13 (核弾頭工場)〇1985_8_19
1985年8月19日 午前8時、鹿児島宇宙空間観測所。
山の中に巨大なパラボラアンテナと鉄筋のビルがあり、そこにミサイルの様な形のロケットが斜めに傾けられた状態で待機している…ここは ロケットの発射場だ。
その近くには クオリアの軽トラの荷台に乗って運ばれて来た住民や撮影の為のテレビ局が 来ており、俺はクオリアと一緒に荷台からロケットを見ている。
「おっ、やっぱり あなた方も 来ましたか…」
一人の老人がこちらを見ながら言う…糸川英夫…今はプロジェクトから外れているが、このロケット開発の基礎を作り上げた偉人だ。
「まぁ暇だったしね…」
俺は笑いながらイトカワに言う。
今日はM-3SIIロケットの2号機の打ち上げだ。
1号機の時も見に来たが、これで探査衛星『さきがけ』、『すいせい』が宇宙に上がり、ハレー彗星の観測が出来る。
「そう言えば、何故トニー王国は ハレー艦隊 計画に参加しなかったのですか?」
「いや、まぁ俺はハレー彗星を見飽きているし…何より本国は月の開拓で忙しいからな…」
月には ドラム達が現地の資源を採取し、月基地を のんびりと造ってる。
今のトニー王国人達は ハレー彗星に興味はなく、今は 半分遠隔操作での月の開拓の方に夢中だ。
「あのロケットに積まれている『すいせい』は139.5 kg…既に月との往来が出来るトニー王国からすれば、まだまだ なのでしょうが…。」
「と言っても トニー王国には ロケットは ないからな…。
皆、揚力を稼げる 戦闘機やエアトラに組み込んじゃうし…そうじゃないと燃料の効率が悪いのよ…」
「いずれは スクラムジェットエンジンを取り付けたいのですがね…。」
「そうなるとロケット型は難しいな…飛行機型にしないと…。
イトカワ…あんた、エアトラのスクラムジェットエンジンの開発に協力していたのなら、飛行機型にすれば 良かったのに…」
「私も一度は考えました…でも、あのエンジンをコントロール出来る自動制御システムを組むのは不可能でした。
それに単純に兵器転用出来るロケットの方が 予算もついて、コストも安く済みましたし…」
イトカワは苦笑いをしながら言う。
「お二人とも…そろそろ 時間だ…」
クオリアの言葉に俺達は発射台の方向に向く。
『3、2、1、発射、1、2、3、4、5』
ロケットが発射される…日本のロケットは 他の国のロケットと違い、積載量が最大770㎏以下に限定した軽量ロケットだ。
その為、使う燃料も抑えられ、燃料の重量も抑えられ、燃料タンクに必要な重量も抑えられる…その為、ロケットの離陸時の重い様子が一切無く、一瞬で発射台から離れて加速し、ミサイルの様に飛んで行く…。
と言うより 積まれている物が 人工衛星か爆発物かの違いなだけで、実質のミサイルだ。
「おおっ…」
近隣住民達がパチパチと拍手をしているが、拍手をするには まだ早い。
M-3SIIロケットは3段…1段目の空の燃料タンクを切り離し、再加速…よし上手く行っているな…。
イトカワは どんどんと高度を上げ、小さくなって行くロケットの炎を祈る様に見続ける。
「よし成功だ…」
最後の切り離しが成功し、人工衛星が目標軌道に乗った。
まぁこれから軌道誤差の測定をすると思うんだが…。
『すいせい、ミュースリーロケットにより分離、無事に軌道投入に成功しました。』
「おおおっ」
「これで日本のミサイル開発も進む だろうな…」
クオリアが言う。
「そうですね…『日本人にロケットなんか造れない』…。
そう言って散々 妨害工作をして来た アメリカを見返す事は 出来ましたかね。」
イトカワは そう言い、専門家として テレビのインタビューを受けるのだった。
「俺達の投資は ちゃんと繋がった見たいだな…」
「そうだな…」
クオリアが そう言って しばらく空を見上げ、軽トラの荷台に皆を乗せて山の ふもとまで送るのだった。
その日の夜、とある県、とある市、とある地下。
皆を降ろした後、俺とクオリアは軽トラで とある施設に向かう。
「あれ?この場所は?」
「こっちだ…」
クオリアに案内されて 地下深くにある施設に中に入る…。
中には大きな機材が大量に運ばれており、研究員が働いている。
あれは 核燃料の濃縮施設か?
