28 (行政処理)〇
「ほうガラス繊維も順調に生産されてきたな…。」
アトランティス村の広場に設置してある 竹で出来た臨時役所で書類を見ているクオリアが言う。
ナオは クオリアの横から書類を見て見ると、ジガを中心に 竹の森の拠点で ガラス繊維の布と竹の綿を使った布の大量生産が始まり、紡績機、編み機の数も2台目が完成し、ちゃくちゃくと生産量を上げている。
クラウド商会が紙幣で物を買う事で 効率良く紙幣を流通させてる事もあって 軽い好景気になっており、製造された服が買われ、ジガが風呂屋を無料から有料化しても、住民達は それなりに 稼いでいるので、客足が減る事が無かった。
ただ、これは まだ 金を使う娯楽が少ない事が原因で、オレ達が新しい物を作って買って貰わないと金余り状態が発生しかねない。
と言う事で、現在 急ピッチで作っていたクラウドが作るトニー王国銀行の紙幣の製造を一時中断している。
これで極端に金が余るインフレ状態は防げる…。
ここからは経済の状況を見て、発行数を変えて行けば 大きな経済問題には ならないだろう。
「それにしても問題は山積みだな…。
現状、鉄や銅はファントムを使って鉱山から運ばないと行けないし、鉱山までの距離は100km…歩きだと片道3日…。
往復だと1週間は掛かって労働者が脱落するかも知れない。
内燃機関の自動車は これからの物資運搬に必須だが、現状で燃やせるのは工業用アルコールのメタノール…。」
山積みになっている書類を見て 仕分けしながらオレが言う。
「そうなると今度はフェノール樹脂の生産量が落ちるな。」
「何だよな…。
で、メタノールを作ると 今度は消費出来ない程の大量の木炭が余る。」
現状 ガラスや鉄を融解させて型に流し込む鋳造を行っている時の余剰の熱を使って木炭を作って いるが、木酢液はフェノール樹脂の原材料の為 需要が多いが、副産物の木炭の使い道が炉で燃やす位しか役割が無い為、在庫が大量に余って来ている。
「なら、いっそう木炭車に すればどうだ?」
クオリアが言う。
木炭車は 車体に積んだ 木炭ガス発生装置で木炭を燃やして 不完全燃焼により発生する一酸化炭素ガスと同時に わずかに発生する水素を回収し、これを内燃機関の燃料として走る車だ。
主に第二次世界大戦後のガソリンや軽油の供給事情が悪化した時に生まれた代替自動車で、エンジンの発生出力は極めて低く、上り坂では乗客らが降りて後ろから木炭バスを押す事もあったとの事だ。
「それも良いが、木炭の重量にガス発生機に水が 車体の重量にのしかかる訳だし、出力も弱いよな。
いっそうスターリングエンジンで、造ってみるか…。」
スターリングエンジンは熱効率が理論上最強の動力機関だが、温度差を利用したカルノーサイクルと言う空気圧縮技術を使う為、出力に対して 車体が その分 大きくなると言われている。
「確かに そっちの方が構造が簡単で、他にも色々と流用が出来るが…。」
「なら、そっちだな…研究する時間はあるんだし…。」
オレの時代だと スターリングエンジンでの車はコストの問題で実用化していない…。
なら、コストを無視出来る今の内に そこら辺の技術を研究してみるのも良いだろう。
「了解した。
それじゃあ 次は これ…新型炉の計画だ。
今度の温度は3000~4000℃になる。」
次の書類を取り出しクオリアが言う。
今まで作っていたソーダガラスが700℃、銅が1000℃、鉄が1500℃だから 今後は相当に温度が高い。
「とうとう来たか…炭素繊維だな。」
軽くて丈夫で、耐熱が高く、放射線を防げ、電気抵抗が低く、熱伝導率が高いのが特徴な素材であり、2600年の未来では あらゆる装甲材に使われている最重要素材だ。
