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07 (楽しかった黒歴史)〇1981_

 1981年…。

 ジガ(ウチ)が 岡田さんの中退の理由を知っていた事もあり、遊び過ぎていた岡田さんは履修届けを忘れる事も無く、大阪電通信大学を何とか卒業。

 ちなみにウチは 後輩になる為、まだ卒業が出来ていない。

 岡田さんは、庵野さん、山賀さんといった後のビックスターと共に アニメ・特撮を中心とする自主映画の同人制作集団『DAICON(ダイコン) FILM(フィルム)』を立ち上げた。

 後のガイナックスの母体となる組織で、そして その中には SFの伝説である士郎正宗(大田正則)も不定期では あるが 時々来ている。

 ウチの仕事は 学校の合間に この時代で20万もするフジカ8 ZC1000の高級8mmフィルムカメラを使って この歴史的な黒歴史を撮影して行く事だ。

愛國戰隊(あいこくせんたい)~大、日、本!!」

 ドーン!!

 かっこ良くポーズを決めた5人の戦隊の後ろから それぞれのスーツの色の煙の爆発が舞う。

 続いて各ヒーローが「とおっ」と高台からジャンプをし、北から日本を狙う悪の組織「レッドベアー」の前に降りる。

「はい、カット」

 爆発物に非常に詳しいナオの指導の下、皆で本格的な黒色火薬を作り、爆発のクオリティが非常に高く バンバンと火薬を爆発させて行く。

 だが、当然ながら無資格で無許可である…この大らかな時代に感謝だ。

「次 行くよ~」

 レッドベアー軍は 洗脳五カ年計画実行の為、怪人「ミンスク仮面」やヒラ戦闘員「ハラショマン」を使って、子供たちの教科書を真っ赤に塗りたくる作戦を開始した。

 それを アイ・カミカゼ、アイ・ハラキリ、アイ・スキヤキ、アイ・テンプラ、アイ・ゲイシャの5人の愛國戰隊(あいこくせんたい)大日本が祖国である日本を守り抜くと言うお話だ。

 今は 高度経済成長期 この時代の若者は 既に右、左なんかの冷戦構造は既に古い物としていて、そんな冷戦構造を引っ張っている大人を おちょくるのが目的の内容な訳だが、現在進行中の冷戦中の中で 核戦争目前の所を外交上の綱渡りで如何(どう)にかしている ウチらトニー王国人から見ると、マジで笑えないネタだ。

「いやあ…面白いね…」

 大阪芸()と書かれた黒いジャージを着ている自称11歳の密入国者ナオがウチに言う。

「すまんね…わざわざ 来てもらって」

「いいさ…暇だったしな…。」

「北海道から暇だからで来る物じゃないと思うんだがね。」

「ははっ…さて、オレも ハラショーマンやって来るわ。

 って…タバコを加えながら火薬を扱うなよ…死ぬぞ!」

 ナオはそう言うと、ハラショーマン マスクを持って撮影の準備に掛かった。

 参加人数は全部で20人程…普通アマチュアで ここまで集まる事はない。

 参加者の大半は 後にオタクの専門校と呼ばれる大阪芸術大学の関係者で、アニメや特撮に非常に詳しい初期のギーク達だ。

 なので戦隊物を悪乗り全開で再現してみようと思った訳だ。

 な訳で、ヒーローより難しいザコ戦闘員であるハラショマンのアクションも試行錯誤をしながら行えている。

「おい…ナオ! カミカゼを倒しちまって如何(どう)する。」

 レッドのカミカゼがパンチを繰り出して次々とハラショマンを倒す中、ナオのハラショーマンは 手でパンチを(さば)き切り、カミカゼの足の後ろを脚で引っかけ、胸を軽く叩いて後ろに転ばせる。

