体が持っていたガラス板を手に取る。

 ガラス板は ギザギザした溝が横向きに彫られていて、それが2行3行と下に流れて行っている…。

 ただ、行の間隔(かんかく)が異様に(せま)いし、そもそも円形では無く四角型だ。

 これではレコードを作っても再生できない。

「いや…これはレコードじゃない ノイマン型のバイナリコードだな…。

 この部分が0…で、ここが1…横軸は時間の流れだな…。」

「うわっ…何でノイマン型のバイナリコードを使ってるんだ?」

 クオリアがガラス板に目を近づけて、溝の位置を正確に読み取り リアルタイムで 0と1の数字に変換してオレに送って来る。

 流石(さすが)のオレも暗号解析プログラムを走らせないと読めない。


『あなたが、これを解析出来たと言う事は、私は機能を停止し、死んでいると言う事でしょう。

 私の蘇生(そせい)が可能な場合は速やかに 私のブレインキューブを破壊して下さい。

 私は、復活を望みません。』

 なるほど…自分の死は受け入れていたのか…。

『私は ネオアース星系と言う場所の出身であり、私は そこで人として生活を行い、夫と結婚しました。

 だけど、無限の寿命を持つ私と純粋種の彼では寿命が違い過ぎ、人としては長生きと言えるのでしょうが、老衰(ろうすい)で先立たれ、私と同じく不老の娘は行方不明…実質の死亡し、その友人も老衰(ろうすい)で死亡しました。

 私はその後、その星の統治者(とうちしゃ)として、そこで生まれた数々の種族をまとめ上げる仕事に付き、時を重ね『神』と呼ばれる存在になるまでになりました。』

 あ~とうとう神になっちまったか…。

『ただ、宇宙生命体ワームが母星を取り戻す為に報復戦争を仕掛けて来た事が原因で、星を放棄…。

 私達は故郷たる星を捨てて 別の星系に向けて各コロニーが ぞれぞれ別々に移動を開始しました。

 私が乗っていたコロニー群は、人類発祥の地球に向けて進み、この海域に墜落…。

 私以外の乗員は水没した船体で海底に沈み、衝突時に地殻をえぐった事で、大小さまざまな離島が生まれました。

 (さら)に墜落が原因なのでしょう…。

 海流の大幅な変化と磁気障害と言う大きな副作用を起こしました。

 ただ これは帆船を使っている 今の時代では強力な守りになりました。』

 あっ死の海域はコイツのせいか…。

『私は自分の知識を用いて現地民を統率を行い神となりました。

 が、私は 自分の知識的優位を守る為に住民に教育を(ほどこ)さなかった…神でいたかったから…。

 そして、神の御業(みわざ)を見せて 住民から尊敬される社会システムに私は組み込まれ、ボロボロの身体になるも このシステムから抜け出せなくなってしまったのです。』

 知識チート、技術チート物の物語の欠点だな…。

 主人公が 住民から賞賛(しょうさん)され続ける為には その技術を一般化しては ならず、常にその技術を守り 希少状態にしておかないと行けない。

 この独占する心理が 人類の文明の停滞(ていたい)を呼ぶ 主な要因になっている。

 このレナも それに()まれた訳だ。

『文明の終焉(しゅうえん)が近づいて来ました…。

 随分(ずいぶん)昔から この問題は 分かってはいたけど、私は 神である事を止められませんでした。

 原因は 鉱物と石油資源の枯渇(こかつ)と この身体の寿命です。

 メンテナンス設備と専門の技術者を失ったのが痛かったです。

 私は何でも出来ると思っていたのに、自分のメンテも出来ない。

 私は 道路の脇に果実の木を植える事で、食料を採取しながら長距離を移動出来るようにし、兵站(へいたん)への負担を減らしました。

 燃料の為に禿山(はげやま)にしてしまった森も成長が早い竹と杉を植える事で解決しました…もう、木材の不足で悩まさる事も無いでしょう。

 森には繁殖が非常に高いウサギと、それを狩るキツネを中心に生態系を構築する事で、毛皮と肉の確保に困らないようにしました。

 もう、冬の食料難、寒さで、餓死、凍死する人も出ないでしょう。

 湖の魚も生態系をしっかりと構築し、生態系を破壊させないように 湖から川に流れて来た余剰(よじょう)の魚しか食べては いけないルールを作りました。

 これで魚も取れ、飢える可能性も 完全に防ぎました。』

 この島の植生が やけに都合の良いから気にはなっていたが、こういう事か…。

 ただ、生活に不住が無い環境を作る事で 島民の発展を阻害(そがい)してしまっている停滞(ていたい)のシステムだ。

『私は自分の棺を あえて希少なガラスで作り、そろそろ死ぬであろう この身体を棺に入れて神社に(まつ)らせる事により、神格化した神として住民にルールを徹底させる事が出来ます。

 このガラス板を解析しているあなた…ナオ…クオリア…ジカ、ハルミ?もしかして エレクトロンの誰か?