「そう…今の鉄の炉は2000℃位は出しているが、鉄の融解温度を超えているので 現状は 外から水を浴びせて冷却する事で鉄の融解を防いでいる。」
クオリアが書類をオレに見せる…。
炉の熱膨張と水による収縮を繰り返した結果、炉の一部に亀裂が入って来ているとの事。
対応策として、融かした鉄を亀裂に流し込んで補修し、その後の目立った問題は無く、しばらくは この応急処置を続けるとの事。
「やっぱり、そろそろ寿命か…思ったより早かったな。
となると 次の炉は ガスバーナーを使うしかないか…そうなると 永久磁石がいるな…。」
ガスバーナーの場合、直接 素材に噴きかけて効率良く 熱を上げる為、炉の温度上昇を防ぐ事が出来る。
ガスバーナーの耐圧タンクは 風呂の時に使った蒸留器のガラス繊維強化プラスチックで十分持つが、ただ、燃料の水素と酸素は 水を電気分解して生成しないと行けないので、電気を発生させる為の永久磁石が必須になる。
「逆に言えば、永久磁石さえあれば 問題が解決するのだがな…。」
この島には鉄鉱石を含む高い山が無く、鉱山に雷が落ちない為、天然磁石が手に入らない。
1つでも手に入れば 如何にか なるらしいんだが…。
やっぱり クオリアが神の御業を使って高出力の雷を落として貰うしか無いのか?
「後は…今は問題が出ていないが、ガラス繊維強化プラスチックのリサイクルだな…。
現状、コイツはリサイクルが出来ないから、壊れたらどっかにゴミ捨て場を作って一時保管して、未来のリサイクル技術に期待するしかない。」
オレが書類を見ながら言う。
「しばらくは そうなるか…いや…そうか!ゴミ捨て場か。
それなら もっと近くにあるかもしれない。」
「ん?と言うと?」
珍しく少し興奮して少し早口になっているクオリアにオレが聞き返す。
「昔のアトランティス人が 鉱山の簡単に採掘出来る部分を殆ど採掘をしている事を考えると その採掘量は不純物を除いた鉱石だけでも数千万トンになる。」
「まぁそうなるよな…。」
「そして トニー王国の海は 死の海域の中の為、他国への輸出は ほぼ不可能。
更に鉄や銅をわざわざ3000℃に熱して蒸発させて気体にするとは考えられないから、何処かに捨てられたり埋められているはず…しかも ゴミ捨て場は集落の近くに置かれる物だ。」
「あ~都市鉱山の理屈ね…。」
都市鉱山とは 街からゴミとして出た集積回路をバラして中に入っているレアメタルを回収して再利用する事だ。
実際に穴を掘ってレアメタルを採掘するより、リサイクルで回収する方が何倍も効率が良いらしい。
「となると村長に村の歴史を聞かないとな~」
そう言いオレ達は役所を出る…。
外ではクラウドとアトランティス村の白人の男の子の弟子とが ガラス繊維製のエプロンを付けて ひたすら紙幣用の雑草紙を作っている。
紙幣の発行が一時中断されている為、この機会に仕事を教えるつもりだろう。
黒人嫌いのクラウドだが、白人の男の子の弟子との会話は言語の壁はある物のトニー王国語が 名詞が英語の日本語の為、それなりに意思疎通は出来、良い師弟関係を築いている感じがする。
そして 前にクラウド商会建物の絵を見た時もそうだが クラウドは絵が上手い…。
前に聞いてみた話によると 言語が違う地域と商品を取引する際には 絵で意思疎通を はかる為らしい。
今もピクトグラムっぽい簡単な絵を描いて、弟子と意思疎通をしている。
黒人嫌いと言う欠点はあるが、こちらで それをカバーしていけば 非常に優秀な人材に化けるだろう。
オレはそう思い、クオリアと共に村長の家に向かった。




