表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/339

09 (トリクルダウン)〇

 フィリピン…ダナオ市、山の中。

 まず ハルミ()が やろうとしている事は、アラド達の信用の確保だ。

 図書館でフォリピンの法律を丸暗記し、現地の弁護士に相談。

 アラド家に金を貸していた 高利貸しを訴える…ぶっちゃけ、借金の返済額より それに掛かった経費の方が高く付くが、これは 他にいる高利貸し への牽制(けんせい)にもなる。

 フィリピンの法律上では 貸した金額が少額の為 一応の合法。

 だが、貸した金額による利率は 闇金も卒倒するレベルで高く、違法性が ありそうでは ある…との事。

 なら 良心的な金利 設定のフォリピンの銀行から金を借りれば良いのではと考えてみたが…結果は無駄。

 彼らは 定職に付かず収入が無い為 金を貸す事は出来ない…『違法な銃を作って稼いでいます』とは 言えないからだ。

 その為、1家に付き 1000ドル程 あれば解決する事だが、フィリピンは 世界中から毎年 数億ドルの経済支援を受けているのに、恩恵を受けているのは 上の人間だけで 底辺労働者の生活は 一行に良くならない。

 ちなみに フィリピン政府は 発展途上国で 無くなると援助が受けられなくなる為、本当の意味での経済成長を望んでいない。

 今の この状況は、政府、警察、銃の仲介人、高利貸し、臓器 密売組織、それぞれに 利益が発生しシステムの為、この問題は 無くならない。

 資本主義の行きつく先は、貧乏人を蹴落とし 金を持った資本家による札束ドーピングによる使い道がない更なる資産の形成と、それを支える為に必須な 生きる事も困難な超貧乏人に2つに分かれる。

 そして、これを解決するには ドイツ(社会主義)ソ連(共産主義)の思想が必要なのだが、アメリカ(資本主義)は この思想を受け入れず敵対思想を持つ者は武力で排除する。

 つまり原理上 解決が不可能な問題だ…ただし大金持ちの誰かが 彼らの可能性に気付き、大損害前提で 救おうとするなら話は別になって来る。


 山の中、ハルミの別荘 予定地。

「よし、高利貸しから 示談が降りたぞ…」

 私が手紙を見ながら アラドに言う。

「えっ裁判もせずに?」

「そう…相手は ほぼ100%負けるから、余分に取った金利を返済に充てて貰って、借金をチャラにする事で こっちと示談にしたって訳…。

 まぁ実際は 利息だけで借りてた金の3倍位は 取られてる訳だけど…。」

「それでも このまま払い続けるより良い。」

「で、次は この情報を貧困層の中で広める。

 『弁護士が無料で相談に乗ってくれる』って言ってね。

 そうすれば、高利貸し撲滅ビジネスが生まれる。

 何せ勝訴は ほぼ確定だからな…暇をしている弁護士が 高利貸しからの賠償金目的で続々と参加して来る。」

「つまり、搾取していたヤツらを 更に搾取するヤツの餌にしたと言う事か?」

「そう言う事…で、これが広まれば 借金のカタを理由に臓器を売る必要が無くなる…臓器ビジネスも縮小に向かわせる事が出来るんだ…で、次がこれ…」

 私は目の前で働いている労働者に向けて指を差す。

「不法占拠じゃなく正式に土地を買って、ここに私の別荘を建てさせる…その別荘を作る為の製造工場も一緒にね…」

 私の金で雇った労働者達は 砂利、砂それにセメントを混ぜて コンクリートを作り、それを型に入れて コンクリートブロックを作る…型に流し込んで固める鋳造の作業は 密造銃の製造で何度もやっており手慣れた作業だ。

 で、そのコンクリートブロックを レンガの家の様に組み合わせて、隙間を モルタルで接着させ、コンクリートブロックの家を作らせる。

 更に 石油の廃油と砂利、砂を混ぜてアスファルトが出来、近場の土の道路までの道と駐車場を作らせる。

 今は 石英ガラスで窓を作ろうとしている所で、文字も読めないし、四則演算も出来ないが、ちゃんと教育を受けさえ すれば、成果を出してくれる。

「なぁ何で専門の大工を使わなかった?」

「えっ?単純に総工事費を計算したら 自分で雇って 造った方が安かったから…それに、ここで知識を付けておけば 大工や道路工事の労働者に転職出来るかも 知れないだろう。」

