03 (平和な国)〇1979_7
竹島 義体整備室。
ここでは 主に日本の義体使用者の整備を担当していて、人数も まだまだ少ない事もあり、ウチが育てた人員で 基本運営が出来ている。
ただ、長期休暇である 夏休みや冬休みは それなりに多く、ウチが来ている訳だ。
「う~ん肩関節の摩耗が激しいな…あ~重い物を持つ仕事をしているのか?」
義体から抜き出したログを見ながらジガが言う。
「修理ですか?」
「まぁパーツの交換だけ だから簡単。
イエロー表示になるまで3年…これは結構 長持ちしている方かな。
それじゃあ両肩を外すよ…」
肩の切れ目から皮膚が付いていない装甲剥き出しの両腕を外し、人工関節を分解して新しい物と交換して行く。
彼は両腕が義体…損失部分はヒジより少し上だったのだが、義体の装着の為に肩間接 部分まで外した。
これは生身の部分が中途半端にあると 義体の重さやバランスなどの影響で負荷をかけてしまうし、何より 義体の規格化も難しくなるからだ。
人工皮膚は まだ普及していなく、基本 全身義体でも なければ使わない。
皮膚を一々引っぺがすのが面倒だからだ。
ネジを外して 肩関節部分を入れ換え 再度 ネジを締める。
人工筋肉の摩耗は まだ許容値以内で、これは 正月明けの次の定期メンテで引っかかるかな。
「よし、入れるよ」
整備が終わった腕を再装着して完了と…。
「それじゃあ、お大事に…」
ウチは 次々と患者の義体を見て消耗パーツの交換やメンタルケアをして行く。
腕、足が義体になっているだけなら、今の技術でも普通に動かせる…基本のシステムはDLと同じだからな。
「うん…脳からの信号も正常…感覚に影響は出てないか?」
「ええ…最近はトラブルも随分と少なくなってきました。」
全身義体の患者が言う。
臓器系が激しく損傷した場合…これは変に臓器を取り換えるよりか、全身義体の方が まだ望みがある。
人は臓器が複雑に絡み合って生きているから、一部の臓器が機能低下すると別の臓器にも負荷が掛かって問題が大きくなる。
なので、不確定要素の臓器自体と取っ払って 脳に栄養を送るだけのシステムにする方が長期的な安全性が高い。
ただ、脳が機械の身体を受け入れず、義体と脳が電気信号での やり取りが出来ない接続トラブルが多発している。
今の所だと義体と脳がリンク出来る人間は 全体の1割程で 成功率は年齢に大きく依存し、若ければ若い程 成功確率が高く、成長期を終えて20を越えると途端に成功率が下がって行く。
脳は工業製品じゃなく規格は一定じゃない…出力と入力の電気信号が個体事に違うなんて言う事も普通にある。
現状では『今までの身体の動かし方を すべて忘れろ』と言ってユーザーに義体の操作を覚えさせるしか無く、身体の動かし方を既に学習してしまった脳が義体を拒絶する。
それを探知し 義体側が電気信号を合わせて接続が出来る様になるには、まだまだ時間が必要だろう。
まぁ幸いと言うか 治験に協力してくれる兵士は戦場に山ほどいる…技術が停滞する事はないだろう。
「ふう…今回は義体の不具合も少ないな。」
特に命に関わるトラブルと言った事も無く、ウチらは 順調に定期メンテナンスを進めて行った。
竹島には 大きなメガフロートがある。
大小様々な島を繋ぐ為の通路であり、ホテルなどの宿泊施設がある場所だ。
部屋は6条一間で、学生寮の個室に近く ホテルの部屋としては かなり狭い。
ベットに座ると高反発マットレスが身体を適度に沈み込む…。
ベットには 机とキーボードとトラックボールが乗せられており、小型の映写機から出た光が、白い布に反射して映像が見える…。
テレビ…と言うか、これは 映写機タイプのコンピューターだな。
トニー王国では ブラウン管では無く小型映写機を使っている見たいだ。
「観光に来たってのに コンピューターの方が気になるんだからな…。」
岡田はコンピューターをいじくる…。
起動すると入国時に作った僕のアカウントに自動で入り、日本語で表示される。
アプリケーションは 色々と入っていて、竹島の掲示板、ネットを使った通販などが目に止まる。
この国で生産された物は すべて この通販サイトに入っており、僕達の様な消費者向けの商品だけでは無く、企業が製造する素材も ここから発注 するらしい。
掲示板は 竹島の住民が好きに書き込んでおり、この竹島の全権限を持つ都市長は これを見て今後の方針を決めるようだ。
僕は売り出されているゲームをダウンロードして、日本のゲーセンより綺麗なグラフィックのゲームを楽しむのだった。
メガフロート。
竹島の人口は おおよそ2000人で その殆どがトニー王国軍人。
水に浮く人工的な浮船の上の一部の区画には いくつもの長い穴があり、大量のトニー王国の潜水艦がメガフロートの下から穴に入ってΩの字の固定器具に繋がれている。
