表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
294/339

08 (密造銃 業者)〇アラト53歳

 フィリピン…ダナオ市。

 強い日差しの中 ハルミ()は バギーの荷台に布の屋根を取り付けただけの幌馬車を走らせる。

 道路は 舗装されていなく路面はガタガタ…。

 ノーマルタイヤでは ロクにスピードが出ず、オフロードタイヤじゃないとキツイ。

 ダナオには 水道がまだ無く、亜鉛めっき鋼板(トタン)で作られた粗末な家が主流で、市場では 主食の1ヵ月分の量の米が6000ペソで売られている。

 更に 売られている飲み水は 少し濁っている…明らかに不衛生な環境だ。

「こりゃ酷いな…」

 私は そう言いながら舗装されていない道路を進む。

 ただ良い所もあり、海岸の方向を見れば 綺麗な海が一面に広がっており…何より物価が安い。

 ダナオの主要な通貨は ペソとドルで、1ペソが おおよそ6円。

 1万ペソも あれば 中流階級の暮らしを満喫出来る。

 トニー王国の生活保障金が10万トニーだから 大体が半額より少し高い位の金額だ…土地も安いし 別荘を作るなら非常に優秀な立地だ。

 舗装されていない道路を進んで行くと 道の脇にパトカーが止まっていて、通りかかる車やバイクを一々止める検問をやっている。

「あ~メンドウだな…別のルートに向かうか?」

 私はそう言ってハンドルを切りって別の道を選ぶと 別のパトカーが追って来た。

『そこの女、止まれ! 止まらなければ 撃つ!』

「あ~そう来たか…」

 私はバギーを路肩?に 大人しく止め、M16アサルトライフルを構えて やって来る警官を待つ。

「何か?」

「今、検問を回避しようとしたな…」

「ええ…検問で足止めされるのが 面倒だったので…」

「何が面倒なんだ?やましい事があるから別の道を選んだんじゃないか?」

「やましい事?具体的には?」

「密造銃の不法所持だ。

 いるんだよな…女なら目立たない からって 銃を忍ばせてバイヤーに渡す 運び屋…それで いくら貰ったんだ?」

「いいえ…私は運び屋では ありません…」

「じゃあ 後ろに積んでいる荷物は?」

「生活用品です…荷台で寝泊まりしていますので…確認して頂いて 結構です。」

 警官が後ろの布を開けて中を見る。

 中には バギーを走らせる為の酸水素のガス管と寝袋、それにコンロ…後は 発電機一式だ。

「確かに 銃は見当たらない…」

「なら、その服の中に隠し持っているんじゃないか?」

 警官が嫌らしい目で私の胸を見ながら言う。

「ここでストリップでもしろと?

 一応 護身用の拳銃が1丁…この国で丸腰は危険ですから…」

 私は 腰のホルスターを指差して警察に言う。

「ふむ…M1911(コスト45)じゃないな…何処の銃だ?」

「銃は イタリアのスペクトラM4…。

 はい、銃の携帯 許可証…無許可で護身用の銃を持っている人が多い中、ちゃんと正規の手続きを踏んで 警察から携帯許可を貰ってます…はい、これパスポート」

「ふん…旅行者か…名前は ハルミ・マキナ…国籍はトニー王国…目的は?」

「別荘の候補地を探しに来ています。」

「こんな場所に?」

「まぁ治安は悪いですが 物価は安いですし、景色も それなりに良いです。

 ちゃんと自衛手段を持っていれば 結構 良い場所ですよ」

「そう言う物か…」

「そう言う物です。」

 こちらが警官の興味を引き付けている間に 背中に拳銃を複数丁入れたで あろう重い リュックサックを背負ってバイクに乗っている50代の黒人男性が こちらをチラリと見てパトカーの中を ゆっくりと通り過ぎる。