「ああ…つい…良いパンチだった物で…。

 これカミカゼのアクションシーンに使えないかな~」

「ゆっくり やって 後で早回し編集すれば、行けるか?」

「いや…これで良い。」

 倒れたカミカゼは 身体を丸めて両足でナオの腹を軽く蹴り上げる。

「おっ」

 ナオは大袈裟に後ろに倒れ、土の地面で後転する完璧な受け身を取り、カミカゼが綺麗に起き上がってカメラに決めポーズをする。

 これで 綺麗なカウンターが決まり、カミカゼの強さが際立つ。

「おおっ良い感じになった」

「それじゃあ、次の場所に行こう」

「おおっ」


 それからも場所を次々と変えて撮影が続いて行く。

 ある場所では おばちゃんに新しいヒーロー番組であると勘違いされて放送時間を聞かれ、ある所では子供達が集まって握手を(せま)って来る。

 非常に思想が強めの様な格好をしているが、少なくとも ここでは彼らは ヒーローだ。


 そして今度は ウルトラマン…。

 工場の一室を借りて段ボールに色を綺麗に塗った作戦基地で、1週間ほど撮影をする。

 地球に落ちてきた隕石の中にいた植物怪獣を倒す為に熱核兵器を使う様に言われる中、ウルトラマンのハヤカワ役の庵野さんが反対して、拘束されるシーンだ。

 宇宙人のウルトラマンが何故、同じ宇宙人の怪獣を殺すのか?

 ハヤカワは人間か宇宙人か?

 前のループ(前回)では ハヤカワは 林さんと言う人がやっていたが、今回は庵野さんが ハヤカワとウルトラマンの2役だ。

 その為、ハヤカワが ただ巨大化しただけだと言うのに隊員の誰もが彼をウルトラマンだと言い ハヤカワだと気付かないと言う 非常に面白い事になっている。

 後は 外に出て怪獣とウルトラマンがミニチュアの都市で プロレスを行い、同時にミニチュアの爆発演出の映像も ここで取る。

 そして、後はメンバーの一人の後にお寺の和尚(おしょう)さんになる ギョウテン君の6畳位の家の中で ひたすら ミニチュア撮影。

 ペーパークラフトの戦闘機の発信シーン、格納庫のシーンを ひたすら取って行く。

 その撮影風景は 割とデスマーチなのに 皆が生き生きとした輝いた目で作業をしている。

『何かに純粋に のめり込める…それは どんなに下さらい事でも才能で、それを伸ばせば 人は輝ける。』私を創った制作者(オーサー)の言葉だ。


 そして、帰って来たウルトラマンのビデオが売れに売れ、しばらくが経った。

「はい、すみません、すみません」

 まぁ当たり前の事だが、ウルトラマンの撮影をしている円谷プロの版権元である音楽研究所から電話が入り、固定電話の前で岡田さんが ひたすら謝っている…。

 だが、明らかに顔は誤っていない。

 ガチャッ…。

「だから販売は止めとけって行っただろう。」

 ウチが苦笑いしながら岡田さんに言う。

「アマチュアの団体が ウルトラマンを名乗って作る事に対して何で そんなに目くじらを立てるんだ!!

 俺達が造った物を潰す事だけを考えて アイツらは 恥ずかしくないのか!

 と言うより円谷より俺達の方が面白い物を創るんだから文句言う筋合いはねぇだろ!」

「ははは…むしろ下手にクオリティが高いから怒られたんだろうな。

 ()()トロマンとか ()()トロマンにしてれば良かったのに…。

 ちなみに藤子さんの所は、ウラドラマンで回避しているな。

 で、向こうは何て?」

「作品のビデオ、関連グッズの製造、販売の中止。

 フィルムの廃棄、販売したビデオの可能な限りの回収」

「損害賠償は出なかったんだな。

 じゃあ、今の内に表に広めない事を条件でビデオの在庫を売っぱらっちまおうか。

 何なら文化価値があると言う名目で、トニー王国にビデオやグッズを亡命されても良いし。」

「良いのか?」

「トニー王国は 良い物を国が買い上げて、その技術を皆で共有する事で よりクオリティの高い物が出来ると考える文化だ。

 だから、著作権や特許は一応 その国に合わせているが、あって無いような物だ」

「そっか…じゃあ、オリジナルのフィルムを ジガに渡そう。

 戦闘機なんかのペーパークラフトは 名前を変えて再販かな。

 大日本の方も苦情が来ているし…」

「内容を攻め過ぎるからなよ。」

「自分達が生命を吹き込む(アニメート)作品に保守的になって如何(どう)する?伝えたい物は伝えないと」

「ははは…まぁ本格的に やるんならテレビの意向は聞かないと 行けなくなるんだけどな ガンダム(冨野さん)みたいに…。

 うん、やっぱり 大阪電通大に入って良かったな…」

 ウチは心のそこから そう言うのだった。

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