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⊕ヒトのキョウカイ02⊕【未来から やってきた機械の神たちが造る 理想国家₋ユートピア₋】  作者: Nao Nao
ヒトのキョウカイ2 10巻 (スターマンの宇宙開拓史)
285/339

28 (超希少物質 窒素)〇

 高度120km周回軌道。

「よし…高度120kmに到着…燃料補給に切り替える。

 空気を抜くぞ」

 ミラー()は トイレの個室に入り、空気を抜いて0気圧に…ハーネスを取り付け ハッチを開ける、前方のエアトラから燃料ケーブルを受け取り、翼の下の燃料タンクに差し込んで推進剤の補給をする…供給口が翼の付け根に変更された事で、トイレのハッチから すぐにアクセス出来る様になり、より簡単になっている。

『推進剤の補給開始…』

 リズが無線で言う。

 今回は 増槽の装備は無し…少しでも機体を軽くする為、翼のタンク内の燃料だけで行く…推進剤の補給は向こうで出来るからだ。

『推進剤の補給終了…パパ』

『了解…ホースを外す…それじゃあ 戻る…今、トイレに入った』

 側面のトイレハッチから個室に入ってハッチを閉鎖、霧が個室に吹き付けられ、気圧と温度が一気に上がる。

「よし…地球をスイングバイして 静止軌道まで向かう…現地では?」

『こちら ナオ…月の部隊は 今 減速中…少し向こうが先に着くかな…』

「了解~」


 俺達のエアトラは 地球の自転を利用してスイングバイをし、地球から投げ飛ばされた所で機体のエンジンを使って更に加速する。

 そして 機体を反転させて減速…速度を合わせる。

「見えた…レーダーでも 確認…スペトラ アポロ…応答 して ください。

 こちらエアトラジェット…所属 姉島宇宙港。」

 リズが後方から近づいて来る 月企業 スペーストラック社のスペトラ アポロに向かって無線を送る。

『こちら、アポロ…ニール…コリンズ、バスもいる』

「お久しぶり…リズです。」

『あの時の赤ん坊か…こちらは ビーコンを出している…見えるか?』

「ええ…大丈夫 です」

『こちらの機体は 非常に大きい…。

 目視で機体に接近すると衝突するぞ』

「こちら エアトラ…ママが操縦していますから大丈夫です。」

『ママ…コクランか?』

「ええ…それとパパも…」

『ミラーか…能力的には 問題無さそうだ。

 推進剤を運んで来た…物は?』

「持って来ている…(すん)ごい重い奴だけどな」

 俺がニールに言う。

『サイズが サイズだからな…コクラン、コックピットの方向から見て あと右に 2°ズラらせるか?