 この問題のデバックを頼みます…それが私の望みです。』

 ロウの名前が無い…。

 いや、ナオキがオレだった時は、ロウはレナ達と一緒にネオアース星系に行ったんだよな…。

 ここから先は、創始者(そうししゃ)レナが体験した問題が羅列(られつ)されている。

 簡単にまとめると、武器や工業技術に付いては得意だったが、医療分野の知識は壊滅的で、島民の怪我の治療までは出来るが、生まれてくる未熟児は完全に救えず 病気の治療は出来なく感染症で大量の島民を病死させている。

 これは環境が徹底管理されているスペースコロニーでは大病は ほぼ無く、しかも レナは病気や怪我とは無縁な全身義体だからだ。

 そして、高度な技術の(かたまり)である義体のメンテナンス工場を作る事は出来なく、これが 自分の死因に繋がっている。

 そして、神として振る舞わなければ ならない以上、同格の相手がいなく賞賛(しょうさん)の声は山ほど来るが、彼女は一人で孤独だった…と。

「確か…この人選(じんせん)を選んだのは、ポジトロンのナオキとリアだよな…。」

 ARウィンドウに表示されている解析された文を読み終わったオレが言う。

「ナオが これを読んで対策したから 未来のナオキが対策をしたのだろう…。

 病気を治せる衛生兵のハルミ…。

 義体のメンテナンスが出来、レトロ文化を愛するジガ…。

 そして…」

「オレの理解者でブレーキ役のクオリア…。

 後は ここには来ていないが カレンだな…。

 彼女は自己修復が出来るメンテナンスフリーのハイブリッド義体の開発をしていた。」

『今の義体メンテナンスは高度な技術に依存しているんだ。

 もしその技術が何らかの方法で失われたらどうする?

 メンテナンスを受けられなくなったサイボーグは、そこで死亡確定さ。

 更に言うなら、メンテナンス用パーツの製造が停止、高度化による規格の変更によってパーツが合わなくなって死ぬケースもある。

 『不老不死』とか呼ばれてはいるが実際、生身の方が身体の寿命は長いんだ…。』

 カレンの言葉だ。

 そして 彼女が(つく)った ハイブリッド義体は 今、月の裏に止まっているホープ号に保管されている。

 これで最悪パーツの補給が出来なくなったとしても、ホープ号で義体換装が出来る。

「すべて繋がっていたんだな…。」

「セルフコンシステント…自己無撞着(むどうちゃく)問題だ。

 より良い未来を手に入れる為に歴史改変をしているのだから、最終的には最適解に落ち付く…。

 今回の私達がゴールをするか、次の私達に問題を投げるか…まだ分からないがな…」

「ただ、前回とは違い 今回はロウが来ている。

 アイツが何かしらの可能性を持っていると信じたい。」

「さて、創始者(そうししゃ)レナは 文明の復活の事も考えていたようだ。

 ゴミ捨て場は ここから見て湖の反対側…。

 と言うより…この山自体がゴミ捨て場の埋立地だったようだ。」

「この山 自体が鉱山って事か…。

 となると地下坑道(こうどう)を造らないとな…。」

「現状では 大規模な掘削は難易度が高い…。

 だが この地点を6m程度掘ると一番近い ゴミ捨て場に辿(たど)り着く。

 この資源で車を造って鉱山までのルートを確保する。

 この山を切り崩すのは 土木機械が出来た後だな…。」

 クオリアはそう言って役所を出て湖まで行き、ジガは創始者(そうししゃ)レナの身体からレアメタルを丁寧(ていねい)に取り出して行き、手足を繋いで 胸の装甲を閉じて皮膚を被せ、傷口が見えている物の、ある程度元通りにしている。

 そしてオレは 住民をが入らないようにしているハルミをの横から野次馬をかき分けて通る クオリアの後を追うのだった。

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