これは キャンピングカー見たいなものだろうか?彼らは潜水艦を家として ここに住んでいるのだろう。
潜水艦から出た乗組員たちは、食べ物や衣服 娯楽と何でも揃っている複合デパートに向かっている。
潜水艦の港では クレーン車が 潜水艦内のエレベーターから上がって来る 物資が入ったコンテナを吊り下げて 陸に降ろしていて、4.5mの機械巨人DL2機が コンテナを台車に積んで 近くにある港の倉庫まで運んでいる。
「おおっリアルロボ…」
庵野はパシャパシャと写真を撮る。
普通の船用の港では 日本の船がコンテナの回収に来ている…。
日本の港には トニー王国の原子力潜水艦は 日本の港に入港出来ないので ここを中継拠点にして、日本の船に積み込まれて運ばれている。
「やっぱり運用の事も考えると5m前後が限界なのか…18m級は無理だな」
大きくないと迫力が出ない…こりゃアニメの題材にするには向かないな。
私は 写真を撮りながら そう思うのだった。
「うんめぇな…これ」
夕方 ホテルの1階にある食堂に部員達は集まり、食事をする。
トニー王国には 日本食は もちろんの事、様々な国の料理があり数も豊富だ。
食べているのは油で揚げたフライドチキン。
食べると中から肉汁がジュワァと口の中に広がり、非常に美味い。
「それにしても、これ…全部ミドリムシなのか…。」
「らしいですよ…しかも この島で製造しているとか…。
農地が必要無いってのは 地味にトニー王国の利点ですね。
日本でも作れば良いのに…。」
「これを導入すれば 農家が廃業する事になるからな。
それに外交上、日本は外国から食糧を買って お得意さんになる必要がある。
お得意さんを滅ぼして利益を台無しにする 国は ないからな」
「良い物があるのに それを受け入れられないって…」
「まぁ見方の問題だしな。
やっぱり 平和が一番」
「おっ…ここにいたか…如何だ?トニー王国は?」
階段から降りて食堂にやって来たジガが言う。
「退屈はしないな。
海は綺麗だし 食べ物は美味しいし…。
そうだ…明日は 皆で映画館に行くんだが ジガも来るか?」
「仕事は午後から、だから午前は 空いているよ。
作品は…あ~エピソード5か…。」
「エピソード5?何で数字が飛ぶんだよ エピソード2だろ?」
「今は まだね…。
それにしても これVFXの遅れで延期していたんだよな。」
「最近、アメリカで公開になったのだけど、日本では まだやっていないんだ。
日本語字幕の作業があるから らしくて」
「分かった…。
じゃあ、明日の朝に ここに集合で…。」
「よし、それじゃあ 飯も食べたし、次は風呂だな。」
「混浴か~初めてだな…」
「夢を壊す様で悪いけど 野郎ばっかだよ…。
ここの大半が軍人だからな。
まぁ今の時間滞なら1人か2人は入っているかな…。」
「おし、じゃあ、行ってみるよ」
「無理やりはダメだよ~」
ジガが そう言うとオレ達は 大浴場に向かって行った。
デパート内 映画館。
「No, Obi-Wan killed your father.(違う。オビ=ワンがお前の父を殺したのだ)」
「NO(嘘だ)!!」
音響が整った映画館で部員達が画面を食い入る様に見つめる。
おっアテレコが まだ だったんだ…これは かなりレアだな。
ジガは映像の細かいまで見ながら前回の作品との違いを楽しむ。
字幕はトニー王国語で 一部の名詞以外 ほぼ日本語の為、英語が出来なくても おおよそ理解出来る…やっぱり映画は良いな。
特に観光名所がある訳でもない…ただ綺麗な海と技術がある平和な島…でも この時代では それが一番希少…。
ウチはそう思いながら仕事を続けるのだった。
帰国日。
「楽しめたか…」
「ああ…本当に豊かな国だ…移住したい位に…」
ウチの言葉に部員達が言う。
「あ~それは難しいかな…この国の通貨…生活保障金本位制だし…。」
「ん?それは?」
「生活保障金は日本で言う所の生活保護かな…トニー王国民は 全国民が この制度で毎月10万トニーの生活費を受け取っている。
で、トニーの通貨の価値は 1ヵ月の生活費と交換が出来る事で成り立っている。
給料も日本の半分…生活保障金の金が前提になっているからな…だから、この国では仕事で稼いだ金は全額 遊びに使える。
つまり 生活保障金が貰えない 外国人が ここで働こうとすると、毎月10トニー分のハンデを背負う事になるんだ…だから高所得者位しか移民できない。」
「なるほど…よく考えられているな~だからトニー王国の通貨はインフレもデフレもしないのか…」
「そう…交換出来る一ヵ月の生活費は変動するけど、通貨の価値自体は そこまで変わらない。
だから観光程度に来るのが一番面倒がない…さぁ日本に帰ろう」
ウチがそう言い、エアトラに皆を乗せて大阪に向けて針路を取るのだった。




