05 (食べ物に感謝を)〇
神崎家の朝は早い。
日の出と共に起床して朝食を食べ、子供の中に大人が混ざって 森でのランニングが始まる。
ランニングと言っても、迷彩服に防弾チョッキを着て ショットガンを持ち リュックを背負った状態でだ。
これを子供の頃から徐々に負荷を掛けて行き、大人になる頃には 負傷兵を背負っていても走れる様になる。
走りながら顔を上げると左右の木に電線が取り付けられており、それが山の ふもと まで繋がっている。
ただお手製感が まる分かりで、里のヤツが自作した事が分かる。
「一応、ここ電気通ってるんだよな~」
ちなみに 電力会社の発電所は 使わず、近くの河や滝から 小型水力発電機で電力を得ている。
ランニングが終わった子供達は 道場に行き、義務教育と軍に必要な基礎知識を教えられ、昼は格闘訓練などの体育をやる…まぁ物騒な軍学校だ。
この里での大人達の仕事は基本的に農業…。
育てているのは 野菜が多く、小麦や米や調味料は 車で往復1時間かけて外から買って来るが、それ以外は 殆どが自給自足だ。
畑の周りには お手製のトゲ付の金網が張られていて、ニワトリとウサギ小屋もある。
そして 里には 小さな工場があり、銃や銃弾、それに刀剣などの製造もしている。
で、そこで生み出されたショットガンを使って 子供達は大人の徹底指導の下、熊や鹿などの大型動物の狩りをする。
当然ながら例え 私有地でも銃の所持、製造は違法だ。
だが、警察に存在を知られ無ければ違法ではない。
この山に 警察署は無く、神崎家を裁く為の国の法執行機関がない。
最寄りの警察署からパトカーを送るにしても30分は掛かる…な訳で警察に捕まる事はない。
薄暗い森の中…。
ギリースーツを着て伏せている俺は 無線で仲間と連絡を取る…今日は熊狩りの日だ。
『こちらナオキ、ターゲットは北に向かった…繰り返すターゲットは北に向かった。』
狩りは非常に難しい…相手の動物が大人しく撃ち殺されてくれる訳も無く、割と遠距離でも こちらの気配を察知して逃げてしまう。
だが、ヤツらには こちらの無線が聞こえない。
集団で連絡を密に取りつつ 地の利を生かし、隠れながら敵を ゆっくりと包囲して行く…山岳猟兵には必須のスキルだ。
里の子供達の戦闘能力は まだ低いが、この連係して敵を包囲する能力が非常に高い…高度な連係が出来れば、1人1人の能力が低くても互いにカバーし合い、結果的に生存率が上がる。
『こちらハンター6…ターゲットが来た…包囲は?』
『問題無い…発砲を許可…』
パーン…パーン。
ショットガンの射撃音が響き渡り 森の中の鳥が一斉に飛び上がり、200㎏は ありそうな熊が倒され、地面にドスンと落ちる。
「おっしゃあ…今日は熊鍋だ!!」
「おおっ」
連絡を受けた皆が集まって来る。
「では 頂きます。」
狩猟した動物は 感謝しつつ 残さず食べないと いけない…それが狩猟のルールだ。
皆で手を合わせて祈り ナイフで熊を刺し、血を抜き、毛皮を剥いで熊肉を解体をして行く。
死因はショットガンの弾が心臓に当たって穴が開き、血を身体に送れなくなった事による失血死…殆ど即死の状態だ。
「おお良い腕…」
俺が傷口を見る中、子供達は 今日の感想を それぞれが話しつつ、テキパキと肉の解体して行く。
子供達の中の内 3人は 解体作業中には血のニオイを嗅ぎつけてきた大型動物に対処する為、周囲を囲む様に見張りを配置している。
まぁここの森の動物は 敵討ちなどを考えず、血のニオイがある場所には 近づいてこないのだが…。
無線で軽トラを呼び、毛皮や肉を荷台に積み込んで 俺達は 歩きながら家を目指した。
その日は神崎家全体で熊鍋だ。
熊肉は強烈な臭いと肉質が硬い事が問題だが、味はとても美味く 調理の仕方 次第では普通に食べられる。
まずは 井戸から汲んで来た水を鍋に入れて 火に掛けて沸騰…ちなみに ここに水道は通っていなく、井戸か近くの河から水を持って来る必要がある。
「熊肉を柔らかくするには、プロテアーゼが必要だよな。
う~ん果物は合わないだろうし、玉ねぎを入れて見るか」
子供達が畑で採れる野菜などを刻んで入れ、玉ねぎと一緒に煮込む。
熊肉はミートハンマーで しっかりと叩いて繊維を広げ、すりおろした玉ねぎを肉にすり込み、醤油を混ぜた酢に付けておく。
醤油によって臭みを軽減され、玉ねぎのタンパク質分解酵素であるプロテアーゼが肉を柔らかくし、更に 酢で肉を酸性にする事で 玉ねぎのプロテアーゼが活性化する。
で、玉ねぎが溶けた この鍋の中に入れれば 更に肉質が柔らかくなる。
科学を自由に操り 敵を殺す忍者は 料理も美味い…料理も突き詰めれば科学だからだ。
「ああ~良い感じになって来たな…。
全身義体の難点は食べ物を食べられない事だな」
俺は網で熊肉を焼きながら言う。
「消化器官も無いのか?
うん?じゃあ如何やって脳を生かしている?」
隣のアキヒロが言う。
「俺は頭まで機械だからだよ。
だから電気だけで生きられる。」
「ナオキは ロボットなのか?」
「一応、俺は人だと思っているけど 客観的には大差ないね。
全身義体が人なら俺も人…じゃないと義手、義足の人間は どっちだって事になるからな…」
俺は焼けた熊肉を皿に盛って行きながら言う。
顔を上げると 向こうでは 子供達が熊肉を鍋に放り込んでいる所だ。
「じゃあロボットは?」
「う~ん 人型じゃないヤツかな。
トニー王国のドラムも あえて人から外しているし、そこら辺を突き詰めると ドラえもんやアトムは人間か?ロボットか?って話になるから…」
未来では人と機械の境界は非常に曖昧で、あえて曖昧な状態にしている。
と言うのも、完全に機械化した人間は 人権のルールに縛られたくないと思うからだ。
「今後は 人と機械は融合して曖昧になって来るのか…。
この子達の世代で神崎家は失業かな。」
アキヒロは料理をしている子供達を見ながら俺に言う。
「おおっ出来た見たいだな…それじゃあ、肉になってくれた熊に感謝して食べよう」
「「頂きます」」
子供達はそう言うと、我先にと焼けたり煮えたりした熊肉を食べるのだった。