29 (創始者様)〇
村長の家。
「えっこの村の歴史を?」
「ええ…特に創設者に関する話を聞きたい。」
村長の家に入ったナオとクオリアは早速 村長のトミーに話を聞いてみる…。
「前にも言ったが 創始者様は レナと言う名前の人物だ。
彼女は 石で出来た燃える水を飲む獣を作り、風を起こして空を飛び、彼女の作る畑は豊作の神に愛されていたと言う。」
「まるで魔法使いだな~」
オレが少し笑いながら返答する…彼女…女か…。
「ふむ…恐らく車を作り、ヘリコプターの類を作り、肥料を使った農耕も行えた。」
クオリアがトミーの表現から 創始者レナを読み取ってオレに補足してくれる。
「他には?」
「彼女の弓から放たれる矢は 強力で大型の獣も貫き、雷の力を操れて 雷の力を自身に取り込む事が出来た。
他には 実りの木を植えて道を作った…。
後は アトランティス湖を作り、村人が食べ物に困らない生活をする為に働き続けたと 伝えられている。」
「多分、それはクロスボウ…火薬は作れなかったのか?
雷の力は電気…を取り込む…と言う事は充電か?
電気駆動で何かしらの機械を動かしていた?
創始者が 道を作ったのが確定したな。
後は湖か…直径1kmの湖を自作出来る程の土木建設技術を持っていたと…。
他には?石の獣の墓の話や創始者の残した物を持ってるって事は無いか?」
オレがトミーに聞く。
車の墓があるなら そこに鉄が眠っている可能性が高い。
後は石板などの文字や絵が残っている可能性だな…。
「創始者様の物と言うより、創始者様の亡骸が神社にある…。
彼女は死んでも朽ちない身体を持ち、透明で輝く宝石の箱の中に入れられている。」
「それだ!!
人の形なのに腐敗しないって事は つまり全身義体、透明で輝く宝石の箱はガラスケースだな…。
で、創始者様の名前がレナとなると…考えられる答えは1つだな。」
オレがクオリアの方向を見て言う。
「ああ…ネオアース星系に行ったレナが、地球に戻って来て アトランティス村を作ったんだ。
だが、メンテナンスの問題から機能停止…未来に復旧される事を期待して、自分の身体を保存した。
と言う事は もしかしたら復旧出来るかもしれない」
レナか…2600年にワームホールを使って過去のネオアース星系に行った仲間で、こっちの主観では つい1ヵ月前の事になる。
多分、今連絡を取っても あれから1ヵ月経ったレナと通信が出来るだろう。
そこから、数百年、数千年間 ネオアース星系で過ごして、地球にやって来てアトランティス村を造り、伐採した年輪から数えて今から100年前に機能停止したと…。
経過した時間の長さからして オレが知っているレナとは別人になっているはずだ。
だが、友人が如何なったのか…如何いった最期だったのか気になる。
「まずは そのレナに会ってみよう…。
後、義体の事となると ジガに来て貰うか」
「分かった 私が呼ぼう」
クオリアが量子通信で月の裏側にあるホープ号にアクセス、そこのサーバーから量子通信で繋がっているジガに話しかける。
オレとクオリアは 直接量子通信で繋がっているが、他のメンバーと通信する時は 電波か、ホープ号を中継した量子通信を行う事になる。
通信ラグは限りなく0に近く、更にクオリア経由でオレの目の前にARウィンドウが広がり、ジガの顔が現れた…全体チャットだな。
「何かあったか?」
コール後すぐに出て来たジガが言う。
「急ぎでは無いが、こっちに来て欲しい…。
如何やら このアトランティスを作った創始者がネオアース星系から こっちに来たレナ みたいなんだ。
解剖を行って 出来れば 直して貰いたい。
まとめたデータを送る。」
「……受け取った。
今は…3時か…なら 今から飛んで5分程度で そっちに到着する。
夕方までに片づけてウチは戻るからな…。」
「ああ分かった。」
5分で ここまで来ると言う事はジガは 平均時速500km程度で ここまで飛んでくるのだろう…。
ファントムを使わなくても空間ハッキングが出来るジガなら、この位の芸当は普通にやってのけるのだろうが、ハルミもいる事だし、また2人乗りで来るのか?
そうこう 少しゆっくりとしながら、外に出ると風を切る音を鳴らしながら、アトランティス村の上空で旋回飛行して速度を落としたファントムが広場に降り、中からハルミとジガが降りて来た。
ジガ達と合流したナオ達は トミーの案内で神社まで歩いている。
アトランティス村に神社 何てあったか?
占領時に建物は全部確認したはずだ。
「ここだ…。」
トミーの後に付いて行き オレらが神社を見る。
それは 神社と言うには小さく、大き目の祠と言う印象だ。
祠の素材は 木目が綺麗に揃った杉の板で組んであり、竹の建物だらけの この村で唯一の木造建築物だ。
杉の木を切り倒したり、綺麗な木目を維持しつつ 板に加工するのは ここの技術では かなり手間だったはずだ。
つまり、それだけ創始者レナは ここでは 神聖視されている存在になる。
両開きの鎧戸を開くと すぐにガラスの棺の頭が見え、まるで遺体安置所の棺のようになっている。
オレは そのガラス棺を引っ張ると そこ村の創始者…レナの顔が見える。
外見から見る限りでは 義体を再調整したのか、造顔師の変更による物なのか…少し大人びた印象になっていて、身長も150cmから160cmに変更されている。
腹には ガラス板が乗せられ それを2つの手で抑えている。
「役所まで運ぶぞ」
オレとクオリアでガラスの棺を持ち上げ、役所まで持って行く…。
村の皆はガラスの棺の中身を知っているようで、オレ達に付いて行った。