 確か この国は 多額の支援金で電線、水道と道路網のライフラインを構築しようとしていたはず…。

 まぁ今は その利益を得る為の工事会社の選定中で、更に土地の買収や住民の追い出し…と工事を始めるにしても 後 数年は 掛かるはず だ。


 1ヵ月が過ぎた所で道路と別荘が おおよそ完成。

 別荘は コンクリートで壁を固められた120mの大豪邸で、地下1階、地上が3階の4階構造だ。

 地下1階は 潜水艦用の小型核分裂炉がある電力室と銃を撃つ為のシューティングレンジ。

 1階は 食堂と銃の製造工場で、競合状態で潰し合いをしていた同業者達を私が一括で雇っている。

 2階は私や従業員達の部屋で、個室の数だと大部屋が12…小部屋に関しては72部屋も用意している。

 まぁ 大半の部屋が空室で 今は 家具も無い状態なんだが…。

 で、3階は一応の娯楽部屋…まだ何もない空室だけど環境だけは 整えている。

 最後に屋上…には大型の貯水タンクがある。

 ダナオでは 周りが海で細い川しか無いので、真水を確保出来る水源が無い。

 で、井戸を作る為の掘削技術も金も無い為、住民は空のドラム缶を家の外に置いて雨水を回収する事で、真水を確保している。

 この雨水は直接 飲むのは健康的にマズイが、煮沸をさせれば 十分に飲料水として使える。

 で、この屋上は 耐火耐熱に特化したコンクリートを使った事で、エアトラ2機の同時着陸に対応していて、ここから 貨物搬入用のエレベーターが地下1階まで伸びている…。

 これでエアトラから降ろした物資の移動もスムーズに出来る。

 パタパタパタパタ…。

 と言う訳で、地上搬入が面倒な大半の家具を私が所有している自家用エアトラで運び、アラド達が次々とエレベーターに乗せて別荘に搬入して行く。

 持って来たのは 生活用品の他に 酸水素を使う黒鉛炉に プレス機にそれに旋盤と 私がトニー王国から輸入した 銃の製造に使う大量の機材が持ち込まれる。

「凄い…これなら1日に何丁もの銃を作れる…」

 アラドが機材を台車に乗せて運びながら言う。

「だろ…手作業でチマチマ やるより、この機材コストを支払っていれば 収入は前の100倍位には なるんだ。」

「100倍も…」

「まぁ実際は 経費も上がるし、需要もあるから そこまでは 稼げないけどな。

 でも、作れるスピードが上がったお陰で大量の時間を余らせる事が出来る様になった。」

「時間が余ると如何(どう)なる?」

 積み込みが終わり、アラドがエレベーターのボタンを押して言う。

「そうだな…投資と消費が出来る。

 投資は暇な時間に勉強して 次の収入に繋がる様にする事。

 消費は食事の質を上げたり 娯楽に金を使って自分の生活の質を上げる事…この2つは時間に余裕が無いと出来ない。」

「ん?投資は金を稼ぐ事に繋がるから分かるが、消費は?

 消費は可能な限り 切り詰める物じゃないのか?」

「『ぜいたくは 敵だ』ってか…いや いや金を使う事も収入を上げる為に重要な事だよ。

 ん~そうだな…アラドは100ドルを持っている…私から100ドルの生活物資を買った…さてアラドは何ドル持ってる?」

「流石に分かる…0ドルだ。」

「はい正解で、私は?」

「100ドルだ…あっ」

「気付いた見たいだな…100ドルの金が アラドから私に移動した。

 ギリギリの生活をしていると実感しにくいが 金は無くなる事はない、持ち主を変えて移動するだけだ。

 だからアラドがバーに行って酒を飲めば バーが儲かり、農家から食糧を買えば農家が儲かる。

 で、バーや農家が その稼いだ金で欲しい物を買う…経済は この連鎖で回っている。

 さて、アラドの場合は?」

「仲介人の財布の中の金を増やしてやれば、銃を買って貰え易くなる?

