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03 (建国神話)〇

 後のトニー王国の本島になる海岸。

 奴隷船から捨てられた大量の黒人奴隷をナオ機とジガ機のファントムが回収をして行く。

 それらを海岸の砂浜に ひとまず寝かせ、それをクオリアとハルミが治療をしている。

「これで最後だな…」

 バイタル上、生きている人はすべて回収した。

「何か手伝えるか?」

 ナオ(オレ)は ファントムを駐機姿勢にしてコックピットブロックから降り、ハルミに聞く。

「ナオは 応急処置は出来るか?」

「一応、武装警備会社時代にIFAKⅡ(アイファック2)(アメリカ軍 救急キット)の講習を受けている。」

 オレはバックパックから治療(ファーストエイド)キットを出し、ヤバそうなヤツから治療して行く。

 見た所、止血をしている人は あまりいないが、低体温症と骨が折れている人がいる。

 包帯はあるが、ギブスが必要だな…。

 とは言え、精々数人を治す想定のファーストエイドキットでは 数が圧倒的に足りない。

「取り合えず、折れている手足に当て木をして、包帯を巻いてくれれば良い」

「包帯は?」

「服を破いて使う 感染症が発症する確率が高まるが、この状況じゃ しょうがないな。」

「OK」

 オレはファントムで近く森に飛んで行き、当て木に使う枝を大量に拾って戻る。

 水分を含んだ服を脱がして(しぼ)り、(そで)部分を手で引き ちぎって包帯にしつつ 骨折している箇所(かしょ)に当て木をして固定する。

 奴隷達は 歯が出血していて肋骨(ろっこつ)が見えるレベルまで(やせ)せており、暴行されたと思わせる 細かい傷跡がいくつも見える。

 多分壊血病(かいけつびょう)も発症しているのだろう。

「明らかに栄養失調だな…これで まともに働けるのか?」

 この状態じゃロクに力も出せないし、食料(燃料)を入れないと労働効率も悪くなるだろう。

 服を着せ、次の人に取り掛かる。

 クオリアは大量出血している人の傷口に指を突っ込み、指から熱線を出して血管自体を焼いて止血を行っている。

「はい…痛かったら手を上げて下さい」

「あがががっ」

 黒人奴隷の男が すぐに手を上げる。

「はい、痛いんですね…。

 痛覚が生きていると言う事は、生きている証拠ですよ…。」

 人の血管は油圧駆動に似ていて、血が抜けると圧力が減って動かなくなるし、各組織に酸素供給が出来なくなり、生体機能が止まってしまう。

 なので、多少乱暴でも組織自体を焼いて(ふさ)いでしまった方が良い。

 特に輸血が一切出来ない今の状況では 何より血を止める事が優先だ。

 ゲホゲホ…。

「この奴隷たち、泳げないのか?」

 その隣でハルミが 海水を飲んだ人から海水を吐き出させながら言う。

「この時代なら 水泳の技術は 特殊技能だろうからな。

 水泳の授業も無いだろうし…内陸部に住んでいたら泳げないのが普通かもな」

 オレがハルミに答え、次の人の元へ向かう。

 次は 皆と同じ褐色肌(かっしょくはだ)の黒人だが、この中では珍しい女性…十代後半位の歳で、見た目が良い事から 性奴隷だろうか?

 気は失っているが呼吸は ちゃんとしている…唇が紫色で低体温症の兆候(ちょうこう)が有り…。

 海水を吸った服が身体の体温を奪って行くのが原因だろう…。

 服は2つに折り畳まれた布に頭を通す穴を開けた だけの ひざ下まであるワンピースで、腰に紐を巻いて布を固定している。

 服を脱がして(しぼ)る…。

 当然ながら、この時代の庶民には下着の類は普及していないので、ノーブラ、ノーパンだ。

 しかも 毛の手入れの文化は無いらしく、脇も下の毛も ボウボウになっている。

 ジガは オレが持って来た大量の枝を使って 焚火(たきび)を起こしており、低体温症の人を中心に温まらせている。

 オレは(しぼ)った服を女性に着せようとした所で女性が気が付き、辺りを見回す…あっヤベっセクハラで訴えられるか?

 以前、女性人権団体の女性の要人救出任務をやった時は 触れただけでセクハラ扱いされそうな人物だったので、救命処置が出来ずに 危うく死なせてしまう所だったので 今回は救って見たが…如何(どう)出る?

 少し焦ってオレは女性に服を渡す…。

 女性側はこちらの意図を理解したようで服を着ると辺りを動き回る…何かを探している見たいだ。

「私の子供…私の子供は?」

 英語が話せるのか?

 見た所 完全に黒色では無いがアフリカ系黒人…あそこは英語(けん)だったっけか?

