27 (世界樹 建造計画)〇
姉島宇宙港。
「さて、先ほどトニー王国から潜水艦で積み荷が来た。
その積み荷をエアトラに積み込んで 宇宙に上げる…場所は キリバスの上空、3万6000kmの静止軌道。」
ナオがミラー達に伝える。
「と言う事は…遂に ミニ スペースコロニーを打ち上げるのか」
「そう…今回は 月側との共同作戦だ。
静止軌道で向こうと合流して組み立てる」
「船外作業か…活動時間は?」
「3時間程…パーツを接続する だけだから、そこまで難しい作業じゃない。
船外活動は コクランとミラー、船外活動中のエアトラの制御は リズが担当だ。
リズは 緊急時に 2人のハーネスを引っ張って、エアトラの中に 連れ戻して貰う事も あるからな。」
リズは今年で13歳…宇宙飛行士歴6年と かなりの古参だ。
「それにしても 何故リズを?
エアトラの制御だけ だったら他にも出来る人がいるってのに…」
「今回のエアトラは マジで積載量ギリギリ…。
本来だったら2人で行く予定だったんだが、計算して見たら 40㎏程 余裕が出た…子供なら ねじ込める。」
「なるほど 了解~飛行計画書は?」
「はい…3人のメックに送った。」
「受け取った…うっわ…遠心力による6分の1の疑似重力?」
「そう…ただ コイツは まだ自走出来ない…。
今回は 居住区画の取り付け、その次のエンジンや コックピットなんか取り付けと 配線周り…担当は ジャックとケビンだ。
完成するまでは しばらく エアトラで引っ張る事になる…最終的な工期は1週間程…」
「了解~」
「で後、コクランとミラーは、そろそろ現場を卒業…。
今までも 後進の育成をしてたが、今度は 計画を立てる責任者と管制官の仕事について貰う。
新人達にも活躍の場を上げないと いけないからな。」
「ならナオは?」
「オレは 日本の防衛大に入って そこから幹部自衛官になるから…その為に中学生をしないと いけない。
自衛隊に入ってからも、特殊部隊に入ったり、嫁と息子とも関わらないと行けないから もう自由に動けなくなるな…」
「嫁?息子?結婚でも するのか?」
「そう…こっちは めっちゃくちゃ不本意だけどな。
まっ引継ぎは ちゃんとするし、連絡も付けられる様にする…今年中は いるからな…以上連絡は終わり…積み込み作業に移れ」
「了解」
リズが後部ハッチからエアトラの中に入り、エアトラの格納庫にピッタリと入る様に梱包された5トンの荷物がフォークリフトで運ばれて来る
荷物と壁の隙間は1cmで指1本分位の隙間しかなく、慎重な操作が求められる。
「おーらい おーらい…はい、もうちょっと……はい、OK…」
リズは荷物を固定して上部ハッチを開けて外に出る。
「それにしても、ほんと ギリギリね…重量も…」
「厳密には 積載量オーバーなんだけどな。
通常使わない 安全マージンも 全部 使い果たしているし、何より訓練以外で全く使ってない 滑走路を使った短距離 離陸…本当にギリギリのミッションだな。」
コクランが言い、ミラーが答える。
「でも、私達なら普通に行けるわね…」
「まぁな…よし、乗り込むぞ」
俺達は 普段から乗る後部ハッチからでは無く、機長席の後ろの側面ハッチから中に入る。
中に入ると そこには便器があり、トイレの個室になっていて、便器の前のドアには 潜水艦用の気密扉になっている。
合理性の塊であるトニー王国の技術部は、宇宙に出る為のエアロックを あれこれ試し、トイレの個室と一体化させると言う一見あり得ない仕組みになった。
ただトイレは臭いが こもってしまう都合上、機内に広がらない為に気密性を高くし、更に消臭の為の専用のエアコンも搭載されていたので、エアロックとの相性が非常に良いのだ。
俺は気密ドアのハンドルを回して扉を開ける。
まぁ余程の事が無い限り、俺達は 後部ハッチから乗り込む為、滅多に使う事が無いのだが…。
「さて行くぞ…タキシング頼む…」
『了解…』
姉島宇宙港には 端から端までが 240mのヘリポートと言う名の滑走路がある。
通常なら小型機位しか止まれない距離だが、エアトラなら これで十分だ。
「タキシング終了…クルーの退避を確認…今、待避線を越えた。」
前方の燃料タンク用のエアトラが 垂直離陸で飛び立ち滑走路が開く。
「よし、翼の角度を60°にセット…よし、出発だ。」
ブレ―キを掛けたまま 推力を全開に上げ、最大出力になった所で開放し、240mの滑走路をフルに使って揚力を稼ぎ、崖から飛び出した所で機体が浮き、上昇を始める。
「うわっ…落ちなかったとは言え、本当にギリギリだな…。
よし、飛行が安定して 上昇中…ウィング1に変更」
エアトラの翼が前に傾いて行き、プロペラ機モードに変わる。
「順調に加速中…そろそろ目標ポイント…コクラン、リズ…最大加速に入るぞ」
「ええ…」「どーぞ」
「エンジン出力最大!!んっ」
俺達は 内側がシリコンゴムの座席シートに叩き付けられ、機体の速度が どんどんと上がり、こちらは 深く呼吸をして意識を保ち続ける…そして高度計の数字はドンドンと上がって行くのだった。