04 (オレの父親は俺)〇 1980_春
1980年 春…北海道 上富良野町、山中。
「はぁ…懐かしいな。
とは言え、このループでは まだ一度も来てなかったんだけど」
北海道の上富良野町で、自衛隊の演習場 上富良野演習場 泉門の近くにある十勝岳の一部が神崎家の私有地だ。
甚平姿の俺は『私有地に付き立ち入り禁止』と書かれたフェンスのドアをヘアピンを使った ピッキングで開け、薄暗い山の中を歩いて行く。
目の前に広がってるのは 木などの障害物を排除して草を取り除いただけの舗装されていない森の中の一車線の道路。
ここから 近くのスーパーに行くには 車でも30分は掛かる…。
北海道では まだマシと言え無くもないが…。
神崎家は忍者の家系で、戦国時代辺りから要人の警護、潜入、調査、暗殺…と まぁ実質スパイの仕事をしている。
忍者は 科学のエキスパートであり、火薬や薬品を作り出す事も普通に出来、俺の科学知識は 大体ここで学んだ物だ。
「いるな…」
左後ろ 距離24mって所か?
ギリースーツで森に隠れて輪郭を消しているが、赤外線は消せていない。
まぁ向こうはオレの目が 可視光の波長を自由に変えられるとは 知らいない訳だからな。
「遊んでやるか」
俺は車道から横の森の中に入り 木に飛び乗る。
動いたな…ギリースーツを来た偵察兵の武装は、狩猟用のポンプアクション式ショットガン レミントンM870…総弾数は最大で8発。
見た目は 中学生位の男子で、森の中で消える様に見失った事に驚いて辺りをキョロキョロしている。
まだ不慣れな忍者の卵…ん?
ギリースーツの男子は 即座に無線で報告を入れ、包囲網を狭める…ただ盗聴を警戒していない。
周りからも無線の返信があり、電波の強度から おおよその位置を特定する。
なるほど…複数人が俺を囲って 包囲しているのか…うん卵じゃないな ひな鳥位だ。
俺は背後に忍び寄り、男子の足を引っかけて転ばせ リボルバーを うつ伏せになった男子の頭に突きつける。
「かはっ…なっ」
「はい バーン…キミは死んだ。
仲間との連係は評価出来るが、戦闘面では さっぱりだな。」
「何で気付いて…」
「動きが急過ぎる…もっと ゆっくりと移動するんだ。
それと酷な事だが サーマルビジョンでは 丸分かりだったりする。
まぁ精進する事だな…さてと『こちらナオ…メンバーの一人を無力化した一応生きている…まだやるか?』」
『こちらハンターリーダー…キツネ狩りは失敗した。
繰り返す、キツネ狩りは失敗した…以上』
「はい、お利口さん…」
そう俺は無線に言うと無線を返して また一人で山を上って行った。
神崎家。
「来たか…」
和服を来た白髪交じりのオッサンが 待ち構えている。
付近には 十数軒の一軒家が立っており、それら一軒一軒が神崎家になる。
「ヒドイ歓迎だな…神崎 士衛」
彼は神崎 アキヒロ…オレを育ててくれた じいさんに出会う。
「ナオ・エクスマキナ…トニー王国の建国者の1人の宇宙人で最強の義体使い。」
「やっぱり こっちの情報は既に知っているか…。」
「何しに来た?」
「あ~子供になりに?