 明らかに密造銃を作っている危ない連中では あるが、そうでもしないと 彼らの生活が成り立たない…この位は しても良いだろう。

「よし、行って良いぞ…」

「どーも」

 そう言うと私は バギーを走らせるのだった。


 だが…私が見逃した所で そんなに上手く行く訳が無かった。

 黒人男性のバイクが止められ、1人の警官がリュックの中から大量の拳銃を取り出し、もう1人の警官が黒人男性を(ひざま)かせて頭にM16を向ける。

「よし、証拠は出た…逮捕だな…保釈金には1300ペソだ!」

「勘弁してくれ…借金もしてるんだ。

 それが無くなったら俺の家族は 死んじまう」

「悪人らが 死ぬことは 良い事だ。

 この銃が市場に出まわれば、オマエの命の何倍もの人が この銃で殺される…オマエは事の重大さを理解してるのか?」

 警官が 大きな身振りで言う。

「だが それは使う側の責任だ!」

「なら製造者の責任を果たして大人しく捕まれ…。

 保釈金が ちゃんと支払われれば 家に帰れる」

「そんなの無理だ。

 その銃を売らないと 生活が出来ない…その上で保釈金 何て…」

「それが ここの法だ。

 なぁに…保釈金を稼げる方法はある…2つある腎臓の1つを売るんだな。

 オマエみたいな社会のクズが犠牲になる事で、アメリカの金持ちが助かるんだ…これは 立派な社会貢献だ。」

「そんな…嫁を殺しておいて 今度は俺か…家族が家族が~」

 2人の警官が必死に抵抗する男の両脇を抱えてパトカーに押し込もうとする。

「ちょ待て…1300ペソ…たかが7800円で あの男は臓器を売るだと?

 その男の保釈金は 私が出す。

 だから その現行犯 逮捕を見逃してくれないか?」

 コイツが警察の牢屋にぶち込まれて保釈金を払った場合、警察の利益となる。

 だが この場なら、保釈金の金額が ここの警官達の物になる…つまり彼らにとって 臨時ボーナスだ。

「あ~まあ良いが…良かったな…助けてくれる人に会えて…」

 私は金を払うと 警察らは もう価値が無い言う様に雑に男を放り出し、パトカーのトランクを開けて、トランクにいっぱいの押収した拳銃の中に リュックの中身の拳銃を入れる。

 そして、トランクを閉じてパトカーに 乗って去っていった。

「助かった…俺はアラド…キミの名前は?」

「ハルミだ…色々と話しを聞かせて貰いたい。

 まずは バイクを荷台に乗せるぞ…手伝え」

「何をするんだ?」

「ちょっと確認かな…」

 2人でバイクを荷台に乗せて パトカーを追う様にバギーを ゆっくりと走らせた。


 車で数分の距離。

 パトカーは 人気のない裏路地に入って 警官が建物のドアを叩くと中から男が出て来る。

 警官は パトカーのトランクを開けて、男に見せる。

「もしかして、アレが仲介人か?」

 荷台の布を少し開けて外を見ているアラドに言う。

「ああ…そうだ…あの野郎…警察と繋がっていたのか!」

「まぁ大量の押収した銃の処分先を考えたら、密輸業者しかないだろう…。

 つまり 仲介人に とっては、アラド個人か警察の違いしかなくて、どっちにしても銃を定価で手に入れられるって事だな。

 それにしても ここは色々な意味で 腐ってるな~。

 さて、銃の製造工場に案内してくれ…もしかしたら 助けられるかも しれない。」

「なんで、そんなに俺に優しくする?」

「別荘を建てるには 豊かな土地の方が良いだろう。

 私は 金勘定が得意だから アラド達の生活に問題があるなら 改善も出来るかもしれない…。」

「分かった…俺達の拠点に案内する」

 アラドは そう言うのだった。


 とある森の中。

 車も通れないジャングルと表現するのが適当の密林の中を進み、彼らの銃の工場に たどり着く。

「は?これが工場?」

 私が見た物のは 木の板を等間隔に並べて 屋根を付けだけの柵に近い部屋だ。

「電気は?旋盤は?プレス機は?」

「電気は分かるが…旋盤に プレス機?…なんだそれは?」

 アラドが真面目に言う。

 銃を作っているのに 何で旋盤やプレス機を知らない?

「遅かったな 親父…銃 売れたのか?」

「いや警察に没収された…。」

「うわっ…如何(どう)するんだよ…今月の借金の返済をしたら、もう ほとんど残らないぞ…来月まで生きられるか…それより保釈金は?

