29 (スターマンへの返信)〇
宇宙ステーション世界樹。
エアトラに乗ったオレ達32人は エアトラを世界樹にギリギリまで近づけ、上部ハッチから 十字のコネクターの中のエアロックに入る。
全員が入った所で霧を吹き付けられ 気圧が急激に上昇。
窒素80%酸素20%の環境になり、エアロックを開けて世界樹の中に入る。
世界樹は十字のコネクタに4本のシリンダーが取り付けてある宇宙ステーションで、内装は ジャックとケビンの頑張りにより、生命維持に必要な空調や照明。
後は ミドリムシの培養器に それを加工、成分抽出をしたりする為の地上の工場でも使われている 大規模なフードメーカーも持って来ている。
これで理屈上、地上と同じ物を食べられる様になる。
発電は トニー王国の原子力潜水艦に使われている 小型 核分裂炉から行われ、通信機器やコンピューター類を持ち込んだ事で、長期滞在に必要な環境は整った。
小型核分裂炉から大量の電力が供給されているが、発生する熱量を赤外線にして宇宙に放出するには ラジエーター装甲が必要であり、直径9m長さ36mのシリンダーが4本と言う 非常に広い面積が必要になる。
「それでは…宇宙ステーション世界樹の完成を祝って乾杯」
「かんぱ~い」
オレを含めた32人の皆が スパウトパウチの飲み物で乾杯する…まぁオレは飲食が出来ない訳だが…。
「それにしても とうとう…スペースコロニーか…。
まさか私が生きている間に ここまで来れるとはな…」
もう そろそろ寿命の老いたアディが言う。
「ほんとにね…」
コクランが笑いながら言う。
「まだ ほとんど 何もないとは言え、この宇宙に生存可能な だだっ広い開拓地を手に入れた。
ここに 物資を積んでも良いし、娯楽施設を持って来ても良い。
まぁこのメンバーからして当分は研究目的かな。」
オレは 皆を見渡して行く。
この中の7人がパイロットスーツの上から白衣を着ている科学者で、1名が宇宙旅行をして見たかった老人アンディ・ヒドラー事 アディで、宇宙飛行士の訓練なんて受けた事もない完全に素人だ。
まずはインフラを維持する為の屈強な労働者を送り、次に研究開発する為のひ弱で 生産性が無い学者達を送り込む…まんま開拓事業だ。
「ここは 拡張性は 非常に大きいし、何より閉鎖空間だとは思えない位に広い…長期滞在も余裕で出来るだろう…。
まずは この土地を開拓して宇宙での基礎を作り、そこから潜宙艦を使って火星に行く…片道9ヵ月の長距離を移動するには それだけの設備が必要だからな。
ただ 熱核ロケットエンジンが実用化してしまえば、航行期間を1ヵ月以下に抑えられる…アメリカが開発予算を打ち切らないと良いのだけど…。」
オレが少し苦笑いしながら言う。
「アメリカが 打ち切ったら こっちに雇い入れるさ…。
何年掛かるか分からないが、技術者を潰さなければ 熱核ロケットエンジンも十分作れる…ナオが いなくても やって みせるさ…」
ジャックが言う。
「そうか…可能か限りの宇宙開拓の為の基礎は造った つもり…これ以上は今を生きる人達に任せるよ。
それで どんな研究をして見るんだ?」
「3分の1気圧の純酸素での長期滞在で起きる身体の影響。
それと 音の伝わり方の実験かな…。
シリンダーの周りが真空だから地上とは音の違いが あるかもしれない。」
「あーだからギターを持ち込んでいたのか…。」
「そう…それにナオの退職 祝いでもあるからな。
そうだな…ナオのコールサイン的に スターマンなんて如何だ?」
「そりゃ良いね…」
「と言うか、アポロの救出の時には スターマンは まだ作曲されて無かったんだよな。
ナオは なんで、スターマンにしたんだ?」
ミラーが聞いて来る。