 と言う事は 定期的に人を殺して ここら辺の治安を悪化させて、周辺の人が自衛用に銃を欲しがる環境を作った方が良いのか?」

 エレベーターが1階着き、物を工場に降ろしながら アラドが とんでもない事を言う。

「ははは…一応 その考えであってる…。

 ただ、殺してしまうと物を生産してくれる労働者が減る…アラドが 物を買う時の購入先が無くなるかもしれないな。」

「う~ん難しいな…なら、基本 殺さず銃を使った恐喝に すれば良いか?」

「やるならね…ただ、やり過ぎれば 恨まれて仕返しが来る。

 だから銃の商売って 他と比べて結構 面倒なんだよ…さっ機材の使い方を教えるよ…」

 機材を台車から降ろし、電源ケーブルを繋いで 動作を確認しながら私が言うのだった。


 さて、更に1ヵ月後。

 工場は 恐ろしい事になっていた。

 ガンスミス達は新しく導入した機械に すぐに適応し、メーカー側がコストの問題で出せない 高精度の銃を 次々と生み出して行く。

 今では 1日に30丁は作れる様になり、生産効率は劇的に改善。

 そして作る銃も変わった…今までは手作りの都合上 コルト45が主流だったが、鉄板を潰してパカパカ簡単に作れるMAC10、ウージー、M3グリースなどのオープンボルト サブマシンガンが主流になるまでに なっていた。

 元々は これらは 銃は 第二次世界大戦で銃の不足を解決する為に『安く』、『速く』、『それなりの精度で』 をモットーに大量生産された銃だ。

 なので、機材さえ あれば 割と簡単に作れる…特に ギャングは小型のフルオート銃を好むので、これも売れるだろう。

 ただ、銃の精度に直接 影響するバレルだけは別…。

 これらは 職人達が旋盤を使い、丁寧に正確な精度でライフリング加工をして行っている。

 これが機械を使って余った時間の有効活用だそうだ…。

 ちなみに、最近では 銃より製造が難しい 銃弾の製造にも 力を入れていて、まだ 実験段階で 爆発事故も起こしてるが、遠くない未来に銃弾も自前で製造出来る様になるだろう。

 で、生産効率の問題で手作りの銃製造会社は 軒並み廃業…。

 廃業した人員は こちらで吸収させて更に銃を作らせる。

 そして、文句を言って来た警察には 1丁辺り10ドルを握らせる事で手懐け、今では 仲介人が まとまって出来た仲介業者達への運搬も 手伝って貰っている。

 仲介業者は 銃の生産量が上がった事により、大量の銃を安全に手に入れられるルートを得たので利益は爆増…。

 そして 10ドルの値上がり交渉も普通に通り、今は110ドルで取引きされ、10ドルが賄賂で消えて…元の100ドルだ。

 ただ、大量生産により 製造コストを減らせたので、利益率は むしろ上がり、この利益は 道路の舗装に電線などのライフラインの敷設、住民達の新しい家の建築と この国の最貧困者を中心に金を回して行き、いずれ 山の中に最貧困者が這い上がって作った街が 出来る様になるとも思われている。


 別荘 屋上

「まさか…ここまでに なるとはな。」

 アラドが屋上の柵に寄りかかって下の町を見ながら言う。

 金が集まる所には 企業が集まって来る…。

 今では 舗装された道路の横にテントの露店が並んでおり、それぞれが 勝手に商売を始めている…死んだような労働者が多かった中、活気が出てきた。

「あそこは 私が買った敷地 なんだけどな。

 しばらくしたら 出店料でも取るか…」

「収益的には 如何(どう)なんだ?」

「そうだな…取りあえず 肩代わりした 皆の借金分は回収 出来た。

 道路と別荘の購入金額は まぁ大赤字なんだけど、3年も あれば 十分に回収出来るだろうな。

 気持ち的には もう回収出来て いるんだけど…後は アメリカへの密輸ルートの業者を選別して スムーズにする事かな。」

「……なぁハルミは衛生兵なんだよな」

 私の赤い十字架がプリントされている白衣を見て言う。

「あ?確かに私はトニー王国の衛生兵だが…。

 と言っても 非常呼集が無い限り、普通の一般人と変わらないぞ…」

「俺が言うのも何だが…衛生兵なら何故(なぜ)殺しに使う為の武器を売る?」

「う~ん…それが一番 死人が少ないから かな。

 ゴーストガンの流通を掌握しちまえば、それを使う マフィアの戦力もコントロール出来る様になる…。

 小規模な殺し合いは無くならないけど、少なくとも これで大規模な戦闘は 回避出来る…それが私が武器を売っている理由かな。

 それで、アラドは この仕事を続けるのか?アラドの器用さなら、ガラス屋でも大工にも なれるだろう…それを望むなら協力はするが?」

「私は 30年間 銃を創り続けてきた…。

 自分の創って来た銃に誇りを持っているし、プライドも持っている…実際、粗悪な銃だけは売らなかった。

 だから、この身体が動かなくなるまで仕事を続けるつもりだ。」

「そう…こっちとしては 優秀な ガンスミスを雇えるのは有難い…よろしく頼むよ」

 そう言うと私達は握手をするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