 また借金して来たのか?」

 息子らしいの2人の青年の1人が言う。

「臓器を売られそうになった所を この方に助けて貰った。

 保釈金も彼女に出して貰った。」

「ふーん…富裕層の愛人?

 でも そんな時間なんて無かっただろうに…。」

 息子は アラドに あきれ ながらも銃の製作の仕事をしている。

「えっ…何これ?」

「何って…コルト45だよ…金が有り余っている お嬢様は見た事 無いのか?」

「いや、あるけど…如何(どう)やって作ってるんだ?」

「何だ アンタは 銃を作れないのか…」

 もう片方の高校生位の息子が言う。

 彼は 外に出て廃材から抜き取った鉄を 外にある火で熱せられた炉の中に入れて融かす。

 鉄が赤くドロドロに融けて来た所で 銃のパーツの型に流し込み、雨水を入れたバケツにの中に入れてジュッと…焼き入れをする…これで鉄の密度が高くなり より頑丈になる。

 そして、おおよそ 出来たパーツを ヤスリを使い、寸法に合わせて丁寧に削って行く…恐ろしい事に すべてが手作業だ。

 そして その地道な作業を ひらすら やっていて、粗末なテーブルの上には 出来たパーツが並べられて行く。

 一つ一つのパーツを手に持って よく見て見るが、とても 手作業で作ったとは思えない高精度で 仕上げられている…まさに職人技だ。

「俺は 22歳の時に この仕事を始めてから30年、今年で53歳になった。

 今は コルト45を作っている…これは ダナオで最も一般的な銃で、構造も簡単だから作り易い…」

 アラドがテーブルを見ながら言う。

「ひと月で どの位の量を作ってるんだ?」

「1ヵ月だと5丁って所かな…。

 朝から晩まで働いて1丁100ドルで仲介人に売る。」

「と言う事は合計で500ドルか…」

 日本円に すれば6万円 程度か?

 それが この3人が必死になって働いて得られる利益で、ここの中級階層の労働者1人の生活費の3分の1。

 更に そこから 銃の製作に必要な経費に 借金もあるとなると 本当に使える金なんて無いギリギリ なんだろう…。

 ダナオの人口の30%が貧困家庭で、例え どんなに良質な銃を作ったとしても 生活は一向に良くなる事は無く、 いつに なっても貧しいままだ。

 と言うか 仲介する人数が 多いとは言え、末端が 700ドルになる銃を製造元は100ドルで作らされているって…いくら何でも ぼり過ぎだろう。

「最近では 特に酷い。

 ダナオの人間は それなりに マシな俺らの生活を(ねた)んでるし、同業者もいる…ヤツらは こちらを潰そうと警察に密告して来る。

 で、警察の調査が毎週行われるから、こうやって ジャングルの中で拠点を変えて逃げ続けるしかないんだ」

 貧困層は 少し自分の上の貧困層を(うら)み、(ねた)み、自分の位置まで落とそうと足を引っ張りあう。

 で、警察は 住民が密告してくれる お陰で、銃を作る手間も掛からず 押収して仲介人に銃を売り さばく事で利益を得られると…。

 しかも厄介なのは この仕組みを一般住民達は 知らないので、警察が正義に なっちまっていると言う事だ。

 それが この ダナオが 1900年代から銃の密造の拠点となっている原因でもある。

 で、出来た部品を組み立てて 表面を磨き上げて行くと メーカー側が作る本物の銃の様になる。

「そう言えば 嫁さんが見えないようだが…」

「ああ…全身の臓器を売って死んだよ。

 アレで借金は 全部返せたんだが、人手が いなくなったから 稼ぎが悪くなってな…。

 それも 借金をせずに 何とか生活していたんだが、数ヵ月前に警察に捕まって また借金…」

「で、その嫁さんは いくらで売れたんだ?」

「2500ドル…」

「安っ…全身を売って 死んで たった それだけ?

 と言うか2500ドルくらい…普通に返せる………ないのか?」

「ああ…借金の利子を返すだけでも 相当にキツくてな…。」

「なるほど…利子を返すだけで返済が絶対に終わらないシステムか…。

 と言う事は その金貸し、臓器売買のグループとも 繋がりがあるな。

 あ~メンドイ…けど やりがいは ある仕事かな」

 私は 少し笑顔でアラドに言うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