11 (ヴィレッジ オブ ガンスミス)〇
沖縄普天間基地。
「一体、今回の任務は 何になるんだか…。」
「作戦を 知らされていないと言う時点で また汚れ仕事だろうな…」
米兵達は アメリカ本国から空母を経由して沖縄の普天間基地に入り、そこからヘリコプターに乗って 現地に向かう。
そして こんな長距離を移動させられたと言うのに作戦の内容を未だに知らされていない。
ただ…防弾チョッキの上から私服を着て、装備はM3グリースのサプレッサー装備。
軍服や部隊章を付けられない辺り、ロクな仕事ではないのだろうと言う事は予想が付く。
「作戦の説明は機内で行う」
作戦内容を知っているであろう指揮官が言う。
「ほう、これがブラックホークか…」
俺達は 最新鋭のヘリコプター…UH-60 ブラックホークに乗り込み、席に付くと すぐに垂直離陸し、目的地に向かって飛び始めるのだった。
「では作戦を説明する。
今 我々が向かっている場所は フィリピンのダナオ市の山の中だ。
ここでは 銃の密造が行われている…今回のターゲットは この工場だ。」
「フィリピンで銃の密造なんて 今に始まった事じゃないだろう?
それこそ50年も昔からやっている。」
「そうだ…ただ、最近では 今まで バラバラで活動をしていた密造銃 業者達を まとめ、最新の設備を使って 高品質な銃を作っているとの情報が入って来た。
ここから流れる違法な銃は ニカラグアに運ばれ、現地の共産主義 ゲリラに売られている…。
今回は ニカラグアへの違法な銃の供給を止める為、この工場を叩く事になる」
なるほど…資本主義陣営のゲリラに アメリカの銃を売れなくなると ニカラグアから コカインが手に入らなくなるからな。
「では、次はターゲットの女だ。」
俺達は 写真を見せられる…短い茶髪の女…人種的にはアジア人か?
「名前は ハルミ・マキナ…トニー王国出身…。
ニカラグアの共産主義陣営からの資金提供を受けている人物で、ダナオで ニカラグアに送る為の銃の製造施設を造るのが目的だ。
彼女は 一応 観光と言う形で入国していて、この密造銃 工場も彼女の別荘との事だ。」
次は 複数の角度から撮った 工場の写真だ…白いコンクリートブロックで造られている家で、こちらの銃弾では貫けない…。
「作戦目的は ハルミ・マキナ、密造銃の作業員の殺害 及び、密造工場の破壊だ…爆破には このC-4を使え」
渡されたリュックには 爆薬の他に 地図や食糧などが一通り入っている…山岳装備だな。
「我々は 世界の安定の為 共産主義陣営の拡大を阻止しなければならない!
キミ達の成果は世間に公表される事はないが、必ずや資本主義陣営の勝利に導く事だろう」
夜中 フィリピン山中。
「降下! 降下! 降下!」
ホバリング状態のヘリからロープを降ろし、それを つたって 次々と降下…。
「ちょっ…」
ヘリが1m程 降下し、暗い中で 地面との目測を誤る…慌てて手を放し、地面に着地…後 少し遅かったら尻をやってた。
そして全員が地面に山の上に降りるとブラックホークは ロープを引き上げて去っていった。
俺達は周辺を警戒しつつ歩き続ける…敵に察知される事を警戒して目標から20km離れた場所に降下させられた。
山の傾斜と荷物の重量…それに休憩を考慮すると まる1日は掛かりそうな距離だ。
「はぁ正直、気が乗らないな…」
「気が乗る任務なんてあったか?」
「……ないな~」
俺はそう言い、手でタバコを内側に挟み、ライターの火を隠しつつ火を点ける…タバコでも吸って無いと やってられないクソ任務だ。
「ここの連中、借金漬けにされて 必死で作った銃も買い叩かれていた連中だぞ…。
それが借金を返して真面に稼げるようになったら俺達に殺されるって…」
「まぁ彼らもアメリカで生まれていれば 優秀な銃職人として活躍 出来たんだろうけど、金持ちは更なる金持ちになり、貧乏人は いつまで経っても金を稼げないのが資本主義だ。
貧乏な国で生まれたのが 彼らの災難って所かな~」
「それで良いと思うか?」
「良いんじゃないか?俺は金を持っているから…嫁にも子供にも不自由させない位の生活は させられる…。
それに 共産主義のは こっちの取り分が 減るから嫌だな…」
「俺は家が貧乏だったから軍に入って 人を殺して来た…上官に媚びも売った…だから今がある。」
「貧乏人を救ってくれる金持ちも いるって事さ…俺はゴメンだけど…」
「本当に 何が正しいのか、何が正義なのか 分からなくなるな」
「そんなの簡単さ…アメリカが正義…それ以外は 皆 悪。
アメリカなら どんな極悪非道な事をやっていても それを正義に出来る力と金を持っている。」
「本当の正義は存在しないと…」
「まぁ…厳密には『悪は無い』かな…。