 そう…進入角度は そのまま…』

 エアトラが後ろ方向から アポロの横を通り過ぎ、コクランが再加速させて 相対速度を合わせる。

 そこにはトニー王国で使われている120mの潜水艦がある。

「まさか…トニー王国の潜水艦は 宇宙にも対応しているのか…。」

 とは言え、あり得ない話ではない。

 圧力の違いはあるが、乗員を守る筒型の装甲に 船内だけで 生活が出来る様にする為の生命維持装置…潜水艦の生命維持技術は宇宙船にも転用出来る。

 つまり潜水艦の運用しながら宇宙船での生命維持技術を研究していたって事か…。

「ほんと…どこまで用意周到なんだか…」

『よし、キリバスの静止軌道に乗った。

 おめでとう…それでは 作業を開始する。

 ミラー達は こちらの指示に従ってくれ…。

 まずは 船内気圧を0に…その後、後部ハッチの解放。

 ミラーはトイレハッチから出て、エアトラの燃料タンクにホースを接続、

 荷物の開封はこちらで行う』

「了解」

 俺の声を聞いていた 真ん中の非常席に座るリズが、乗り上げ上部のパネルを操作して後部ハッチを開ける。

「了解…今、後部ハッチ、ホース接続…こちらが見えるか?」

 俺は トイレのハッチから出て 腰のベルトに2個付いているメジャーライトを取り出す。

  命綱(ハーネス)の先端のカラビナを ハッチの持ち手に取り付けて船外に出、もう1つの メジャーライトを引っ張って 手を上に伸ばし、ライトをチカチカさせる。

『視認した…私が そちらに向かう』

 背中に酸素タンクを背負ったドラムのニールが、ホースを両脇に抱えてプップと酸素を細かく噴射して 相対速度を合わせ、後部ハッチに軟着陸する。

「ハーネス無しで良くやる」

『こちらニール 今 取り付いた…ホースを持って こちらまで 来てくれ…』

「ああ…」

 俺は ハーネスを引っ張りつつ ホースを持って後部ハッチに向かい、もう1方のメジャーライトのカラビナをニールに渡す。

 ニールは ハッチの取っ手にカラビナを取り付け、俺は戻ってトイレハッチのハーネスを外しに行く。

 外した帰りは メジャーライトの ぜんまい による 巻き取り機能を使って移動し、後部ハッチに戻る。

 その頃には ハーネスを付けた ニールは、荷物の包装を外していた。

 外側が 炭素繊維、内側がガラス繊維の黒色のラジエーター装甲の布だ。

「あ~道理で荷物の確認が出来なかった訳だ。」

 布は正確に折り畳まれ、高度に圧縮されている。

『袋を取り出すぞ…ゆっくりとだ。

 当然だが この袋にはハーネスを付けていないから、袋が回収不能になる可能性もある。』

「分かった…ゆっくりとな。」

 折り畳まれた 布を出して行き、エアトラの後ろに直径9m長さが36mもある布の袋が 宇宙に広がる…巨大なガスタンクだ。

 ガスタンクには 回すタイプのハッチと ガスタンクの供給用のコネクターが付いている。

 俺はコネクターにホースを取り付ける。

『よし、酸素をいれるぞ…3分の1気圧だ。』

「リズ頼む。」

『りょうかい~』

 リズがそう言うと酸素の供給が開始され、萎んでいた袋が内圧と外圧の差で風船の様に膨らみ、直径9m…長さ36mの筒の形状になって来る。

 バルーン工法と呼ばれる トニー王国の潜水艦に よく使われている技法だ。

「よし、次…」

 合計4本のバルーンを 膨らませる…4本目を膨らませた時には あれだけ あった荷物が全部なくなり、奥のトイレと給湯室が見える様になった。

 そして 潜水艦…いや宇宙だから潜宙艦だろうか?

 潜宙艦アポロの中からバズとコリンズが出て来て、月で作った十字の接続用コネクターを膨らませ、シリンダーの両方向に 差し込んで各シリンダーを接続…よし、これで中に入れる。

 後は コネクターのモーターから各シリンダーが回転するかのテストだ。

 直径が9mの筒を毎分3.25回転で遠心力を発生させ、月と同じ6分の1Gの人工重力を実現している。

 しかも 4本の各シリンダーが回転するタイミング、速度を操る事で、遠心力による質量移動で疑似重力を発生させ、推力剤を使わずに ミニ スペースコロニーの姿勢を制御する事が出来る…まぁリアクションホイールの代わりだ。

『よし、問題無さそうだな…』

「硬化塗料は?」

『潜水艦の場合、自重や圧力から守る為に硬化剤でバルーンを固めるが、宇宙では必要ない。

 むしろ…ある程度 柔軟性があった方が スペースデブリに当たった時のダメージ軽減に繋がる』

「流石…長い間 月に住んでいた だけの事はあるな…」

『さっ後は 推進剤のタンクを接続すれば 終わりだ』

 十字の先端のコネクターに 4本のガスタンクを接続して…こちらの仕事は終わりだ。

 後は コロニーの規模を大きくするなら、これと同じ物を どんどん連結させて しまえば 良い。

「よし、終わり…ナオ…ミニ コロニーの建設が終わった。

 所で このコロニーの名前は 如何(どう)するんだ?」

 コロニーとは 植民地を意味する単語だ…何か地名が欲しい所だ。

『こちらナオ…う~ん…『世界樹』で如何(どう)だろう? 』

「世界を支えている木の名前か?」

『そう…軌道エレベーターが 出来るまでは まだまだ時間が掛かる だろうけど…

出来てしまえば 世界を支える能力は 十分にある』

「良いんじゃないか…世界樹」

『まぁ国際的に この名称で通るか…少し不安なんだけど…それで中には入ったか?』

「いや…これからに なるかな?

 今日は エアトラ内で泊まって明日、燃料を積んで帰還する。

 まぁ出来れば 世界樹に泊まり たかった んだけど…」

『3分の1気圧の純酸素だからか?』

「そう…こっちには予備呼吸の設備が無い。

 てか 何で一気圧に してないんだ?

 相当な推進剤を月から運ばせたんだろ」

『残りの80%の窒素は 太陽系内だと地球と土星の衛星のタイタン位しか取れない超希少物質なんだよ。

 月にも火星にも ごく少量しか無くて、とても回収出来る量じゃない。

 だから宇宙では 窒素に あり得ない程の高値が付くんだ。

 人は呼吸に窒素は必要ないけど、食物を成長させるには窒素が必須だからな。

 で、その常識をぶっ壊したのが、トニー王国のミドリムシ…。

 あのミドリムシは 窒素を使わずに糖を含んだ強炭酸水と光だけで成長出来る通常なら あり得ない品種だ。』

「なんで そんな品種が生まれたんだ?」

『さぁ?少なくとも 窒素が豊富な地球生まれじゃないな。

 多分、ミドリムシが 宇宙に持ち込まれて、あちこちで品種改良されて行った結果じゃないかと オレは思っている。

 窒素に依存しないで食糧を育てられるのは、宇宙人に とって夢の環境なんだ。』

「と言う事は スペースコロニー内では 定期的に窒素を補給しないと窒素不足で食料生産が出来なくなるのか?」

 となると スペースコロニー単体での独立は 不可能になるのか…。

『そう…一応、窒素固定で 回収した肥料で食べ物を育てて、食べた人の排泄物から窒素を抜き出して…を高効率で回して行けば、90%以上は回収出来るはずなんだけど、どうしても100%には ならない…何処かで絶対にロスが出るからな』

「どうしてトニー王国が ミドリムシに こだわってるのか…良く分かった。」

『まぁその内、液体窒素の状態で 世界樹に運ぶんだろうけど…。

 はぁ窒素って農業には必須だけど、その他だと あまり使い道が無いんだよな…ミドリムシで自給自足出来ているし…』

「でもスペースコロニーを作るなら地球を再現しないと」

『そうなんだよな…』

 ナオは そう言い、翌日 俺達はアポロから推進剤を補給して地球に戻るのだった。

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