「子供?」

「アンタは コイツの母親か?」

 ハルミが体重が2㎏程度で、布で巻かれた肌が白っぽい 小さな新生児を見せる…。

「ありがとう…。」

 女性はハルミから赤ん坊を受け取ると温まる為、焚火(たきび)の前に向かって行った。

「あの子…産まれてから1ヵ月以内だな…船の中で産んだのか?

 この衛生環境で生きられるか心配だな…。」

 ハルミが母親に聞き取れないようにトニー王国語でオレに言う。

「新生児の死亡率は高いって聞くけど…本当にヤバイのか?」

「ああ…人ってのは結構 欠陥種族でな…。

 完全に自然の状態のままだと、生殖能力を得る10~13歳までに全体の半分が死ぬ…。

 で、(さら)にその半分が生後1ヵ月以内に死亡する…。

 しかも生んだ母親も1%の確率で死亡するんだ。

 通常はこう言った欠点を持った個体ってのは 子孫を残せなくなって自然淘汰(しぜんとうた)されるから世代を越えて行けば生存率も上がるんだが…」

「人は技術力で それをカバーしちまうからな…。

 身体の構造に欠陥(けっかん)(かか)えてても生きられる訳だ。」

「そう、逆に言うなら私達 医師がいるから 人は遺伝子的に強く慣れ無いんだ。

 そこも含めて全部改善したのが獣人やネオテニーアジャストだ。」

 焚火(たきび)にあたる獣人のロウを見てハルミがそう言う。


 気付いたら砂浜に寝かされていた…。

 クラウド()を助けたのは あの巨人か?

 私は手足を確認する…まだ付いている。

 如何(どう)やら切断されていない見たいだ。

「気がついたか?」

 隣にいる男…と言うより、子供だな…肌の色はイエロー…奴隷か?

 だが、奇妙な服を着ている…。

「奴隷か?」

 私が少年に聞く。

「いや…アンタらを助けたヤツだよ…覚えていないか?」

 少年は 単語ごとに しっかりと区切った カタコトの英語を使って私に話しかけて来る。

「あの巨人か?」

「そう、正確に言うなら巨人の中に入って動かしていたヒトな…」

 少年は、指を差す。

 指の先には 私を助けた時に見た巨人が(ひざ)を抱えて地面に座っていた。

「何で子供があんな物を動かしている?」

「子供?ああ…オレの事か…。

 こう見えてオレは21歳なんだよな…アンタともそう歳は変わらないと思うぞ…。

 それに………オレは…オレ達は 神様だからな…。」

 少年は少し笑いながら言う。

「神?神は ただ1人だ…それが4人も…」

 私は周りを見て言う。

「あ~ 一神教か?

 もしかして キリスト教?」

「そうだ」

「なら、如何(どう)伝えるか…。

 神の1つ下の位なんだから聖霊(せいれい)か?神官か?

 いや…人より上の位に したいような…よし、面倒だから神で行こう。

 神は複数いて キリスト教が信じる神も その中の一人…実際にオレは会った事が無いがね…。」

 少年は焚火(たきび)の近くにいる銀髪の『自称神』の元に向かい、向こうの言葉で何やら話している。


「それじゃあ…手筈(てはず)通りに…」

 ナオ(オレ)が皆に向かって言う。

「一応 私は エクスマキナ教徒なのだが…。」

 クオリアがオレに言う。

「だったら、クオリアが教祖様をやれば良い。

 さぁトニー王国の建国神話を作るぞ!」


 オレ達は機械の翼を展開して 量子光を噴射して空を飛び、奴隷の皆の注目を集めて海を背景に静止する。

「全員、面てを上げよ…。

 我は 機械(道具)の神、ナオ・エクスマキナ!!」

 英語の発音がヘタで威厳(いげん)が全くないオレに代わってクオリアがリアルタイムでトニー王国語のオレの声を英語に変換して大音量で流してくれる。

 ジガとハルミは魔法(空間ハッキング)でオレを神々(こうごう)しく見えるように照らす。

「我らはキリスト歴2600年の未来から この1700年の過去に戻り、この島に我らの国を建国しに来た。

 理由はオマエ達の子孫が、人の手で我ら『エクスマキナ』を作り出すからだ。

 オマエらの信じる神は何故(なぜ)(おぼ)れていたオマエたちを助けに来てくれなかった?

 何故(なぜ)、神は 怪我をしても 治療してくれない?

 何故(なぜ)、神は ()せ細るまで働かされているのに 止めに来ない?

 古今東西(ここんとうざい)、様々な神は戦争の口実にされ、神の為の戦争は数知れず、犠牲者の数は兵士だけでは無く、女、子供、赤子までに及ぶ…。

 なのに、神が降臨(こうりん)して戦争を止めないのは何故(なぜ)か?