「あの時は ナオの名前を表に出せなかったから、咄嗟に この曲を思い出したのさ…。
この曲、火星でサバイバル生活をしている 宇宙飛行士を助けに行くって感じの映画で使われてね…そのシーンに合っていると思ったから…。
まぁ後で まだ発売前だったって聞いた時には 流石に焦ったんだけど」
「ははは…てことは デビッドのスターマンってナオの事になるのか?」
「少なからず影響を与えているだろうね…少し歌詞が違っている所もあるし…」
「じゃあ、準備も出来たし 皆で歌ってみようか」
ケビンが ジャアァンとギターの音を鳴らす。
「あっいっそう…地上に流す?俺達がスターマンになって…」
「AMラジオを一時的にジャックするのか?後で文句言われそうだが…」
「とは言っても、ここは トニー王国領土で取り締まる警察もいないからな。」
「まぁ…衛星中継せずにAM受信機をジャックする程の出力を流すなら 範囲的に ハワイ、キリバス、ボリビアって所かな…クレームも少なそうだ。
それじゃあ、皆で準備に取り掛かろうか…」
「よし準備は良いか?」
「おう!!」
「「何時か 分からない程、暗かぁあった。
俺は もたれ掛かってラジオを聞いていぃた。
猫っ転がる 穏やかな時にロックが流れ『ソウルたっぷり』とか言ってたかな?
ラジオ大きな音が消えて行くようだった。
その後 音の波に乗って ゆっくりした声の様に戻って来た。
これは DJの声なんか じゃない…銀河の様なスウィングジャズだった。」」
32人の大合唱を世界樹から一般のラジオの電波に混じって流し続ける。
「「スターマンが宇宙で待っているよ。
彼は僕達に会いたがっている。
でも彼は 僕達を怖がらせると思っている。
スターマンが宇宙で待っているよ。
怖がらせるなと言われているのに…。
すべての事に意味がある事を 彼は知っているから…僕達に こう言ったんだ。
『子供達には 元気 良くしてもらおう』『子供達にロックを聞いて貰おう』
『すべての子供達をロックで踊らせるんだ』と…」」
ロックが好きな宇宙人スターマンが、自分が宇宙人だと隠して何とか それを表現して歌った曲…オレは そんな風に考えて歌う。
作曲者の解釈はあるのだろうが、宇宙人は 宇宙人の解釈で歌おう…多分それが心を込めると言う事。
「「誰かに通信しなくちゃいけなかったから、君を選んだのさ…。
遥か彼方から聞こえて来る この声を君は 聞いていたんだね。
テレビ付けて、チャンネル2でスターマンを見つけられるかもしれないよ。
ここの窓の外を見れば、彼の光が見える。
彼らが輝きを放つ事が出来れば、僕は 今夜にも上陸するかもしれないね。
父ちゃんには 内緒にしておかないと、彼らを 怯えさせてしまうから…。」」
2番は スターマンの視点だろう…おっスピーカーから こちらに合わせて英語で歌っている声が聞こえる…。
ハワイの どっかのアマチュア無線士が こちらに向かって 返信しているんだろう。
次々とスピーカーに割り込んでくる人の数が増えて来る…言語も違う。
キリバス語もあるな…あの国…ダンスが好きだから、踊っているかも知れない。
「「スターマンが宇宙で待っているよ。
彼は僕達に会いたがっている。
でも彼は 僕達を怖がらせると思っている。
スターマンが宇宙で待っているよ。
怖がらせるなと言われているのに…。
すべての事に意味がある事を 彼は知っているから…僕達に こう言ったんだ。
『子供達には 元気 良くしてもらおう』『子供達にロックを聞いて貰おう』
『すべての子供達をロックで踊らせるんだ』と…」」
それから俺達は 30分程 ライブを行った。
この事を知っている物は 極僅かの無線愛好家だけだが…このスターマンの歌を受け取り返信をして来るのだった。