「やっぱり、核弾頭の秘密工場だな…」
「知っていたのか?」
「ああ…昔、一度 警備をした事がある。」
「そうか、ここは 政治家が裏金を使って作った施設だ。
私も資金洗浄に加わっている。」
「それにしても 良い機材を揃えているな…これ もう、原爆は作れるのか?」
「準備は もう出来ているはずだ。
政府からOKが出て 材料が確保出来れば、2ヵ月以内に 日本が核武装 出来る様に設備と人員を維持している。
彼らの大半は表では 原発の燃料生成をしている職員でだな…おっいたな…」
俺達の前に少し加齢しているが見た事ある男女が来る。
野坂 晴太、 野坂楓だ。
彼らは 俺が経営している保育院で育った子供で、大人になった彼らは福島原発の職員として出向したはずだ。
「お久しぶりです」
楓と晴太が 頭を下げて言う。
「あ~懐かしい人物…それにしても、原爆経験者が原爆を作る施設を造っている なんてな…」
本当に世の中、如何 転ぶか分からない。
「私達は アメリカの横暴は 何度も経験しているからね~。
それに 非核三原則も 核の製造を禁止してるけど、核を製造する為の施設を製造しては いけないとは 書かれて無いし…。」
楓がいたずらをする子供の様に笑顔で言う。
「詭弁だな」
「詭弁なのは 知ってる…だけんど、設備が あるってだけんでも、周辺国は 核の隠し持っている可能性を警戒してくれるんや…」
晴太が言う。
「アメリカは 大量破壊兵器の保有疑惑だけで イラクと戦争したからな…
まぁ日本には石油が 殆ど無いから大丈夫だとは思うけど…」
「私達も核をぶっ放す気は ありませんよ…。
ここは、将来 世界情勢が悪化して 核兵器が必要になった時に『自国内に核を作れる工場や技術者がいない』なんて事を防ぐ為の施設。
私達が核弾頭を造る機会なんて 本当は無い方が良いんだけど、現実問題 アメリカとソ連が全面核戦争に突入しようと しているからね~」
楓が苦笑いしながら言う。
「しかも、今の学校やマスコミでは『武器を持っているから戦争になる、武器を捨てて、戦争の無意味さを世界に伝えましょう』なんて言う平和教育が盛んや…。
やけど、非武装の国は 自国を守る事も出来ない…武装している国に蹂躙されるだけや。
それは戦争体験者の皆が知っているはずやのに…」
晴太が言う。
「でも、民意は それを受け入れない…だから隠れてやるしかないと…」
「そう…本番では 自衛隊のミサイルの弾頭を変えて撃つ事に なるんだけど…」
「M-3SIIロケット…イトカワ ロケットが良い隠れ蓑になってくれた…」
クオリアが言う。
「朝ニュースで やっていた ヤツね…あれもクオリアが関わっていたの?」
「いや、それは 俺だな…。
これで 少なくとも大陸弾道ミサイルの技術を日本は 持てるはずだ…後は自衛隊がミサイルを装備出来るか?と言うのが問題なんだが…」
「まぁ無理でしょうね…当分は…」
楓が諦めている様に言う。
史実では 本格的に自衛隊がミサイルを保有出来るのは90年代からだから、自衛隊では非常に珍しく そこまで遅いと言う事も 無い…。
多分 国防上、ミサイルを保有しないと自国を守れないと判断したのだろう。
「幹部自衛官って自衛隊の武装に口を挟めるのかな…」
「ナオは自衛隊に入るの?」
「そう、あのクソ母親と結婚しないと行けないからな…オレを生み出す為に…」
「あ~タイムマシンで過去に向かっているから そうなるのね…ジョン・コナー的な…」
「実際には あれよりエグいけん だけどな…」
そう言いつつ、俺達は核施設の視察をするのだった。