皆が自分の正義で戦って敵対組織は悪になるってだけ…そして勝者は自分の正義を相手に押し付ける事が出来る。」
「ヒドイ話だ…で、アメリカの正義を信じない者は殺されると…」
「そ、今の話は聞かなかった事にしてやる…出世に響くしな」
「そりゃどーも」
俺はそう言い、道の無い山を歩き続けるのだった。
土の道路から舗装された近代的な車道に繋がっている場所で、villageof gunsmithのアーチが立っている。
「銃職人の村?…密造銃を作っているってのに やけに堂々としているな。」
俺達は 銃をぶら下げたまま 一般人に紛れて 中に入ってみる。
住民達は腰のホルスターに入っている銃や、スリングベルトで肩から下げているサブマシンガンを見せつける事で こちらを威嚇し、無用な争いを避けている。
その為、俺達が銃をぶら下げていても そこまで 違和感がない。
「なんじゃこりゃあ…」
コンクリートブロックで出来た立派な家が いくつもあり、日用品を扱っている店やバー、学校、大型の工場、病院など一通りが揃っている。
それらが 道路にそってチェス盤の目の様に綺麗に並べられており、ここの管理者の都市計画が優秀だと言う事が分かる。
店に入って品揃えを見て見ると かなり豊富で、緑色の小麦粉が麻袋で販売されている。
これは フィリピンの主食の米じゃない…トニー王国の主食のミドリムシだ。
この町の背後にトニー王国がいるのは確実の様だ。
俺達は 3射線で街灯、歩道付きの道路を進んで行く。
道路は完璧に舗装されていて、ヘルメットを被った作業員達が、カラーコーンで囲われた 歩道の床を上げて、中に水道管類や電線などのケーブルを入れている…ライフラインは地下敷設か…。
我が国も含め、大量の支援金をフィリピン政府に送っているが、メンテナンス費用が かさむ立派な橋、金持ちしか利用できない病院と、政府関係者が利用する設備は 比較的早く建設されたが、皆が使える舗装道路は 仕事は全然 進んでいなく、ハルミ・マキナが資金を出したと思われる この土地の方が 明らかに近代化している。
民主主義の手続きを無視した有能な独裁者による町の急激な発展…ヒトラーの再来だ。
アメリカは この町が更に発展して脅威になる前に潰したいのだろう…。
「ここか…ハルミの別荘と言うのは…」
長さが120m程の大きな建物で3階建てで、Target Shootingの看板が描かれている…会社名だろうか?
屋上には トニー王国のティルトウィング機 エアトラが乗っているヘリポートもある。
「緊急時には ヘリポートから逃げられるな…厄介だ」
「おい…随分前に ここに来た事があるんだが…この発展は何だ?
確か密造銃を作っている業者がいたと思うんだが…」
俺が近くの村人に聞いてみる。
「あ~それは 領主様のお陰です。
今までコソコソと 密造銃を作っていた技術者達を領主様が買い取ったのです。
領主様は最新の銃製造 機材を導入し、今では 正式に銃製造メーカーとして会社も立ち上げ、フィリピン軍向けの真っ当な銃も 製造をしています。」
「製造してるのはライフル?」
「いいえ…今流行っている サブマシンガンやハンドガンが主です。
自衛用の小型武器の市場を狙っているとか…。」
「なるほど…助かった。」
俺は1ドルのチップを村人に渡す。
今のフィリピンは 大半の軍事機材を アメリカやブリテンから 高値で買っている状態だ。
なのでコピー品で自衛用の装備とは言え、自前で歩兵用の銃の製造がしたいのだろう。
これもアメリカの銃市場に大打撃を与える要因になりかねない。
「非常に惜しいが真っ黒だな…」
俺達は別荘の周りを何気ない風を装って歩く。
「ドアと窓ガラスは 全部 防弾仕様…外壁はコンクリートだし、銃による貫通は期待できない。
C-4による壁破壊突破しかないか…。」
俺は小さな声で言う。
この周辺の建物は 屋敷の屋上より低く、屋敷の住人が屋上に上がれば 上から一方的に下の敵を一掃出来る…要塞の様な設計だな…銃職人の屋敷だけあって 考え抜かれている。
「近くの建物の屋上からなら 屋上に やって来るターゲットを狙えるか?
斜め上に撃つ事になるし、目測でも50mを越えるだろうが…」
M3グリースの有効射程は50~90m…ロープンボルト式で スコープ無しの この状況で、しかも今は夜…精密狙撃は難しい…狙撃用のライフルがあれば 簡単に貫ける距離なんだがな。
「それしか無いな…いくら相手が素人だとはいえ、これを落とせと?
ヘリによる掃射で ヘリポートを制圧して、上から乗り込んだ方が ラクなんだが…」
「ヤツらも一応 民間人だからな…表向きは殺せない。
だから、俺らなんかが 呼ばれた訳さ…さっ…引き上げるぞ」
俺は そう言い、詳しい作戦を詰めつつ 深夜になるのを待つのだった。