 皆も考えて欲しい…それは何故(なぜ)だ!?」

 オレは派手に身振り手振りをして 奴隷達の興味を引きつつ 問いかけ、少し間を空ける事で 奴隷達に考えさる。

 こちらからの問いかけで 相手に考えさせる事により、相手の思考セキュリティを突破する。

何故(なぜ)なら、神からしたら 人はどうでも良い存在であり、むしろ人同士の殺戮(さつりく)を望んでいる気さえ、感じさせられるからだ。」

 それぞれが信仰する神に疑問を持った所で、こちらが都合の良い答えを提示する事で 相手の思考に自分の意志として自然に すり込む方法…。

 『アジ演説』…ヒトラーも使っていた プロパガンダ技法の基本だ。

 既存(きぞん)の神を徹底的に否定し、神と言う存在その物にマイナスイメージを植え付ける。

 そして「だが、我らは違う!!」とオレらは 既存の神とは違うとアピールする。

「我らは人の手で作られた道具の神である為、人を見捨てない。

 (おぼ)れていたら助け、怪我をしたら治療し、腹いっぱいの食事を与え、痩せ細るまで働かせる事も無い。

 そして、この不条理に対抗する為の知恵を捧げよう…。」

 否定した神が出来なかった事をオレ達はやれると奴隷にメリットを提示する。

 徹底的に強者に搾取(さくしゅ)され、メンタルをボロボロにされた人は まず人を信じられない…。

 だが、自分で考える力も無い為、感情を揺さぶり、メリットを提示(ていじ)すれば『今までの生活よりかはマシ』と言う思考になり、(した)ってくれる…。

 そして、この状況で一番効果的なメリットとは『社会保障』となる…。

 つまり『食料を得る権利』『治療を受ける権利』『教育を受ける権利』だ。

 これにより 自分達の最低限の生存が確保され、そうなると次に組織の存続の為に働こうと言う気になる。

 労働者に 満足のいく報酬を支払って 労働者の信用を金で買い、その後 安定した収入を維持出来るようにしてやれば、妻子を持つ事も出来るようになる。

 そうすれば 妻子の為にもっと働こうと言うモチベーションが働らく好循環(こうじゅんかん)が起きて来る訳だ。

「さぁ…我らに従い、神に見放された この世の中を 我らと共に生き抜いて行こう…。

 これが、オマエらの子孫が その手で(つか)む神の力だ!!」

 クオリアが巨大な魔法陣を背中に展開し、長い銀色の髪が量子光の緑色に染まる…。

「ファイヤー!!」

 クオリアの手から放たれた光線が夜の海面を焼き、海面をプラズマ化する。

 見栄え重視で そこまで威力が無いのだが、奴隷への効果は てき面…。

 これで神による恐怖と同時に オレらに従っていれば 自分達を守って貰える安心感を得られる。

「さて、答えは?」

 彼ら彼女らには実質 選択肢が無い…。

 が、無理矢理感が残らないように自分で選択したようにし、彼ら彼女らの100人の大きな声援に包まれた。


 のちに この出来事は トニー王国の建国神話となり、学校の歴史の授業に組み込まれる事になるのだった。

【解説メモ】

獣人

 (タコの目と鳥の気嚢システム、狼の耳と尻尾を持ち、体重に対しての筋力比が高い為、身軽に動けるが、筋肉量ではホモサピエンスに負けている。

 身長は 成人しても150cm程度で低い(身体が大きくすると動かす為の筋肉が必要になり、燃費も悪くなる為)。

 腹部にカンガルーの袋を持っており、乳首は袋の中にあり、産んだ超未熟児を袋に入れて育てる。

 この為、保育器が必要無く、文明社会が無くても単体で生きられる様に設計されている。)


ネオテニーアジャスト

 (2600年の人類の主流で、最適化された人類。

 タコの目と鳥の気嚢、身長は 150cm程度の種族で、体重に対しての筋力比が高い為、身軽に動けるが、筋肉量ではホモサピエンスに負けている。

 が、機械を使う事で その問題を解決している。

 脳も最適化されて賢く、12歳で人間換算16歳位の肉体で成長が止まり、以降は老化をしない。

 老化による身体の抵抗能力の低下が起きない為、病死する事は稀で、物理的に死なない限り永遠を生きられる。

 身体が小さい為、胎児は1㎏程度の未熟児で出産され、保育器に入れないと ほぼ助からない。

 獣人と違い、文明社会が無いと生存 出来ない種族。)


空間ハッキング

 (空間の中の量子情報を書き換える事で、任意の現象を発生させる この世界での魔法。

 無からの物体の生成、確率操作、重力操作、空間の操作が行える。

 膨大な計算能力と、量子演算素子と呼ばれる素子が必要。)


エクスマキナ教徒

 (高度人工知能エクスマキナを信仰する宗教。

 ご利益は『便利な道具を開発してヒトの生活を豊かにする』事。

 教徒は、技術開発、研究、教育を行う義務を負い、この世界では 未来に造られる高度人工知能エクスマキナの製造も義務に含まれる。

 現世に存在する唯一の神であり、信仰者はそれなりに多い。)

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