やっぱり日本国籍を得るなら神崎が良いと思って…。」
「弟子入りか?」
「まぁそう言う事になるかな…近接格闘…稽古つけてくれるか?」
俺は畑の近くの木に 立てかけてあるシャベルを取って構える。
「銃は使わないでおいてやる。
だが下手すると死ぬぞ」
アキヒロは、懐から2本の出刃包丁を取り出し、双剣状態で構える。
神崎家は元々が農民に化けて農具で殺しを行っていた忍者の家系の為、そこら辺で入手が出来る家財道具を武器にする事が多い。
その中でも 彼は 出刃包丁で 敵の背後に接近し、喉元を切って殺すのが彼のスタイルで その道では スライサーの名で呼ばれている。
「ふっ…」
一瞬で目の前からアキヒロが消えた…横…。
距離を取り、シャベルで包丁を受け止める。
そして、アキヒロは受け止められたと見るや、力を抜いて もう一本の包丁を脇から刺して行く。
「あっぶね…」
俺は身体を傾けて回避…包丁は脇腹の横をすり抜ける。
あ~コイツ完璧に俺を殺しに来ているな。
俺はシャベルの平面で水平に切り込み、次の連撃を防ぐ。
「ほう…避けるか…。」
だが、それも見越してアキヒロは 後ろに飛び シャベルは 空を切る…だが、少なくとも 距離は取れた。
「ほい、ほい、ほい」
俺はシャベルを槍の様に構え、次々と連撃を繰り出す。
彼は槍の様に向かって来るシャベルの側面を出刃包丁で少しだけ押し込む事により、槍の軌道を変えて貫かれない様に回避する…その動きは非常に洗練されており、体術の受け流しを思わせる型だ。
ただ…シャベルは槍と違って水平でも攻撃が出来る。
軌道を逸らされたシャベルを減速させず そのまま身体をひねって一回転、斧の様に水平にフルスイングする…が、それを見越してアキヒロは 後ろに下がられる。
それを認識をした俺は 大股で一歩前に出る…これで間に合わないはずだ。
だが、アキヒロは身体を後ろに傾けて 身体のバランスを あえて崩し、地面を蹴り上げて 後ろに綺麗に後転する事で回避する。
「うわっ…これで決まらないって…」
と言うか銃を使わないと言う制限があるとは言え、素早さも 力も人の限界に近い全身義体の攻撃を対処しきっている…人類レベルで バケモノな 存在だ。
一歩、また一歩、俺は足を進めてシャベルで 突き続け、アキヒロを一歩、一歩と下がらせる。
決まった!!シャベルを平面での水平斬りで手の甲を叩き、出刃包丁を落とさせる…あ゛?
落ちると思っていた出刃包丁は、縦方向に回転しながら こちらの額に向けて飛んで来て俺は首を傾けて回避する。
そして その隙に もう1本の出刃包丁で腹部を切られた。
「なっ」
だが、俺は全身義体…甚平の服と皮膚は貫いたが 炭素繊維の装甲が包丁を受け止める。
「捕っか まえた~」
包丁を持つアキヒロの手首を掴み、強く引っ張って相手の体勢を崩し、前に転ばせる。
肉を切らせて骨を断つ…まぁ生身と全身義体の違いを利用した戦術だ。
すぐに起き上がろうとしたアキヒロの肩甲骨付近を足で踏みつける。
人体の構造上 ここを踏みつけられると、起き上がれなくなる。
「はぁ…私の負けだ。」
アキヒロは包丁から手を放す。
「はい、お利口さん」
俺は足をどけてアキヒロが起き上がる。
「それにしても、近接戦闘では既に私の上。
私の弟子になって何を学ぶ?」
「弟子って言うより息子だよ。
欲しいのは身分…戦中に近衛師団に所属して陛下を守っていた この家の推薦なら例え外国人でも防衛大に入れる。」
「幹部自衛官になる事が目的か」
「まぁそうなるね。
実は俺は 未来人でな…その時の生身のオレの名前は神咲直人。
戦闘関連はアンタに鍛えて貰った。
で、父親は神崎直樹」
「ナオキ…知らないな…この里の人間じゃない。」
「そう…俺が これから名乗る名前だからな」
「不自然しいな…何で自分の父親が自分になっているんだ?」
「俺は ナオトの養父だから…血縁関係は あ~100%あるんだが、これから俺が結婚するクソ母親と 顔も見た事もない 中国の工作員の父親との間に生まれた子供がオレだ。
で、表向きは 俺はその事を知らずに ナオキは 俺の子と言う事になっている…つまり托卵になるな。
俺はオレを生み出す為に これから言葉通り母親と性行為しないと いけない訳…気が重くなるよ」
「それは お気の毒に…良いだろう手続きは通す。
年齢は?何歳の設定で通す。」
「1970年7月10日生まれ…今年で10歳って事になるな。
つまり今だと小学4年生だ。
小学生時代は 義体やらリハビリの問題で自宅で学習…中学1年から学校に通い始める…と言う事にする。」
「ギリギリ見えなくはないが、かなり大きい中学生だな。」
「まぁ そこは全身義体だからと言う事で通すよ。
全身義体の場合、積み込む機械の問題で あまり小さく出来ないからな。
それじゃあ 神崎家にお世話になるよ。」
そう言うと俺は神崎家の本家に 上がり込むのだった。